ニッチな業界だからこそ重要だったマーケティングと他部門の連携を実現

株式会社カケハシ

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設立

2016年

**所在地:**東京
www.kakehashi.life

導入製品:

Adobe Experience Cloud

Adobe Marketo Engage

調剤薬局の業務負荷を軽減するソフトウェアを提供

医療機関を受診した人が診察や治療を受け、会計を済ませた後に向かう先は、ほとんどの場合「薬局」だろう。昔のように病院で薬を手にすることは減り、近隣の調剤薬局へ立ち寄って処方箋を渡し、薬を購入するケースが増えた。

全国にはおよそ6万店舗の調剤薬局がある中で、その調剤薬局の業務を改善するソフトウェアをクラウドアプリケーション(SaaS)で提供するのが、2016年に創業した株式会社カケハシだ。

調剤薬局は、患者から薬価の1~3割にあたる金額を受け取り、残りは国に請求して売上を立てる。その経理処理をレセプトと言い、レセプトは専門のITベンダーが提供する「レセコン(レセプトコンピュータ)」というPCパッケージソフトによって処理されている。

薬剤師がレセコンに対して行う処理で、最も手間がかかるのが「薬歴」の入力だ。いわゆる患者のカルテであり、投薬歴や指導内容を管理するための情報だが、レセプトにとっては、その薬局が患者に対して間違いなく投薬したという確証となる重要な情報だ。そのため薬剤師は、毎日営業時間外に、その日の患者とのコミュニケーションを思い出しながら薬歴を記入する必要があり、非常に負担が大きくなってしまっている実情がある。

カケハシが提供するソフトウェアの「Musubi(ムスビ)」は、既存のレセコンに接続して使用することが可能。薬剤師が専用のタブレット画面に表示される指導内容をタップするだけで、その内容が薬歴の下書きとして保存される。患者への服薬指導と薬歴記入を同時に行うだけでなく、薬剤師の業務を大幅に効率化するとともに、より正確な薬歴が記録でき、患者の指導に役立てることが可能だ。また、クラウドサービスのため導入に際してのコストも安いといったメリットがある。

同社The Model Front統括ディレクター(現:執行役員)の佐々木星氏は、次のように説明する。「当社の創業者が、"日本の医療をより良くするためには薬剤師さんが重要な存在になる、その薬剤師の付加価値は、患者さんとのコミュニケーションを深めることで高まる"と考えて起業したのがカケハシです。その目的のために何が障害になっているかを検討した結果、生まれたのがタッチパネルで薬歴が記録できるシステムです」。

マーケティングと他部門との連携がカギに

17年8月にリリースされたMusubiは、全国の調剤薬局で利用されており、顧客数は順調に拡大している。発表当時から話題性もあり、問い合わせも多かった半面、まったく関心を持たない顧客も多かった。「薬局さんにとってシステムは高価で、基本的にリース契約となることが多く、リースの更新時しか検討しない場合が多い状態でした。新しいシステムを導入することに消極的な薬局さんも多いです」と、同社マーケティングディレクター/薬剤師の髙田達也氏は語る。

新しいコンセプトのサービスであるため、まずは知ってもらうことが必要だった。そこで、創業時から営業を積極的に行い、問い合わせを受けての訪問営業や、代理店との同行営業、学会・展示会での情報取得、セミナーなどを実施して薬局のリストを集積していったという。

また、営業部門の担当者が集めたリストを使い、メール配信などの施策も行っていたが、創業から19年までの間、同社にはマーケティング部門が存在していなかった。当初は営業先に困ることもなかったが、業容が拡大していく中で、顧客に対するマーケティングの強化が必要となっていった。The Model型の営業体制移行に伴い、マーケティング部門が新設され、その立ち上げを務めることになる。

着任早々、MA(マーケティングオートーメーション)のツールを導入し、見込み顧客へのメール配信などの施策を開始。マーケティング部門としてこのMAツールはある程度機能したが、マーケティング施策が成約や売上にどの程度貢献しているのか? 有効と言える施策を分析することに課題が多かったという。

「MAやSFAを活用したThe Model組織になるために、営業企画も兼任していた私のところに様々な部門から要望が寄せられていました。MAやSFAを一気通貫に設計・運用できる人材が早々に必要になると思い、私のチームで採用することにしました」(髙田氏)

