ブリヂストンが歩んできたデジタル化のジャーニー
30%
現在までにグローバルで削減した開発費および販管費
50M
5,000万人超のウェブサイト訪問者数、および5,000万件超の年間APIコール数
+20%
追跡可能なデジタル収益の成長率
「他に先駆けたステップを実行するためには、多くの費用を要することがあります。技術開発に要求されるエネルギーと投資金額は大変大きなものになります。そのプロセスは山を一歩ずつ登るようなものです。山の頂上に到達してしまえば、下り坂をスキーの感覚で楽しむことができ、大きな推進力を味方に結果はどんどん改善していきます」
ジェフリー ラック氏
ブリヂストンアメリカス デジタルマーケティング担当
タイヤの購買エクスペリエンスを変革する
新車の購入は心躍る体験です。メーカー、モデル、馬力などさまざまな項目を基準に選定を行い、納車後には新車でしか味わえないぴかぴかのインテリア特有の香りを堪能することができます。ところが、新車の匂いが遠い昔の記憶となった5年後にリプレイス用タイヤを購入する場面では、新車の購入と同じようなときめきは生まれません。自動車を運転するかぎりタイヤの溝は摩耗を続け、いずれは交換時期を迎えますが、大半の消費者にとってタイヤの交換に心を踊らせる機会はほとんどありません。むしろタイヤの購買エクスペリエンスには不便さがつきまとい、時間がかかり、面倒なものです。
では、タイヤをオンライン購入して、予約日時に交換場所で入庫し、作業の完了後には運転して帰ることができたらどうでしょうか。ブリヂストンアメリカスにおけるデジタルCoE(Center Of Excellence)の担当VPであるジェフリー ラック氏は、すべての人々に円滑なカスタマージャーニーを提供できるようチームとともに取り組んでいます。
こうした時代を先取りするスピリットは、ブリヂストンのパーパス・ドリブンな企業姿勢のたまものです。歩みを止めることのない企業であるブリヂストンは、タイヤを始めとするゴム製品の世界ナンバーワンメーカーから、完全統合型で持続可能性のあるソリューション企業へと進化を続けています。「Solutions for your journey」という言葉は、単なるマーケティングのキャッチフレーズではありません。ブリヂストンはスマートタイヤ技術と最先端のデータアナリティクスを活用して、人々と製品が世界中をよりスムーズに移動できる環境づくりに取り組んでいます。オンライン上のカスタマージャーニーの改善もその取り組みの一環となります。
デジタル領域への理解を深める
モバイルマーケティングがデジタルの環境を劇的に変えつつあった2013年にまでさかのぼってみましょう。当時、デジタルマーケティングは、ブリヂストンの総マーケティング費用の30%超を占めていましたが、整合性を備えた本来の機能を発揮できていませんでした。
当時のブリヂストンのマーテックプラットフォームは全体の互換性が限定されたばらばらの設計となっており、各ビジネスユニットの個別のニーズに合わせて開発されていました。数年前は競合他社に先行していたオンライン上のマーケティング施策を、モバイルやタブレット用の新たなフォーマットなど、最新トレンドに対応するため更新する必要性に迫られました。この状況は、社内のコーディネーション(調整)とアライメント(整合性)を高める好機となりました。
デジタル技術を精査した結果、7つの異なるウェブホスティング・プラットフォーム、少なくとも6つのコンテンツ管理システム、3つのマッピングツール、3つの分析ツールなど、業務を支援する無数のテクノロジーがそれぞれ別個に存在することが明らかになりました。デジタル環境が統合されていないことが原因で、社内のさまざまなビジネスユニットを横断する形でコードやコンテンツをアップデートすることはおろか、学びとベストプラクティスを共有することもできない状況でした。
ラック氏はこう述べています。「デジタルな視点から見ると、従業員はビジネスユニットごとに遠く離れた環境にあって、変化のペースに合わせようと努力するほど相互の分断が進みつつあることに気付いたのです」
また、消費者の9割以上がオンラインでの閲覧を入り口にタイヤの購買ジャーニーを始めるため、状況を放置したままでは対応ができませんでした。ラック氏の調べによれば、購買ジャーニーには15~25段階のステップが必要で、車両の年式、メーカー、モデルなど無駄に繰り返し入力させられる項目もありました。オンライン上でいったんタイヤを選んだにもかかわらず、再び同じプロセスを求められる状況でした。
「購入プロセスにおいてステップを1つ付け加えるごとに、3割~5割の潜在顧客を失うのです」
整合性のある技術スタックを実現することにより、ブリヂストンはショッピングと購買エクスペリエンスをより効果的に連動させ、提携ディーラーや小売パートナーに対してより適切なサポートを行うことが可能になります。
