リコー新サービスのwebサイトを3か月のアジャイルプロジェクトでローンチ

厳しい競争環境の中、営業担当者がいかに顧客とつながるかは、企業にとって大きな課題です。こうした営業活動を支援するツールとして、株式会社リコーが立ち上げたのが「RICOHビジネスクラウド:アポ取り」。ベータ版リリースにあたり、同社はCMSとしてAdobe Experience Managerを導入し、3か月という驚異的なスピードでサービスサイトを立ち上げられました。また、同時に導入したAdobe Targetも活用しながら、デジタルマーケティングを仕掛けていくとしています。

同社でこのプロジェクトを担当した傳田壮志氏と高岡諒太郎氏、さらにアドビの認定Solution PartnerであるSutrix Solutions Japan合同会社の岡田宗久氏の3名にプロジェクトの経緯についてお聞きしました。

新サービスのwebサイト構築にグローバル展開を見据えたCMSを選定

事務機器や光学機器の大手メーカーとして知られる株式会社リコー。世界各国に多くの販売チャネルを持ち「販売のリコー」とも言われている同社が、企業の営業担当者に向けたSaaS型支援サービスとして立ち上げたのが「RICOHビジネスクラウド:アポ取り(以下、アポ取り)」です。このサービス概要について、同社の傳田壮志氏はこう説明します。

「当社では、営業担当者の業務プロセスの効率化を支援するための新たなアプローチとして、『RICOHビジネスクラウド』の展開を進めています。『アポ取り』はその第一弾として開発したサービスです。サービス内容は、顧客リストに半自動的にメールを投げて日程調整を行い、効率的なアポ取りを実現するというもの。開発の過程では、ペルソナを作るためのインタビューでアドビさんにもご協力いただきました。現在はベータ版を展開しており、2025年夏頃に正式版をリリースする予定です」(傳田氏)

株式会社リコー

リコーデジタルサービスBU デジタルビジネスイノベーション本部

GD-PT リーダー

傳田 壮志氏

プロジェクトとしてこれからではありますが、実務の推進にあたったリコーの高岡諒太郎氏は、「販売チャネルを大きくしていくという点で、リコーを変革する切り口になる」との強い思いで、このプロジェクトに向き合ったそうです。

高岡氏の言葉にあるように、リコーのビジネスにとって変革に向けた大きな一歩であるだけに、「『アポ取り』というサービス自体の開発と同時に、これを世の中にローンチするための手段としてサービスサイトの構築にもこだわりました」と傳田氏は言います。

「サービスサイトで重視したのは今後のグローバル展開です。販売規模が広がれば、より的確なパーソナライゼーションの重要性も高まりますし、サイトへの流入を作るには適切かつリッチなコンテンツを多数投入する必要もあります。これまでもコンテンツ管理を行うツールは使っていましたが、言語対応やコンテンツ作成などの面でよりフィットするCMS を模索する中で、Adobe Experience ManagerとAdobe Targetの導入を検討しました」(傳田氏)

導入の社内稟議について高岡氏は、「すんなり進んだわけではなく、何度か答申が却下されたこともありました」とした上で、「既存のCMSを活用するのではなく、今後のグローバル展開に向けてよりフィットするCMSを検討する必要があるという点を、経営陣に対して丁寧に説明をし、ようやく同意を得ることができました」と当時を振り返ります。

株式会社リコー

リコーデジタルサービスBU

経営企画本部 経営戦略室 戦略グループ

高岡 諒太郎氏

また、傳田氏も、「高岡の思いが伝わり、経営サイドもチャレンジ要素が強いことを理解した上で投資に踏み切ってくれました。小さい投資ではありませんが、仮に失敗しても前向きに倒れるなら今後の変革に向けた足掛かりとして無駄にはならない、むしろ資産にもなり得るという判断だったと思います」と語ります。

3か月という短期間でのwebサイトローンチを実現

導入からサービスサイト立ち上げにいたる支援にあたったのは、アドビの認定Solution Partnerとして2年連続でアワードを受賞し、導入実績を数多く有するSutrix Solutions Japan合同会社(以下、Sutrix)です。同社の岡田氏は、「アドビからの紹介を受け、リコーさんが目指されているビジョンなどもお聞きした上で、CMSを活用した『アポ取り』サービスサイトの構築やデジタルマーケティングに向けたツールとして、Adobe Experience ManagerとAdobe Targetの導入、そしてビジョン実現までのプランを提案させていただきました」と語ります。

