大規模で複雑なプロジェクトの管理は、容易なことではありません。数多くのタスクをこなしながら、自社の全体的な戦略に合わせて、あらゆる作業を調整しなければならないこともあるでしょう。アジャイルエピックは、こうした複雑なプロジェクトを管理可能な単位に分割する、実践的なアプローチを提供します。これにより、チームは内部統制を維持しながら、顧客への価値提供に専念できるようになります。
この記事の内容:
アジャイルエピックとは?
アジャイルエピックとは、大規模な作業を指す用語です。エピックは、ユーザーストーリーと呼ばれる、より実行しやすい小さな項目に分割する必要があります。これらのユーザーストーリーは通常、顧客やエンドユーザーのニーズにもとづいており、プロジェクトがこうした要件に直接対応することを保証します。エピックの主な特徴の一つは、その規模です。通常、エピックは大規模なため、1回のアジャイルスプリント(短期集中型の作業サイクル)で完了することはできません。そのため、エピックを複数の小さなストーリーに分割し、複数のスプリントにわたって段階的に取り組む必要があります。
アジャイルエピックは、プロジェクト全体を俯瞰しながら、重要な戦略目標やそこから得られる価値に継続的に焦点を当てるための手段です。ユーザーストーリーは、具体的な機能の詳細を説明します。一方エピックは、チームがより大きな目標に焦点を合わせ続けることを保証します。特に、アジャイルエピックの範囲は、プロジェクトの進捗状況や、関係者および顧客から収集したインサイトやフィードバックに応じて調整可能です。こうした柔軟性は、アジャイルの中核的な原則であり、実践から得た教訓にもとづいてプロジェクトを調整できます。
アジャイルフレームワークにおけるエピックの役割
アジャイルフレームワーク では、プロジェクトのロードマップが階層構造の最上位に位置しています。各ロードマップには、明確に定義された一連の目標やマイルストーンが含まれる場合があります。それらの目標やマイルストーンは、タイムラインに沿った一連のイニシアチブとして視覚化されます。イニシアチブは、1つまたは複数のエピックで構成されます。これらのエピックは、ユーザーストーリーと呼ばれる、より小さく管理しやすいタスクに分割されます。
アジャイルフレームワークに含まれる様々な階層要素の定義は、次のようにまとめることができます。
- テーマ:プロジェクトのロードマップまたは包括的なプロジェクト目標
- イニシアチブ:エピックのグループ
- エピック:包括的なユーザーストーリー
- ユーザーストーリー:エピック内の単一のタスク
- スプリント:1つまたは複数のユーザーストーリーを完了するのに必要な期間(1~2週間)

アジャイルにおいて、エピックはプロジェクトの階層構造の一部であり、大きな成果物をストーリーや課題と呼ばれる小さな単位に分割します。これらの「ストーリー」は、1~2週間のスプリントで完了するタスクと見なすこともできます。エピックは複数のユーザーストーリーで構成されるため、すべてのユーザーストーリーを完了するには、一般的に複数のスプリントが必要です。ただし、期間はチームやプロジェクトによって異なり、短いエピックは1~2回のスプリントで完了することもあります。
各スプリントの終了時に、チームは関係者、経営陣、顧客から、完了したユーザーストーリーに関するフィードバックを収集します。例えば、新しい製品機能をリリースする際に、その機能が直観的に操作しにくいという顧客からのフィードバックがあった場合、そのフィードバックにもとづいて機能を修正する必要があります。このプロセスにより、プロジェクト全体の柔軟性が向上し、市場のトレンドに合わせた調整が可能になります。また、プロジェクトロードマップ全体の継続的な改善サイクルを実現できます。
アジャイルエピックの作成方法
アジャイルエピックは、戦略的イニシアチブや優先度の高い目標と直接連携し、広範な目標と実行可能なユーザーストーリーの橋渡しをする役割を担います。例えば、チームのロードマップに、eコマースサイト の新しい検索機能のリリースが含まれているとします。関連するエピックは、製品の見つけやすさの向上や検索時間の短縮など、ユーザーにとって有益な成果に焦点を当てることで、目標の達成を支援する必要があります。
まず、チームの四半期目標または年間目標を見直しましょう。解決すべき重要な問題、特に顧客や関係者に大きな影響を与える問題を特定します。続いて、これらの課題にもとづいて、段階的に達成可能な顧客中心の目標を明確に設定し、エピックを構築します。
アジャイルエピックの作成と管理に関するベストプラクティス
アジャイルエピックを最大限に活用するには、次のベストプラクティスを検討する必要があります。
