一部の問題は、迅速な解決だけでは不十分な場合があります。5Why分析を活用すれば、問題の具体的な原因を掘り下げ、再発を防ぐことができます。
「Why(なぜ)」という言葉の中に、この手法の真髄が凝縮されています。この記事では、5Why分析の仕組みを解説します。
5Why分析とは:定義と起源
5Why分析とは、反復的な質問にもとづく問題解決手法です。「なぜ?」と5回問いかけることで、表面的な答えにとらわれず、問題の根本原因に迫ることができます。このプロセスは一見単純ですが、他の手法では表面的な解決にとどまるような繰り返し発生する問題にも、効果的に対処できます。
簡単なシナリオを見てみましょう。水道管で水漏れが発生している家を想像してみてください。「なぜ床が濡れているのか?」という問いに対して、「水道管が水漏れしているから」と答えるだけでは、根本的な解決にはなりません。真の問題は、もっと深いところにあります。それは、「なぜ水道管が水漏れしているのか?」ということです。「水圧が高すぎたから」という答えを導き出せれば、問題をより明確に把握できます。さらに深く掘り下げて、「なぜ水圧が高すぎたのか?」と問いかけてみましょう。水圧調整器が故障している可能性があることに気がつき、調整器を修理し、水道管を交換できます。これで、問題を解決したことに確信を持つことができます。
5Why分析の歴史
5Why分析は、イノベーションや行動力の促進に役立つ手法として、100年以上にわたって活用されています。
5Why分析は、1930年代に豊田自動織機で名を馳せた実業家および発明家、豊田佐吉氏によって発明されました。同氏は、会社経営における問題解決において、この戦略の価値を認識していました。トヨタ生産方式の設計者でもある同氏は、リーン生産プロセスを可能な限り円滑に進めたいと考えていました。5Why分析は、トヨタグループを成功に導くうえで、重要な役割を果たしました。
経営陣や プロジェクトマネージャー が、会議室にこもって特定の問題が発生した理由を議論するのではなく、「実際に現場を視察する」という哲学を採用しました。つまり、経営陣自ら現場を訪問し、問題の原因を突き止めるまで調査を継続しました。
これにより、適切な分析を行うことなく、問題の原因についての見識に影響を与える可能性のある、個人的な意見を排除できました。5Why分析を活用すれば、より科学的なアプローチによって、問題の根本原因を突き止めることができるようになります。
これにより、優れた問題解決プロセスを確立し、事業の継続的な成長と拡大が可能になりました。同グループは現在、この戦略を活用して障害を乗り越え、問題発生時にその本質を特定しています。
5Why分析は他の企業や業界にも急速に普及し、1970年代には多くの企業が採用しました。企業や専門家は、問題解決能力や社内プロセスを改善するために、この戦略を活用し続けています。

5Why分析を使用するタイミング
5Why分析は、経営やビジネスにおける幅広い課題に対して効果を発揮します。例えば、次のような場面で役立つでしょう。
- プロセスの改善: 5Why分析は、プロセス内の非効率な作業やボトルネックを明らかにするのに最適です。プロセスにおける不具合や欠陥について、「なぜ」を繰り返し問いかけることで、チームは問題を段階的に掘り下げ、根本原因を突き止めることができます。例えば、顧客の注文処理が常に遅い場合、5Why分析を通じて、人員不足、時代遅れのテクノロジー、非効率な社内コミュニケーションなど、問題の原因を特定できるかもしれません。これらの根本原因に対処することで、表面的な修正ではなく、より持続可能な改善につながります。
- 技術問題: 5Why分析を実施することで、複雑な技術問題を体系的に診断および解決できます。表面的な修正にとどまらず、根本原因を特定し、再発を防ぐことができます。例えば、ソフトウェアアプリケーションが頻繁にクラッシュする場合、5Why分析を実施し、コーディングエラー、サーバーリソース不足、互換性の問題など、原因を特定できます。この体系的なアプローチにより、徹底的な調査を行い、より堅牢な解決策を導き出すことができます。
- プロジェクトの遅延への対応: プロジェクトの遅延は、1つの原因ではなく、複数の要因が連鎖的に絡み合って引き起こされることが多いです。遅延の理由を体系的に問い直すことで、プロジェクトマネージャーは、ボトルネック、リソースの制約、全体的な問題の原因となる依存関係を特定できます。例えば、プロジェクトが期限に間に合わなかった場合、5Why分析を通じて、リソース不足、要件の不明確さ、コミュニケーション不足など、遅延の原因を特定できるかもしれません。これにより、将来の遅延を防ぐのに役立つ、的を絞った対策が可能になります。
