メールマーケティング実践ガイド
メールマーケティングは、コマース企業にとって最も効果の高いマーケティング手法のひとつです。優れた電子メールは、ブランド認知度を高めてコンバージョンを促進し、顧客を維持するのに役立ちます。
しかし、優れたメール施策を策定するのは、言うほど容易なことではありません。電子メールを通じたエンゲージメントがほとんどない場合、難易度はさらに高まります。
そこで本記事では、さまざまなメールマーケティング施策を展開し、コンバージョンと顧客維持率を向上させる方法について解説します。
メールマーケティングとは?
メールマーケティングとは、電子メールを利用してオンラインストアをプロモーションし、既存顧客と見込み客に訴求するための取り組みです。 電子メールは、あらゆるデジタルチャネルでROI(投資利益率)を向上させることができる、コマースに最適なマーケティング手法です。Litmusによると、企業はメールマーケティングに1ドル投資するごとに、36ドルの利益を得られることが明らかになっています。
電子メールのコンテンツは、トランザクションメールとプロモーションメールのふたつに分類できます。
- トランザクションメール: 顧客がwebサイト上で何らかの行動を起こした際に、自動的に配信されます。例えば、注文の確認メールや配送状況の通知メールが挙げられます。
- プロモーションメール: 営業や情報提供を目的としたメールです。営業メール施策では、ターゲットを絞って電子メールを配信し、コンバージョンを向上させることができます。一方、情報提供を目的とした電子メールでは、ニュースレターなどを通じて、商品やサービスの最新情報といった有益な情報を提供します。既存顧客か見込み客かを問わず、同じコンテンツを配信します。
トランザクションメールとプロモーションメールはどちらも、メールマーケティング戦略の主要な要素です。
メールマーケティングがコマースにおいて重要である理由
強力なメールマーケティング戦略は、コマース企業にとって不可欠なものです。オンラインチャネルでオーディエンスにリーチする、最も効果的な方法のひとつであるからです。また、メールマーケティングは、顧客にリーチしてブランド認知度を高め、ナーチャリングを推進する手段のひとつでもあります。
優れたメールマーケティングを展開すれば、顧客基盤を拡大できます。Content Marketing Institute(CMI)によれば、電子メールを利用して顧客にリーチしていると回答したマーケターの割合は、B2B企業が87%、B2C企業が76%となっています。ターゲットを絞ったメール施策をひとつでも実施すれば、大勢のオーディエンスに直接リーチできるようになります。
また、プロモーションメールを見込み客に配信して、顧客化を促すことができます。メールマーケティングは、あらゆるデジタルマーケティング施策において、最も高いコンバージョン率を達成しています。Barillianceの調査によると、メールマーケティング施策のコンバージョン率は15%に達しています。
顧客基盤を構築したら、メールマーケティングを活用して、長期的な関係を維持します。Statistaのレポートによれば、マーケターの89%が、顧客を維持するために、他のチャネルよりも電子メールを活用していると回答しています。ニュースレター、顧客のニーズに即したオファー、信頼できるメッセージなど、電子メールを通じて適切なコンテンツを配信することで、顧客との関係をさらに深めることができます。
メールマーケティングの種類
プロモーションメールとトランザクションメールは、最も基本的なマーケティングメールです。これらのメールは、いくつかのサブカテゴリ―に分類できます。一般的に、次のような種類があります。
ウェルカムメール
利用者がメール配信に登録したり、アカウントを開設した場合、ウェルカムメールを配信します。ウェルカムメールは、他のプロモーションメールに比べて読まれる可能性が高いため、内容を最適化することが重要です。Omnisendのウェルカムメッセージは、コンバージョン率が2.9%に達しています。これは、トランザクションメール以外の自動配信メールにおいて、最も高いコンバージョン率となっています。
一般的に、ウェルカムメールには、次のような新規登録者向けの特典を添付します。
- 初回注文時に使用できる割引コードやクーポン
- 購入時の無料ギフト
- 無料コンテンツ
また、こうした特典に加えて、今後の電子メールの配信頻度やコンテンツの内容についても記載した方が良いでしょう。
Levoitは、利用者がメール配信に登録してから5分以内に、上のようなウェルカムメッセージを配信するようにしています。今後のメール配信の内容に加えて、一意の割引コードとCTAを追加することで、迅速なコンバージョンを促進しています。
誕生日/記念日メール