デジタルマーケティングの取り組みを明確な競争上の優位性へと転換させるために、全社一丸となって行動する必要がありました。そこでブリヂストンは、現状の立ち位置と理想のポジションとの間に存在するギャップを解消すべく、CB2(クロスボーダー・クロスビジネス)プログラムを立ち上げました。
このプログラムでは、共通のウェブサービスの作成、プラットフォームとウェブホスティング機能の標準化、南北アメリカならびに全世界で取り組みの整合性を図るという、3つの重要な要素を中心に整合を図っています。すべてを成功させるために、ブリヂストンは自らのジャーニーを展開する推進力と指針の両方を与えてくれるマーテックのスタックとパートナーが必要でした。
「事業規模が拡大し企業としての存在感が大きくなるにつれて、当社のニーズに厳格に応えることができるパートナーが必要になりました。当社と一緒に成長し、かつ当社自身が相手を目標に成長できる企業を求めるようになったのです。しかも最高クラスのパートナーを必要としていました。当社がアドビのスタックの採用にいたった真の背景には、そういった事情があったのです」
ジェフリー ラック氏
ブリヂストンアメリカス デジタルマーケティング担当VP
ブリヂストンは、Adobe Experience Cloud とひも付けられた一連の強固なツールに社のシステムを集約し、マーテックのスタックとして活用することにしました。そして導入後3年目には、システムのアップデートに費やす時間を大きく節約するとともに、大幅なコスト削減を実現するにいたりました。
「当社は6つのCMSソリューションを1つに、乱立していたウェブホスティング・プラットフォームを1つに、3つのマッピングソリューションを1つに集約させました」とラック氏は語ります。
2015年末までには、新しいプラットフォーム上で4つのウェブサイトを立ち上げ、2ヵ国において2つの事業部門の販売をサポートし、顧客から25万件の入電を受けました。ブリヂストンは現在、共通プラットフォーム上で19カ国に68のウェブサイトを持ち、ブリヂストンが区分けする4つの市場すべてにおいて14の事業をサポートしています。
2020年には5,000万人以上の消費者がブリヂストンのウェブサイトにアクセスし、そのうちの何百万人という人々がブリヂストンの小売店舗に電話でコンタクトしました。こうしたコンタクトにより、小売店では何百万本ものタイヤが売れ、収益の底上げに大きく寄与しました。
高いパフォーマンスが大きな成果を生み出す
「2015年の段階で、当社が大規模なコスト削減を実施できるかどうかを尋ねられたなら、答えは明確にノーでした。しかし、この6年間の間に当社は大幅なコスト削減を実現しており、導入コストの何倍もの成果をもたらしています」。
2015年以降、ブリヂストンは、効果測定に Adobe Analytics、セグメンテーションに Adobe Audience Manager、パーソナライゼーションに Adobe Target、クロスチャネルマーケティング管理に Adobe Campaign とアドビの技術スタック全体を業務に導入しています。
「アドビは、パフォーマンスの点において最高クラスのツール一式を用意してくれたと思います。そればかりか、この5年間で、当社にとって貴重な財産となるパートナーシップのマインドセットも併せて授けてくれたのです」とラック氏は語ります。
顧客が小売業者のサイトでクリックしているうちにデータが失われるということはもうありません。Adobe Experience Manager as a Cloud Serviceを採用することでシームレスなハンドオフが可能となるため、選択したタイヤの見積もりを確認した後、希望する場合にはその場ですぐに購入することができます。また、Adobe AnalyticsとAdobe Targetは、顧客のデジタルエクスペリエンスのテストと改善に役立ちます。ブリヂストン社内のチーム同士が常にプラットフォームを通じてつながり、カスタマージャーニー内の的確なタイミングで関連コンテンツの配信と製品の提案を行うといった、顧客インサイトに基づくアクションを取ることが可能になります。
「整合性のある技術スタックにより、これまでは絶対に不可能だった方法を用いた効率化、キュレーション、デジタルシフトによる優位性の活用、迅速なアクションが可能になります」とラック氏は言います。
ブリヂストンのCB2イニシアチブ、そしてアドビとのパートナーシップにより、30%を超える販管費が節約されました。過去5年間で、ビジネスユニットあたりの平均インフラコストは35%減少しました。加えて、販管費は低下し続けています。ブリヂストンのあらゆる事業が共通のツールセットを使用することで、コードの共有、サイトの最適化、そして効率化へと可能性が開かれています。
