高速なPDCAを体現し、口座開設率を175%向上

株式会社 Finatext

この事例をPDFで読む

設立

2013年

従業員数:50名
所在地:東京
https://finatext.com

10〜20倍

作業効率を飛躍的に向上

導入製品:

Adobe Experience Cloud

Adobe Analytics

Adobe Creative Cloud

checkbox icon

課題

データ欠損やデータソースの分散によって、サービス全体のKPIツリーが俯瞰しにくかった

ワイヤーフレーム作成などに使用するツールが統一されておらず、企画、デザイン、開発プロセスのコミュニケーションがスムーズでなかった

証券3.0時代のサービスが備えるべき高速なPDCAサイクルを実現できていなかった

graph icon

成果

自由度の高いAdobe Analyticsで細かく分析することで、改善インパクトの大きい施策を明確化しやすくなった

ワイヤーフレーム、デザインをAdobe XDで作成することで作業効率が向上した上、関係者間の連携が容易になった

分析から施策の立案、アプリ改善、効果測定まで、PDCAをスピーディに回すことが可能になった

「STREAMは前例のないサービスですから参考にできる情報も少ない。Adobe Analyticsのような計測、分析ツールは必要不可欠です」

株式会社Finatext サービスディレクター  榎本 拓郎氏

「証券3.0」へのシフトを体現する新サービスを開発

スマートフォンの普及、実用レベルのAI(人工知能)やブロックチェーンの登場によってビジネスのあり方が大きく変わっている金融業界。FinanceとTechnologyを組み合わせた「Fintech」という言葉も生まれ、新しいサービスによるこれまでにない競争が繰り広げられています。

そうした中「金融をサービスとして再発明する」というコンセプトを掲げ、独自の存在感を示しているのがFinatextです。

同社は2013年に東京大学発のFintechベンチャー企業として創業。最近では、ビッグデータ解析サービスを提供するナウキャストとの経営統合、インターネット証券会社であるスマートプラスの立ち上げを経て、3社のシナジーを活かしたビジネスを展開しています。

同社の事業の核となっているのが「BaaS(Brokerage as a Service)」構想という新しい考え方です。

すべての証券会社は、顧客から受け付けた株の取引を行うために、有価証券の売買執行機能を備えた証券システムを構築し、運用しています。証券会社の根幹を担うシステムだけに高度な信頼性などが求められ、多額の投資、運用管理コストが必要になりますが、機能自体は、全証券会社にほぼ共通しており、決して他社との大きな差別化につながるものではありません。

「そのため、これまでのインターネット証券は手数料の安さが差別化のポイントで、サービスの内容自体はあまり比較の対象になっていませんでした。しかし、これからはどんなサービスかで利用者が選ぶ時代となる。そのために当社はバックエンドの有価証券売買執行機能をプラットフォームサービスとして提供。このサービスを利用すれば新規参入の障壁が下がり、証券会社は使い勝手に優れたアプリ、独自サービスの開発など、フロントサービスの開発に注力することができます。BaaSを通じて、より多様なサービスが登場する『証券3.0』へのシフトを加速させたいと考えています」とFinatextの保田容之介氏は説明します。

この証券3.0の価値を周知し、証券ビジネスのフロントサービスへのシフトの流れを確かなものにするために同社自身がそれを体現。BaaSを基盤とした新しい株取引アプリを開発し、リリースしました。それが「STREAM」です。

スピーディでクオリティの高いPDCAがもう1つのカギ

STREAMの特徴は、SNSのような「コミュニティ型」の株取引アプリであるということ。単に銘柄検索、チャート表示、売買機能を中心とした通常の株取引アプリとは違い、「ストリーム」と呼ばれるタイムラインに流れてくるニュースや他の投資家のコメント、Twitterへの投稿などの情報をもとに、気になる銘柄を発見したり、調べたりしながら、株の売買を行えるようになっています。