- 明確な目標の定義: 各エピックでは、より広範なビジネス目標と一致し、顧客に目に見える価値を提供する、簡潔明瞭な目標を設定する必要があります。
- 受け入れ基準の確立: エピックが完了し、成功したかどうかを判断するための、明確な基準を定義します。
- ユーザーストーリーへの分割: 各エピックを、通常1つのスプリント内で完了できるように、より小さく管理しやすいユーザーストーリーに分割します。
- 効果的な優先順位付け: 様々な方法を用いて、ビジネス価値や緊急性にもとづいてエピックに優先順位を付け、最も重要な項目から取り組むようにします。
- 労力の見積もり: エピックは複数のスプリントにまたがるため、計画やリソースの割り当てを容易にするために、必要な作業時間と労力を見積もります。
- 進捗状況の視覚化: バーンダウンチャートや カンバンボード などのツールを使用して、エピックの進捗状況を追跡し、チーム内の透明性を維持します。
- フィードバックの収集: 関係者からのフィードバックを継続的に収集し、それをエピックに組み込んで、期待通りの成果が得られていることを確認します。
- 定期的なレビューと改善: エピックのステータスを定期的に確認し、進捗状況、新しいインサイト、要件の変更にもとづいてエピックを改善します。
アジャイルエピックの例
実際のエピックがどのようなものかをわかりやすく説明するために、いくつかの例を紹介します。
1. SaaSサブスクリプションを25%増加させるために、大規模なマーケティングキャンペーンを開始
あるマーケティングチームが、SaaSサブスクリプションの増加と自社への貢献を目的とした、大規模なキャンペーンを開始しようとしています。このマーケティング計画は、新規および既存の顧客基盤をターゲットとしており、複数のチャネルやアセットを使用します。総予算は100万ドルです。数か月に及ぶ大規模なプロジェクトであり、誰が何を、いつまでに達成するのかを明確に計画する必要があります。プロジェクトを通じて最大限のROIを達成するには、アジャイル方式を採用し、チームがプロジェクト全体を通してフィードバックを反映させ、必要に応じて戦術やチャネルを調整できるようにする必要があります。
エピック:
- マーケティングキャンペーンの計画
- キャンペーンの実行
- 成果の測定
ここまで完了したら、各エピックをユーザーストーリーに分割します。
エピック1のユーザーストーリー:
- ターゲットオーディエンス、チャネル、アセットの種類を特定
- キャンペーンのタイムラインを決定
- キャンペーンのKPIを設定
すべてのユーザーストーリーを作成したら、次のエピック(この例ではキャンペーンの実行)に進むことができます。また、1つ目のエピックについて、プロダクト関係者からフィードバックを継続的に収集することもできます(適切な 顧客オーディエンスやチャネル をターゲティングしているかなど)。フィードバックにもとづいて、実装前にキャンペーン計画を調整する必要が生じる場合があります。

2. eコマースサイトに検索機能を追加
Web開発チームとプロダクトチームは、顧客体験を強化するために、自社のeコマースサイトに検索機能を組み込む計画を立てています。これにより、顧客は興味のある製品をすばやく見つけられるようになります。プロジェクトが複雑化する要因の一つは、すべての製品を検索データベースに取り込み、複数の検索形式でタグ付けすることで、顧客の意図に最も近い検索結果を提供しなければならないことです。
エピック:
- 検索用のスキーマをマッピング
- フロントエンドに検索機能を実装
- 高度な検索機能を追加
これらの3つのエピックを定義したら、次のステップは、各エピックのユーザーストーリーを決定することです。
エピック1のユーザーストーリー:
- 製品のデータベースファイルを作成
- データベースファイルを検索ウィザードにアップロード
- 製品インデックスを構築

アジャイルエピックの測定
プロジェクトを期限までに完了するために、リソースを効果的に管理し、ボトルネックを事前に特定するには、プロジェクトの進捗状況を慎重に測定することが不可欠です。バーンダウンチャート、ベロシティチャート、累積フローダイアグラムなどのレポートを使用することで、エピックの進捗状況を測定できます。適切なアジャイルプロジェクト管理ツールを使用すれば、これらのレポートを容易に作成、カスタマイズできます。
- バーンダウンチャート: シンプルなチャートにより、チームの作業の進捗状況と作業完了までの残り時間を追跡します。
- ベロシティチャート: 進行中の作業と完了済みの作業を比較し、チームがどのくらいのスピードでプロジェクトを遂行しているのかを把握します。