初回登録時、初回購入時、誕生日など、顧客の大切な日を祝うために、特別な電子メールを配信します。これらの電子メールは、企業から大切にされていると感じることができるため、顧客の満足度を高めることができます。実際、Omnisendのレポートによると、誕生日メールの開封率が40.6%に達していることが明らかになっています。顧客がメール配信に登録する際に、誕生日を入力してもらうことを検討しましょう。
優れた記念日メールを作成するための戦略には、次のようなものがあります。
- 独自の特別なギフトを提供する
- 件名に、ギフトが添付されていることを明記する
- 本文でギフトがあることを暗示的に言及し、CTRの向上を図る
Targetは、自社のリワードプログラム「Target Circle」において、会員の誕生日に5%の割引クーポンを配布しています。件名にその旨を明記することで、電子メールの開封率を高めるとともに、クリックしやすい場所にCTAを配置しています。
再エンゲージメントメール
再エンゲージメントメールは、一定期間、自社とエンゲージしていない顧客を対象としています。そうした顧客は、しばらく商品やサービスを購入していない、ショッピングカートに商品を入れたまま放置している、電子メールを開封していない、といった状況にあるかもしれません。
こうした顧客を取り戻すために、次のようなベストプラクティスを実践しましょう。
- 連続性のある複数の電子メールを設定する。1回限りの電子メールを送るよりも、自社に対する関心を失いつつある顧客にターゲットを絞り、3回から5回に分けて一連の電子メールを配信する方が成果につながる
- 強力なCTAを本文の上部に配置する
- 割引コードを提供して再エンゲージメントを促す
- オプトアウトできる機会を提供する。顧客が戻ってこなかった場合、メール配信を解除できるようにすることが最善の策となる
Sundayは、件名に「We miss you」と記載することで、顧客が自社のサービスをしばらく利用していないことを、明確に伝えています。さらに件名では、割引オファーをすぐに利用できることが示されています。ふたつの割引オファーを提供するだけでなく、わかりやすいCTAボタンを設置することで、顧客の再エンゲージメントを効果的に促進しています。
プロモーションメール
プロモーションメールは、名前のとおり、セール情報や特別オファーを顧客に伝えます。その目的は、電子メールを受信した顧客をwebサイトへ誘導することにあります。
オファーの内容を説明し、顧客にどのような利点があるのかを明確に伝える必要があります。本文と画像を活用して、読者が商品やサービスを使用しているところを想像できるようにします。さらに、クリックしやすい場所に、訴求力のあるCTAを設置します。
Society6は、温かみのあるデザインを用いた電子メールで、秋の特別オファーをプロモーションしています。オファーは、太字とオレンジの色でわかりやすく表示されています。短い本文に続いて、最適なCTAが配置されており、すぐにオファーページにアクセスできるようになっています。CTAでは、遊び心溢れるユニークなフレーズを用いてエンゲージメントを促進し、ポジティブなブランド体験を創出しています。
ロイヤルティメール
ロイヤルティメールは、ロイヤルティプログラムに登録した顧客に配信します。新商品の先行販売や特別オファーなど、ロイヤルティ顧客限定の特典を提供しましょう。
ロイヤルティメールは、顧客との長期的な関係を構築し、顧客の生涯価値を向上させるのに最適な方法です。また、ロイヤルティの高い既存顧客が、プログラムの体験を口コミで共有することで、新規顧客の獲得にもつながります。
クリエイティブなロイヤルティメールを作成するには、次のような方法があります。
- ビジュアル要素を利用して、次のリワードまであとどのくらいで到達できるのかをわかりやすく伝える
- インタラクティブなアンケート調査を配信し、ロイヤルティ顧客が自社に関するフィードバックを提供できるようにする
- ソーシャルメディアで共有した顧客にインセンティブを提供し、体験をゲーミフィケーションする
Panera Breadは、「Unlimited Sip Club」というロイヤルティプログラムを展開しています。このプログラムでは、同社のレストランにおけるドリンクの月額サブスクリプションサービスを提供しています。同社は、ロイヤルティメールを通じて、ドリンク1杯無料オファーをプロモーションしています。オファーに関連する画像と本文を活用して、「Redeem My Cup(オファーを利用する)」というCTAへ顧客を誘導しています。
メールマーケティングのヒントと戦略
最も人々の共感を得ることができるメールマーケティング戦略を見つけ出すには、時間をかけて検証する必要があります。ここからは、さまざまな部門がメールマーケティング施策を推進するのに役立つベストプラクティスを解説します。
1.オーディエンスのセグメンテーション
電子メールをパーソナライズする最も簡単な方法のひとつは、顧客のデモグラフィック情報やバイヤーズジャーニーの段階など、企業にとって意味のある要素にもとづいて、顧客をセグメンテーションすることです。これにより、ターゲットを絞った電子メールを戦略的に配信し、開封率と売上を向上させることができます。