「証券サービスの最大のネックは初心者に厳しい点にあります。チャートを見ても、最初は何のことかわからない人がほとんど。多くの人が挫折してしまいます。一方、STREAMは、コメントを見てお互いをフォローしたり、『いいね』ボタンを押したりして、他の投資家とコミュニケーションを取りながら、徐々に株取引を理解していくことができます」と同社の榎本 拓郎氏は説明します。

このSTREAMによって、同社は新しい証券ビジネスの形を世に提案しているわけですが、サービスの付加価値がフロント部分に移行する証券3.0においては、もう1つ欠かせない視点があるといいます。継続的な改善によって、その価値を高め続けていくことです。

「スマホアプリのようなサービスに慣れ親しんだ顧客から選ばれるには、従来のように画一的、固定的なサービスとは違うスピードとクオリティが求められます。これからは『プライオリティの高い施策』を『スピーディ』かつ『高いクオリティ』で反映し続けるPDCAサイクルを回し続けなければなりません」と榎本氏は話します。

データ分析とアプリ開発にまつわる課題に直面

しかし、それを実際に行うのは非常に困難。STREAMの開発は「分析」「企画」「デザイン」「開発」「効果検証」で構成されていますが、様々な課題がありました。

まず1つ目が「分析」「効果検証」で活用し、改善の根拠となるデータの欠損や分散という課題です。計測ツールや計測ロジックが統一されておらず、欲しいデータが取得できなかったり、データとデータを関連付けて分析したりすることが困難だったのです。

「サービス全体のKPIツリーを俯瞰することも困難でした。そのため『どのレバーを引けば最も大きな改善インパクトが得られるのか』も曖昧でした」(榎本氏)

もう1つは「企画」「デザイン」「開発」でのコミュニケーション、開発工数にまつわる課題です。

「アプリ開発においては企画担当者がサービスの仕様を検討してワイヤーフレーム(Webサイトやアプリの設計書)や仕様書を作り、それをもとにデザイナーがUXやUIをデザイン。その上で、開発者がプログラムに落とし込むという役割になりますが、まずワイヤーフレーム作成に使うツールやフォーマットが企画者によって異なっている上、一般的な資料作成ソフトなどで作成されていることが多く、アプリ全体を俯瞰的に見たり、サービスの実際の挙動を確認したりするのが困難でした。スムーズなコミュニケーションが行えず、デザイン、プログラムに落とし込んだ後の手戻りが増え、工数が肥大化していました」と保田氏は話します。

PDCAの高速化を実現する2つのソリューション

これらの問題を解決するために、同社が導入したのが「Adobe Analytics」と「Adobe XD」です。

まず分析ツールであるAdobe Analyticsの優位性について「自由度が高く使いやすいこと」と榎本氏は説明します。

「他のツールは、一見機能が豊富そうに見えても『あれができない』『これができない』と感じることが多かった。一方、Adobe Analyticsは分析設計の自由度が極めて高く、このような物足りなさを感じることがありません。また多様なデータを簡単に取り込むことができるのも強み。例えば、利用者がどのニュースやコメントを見て、どの銘柄の株を購入したのかというシナリオを簡単に分析できます」(榎本氏)

一方、Adobe XDの選択のポイントは「企画からデザインまでの共通ツールとして使え、アプリ開発や改修スピードを向上できると期待したから」と保田氏は説明します。

Adobe XDは、Webサイトや、モバイルアプリなどのデザイン制作をサポートするUI/UXソリューションです。一般的なデザインツールなどと比べて簡単な操作で誰でも使いこなせ、企画者のワイヤーフレーム作成、デザイナーのデザイン作業までをカバーできる上、作成した案をURLで共有するなど、チーム間の情報共有もサポート。

「企画者とデザイナーが同じツールを使えば、コミュニケーションは当然スムーズになるし、意図を共有しやすい。また開発者へのデザイン提供も以前はデザインイメージを画像化してメール添付で展開していましたが、共有したURLからデザインデータやアセットを取得できるため、重たいファイルに悩むこともない。しかも動作が非常に軽快でサクサク動く点も作業効率を向上してくれると評価しました」と保田氏は続けます。