そうした背景で採用され、カケハシにジョインしたのが山下辰也氏だった。山下氏はマーケティングチームに所属し、開発部門(Kakusei)を兼任しながら、新しいMAツールの導入を主導することとなった。

山下氏は、新しいMAツールに必要な要件は3つあったと話す。「1つ目は、営業部門やカスタマーサクセス部門(CS)とのデータ連携ができることです。私はカケハシに入社する前に別のネットサービス企業で開発を担当していましたが、そのときも、顧客規模が大きくなるにつれ、CS部門との連携が重要になったのを思い出しました。ツールで連携できるところは極力自動化し、業務効率化を図らなければいけません。2つ目は、MAツールとして施策の作成や修正が容易であること。そして最後が、MAツールと他のツールの連携が一方通行でなく、フィードバックさせながら改善していけることです」。

この観点で、既存ツールのアップグレードも含めて2カ月間ほど検討した結果、同社はAdobe Marketo Engageを導入することを決定。同社では営業部門だけでなくCS部門もSalesforceのシステムを使用しており、Adobe Marketo EngageはSalesforce製品との高度な連携が可能なことも、導入の決め手となった。

髙田氏は、Adobe Marketo Engageが提供するレベニューモデルにも魅力を感じたという。「自分たちが行っているマーケティング施策が売上にどれだけ貢献したのかを知ることができるのは、マーケティング部門として励みになります。今後、ぜひ活用していきたいと考えています」。

部門間の連携が活発化し、リードの質、量の改善へ

Adobe Marketo Engageが稼働したのは20年11月で、導入後1年ほどだがすでに各所で効果が表れている。

まず、Salesforceとの連携によって、マーケティング情報をタイムリーに生かした営業ができるようになったという。「インサイドセールス向けに『Marketo Sales Insight』と『Marketo Sales Connect』を使用しており、以前のMAツールでは難しかったSalesforceとの高度な連携が実現しました。これによって、インサイドセールス担当が電話をする前に、顧客がメルマガの何に反応したか、どんなwebページを見ていたかなどの情報を把握できることで、コミュニケーションの質が向上しています」と山下氏は話す。

同社では高い営業目標を掲げており、マーケティング部門が獲得した見込み顧客の情報は、できるだけ早いタイミングで営業部門に引き渡す方針を取っている。Adobe Marketo EngageとSalesforceの連携で、インサイドセールス側が手にする情報の粒度が上がり、改善が図られているようだ。

もちろん、マーケティング部門側のリードの数と精度の向上も進められている。Adobe Marketo Engageの導入で業務の効率化が進み、今後は顧客の反応に応じたナーチャリングメールの施策も考えているという。

「現在は、基本的な施策の方向性を探っている段階ですが、新しい発見もありました。通常のメルマガは、調剤薬局の方に対しMusubiについて徐々に関心を持ってもらうためのお役立ち情報として位置づけているのですが、あるとき、製品の機能紹介を中心にしたメルマガを出してみたところ、そこからの資料請求のクリック数が過去のメルマガで一番多く出たのです。一足飛びに資料を見たいという方も一定数いらっしゃるということが分かりました。今後は定期的に、製品訴求の情報発信も混ぜていければと考えています」(髙田氏)

Adobe Marketo Engageの導入によって、様々な試行の結果をすぐにデータで確認することができるため、このような発見もできたということだろう。

「バーティカルな市場に向けたSaaSの提供企業として、私たちにはこの業界を変えていきたいという想いがあります。薬局という限られた市場の中でのMA活用は非常に重要なアクションとなりますが、まだまだ当社は洗練されたMAを実現できているとは言えません。今後も他社の事例などを参考に、自分たちに合った新しいMAの使い方を見つけていければと思います」(佐々木氏)

製品ラインナップが拡大し、既存顧客に対するアップセル、クロスセルも重要になる。そこではマーケティング、営業、CS部門が連携した情報によって、顧客体験の向上が求められていく。

同社にはもともと、個々の担当分野に閉じた仕事のやり方ではなく、進んで他部門の知識も取り入れようとする企業文化が存在するという。各部門がデータ連携できるAdobe Marketo Engageという基盤ができたことで、互いの連携がしやすくなり、結果的に顧客の業務を改善することにつながる。業界そのものを変革するという同社の挑戦は、まだ始まったばかりだ。

※掲載された情報は、2021年9月29日現在のものです。

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