次のような要素にもとづいて、オーディエンスをセグメンテーションできます。
- 居住地
- 年齢
- 性別
- 世帯収入
- 役職
- 学歴
- 興味関心
- 購入履歴
- 購入頻度
- エンゲージメントレベル
顧客がメール配信に登録した際に、これらの情報を必要に応じて収集しましょう。
2.パーソナライゼーション
パーソナライゼーションは、メールマーケティングにおいて最も重要な戦略のひとつです。顧客は、企業からパーソナライズされたコミュニケーションが提供されることを当然のこととして考えています。そのため、企業が自身のニーズに直接対応してくれていると感じられるようにする必要があります。
次のようなパーソナライゼーション戦略を活用できます。
- 電子メールの件名や本文の1行目に、顧客の名前を含める
- 閲覧行動やCRMのデータをトリガーとして、電子メールを配信する
- 誕生日などの記念日を活用する
Amazonでは、顧客が過去に購入したことのある書籍をもとに電子メールをパーソナライズし、同じ著者の新刊に関する情報を提供しています。
3.クロスセルとアップセル
電子メールは、顧客がwebサイトを閲覧したり、商品を購入した後に、関連する商品をクロスセルするのに役立ちます。Omnisendによると、クロスセルメールによって、コンバージョン率が45%増加したことが明らかになっています。
クロスセルメールの価値を最大化するには、次のような施策を実践します。
- 特定の服に似合うアクセサリーや、顧客が最近購入した家具にマッチする装飾品など、顧客の購入履歴をもとに、関連商品を提案する
- 電子メールの本文で、関連商品を追加で購入することで、どのような価値を入手できるのか説明する
- 同じ商品を購入した顧客が、関連商品も併せて購入していることを説明し、ソーシャルプルーフ(社会的証明)を活用して訴求する
- 画像を使用して、顧客が購入した商品と、自社が提案する関連商品を並べて表示する
- 関連商品について、期間限定の割引コードや送料無料オファーを提供する
また、メールマーケティングを活用してアップセルを推進することもできます。例えば、顧客がショッピングカートに商品を追加したまま放置している場合、その商品よりも価格が高い類似商品を提案します。CTAを設置して、購入ページに直接アクセスできるようにすることで、容易かつスムーズにアップセルを実現できます。
4.件名を重視
EarthWebは、一般的な消費者は、1日あたり100件を超える電子メールを受信していると推定しています。件名が重要である理由は明白です。件名で消費者の注意を惹きつけることができなければ、読まれることなく削除されてしまうからです。
消費者の関心を惹きつける、簡潔で魅力的な件名を作成するには、次の方法があります。
- 50文字以内にとどめる
- 重要な単語を最初に配置する
- FOMO(見逃すことへの恐れ)を刺激し、緊急性のあるメッセージを活用する(「秘密」、「今だけ無料」、「当選」など)
- 絵文字を用いて色を追加し、件名を目立たせることで、膨大な電子メールに埋もれないようにする
上の例では、件名から電子メールの内容がはっきりとわかる一方で、読者が開封したくなるように訴求しています。特に、Cinnaholicは季節に合わせた絵文字、Eastonは数字を活用することで、テキストを視覚的に際立たせています。
5.画像の活用
質の高い画像を使用することで、顧客の関心を惹きつけ、CTAのクリックを促すことができます。テキストのみの電子メールよりも、適切な画像を配置する方が、読者に伝えたいメッセージを効果的に届けることができます。
メールマーケティングで画像を適切に活用するには、次のヒントを参考にしましょう。
- インターネット上で出回っている、無料のストック写真ではなく、自社独自の解像度の高い商品画像を使用する
- JPG形式の画像を使用し、読み込み速度を上げる
- 画像を多用しない。ひとつの電子メールに4つ以上の画像を配置すると、顧客の負担になるだけでなく、読み込み速度の低下につながる
Brooklinenは、プロモーションメールに写真を追加して、ベッドシーツの色や質感を伝えています。さらに、シーツにマッチする布団カバーや枕カバーも提案しています。
6.配信頻度の調整
マーケティングメールの適切な配信頻度を見極めるには、時間と手間がかかりますが、それだけの価値があります。最適な配信頻度は、業界、市場、オーディエンスごとに異なるため、複数の仮説を立てて検証する必要があります。
- まず、電子メールを週に1回配信し、開封率やクリック率などのエンゲージメント指標を追跡する。続いて、配信頻度を週2回に増やし、指標がどのように変化するのか確認する
- 複数のメールタイプを組み合わせる。例えば、まずプロモーションメールを毎週配信し、しばらくしてから別の曜日にニュースレターの配信を開始して、より有益な情報を提供する