ブリヂストンのエンタープライズデジタルサービス担当ディレクターであるダニエル ラトレル氏は、アドビの技術スタックの全社的な導入を指揮しており、アクセシビリティと生産性の両面で広範囲にわたってもたらされる効果を目の当たりにしてきた人物です。「アドビの包括的な資産管理システムによって、資産が存在することを知らなかった、または以前は資産にアクセスできなかったビジネスユニットが資産を活用できるようになり、業務効率が高まりました」と彼は言います。
「アドビの包括的な資産管理システムによって、資産が存在することを知らなかった、または以前は資産にアクセスできなかったビジネスユニットが資産を活用できるようになり、業務効率が高まりました」
ダニエル・ラトレル氏
ブリヂストンアメリカス エンタープライズデジタルサービス担当ディレクター
さらに、顧客体験の改善を反映した目に見える成果がいくつか現れていることに、ラック氏はひときわ喜んでいます。
彼はこう述べます。「2021年、当社は700件を超えるwebサイトの更新をデプロイする一方で、管理対象の問題の発生は750件にとどまり、平均修復時間は25分になると見込んでいます。時系列で見ると、2018年には、デプロイメントが250件、管理対象となる問題が2,000件発生し、平均修復時間は45分であったため、過去5年間でパフォーマンスが10倍向上したことになります」
ブリヂストンの魔法の隠し味
ブリヂストンが成功を収めてきた背景には、もうひとつの「魔法の」要素、技術スタックに関する整合性のある文化の創造が存在します。
全員に参加してもらうのは簡単なことではなく時間が必要だとラック氏は言います。「企業によっては、新たなシステムを導入するとコストが上昇したり、選択の幅が限られたり、自社の裁量が狭まってしまうと感じることがあります」。しかしながら、これは極めて重要なことです。「何よりも、この技術スタックに関して整合性のある文化を創造することにより、それを使って実現できることの可能性が大きく広がったのです」
ブリヂストンは、ビジネスリード、マーケティングリード、ITリードのチームを招集し、目標、プロセス、およびリソースの調整を行いました。チームは毎月ミーティングを開催し、短期/長期の優先順位の設定、あらゆる行き詰まりの解消、一連のCB2ツールをサポートするリソースの開発などを行います。その間、CB2のパフォーマンスを測定および管理するためにデータドリブンな経営モデルを実践します。
ラック氏はこう言います。「計測可能な対象は管理も可能であるというのが当社の哲学です」
Adobe Analyticsによって生成された少なくとも10余りのレポートをチームでレビューすることで、プラットフォーム上の各システムの健全性、パフォーマンスに関する主要なメトリック、およびブリヂストン全体におけるツールセットの導入状況を追跡するのに役立ちます。データドリブンなモデルの採用によって想定外の結果の発生は少なくなり、得られたデータを将来的な投資配分の参考にすることが可能になっています。
エクスペリエンスのリーダーを目指して先を見通す人たちに対して、ラック氏は次の賢明なアドバイスを送ります。「整合性のある技術スタックを見つけてパートナーがそれを活用できる環境を整えること、やればできると思わせる文化をその周りに構築すること、システムを適切に維持するために維持管理とアップグレードについて常時把握しておくことが必要です」
2つの車輪で変革のジャーニーの先へ
ブリヂストンは、CB2プログラムを開始して以来、アフリカの古いことわざにある「速く行きたいなら、一人で行け。遠くに行きたければ、一緒に行こう」を実践しています。
彼らはそれぞれのビジネスラインやオンライン・オフラインのチャネルを超えて一体となって動くことができました。デジタルランドスケープが進化し続ける中で、ブリヂストンはMarTechスタックとデータ戦略を次のレベルに引き上げ、顧客のプライバシーとエクスペリエンスの両方の期待に確実に応えていきます。
ブリヂストンは、「今後、パーミッションベースのファーストパーティデータが顧客エンゲージメント戦略の中心となり、将来的に信頼を築き、素晴らしい顧客体験を提供することができると考えています。私たちは、アドビとのパートナーシップによる変革の旅の次の段階に期待しています」とラックは語っています。
ブリヂストンのデジタルトランスフォーメーションの中心にいるのは顧客です。近い将来、車に乗らなくてもタイヤを注文できるようになるかもしれません。あるいは、タッチスクリーンで車のメーカーやモデルを入力して、どんなオプションが最適かを確認することもできるでしょう。そうなれば、次のタイヤを買うのが楽しみになってくるかもしれません。