「ツールに使われる」からの逆転劇。大幅な契約数純増を達成

Hamee株式会社

創業

1997年

所在地:神奈川

hamee.co.jp

導入製品:

Adobe Experience Cloud

Adobe Marketo Engage

追い風であるEC向けソリューションが飽和の危機に?

神奈川県の西部、小田原市の市街地に本社を構えるHamee株式会社。スマートフォンケース「iFace」の販売などで有名な企業だが、B2B事業として独自開発したSaaS製品も展開している。

同社のB2B分野での主力製品は、EC事業者向けプラットフォームの「ネクストエンジン」で、複数のネットショップに商品を出品しているEC事業者が、各ショップの管理画面を統合して運用できるソリューションとなっている。同社のスマートフォンアクセサリーをECで販売する経験から生まれたツールを水平展開しているため、ユーザーの立場で業務効率化を考えられた実装がされており、その使いやすさが好評を得ている。

同製品のマーケティングを担当する、プラットフォーム事業部DXマネジメント部マーケティングチームの岩本侑子氏は、今から5年ほど前の2016年から、市場の「飽和期」への危機感を募らせていた。同社の事業部長が、顧客企業数は5000社で飽和すると言っていたことに起因しているが、岩本氏も肌感覚として、そう感じていたという。

「ネクストエンジンのお客様は、EC事業が軌道に乗って忙しくなった際に、業務を効率化する目的で導入されます。現在は新型コロナウイルス感染症の影響もあってECに進出する事業者は増えていますが、今後競争が激しくなり、業容を拡大できる事業者は限られてくると考えています」

すでにネクストエンジンの導入社数は5000社を超え、予想通りであれば今後新規社導入数の伸張は厳しくなっていくはずだ。この市場で、同社が事業を伸ばしていくにはどうすれば良いのか。マーケティングチームで検討を続けた結果、顧客体験を向上させて継続利用を促すことと、既存顧客に対してアップセル、クロスセルを勧めることが重要だと行き着く。そしてここから、MA(マーケティングオートメーション)の模索が始まることになる。

手探りでMAの利用を始めたものの、当初は成果が出ず

Adobe Marketo Engageの導入は16年10月。導入を主導したのは前述の事業部長で、顧客ごとにweb上で1対1の接客ができるようなツールが望ましいと考え、Adobe Marketo Engageの採用が決まった。

Adobe Marketo Engageを導入する以前のマーケティング施策は、1回メールを打ったとしても、その開封率やリンクのクリック数などの結果を確認し、評価するだけの状態だったという。まずはここを改善しようと岩本氏は考えた。

「Adobe Marketo Engageを当初使い始めたときは、マーケティングツールとしてすごいものが入ったと、それだけで舞い上がっていた状態でした。当社で漠然と考えていたマーケティングのルールを、Adobe Marketo Engageで自動化できるのではないかという期待を持って、利用を始めたのです」

当初は、社内に専任の担当者を1人立て、マルケトの担当者と一緒にシナリオの構築を開始。例えば資料請求をした人へのナーチャリングメールはどうするのかルールを作り、マーケターがそれを使うような形で利用が始まったという。

「本来は、個々のマーケティング施策にはそれぞれ目的があって、その実現のためにツールがあるはずです。ですが、このころの当社はツールを使うことが目的化してしまっていました。言ってみれば、ツールに使われているような状態でしたね」

マーケティング担当は見込み客である無料体験ユーザーの数を増やそうとしていたが、それを受けて契約に持っていくインサイドセールスもリソースが限られており、単純にリードの数が増えてもすべてに対応できない。結果的に未処理のリードが残り、それが悪目立ちする悪循環に陥っていた。

そうした状況が約2年続き、18年の9月には、導入を指示した事業部長から、逆に「"Adobe Marketo Engageが単なるメール配信ツールなら、他にもっと安いものがある"と言われてしまいました。自分たちが作っている施策の効果が出ていないことに、悔しい思いをしながらも、なんとか次のチャレンジをプレゼンして、契約を続けている状態でした」(岩本氏)。

マーケティングの段階からカスタマーサクセスを考える

転機は、20年に入社してきた新たなマーケティングマネジャーによってもたらされた。彼が部門に話をしたのは、マーケティング手法やツールの使い方ではなく、何のためにマーケティングの仕事をしているのかという目的の明確化だった。「マネジャーがマーケティングチームに話したのは、CS(カスタマーサクセス)を実現させる必要があるということ。そのためにお客様をどう定義して、マーケティング~インサイドセールス~カスタマーサポートなどの各段階で何をすべきかを、見える化しました」。