リコーにとってアドビ製品は初めての導入であり、クイックローンチが前提のプロジェクトだったため、「Sutrixさんの支援は必須でした」と傳田氏は言います。Sutrixのサポートのもと、結果的にAdobe Experience Managerの導入からサービスサイト公開まで、わずか3か月という短期間で走り抜きました。

「Adobe Experience Managerは高機能ですが、我々の知見をもとに、まずはカスタマイズ前提ではなく、標準機能をシンプルに活用しつつ、一方でweb運用に向けた拡張も視野に入れながら進めさせていただきました。また、技術的なことを詳細に説明するよりも、段階的に成果物のレビューをしていただきながら アジャイルに進めることで、短期間での実装を実現 できたのだと思っています」(岡田氏)

Sutrix Solutions Japan 合同会社

取締役

岡田 宗久氏

傳田氏はこれについて、「お客様の反応を見ながら継続的にアップデートできるのがwebの利点なので、まずは『アポ取り』ベータ版の提供開始に合わせてローンチを優先し、公開してから改善していく手法を選択しました」と話します。

サービスサイト構築の3か月間は、週に一度の定例会議の他、細部の対応のために分科会も設け、コミュニケーションを密にしながら進めていったとのこと。その中では様々なことが検討されたと傳田氏は振り返ります。

「例えばドメインもそうです。当社のwebサイトは広報部門が管理しており、『ricoh.com』というサブドメインを使うにも高いハードルがあります。今回『アポ取り』のサービスサイトにこのサブドメインを使うにあたって、岡田さんからも客観的な立場からコメントをいただき、説得材料にさせていただきました」(傳田氏)

また、支援する側のSutrixから見て困難だったのは、『アポ取り』自体の開発と同時進行であったため、明確な商材が見えないままにサービスサイトの内容や訴求ポイント、リコーの運用体制などを想像しながら、プロジェクトを進めなければいけなかったことだと岡田氏は言います。

「傳田さんや高岡さんとしっかりコミュニケーションを取り、アジャイルで具体化する中でディテールが見えてくると、一緒に新しい事業を立ち上げているという感覚になって、完成したときには達成感がありましたね」(岡田氏)

ここまで見て来たように、CMSを活用した「アポ取り」サービスサイトプロジェクトは、リコー社内の熱い思いを背景にした体制作りや、きめ細かい社内調整とSutrixの専門的なサポートによって実現したと言えます。そんな中、高岡氏がもう一つの要因として挙げたのが、アドビのUltimate Successの存在でした。

「通常のカスタマーサポートは違い、当社の中期経営計画にまで目を通して戦略的な提案をいただいており、ここまでやってくれるのかと驚きました。いずれ『アポ取り』がエンタープライズモデルに成長したら参考にさせていただきたいと思うほどです」との高岡氏のコメントに加え、傳田氏からも「困ったことがあったときに答えてくれるだけでなく、当社が依頼する前から先回りして準備していただけるので頼もしく感じています」と評価をいただきました。

外部の専門家を活用することもCMS選定のポイント

「アポ取り」の今後について傳田氏は、「当初から考えていた通り、グローバル展開を急ぐとともに、今後はAdobe Targetを活用したデジタルマーケティングでコンバージョンや販売の結び付けをしていきたいと思っています」と語ります。

高岡氏は、Sutrixやアドビに対してワンョットではなく、トレーニングも含めた総合的な支援に期待しているとのことで、「最終的にはスキルトランスファーによる自走化までいければ当社にとっての大きな変革になります」と今後を見通していると言います。

これを受けて岡田氏は、「導入いただいたAdobe Experience ManagerとAdobe Targetをフル活用した先にある世界を描き、それを実現する最短ルートを提示するのが当社の使命だと思っています。CMSによる良質なコンテンツ作成はもちろん、Adobe Target のA/Bテストなども行い、デジタルマーケティングの精度を高めるお手伝いができたらと思います」と語りました。

最後に、CMSを活用したデジタルマーケティングのポテンシャルについて、傳田氏より以下の言葉をいただきました。

「当社は グローバル展開やパーソナライゼーション対応 といった目的があり、Adobe Experience ManagerとAdobe Targetを専門人材がいないまま導入しましたが、Sutrixさんの支援をいただいたことでサービスサイトやデジタルマーケティング体制を築くことができました。プロジェクトとしては決して大きくはありませんが、この取り組みで成果を上げることができればリコーにとって新しいポートフォリオになる可能性は高いと期待しています。自前で対応できる体制を整えるのに時間をかけるよりも、外部の専門家を活用するのは有効な手段だったという実感があるので、専門人材がいないことで躊躇されている企業さんも検討されてみてはいかがでしょうか」(傳田氏)