この2つのソリューションを活用すれば、多様なデータを分析、検証して仮説を立て、素早くアプリに反映していくことが可能。目指すPDCAの高速化が可能になると同社は判断したのです。

分析して導いた改善策を素早くサービスに反映

同社はAdobe Analyticsをストック型データ蓄積によるレポーティング、スポット型調査などに使い分けて効果を把握。ボトルネックを発見し、具体的な改善へとつなげています。同時にAdobe Analyticsを通じて発見した改善点をアプリに落とし込む作業では、関係者間のスムーズな情報共有とデザイン作業の効率化などを可能にするAdobe XDが大いに威力を発揮しています。

具体的には、以下のような取り組みを進めました。

口座開設の離脱要因を分析して改善

2019年1月公開の最新バージョンのSTREAMで、まず改善されたのが口座開設のプロセスと画面です。

口座開設は、証券会社にとって顧客を獲得できるかどうかの最初の大きな分岐点。いかに口座開設率を向上するかは、重要な課題です。

「一般的に、証券会社で口座開設を行うには、メールアドレスやパスワード、氏名、電話番号、住所、職業、出金口座、マイナンバーなど、様々な情報を入力する必要があり、高いハードルとなっています」と榎本氏は話します。

そこで同社は、Adobe Analyticsを使ってSTREAMの口座開設のステップ、入力項目ごとにデータを取得。どこで利用者が口座開設を断念しているのかを可視化し、きめ細かな離脱状況を把握しました。

その結果をもとに、ボトルネックになっている手順はどれか、必要な情報もより最適な聞き方や聞くタイミングはないかなどを分析。最終的に不要な入力項目の削除、手順の入れ替え、複数に分散していた入力画面の統合、さらにはページをめくる動作の変更といったUI/UXの改善など、様々な施策を実施しました。

「情報入力の手間や抵抗感を解消するためにOCR(文字認識)も活用しています。口座開設時には、マイナンバーカードを撮影するプロセスがありますが、そこに書いてある情報をOCRで読み取れば、入力の手間を大きく省略できるからです」と榎本氏は言います。他にも、専門用語が多く初心者にはわかりにくいコンプライアンスに関わる文章をクイズ形式で提示するといった工夫を行っています。

「サービス改善には大きく3つの軸があります。1つ目はユーザー行動の分析、2つ目はユーザーにストレスを与えないUI/UXの開発、3つ目は既存の商慣習の見直しです。口座開設プロセスの改善はUI/UXだけで実現できるものではなく、ユーザーの行動を把握しながら、当たり前だと思ってやっていることの中に本当は不要なものはないか、もっとよい方法があるのではないかを考えながら進めなければなりません。もちろんマイナンバーの登録のように制度上、省略することのできないものもありますが、ユーザーの行動から大きな気づきを得る上でAdobe Analyticsは重要な役割を果たしています」と榎本氏は強調します。

実際、口座開設フォームのリニューアルによって、口座開設率はリニューアル前と比べて175%向上しました。

サービス使いこなしに向けた改善点を実装

新規の顧客にいかにSTREAMを使いこなしてもらうか。いわゆる「オン・ボーディング」プロセスにもAdobe Analyticsが貢献しています。

「STREAMのようなモバイルアプリは、インストールしてからいかに早く慣れ親しんでもらうかが重要です。UI/UXの工夫はもちろん、Adobe Analyticsの分析結果に基づくフローの見直しも行って、スムーズなオン・ボーディングを目指しています。STREAMは前例のないサービスですから参考にできる情報も少ない。Adobe Analyticsのような計測、分析ツールは必要不可欠です」(榎本氏)

例えば、フォームの形状やエラーステートの表示位置などをAdobe Analyticsの分析結果をもとに改善。またユーザー登録時に行うパスワード設定では、かなりの数のユーザーが規定のパスワードを作成せずにエラーとなっていたことからリアルタイムチェッカーを入れるといった改善を行いました。