- 顧客からの苦情の解決: 苦情の背後にある理由を体系的に調査することで、企業は自社の製品、サービス、プロセスにおける問題点を特定できます。例えば、顧客からカスタマーサービスの質の低さに関する苦情が頻繁に寄せられている場合、5Why分析を実施し、トレーニング不足、人員不足、明確なサービス手順の欠如など、問題の原因を特定できます。これらの根本問題に対処することで、顧客評価の向上、口コミによる推奨、新規顧客の獲得につなげることもできます。
5Why分析戦略は、多くの場合、単純な問題や難易度が中程度の問題の解決に、最も効果を発揮します。他の問題解決戦略よりも単純な仕組みであるため、非常に複雑な問題に対応できない可能性があります。しかし、専門家が問題の根本原因をより深く理解し、問題解決への第一歩を踏み出すのに役立ちます。
5Why分析の使用が推奨されないシナリオ
5Why分析が効果を発揮できない可能性があるシナリオを、いくつか紹介します。
- 非常に複雑な問題: 多くの原因が絡み合った複雑な問題の場合、5Why分析では状況が過度に単純化され、重要な要因を見落としてしまう可能性があります。「なぜ」という質問を繰り返すだけでは、このような問題の複雑さを解明するには不十分な場合があります。
- 複雑に絡み合った原因: 複数の原因、関係者、期間、その他の要因が絡み合っている場合、5Why分析では、寄与要因と最終的な根本原因を区別することが難しい場合があります。直線的に質問を進めるだけでは、問題の多面的な性質を十分に捉えられない可能性があります。
- 経験的証拠を必要とする状況: 5Why分析は推論に大きく依存しており、特定した根本原因の経験的検証が求められる状況では、厳密な分析を十分に行えない可能性があります。結論が証拠によって裏付けられていることを保証するには、より堅牢な手法が必要となる場合があります。
このような場合、より洗練された根本原因分析(RCA)手法が必要になります。RCA手法は、データ分析や複数の視点を取り入れた、より構造化された包括的なアプローチを提供します。
代替RCA手法
5Why分析だけでは対応できない複雑なシナリオの場合、代替のRCA手法を検討することもできます。具体的には、次のようなRCA手法があります。
- フィッシュボーンチャート(石川ダイアグラム): 問題の潜在的な原因を、人、材料、方法、環境などの様々な要因に分類します。ブレインストーミングを促進し、問題をより包括的に捉えることができます。
- 故障モード影響解析(FMEA): 潜在的な故障モード、その影響、原因を体系的に特定し、リスクを先回りして低減できます。この手法は、故障が深刻な影響を与えるような、リスクの高い状況において特に有効です。
適切なRCA手法の選定は、問題の複雑さや、アプローチの厳密性に左右されます。5Why分析は、多くの状況において問題解決の有効な出発点となりますが、その限界を認識し、必要に応じてより高度な手法を用いることが、効果的な問題解決に不可欠です。
5Why分析の実施方法:ステップバイステップガイド
5Why分析を実際に行うと、単純に繰り返し質問をするだけではないことに気づくでしょう。ここでは、具体的な手順を説明します。
1.チームの編成。
まず、問題に精通した専門家チームを編成します。問題に影響を与える可能性のある、様々な部門からメンバーを招集します。各チームメンバーが持つ独自の視点や斬新なアイデアは、問題の根本原因をより深く解明するのに役立ちます。
2.リーダーの選出。
チームのモチベーションを維持し、前進させるためには、グループをまとめるリーダーを選出する必要があります。これにより、チームは5Why分析戦略を継続的に実施し、それぞれの質問を適切に評価できるようになります。
リーダーは、ファシリテーターとしての役割に重点を置く必要があります。チームメンバー全員が、ジレンマやその原因について、自由かつ柔軟に意見を述べることができるようにする必要があります。
3.ホワイトボードまたは紙に問題を書き出す。
チーム全員が同じ認識を持つように、問題の詳細を記録する必要があります。評価の各段階でメモを取ることで、考えやアイデアを整理することができます。また、問題の再発を防ぐために、必要な変更を適切に適用するのにも役立ちます。
4.最初の「なぜ」の質問をする
解決したい問題が明確になったら、最初の「なぜ」の質問に答える必要があります。例えば、ソフトウェアのアップデートが遅れた理由を知りたい場合は、「なぜこのソフトウェアのアップデートは予定より遅れたのか」といった質問をします。次に、この質問に対する答えをブレインストーミングし、メモを取ります。
5.「なぜ」の質問をさらに4回行う