ツールを使うことが目的だったマーケティングチームにとって、目的のためにツールを使う、まったく逆転した考え方が示された。そしてそこから、Adobe Marketo Engageを活用する段階へと入っていった。

「それまでの分業体制では、私たちの仕事はここまで、といった境界ができてしまっていました。それがカスタマーサクセスという共通言語の下、事業部全体で連携し、協業することが重要だという意識が持てるようになったのです」

目的が明確化し、それに沿ったプロセスができたことで、大量のデータ処理を自動化するという、MA本来の役目がようやく理解できたのだ。

また、以前は部署ごとに考える顧客像にズレがあったが、全体を1つの流れでまとめたことにより、求める顧客像に共通の認識が持てるようになった。それにより、次工程の担当者が欲しい顧客のイメージを理解して施策を作ることが可能となったのだ。

マネジャーが俯瞰して見せたCSの全体像は、事業部の各部門が共有し、議論する中で内容が変化し、常に書き換えが行われている。ネクストエンジンの顧客をよりくわしく理解するために進化してきたと言ってもいいだろう。「共通言語ができたことで、部門をまたいだ会話でも理解が早く、その分深い検討ができていると思います」。

実際に、20年10月~21年4月の無料体験に対する契約率は、前年の同期間と比べて5ポイント強の向上。「カスタマーサクセスの実現に向けて協業することによって契約純増数(新規契約数から解約数を引いたもの)が大幅に増えました。カスタマーサクセスを追い求める事業部全体の目的が実現している結果だと思っています」。

同事業部内にはデータ分析チームも結成され、ダッシュボード上からカスタマーサクセスのどのフローで落ち込みが見られるか、などの状態が分かるようになっている。「カスタマーサクセスの全体図を見ると、例えばSQLから、実際に商談中の見込み客であるリードに遷移します。その遷移の状態を確認するために、通称"田んぼ"と呼んでいるチャートを使い、各ブロックの前月と今月の数字と、その遷移先のブロックの前月と今月の数字を4つ並べて見ることで、前月の顧客のステータスが正しく遷移しているのかが分かるのです。このチャートを毎月担当者が確認することで、課題を発見し、前月に行った施策と照合して評価するようにしています」。

MAのポテンシャルを生かし切る新たなアイデアも次々実現

顧客を早い段階で確実にカスタマーサクセスのフローに乗せるための試みとして、岩本氏のチームではMAツールの創意工夫が盛んに取り組まれている。

例えば同社では、webページに設置した『お見積もりフォーム』にAdobe Marketo Engageのフォームを表示させ、そこに顧客が直接登録。通常、Adobe Marketo Engageの顧客管理画面では、顧客の会社名、氏名、電話番号などが入った状態で管理されているが、そこまで情報を集めていない匿名の状態でもAdobe Marketo Engageに登録し、管理することができている。

「お客様は、お見積もりフォームに個人情報などを入力せず、使用条件をいくつか入れて登録されます。この時点でAdobe Marketo Engageのリードとして管理ができるので、そこからマーケティング施策をスタートすることが可能になります」

匿名リード化によって、個人情報を入れていない段階から、顧客の興味に沿った情報を発信し、その後の商談につながるリードに成長させることができるのだという。

その他、Adobe Marketo Engageをインサイドセールスで営業支援システム的に使えるようにするなど、岩本氏は独自のアイデアで様々な活用に挑んでいる。

同社はツールに使われる段階を脱し、目的のためにツールを使いこなすことができるようになっただけでなく、21年にはマルケトユーザーのリーダーである「2021 Marketo Engage Champion」の「Marketer of the Year」を受賞し、岩本氏が自社事例を報告するまでになった。

岩本氏は最後に、「一般的な認識とは違うと思いますが、私はマーケティングとは『目的を達成するための方法や手段のすべて』と定義しています。つまり、マーケティングの考え方である、フローを決めて改善していくという仕事の進め方が、営業やカスタマーサポートなど、他の部門でも役に立つと考えています。これからも部署の壁を越え、目的が達成できるよう取り組んでいきたいと思っています」と語った。

岩本氏が所属している同社のマーケティングチーム

※掲載された情報は、2021年10月7日現在のものです。

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