電子メールの配信頻度は、シーズンやビジネスの状況に応じて異なります。例えば、セール時期や新商品の発表前には、顧客にオファーやプロモーションを確実に周知するために、電子メールの配信頻度を増やす必要があるかもしれません。
7.言葉やスタイルの選択
電子メールの本文は、メッセージ全体を大きく左右します。自社のブランドボイスに沿って、ターゲットオーディエンスに直接訴えかける必要があります。適切な本文を作成するには、次のヒントを参考にしましょう。
- まず、自社が伝えたいことを書き出す。続いて、そのテキストを見直し、不要な単語を削除したり、よりわかりやすい表現に置き換える
- テキストを再度見直して、五感を刺激する言葉をいくつか使用していることを確認する。商品やサービスが生み出す体験へと読者を誘うような、魅力的なテキストに仕上げる必要がある
- 読者に何らかの行動を起こすよう促す。短いテキストをひとつ以上設置して、CTAを促進する
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上の例は、Crate & Barrelの電子メールです。クリエイティブかつ聡明なスタイルで、シーズンに適した内容を伝えています。「spooky(不気味な)」や「creeping(忍び寄る)」といった言葉を用いてハロウィンの雰囲気を醸し出しながら、「ハロウィンパーティに欠かせないアイテムを手に入れましょう」と、読者に商品を購入するよう明確に促しています。
8.ナーチャリングの強化
コマースにおけるメールマーケティングは、顧客との長期的な関係を構築し、維持することを目的としています。そのため、すぐにコンバージョンにつなげようと焦るのは禁物です。優れた顧客体験を提供して、顧客の維持率を向上させる方法を検討しましょう。次のような方法があります。
- 誕生日や記念日を祝うメールを配信する
- カスタマーサービスの迅速な対応により、顧客の期待を超える
- 購入後のフォローアップをおこない、顧客が満足しているかどうかを確認する
- フィードバックの提供を依頼するか、アンケート調査をおこない、顧客の意見を収集する
上の電子メールは、HyreCarが再エンゲージメント施策の一環として配信したものであると考えられますが、顧客との関係構築にも貢献しています。同社は、サービスの利用回数にかかわらず、あらゆる顧客を大切にしていることを明確に伝えています。同社はこのメールにおいて、より優れたビジネスを実現するために、アンケートへの協力を依頼しています。また、アンケートへの参加を促すために、抽選で当たる賞品も用意しています。
9.検証と最適化
あらゆるコマースビジネスに対応する、万能なメール施策は存在しません。そのため、スプリットテストを実施することが重要となります。メールマーケティングのスプリットテストでは、次のような要素を検証する必要があります。
- CTAのテキスト、色、配置
- 件名
- 画像
- 配信の日時
- メッセージの長さ
スプリットテストでは、1度にひとつのバリエーションを検証することが重要です。検証する要素が少ない場合でも、複数の施策を実施する必要があるかもしれません。つまり、電子メールを配信するたびに、メッセージを検証して最適化する機会を得ることになります。
メールマーケティングツール
効果的なコマース施策を展開するには、メールマーケティングツールが不可欠です。しかし、多くのツールはコマースメールに特化していないため、コマースビジネスの複雑なニーズに対応できるかどうかを見極めなければなりません。
コマース向けのメールマーケティングツールは、次のような能力を備えている必要があります。
- コマース向けの基盤、ツール、CMSと連携できる
- メールテンプレートとメールリストを作成できる
- メッセージをパーソナライズできる
- 顧客データを一元管理できる
- 顧客データを保護できる
- データを収集および分析できる
- 単純な反復作業を自動化できる
メールマーケティングを始めましょう
メールマーケティングには、オーディエンスを惹きつけて顧客に転換し、長期にわたる関係を維持する力があります。まずは、チャネル全体でデータを収集し、そこから導き出したインサイトと顧客プロファイルをもとに、メールマーケティング施策を構築しましょう。
メールマーケティング戦略を策定したら、ツールのアップグレードが必要かどうか検討しましょう。
Adobe Campaignは、コマース基盤と連携して施策を自動化するだけでなく、ブランドボイスやイメージなど、クリエイティビティを自在に発揮してブランディングを推進できます。データを活用して顧客の関心を惹きつけ、良好な関係を維持するために、メールマーケティングをさらに進化させましょう。詳細については、アドビの担当者 までお問い合わせください。Adobe Campaignがメールマーケティング施策にどのように役立つのかご案内します。