最初の質問が終わったら、さらに4つの「なぜ」の質問をします。最初の質問に対する答えが出たら、なぜその出来事が起こったのかを問いかけます。
6.問題の根本原因を特定。
5つの「なぜ」の質問を完了したら、問題の根本原因として、自分たちが理解していることを明確にする必要があります。このプロセスから導き出された最終的な答えをもとに、当初の問題を引き起こした原因や結果を整理します。次に、問題解決のためのアイデアをブレインストーミングします。
7.解決策の責任を割り当てる。
問題の根本原因や、発生した一連の出来事に関する情報を把握したら、問題に対する解決策を明確に提示する必要があります。問題の再発を防ぐために、各チームメンバーに責任を割り当てます。各チームメンバーに割り当てられた是正措置や職務を記録し、業務の改善に役立てます。
8.分析結果の共有。
最後に、分析結果を上層部や企業全体に共有する必要があります。質問への回答、考えられる根本原因、解決策を説明します。解決策を進める中で、進捗状況や継続的な改善を観察し、解決策が、当初の問題を引き起こした一連の出来事を緩和する役割を果たしているかどうか確認します。
5Why分析を効果的に実施するためのヒント
5Why分析は一見単純に見えますが、施策につながる正確な結果を得るには、綿密なプロセスが必要です。ここでは、5Why分析の効果を最大化する方法を解説します。
- 「5」はガイドラインであり、ルールではない:「5Why分析」の「5」という数字は経験則であり、絶対的な要件ではありません。複雑な問題の場合は、根本原因を特定するために、5回以上「なぜ」の質問を行う必要があります。一方、単純な問題の場合は、5回目の質問を行う前に根本原因を特定できる場合もあります。重要なことは、新たなインサイトを得られなくなるまで、「なぜ」の質問を継続することです。
- 事実にもとづく回答に焦点を当てる: 憶測や仮定は避けましょう。回答は、意見や仮説ではなく、事実や観察可能な証拠にもとづいている必要があります。これにより、推論にもとづく5Why分析によって、不正確な結論が導き出されるのを回避できます。発生した出来事に関する、事実にもとづく説明に焦点を当てることで、より確実に根本原因を特定できます。
- 複数の質問に対応: 多くの場合、1つの問題に、複数の要因が絡み合っています。5Why分析では、複数の質問を同時並行で進めることができます。このアプローチにより、より包括的な分析が可能になり、あらゆる要因を把握し、より堅牢な解決策を導き出すことができます。
- 責任転嫁を避ける: 5Why分析の目的は、責任の所在を明らかにすることではなく、根本原因を特定することです。個人の行動や失敗が問題の一因であったとしても、それらの失敗を招いた根本的なシステム上の問題を理解することを目的としています。このアプローチは、責任転嫁ではなく、継続的な改善の文化を促進します。「誰が」責任を負うのかではなく、「なぜ」問題が発生したのかに焦点を当てることで、より効果的な問題解決を促進し、同様の問題の再発を防ぎます。
5Why分析の実践例
5Why分析戦略の適用範囲や潜在能力を理解する最も簡単な方法は、いくつかの事例を検討することです。ここでは、企業が問題の根本原因をより正確に特定するのに役立つ、5Why分析戦略の活用事例を3つ紹介します。
売上の低迷
企業が前四半期の売上が減少していることに気づいた場合、5Why分析を活用する絶好の機会となります。マーケター、セールス担当者、カスタマーサービス担当者で構成されるチームは、次のような手順に従って分析を進めることができます。

- なぜ売上が減少したのか?: 製品に関する苦情の増加、レコメンデーション、リピート購入、アップセルの減少、オンラインでの否定的なレビューの増加
- なぜ製品に関する顧客の苦情が増え始めたのか?: 自社のソフトウェアにおいてバグや技術的な問題が増加し、カスタマーサービスへの問い合わせが殺到した結果、顧客の不満が高まったから
- なぜバグが増えたのか?: 製品部門と研究開発部門には、多くの新入社員が在籍しており、顧客が求める機能レベルに到達するための経験やノウハウが不足しているから
- なぜこれらの部門に多くの新入社員が在籍しているのか?: 過去18か月間の離職率が高かったから
- なぜ離職率がこれほど高かったのか?: 競合他社に比べて福利厚生がはるかに乏しく、複数の優秀な開発者が離職したから
このような状況において、チームは従業員を重視し、ロイヤルティを高めるうえで、魅力的な職場環境を整えることが重要であることを認識しています。優れた従業員は、質の高い顧客体験を生み出します。優秀な人材を獲得および維持するために、新入社員の研修を強化し、福利厚生制度を改善するための施策計画を策定することができます。