さらにSTREAMの核となる投資家コミュニティにいかに参加してもらうかについても、ユーザーの行動分析結果を見ながら、工夫を施しています。

「新規ユーザーがいきなり投稿するのはハードルが高いようです。しかし、コミュニティに参加してもらうことでお客様にはSTREAMのメリットをさらに感じてもらえるし、STREAM自体もよりよいサービスに成長できます」と榎本氏は説明します。

そこで、ユーザーの行動分析結果を見ながら、掲示板やニュースを表示してコミュニティに参加、投稿するまでを自然な流れで行えるようUI/UXを改善。使い方を早くマスターできるよう各画面にはチュートリアルも仕込みました。

その一方で、削除されたものもあります。それがログイン前に表示していたプロモーションムービーです。

「以前のSTREAMでは、アプリのベネフィット訴求を行うため、ログイン前にプロモーションムービーを流していたのですが、Adobe Analyticsでの分析によって、動画よりも静止画での訴求の方が、効果が高いことがわかりました。またプロモーションムービーが離脱を促しているということも判明したため、すぐに静止画に置き換えました」と保田氏は話します。

企画から開発まで一気通貫でつながる体制を構築

Adobe XDは、STREAMの開発に劇的な生産性の向上をもたらしています。

「企画からデザインまで、使用するツールが統一され、一気通貫のコミュニケーションを行えるようになりました。ワイヤーフレームやデザインを簡単に関係者と共有できるため手戻りもなく、開発スピードが飛躍的に向上しています。また、私自身、デザイナーとしてSTREAMの画面デザインを行っていますが、動作も軽快で複数の画面を同時に扱えるため、個人の作業の生産性も大きく向上しています。私の感覚では、10倍、20倍、桁違いの効率化が実現したと感じます」と保田氏は強調します。

企画段階では、榎本氏もAdobe XDを利用しています。

「今まではExcelやPowerPointでワイヤーフレームを作っていましたが、UI/UXデザイン用のツールではないため、作成に時間がかかっていました。一方、Adobe XDはWebサイトやアプリ設計のためのツールですから、基本的な使いやすさが違います。しかも、以前はワイヤーフレームに注意点などをコメントアウトしたりしながら後工程に回していましたが、今はそのままデザイナーやエンジニアに渡すことが可能。ワイヤーフレームの再現性も高く、開発プロセスそのものが大きく変わっています」(榎本氏)

さらにAdobe XD内で簡単にプロトタイプも作成でき、ワイヤーフレームやデザインを作成しながら、実際にUI/UXを仮体験してみることも可能。「UXはシームレスか」「ユーザーが戸惑う部分はないか」といったことを関係者全員で検証できるようになったといいます。

この成果を受けて、現在、同社はAdobe XDの利用を前提に、デザインのレギュレーション化やコンポーネント化を進め、変化に強いデザイン体制の確立を進めています。WebページやWebアプリケーションとネイティブアプリの利点を組み合わせた「PWA(Progressive Web Apps)」の使用も検討しており、書き込みやニュースを見たら即座に株取引の注文を出せるようなUIの実現など、様々な機能をよりスピーディに実装し、リリースしていく考えです。

このように同社はアドビのソリューションを活用して、証券3.0時代のサービスのあるべき姿を形にしようとしています。

「とはいえ、まだまだ課題はあります。入金や取引経路についてもアドホックな分析を行い、取引量の増大にも貢献したいと考えています」と榎本氏。保田氏も「デザインチーム内やエンジニアとの連携により一層の効率化を進めたい。また業務部やコンプライアンス部などとの合意形成の迅速化もAdobe XDを中心としたソリューションで推進したい」と展望を述べます。

STREAM、そしてBaaSを通じて、次に同社がどんな証券サービスを世に提示するのか──。同社の取り組みから目が離せません。

保田 容之介氏

クリエイティブディレクター  保田 容之介氏

サービスディレクター 榎本 拓郎氏

サービスディレクター  榎本 拓郎 氏

関連するトピックス

https://main--bacom--adobecom.hlx.page/jp/fragments/customer-success-stories/cards/a0bb6a3ae570731a3926d846ef408180

その他の関連トピックスを見る