- 累積フローダイアグラム: ワークフロー全体を視覚化し、問題やボトルネックを特定して、平均サイクルタイムを短縮するのに役立ちます。また、進行中の作業に対する制限をより適切に管理し、チームのスループットを向上させることもできます。
出典:「バーンダウンチャート」、アドビ
エピックの進捗状況を評価する適切なレポートに加え、その他のレポート機能やダッシュボード機能を活用することで、すべてのプロジェクトチームや関係者を横断して、可視性や透明性をさらに高めることができます。適切なアジャイルプロジェクト管理ツールを選定する際は、次の機能を検討してください。
- リアルタイムデータ: エピックの包括的な進捗状況を常に把握できます。
- カスタマイズされたレポートとダッシュボード: 組織やプロジェクトマネージャーがアジャイルプロジェクトを管理する方法に応じて、レポートやプロジェクトビューを容易に作成できます。
- 自動化: 様々な関係者にレポートを自動的に配信できるため、適切なチームまたはチームメンバーが、最新情報を常に入手できるようになります。
- ストーリーと戦略目標のすり合わせ: 全体像をより明確に把握することで、経営陣はデータにもとづいた意思決定を行えるようになり、プロジェクトマネージャーはボトルネックが発生する前に対処できるようになります。
アジャイルエピックを使用する理由
アジャイルエピックを導入すると、特に複雑なイニシアチブを行う際に、プロジェクト管理におけるいくつかのメリットを享受できます。
- 組織の改善: 関連するユーザーストーリーを共通のエピックの下にグループ化することで、明確な階層構造を構築し、大規模なプロジェクトを容易に理解、管理できるようになります。この構造化されたアプローチにより、作業をより小さく、引き渡し可能な単位に分割し、大規模なプロジェクトの完了を待つことなく、顧客に継続的に価値を提供できます。
- 俊敏性の強化: エピックを使用すると、チームは主要な目標を見失うことなく、作業を分割できます。これにより、変更に柔軟に対応しながら、小さな単位ごとにフィードバックを反映させ、全体的な戦略ビジョンの達成に貢献できます。
- 顧客との連携: 顧客の要件に直接対応するユーザーストーリーのコンテナとしてエピックを活用すれば、顧客のニーズに焦点を合わせたまま、開発作業を進めることができます。
- チームコラボレーションの向上: エピックを完了するには、多くの場合、複数のチームが共通の目標に向けて協力し、組織全体でチームワークやコミュニケーションを促進する必要があります。
- 実践的な時間管理の推進: 大規模なエピックをスプリントサイズの小さなユーザーストーリーに分割することで、プロジェクトのタイムラインを改善できます。このきめ細かなアプローチにより、必要な労力の見積もりと進捗状況の追跡が容易になります。
- 進捗状況の可視化: エピックは、プロジェクトの進捗状況を詳細に可視化し、マネージャーや経営陣が重要なプロジェクトの状況を常に把握できるようにします。
- スコープクリープの抑制: エピックを明確に定義し、ユーザーストーリーに分割することで、プロジェクトスコープ管理を改善し、プロジェクトが当初の範囲を超えて拡大するリスクを軽減できます。
Adobe Workfrontを活用してアジャイルエピックを管理
Adobe Workfront は、アジャイルエピックを効率的に管理し、アジャイルプロセスを効率化できる、包括的なプラットフォームを提供します。アジャイルチームを作成、管理できるだけでなく、スクラムやカンバンなどの様々な方法をサポートします。Adobe Workfront内で製品バックログを管理し、エピックとそれに関連するユーザーストーリーを整理、優先順位付けできます。
スクラムチームは、Adobe Workfrontを使用することでスプリント計画の立案が容易になり、エピックから特定のスプリントへユーザーストーリーを容易に割り当てることができます。カンバンチームは、Adobe Workfrontのカンバンボードを活用して、エピックに関連するワークフローを視覚化し、カスタマイズ可能なステージを通じて進捗状況を追跡できます。
さらに、Adobe Workfrontと他のアドビ製品や外部アプリケーションの統合により、コラボレーションを強化し、ワークフローを効率化できます。Adobe Workfrontは、一元的なプラットフォームを提供することで、可視性の向上、コラボレーションの強化、戦略目標の達成に向けた進捗状況のより的確な追跡を支援します。
関連するユーザー事例
https://business.adobe.com/fragments/resources/cards/thank-you-collections/workfront