受注した製品を期日までに生産できない
メーカーが代金支払い済みの注文を履行できない場合も、5Why分析が役に立ちます。

- なぜ注文の処理が遅れたのか?: 月初めのバックログにより、注文の処理が予定より遅れたから
- なぜ月初めにバックログが発生したのか?: ベルトコンベアが1週間停止してしまい、注文を完了できなかったから
- なぜベルトコンベアが停止したのか?: モーターのメンテナンス時期が過ぎてしまい、動作レベルを維持できなくなったから
- なぜ機械のメンテナンスが遅れたのか?: 需要が常に高かったため、数時間のメンテナンスのために機械を停止させたくなかったから
- 機械のメンテナンスのために、なぜ誰も機械を停止させるスケジュールを組まなかったのか?: 機械の責任者は、メンテナンスを徹底するために、生産に多少の遅れが生じるリスクを冒したくなかったから
このチームは、定期メンテナンスのために生産にわずかな遅れが生じないようにしようとした結果、機械の修理に大幅な遅れが生じ、納期に間に合わなかったことを突き止めました。定期メンテナンスを徹底するための施策計画を策定し、メンテナンスのスケジュールを立てるうえで、作業が滞る時間帯を調査する必要があります。また、機械のメンテナンスに時間を割いたマネージャーが、ノルマを達成できなかったことでペナルティを受けないよう、対策を講じる必要があります。
納品の遅延が頻繁に発生する
企業は、チームがプロジェクトの納期を守れないという状況に遭遇することもあります。これにより、顧客への成果物の納品が遅れたり、企業全体に混乱が生じる可能性があります。この問題を解決するために、チームは次のような質問をしてみるとよいでしょう。

- なぜチームは期限に間に合わなかったのか?: 複数のチームメンバーによるタスクの完了が遅れたため、プロジェクト全体のスケジュールが遅れたから
- なぜ複数のチームメンバーによるタスクの完了が遅れたのか?: チームメンバーは、自身に割り当てられたタスクの一部を見落としており、期限が過ぎてからそのことに気がついたから
- なぜタスクの見落としが発生したのか?: チームメンバーにタスクを割り当てたものの、それ以外のコミュニケーションがほとんどなかったため、プロジェクトの重要なタスクを誰も処理していないことに気づかなかったから
- なぜチームメンバー間のコミュニケーションが欠如していたのか?: チーム文化がほとんど根付いておらず、チームメンバーはほとんど議論することなく、ただタスクを分担するという認識だったから
- なぜチームの団結力が欠如していたのか?: 積極的に参加したり質問したりすることが奨励されておらず、推測や個人主義的な傾向が強く、協働が促されていなかった
このチームは、定期的なミーティング、議論や質問の奨励、模範となって他のメンバーを導き、革新的な思考を歓迎するリーダーの育成を通じて、チーム文化の醸成を推進することの重要性を認識し、注力する必要があるでしょう。
Adobe Workfrontを活用した5Why分析
Adobe Workfrontのコラボレーション機能を活用すれば、5Why分析の実行がこれまで以上に容易になります。プロジェクト管理 機能を使用すれば、「なぜ」の質問とその答えを簡単に文書化し、分析に関する明確な監査証跡を作成できます。堅牢なコミュニケーションツールは、チームメンバー間のリアルタイムのコラボレーションを促進し、メンバー全員が積極的に議論に参加し、専門知識を共有できるようにします。
主な機能は、次のとおりです。
- 一元化されたワークスペース: 5Why分析を実行するための専用スペースを作成して、あらゆる関連情報を1つの場所に保存し、簡単にアクセスできるようにします。
- 「なぜ」質問に対するタスクの作成:「なぜ」の質問と回答ごとに個別のタスクを作成し、明確な文書化や進捗状況の追跡を容易に行えます。
- 責任の割り当て: チームメンバーに各タスクのオーナーシップを割り当てて、説明責任を確保し、コラボレーションを促進します。
- コメントとディスカッションを活用: コメント機能とディスカッション機能を使用して、チームメンバー間のリアルタイムのコラボレーションや知識の共有を促進します。
- レポートの生成: レポート機能を使用して、5Why分析の簡潔な概要を生成し、関係者に調査結果を容易に伝達できます。
Adobe Workfrontがどのようにビジネスワークフローを効率化し、コラボレーションを強化するのか、概要ページ をご覧ください。
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