MOpsの概要と活用ガイド
「マーケティングオペレーション」や「MOps(Marketing Ops)」という言葉を耳にしたことはあっても、その意味を正しく理解していなければ、ビジネスプロセスを効率化するための重要な要素を見落としかねません。マーケティング部門が施策の管理やビジネス目標の達成に苦慮しているようであれば、MOpsのあり方を見直す必要があるでしょう。MOpsは、一貫性のあるワークフローや明確なコミュニケーションを推進するための基盤となるものです。
本記事では、MOpsの概念と利点、導入の方法、ベストプラクティス、成功させるためのノウハウを、体系的に解説します。
MOpsとは?
MOpsとは、マーケティング活動を合理化および最適化するためのプロセスや手順の総称です。 テクノロジー、データ、人を組み合わせて、マーケティング戦略の策定と簡素化をおこない、より効率的かつ一貫した方法で成果を生み出すことを目的としています。成功に向けた指針や目標の設定、デジタル基盤とソフトウェアの管理など、その役割は多岐にわたります。
MOpsの役割
MOpsは、企業のニーズや強みに応じて、さまざまな役割を担うことができます。MOpsの導入方法は企業ごとに異なりますが、その最終的な目的は、マーケティング部門のあらゆる活動を適切に維持することにあります。
MOpsの組織構造も企業によって異なりますが、基本的な役割は同じです。
- 戦略的プランニング: 自社のマーケティング戦略全体の責任者として、テーマ、チャネル、予算、スケジュールなど、個々の施策に関する計画を策定して展開する役割を担います。
- 成果の分析とレポート: マーケティング部門のKPIの設定や、マーケティング部門によるKPIの選定を監督し、それらの指標にもとづいて施策の成果を定期的に報告します。
- マーケティングデータの管理: マーケティング部門が利用する顧客データに関して最終的な責任を負い、顧客データが包括的かつ統合されていることを確認しなければなりません。
- 競合分析: MOpsマネージャーは、通常、競合他社のマーケティング戦略や戦術に関する調査を実行および指揮する役割を担います。
- クリエイティブプロセスの管理: マーケターは、クリエイティビティを発揮することを求められる一方で、マーケティング戦略におけるクリエイティブ制作の重要性や効率性は、軽視されがちです。MOpsチームは、マーケティング部門がクリエイティビティを自由に発揮できる機会を提供しながら、部門全体を適切な方向へ導く役割を担います。
- プロセスの設計/実行/追跡: マーケティング部門に求められるのは、俊敏性と先見性です。MOpsチームは、新しいマーケティングプロセスの設計、実行、成果の報告をスムーズにおこなえるよう支援します。
- プロジェクトおよび施策の管理: マーケティング戦略全体を指揮しながら、日々のクリエイティブプロセスを管理し、チーム全体がスケジュールどおりに施策を進めることができるようにします。
- ベンチマーク評価: 最新のベンチマークにもとづいて、自社のマーケティング戦略と施策を評価する役割を担います。
- マーケティングテクノロジーの管理: マーテクスタックは、常に進化しています。MOpsチームは、自社のマーテクスタックの強化、統合、保護を推進する役割を担います。
- コンプライアンス管理: マーケティング部門は、日々、膨大な顧客データを収集しています。MOpsチームは、そうした顧客データを安全に保ち、コンプライアンスを遵守する必要があります。
MOpsの4つの利点
MOpsチームを新たに編成することは、大変な作業です。しかし、多くのビジネスリーダーが認めるように、MOpsチームへの投資は大きな価値をもたらします。Demandbaseの調査レポートによると、マーケティングオペレーション向けソフトウェアの利用率は過去10年間で228%増加しており、MOps専門家の数も66%増加していることが明らかになっています。
MOpsは、業種や規模を問わず、あらゆる企業にさまざまな利点を提供します。ここからは、ビジネスの成長を加速させるのに役立つ、MOpsの主な利点について解説します。
デジタル変革の実現
B2B企業を対象に実施したマーケティングに関する調査によると、各分野の専門家の93%が、MOpsはデジタル変革の実現に不可欠であると回答しています。その理由として、マーケティング戦略に必要なツールやテクノロジーが増え続けるなか、マーケティング施策をスムーズに進めるための新たな役割を求める声が高まっていることが挙げられます。
進捗の追跡とレポートの強化
MOpsでは、タスクや施策の進捗状況と成果を追跡し、記録することで、ガイドラインに沿ってマーケティング戦略を進める必要があります。こうした指揮管理によってプロセスを効率化することは、コンプライアンスが遵守されているかどうかを監視および報告する上で特に重要です。
アセットとマーケティング資料の整理
MOps戦略の重要な要素のひとつは、アセット管理です。マーケティングの材料となる情報や資料を適切に管理し、いつでも簡単に見つけ出せるようにすることで、マーケティング部門は、期日を守りながら施策を効率的に進めることができるようになります。
役割の定義
優れたMOps戦略を実現するためには、関係者の役割を十分に理解した上で適切な人員を配置し、タスクの重複や見落としを防ぐ必要があります。タスクを適切に割り当てることで、プロジェクトの開始から完了までのプロセス全体を合理化し、混乱や遅延といったリスクを軽減できます。
MOpsマネージャー
MOpsマネージャーは、マーケティング部門の業務効率化を図り、プロセスを指揮する役割を担います。デジタル基盤を管理し、成功指標を策定して、マーケティング施策を改善します。MOpsマネージャーはクリエイティブ部門の一員ではありませんが、クリエイティビティを発揮することが求められます。テクノロジーと分析を組み合わせて、マーケティング戦略を策定、実行し、その成果を報告する必要があります。
MOpsマネージャーが取り組むべき最重要課題のひとつは、必要なテクノロジースタックを構築および維持し、マーケティング部門が優れた成果を生み出せるよう導くことです。そうした取り組みには、技術革新への継続的な適応や、既存システムの最適化が含まれます。また、自社のマーケティング施策の効果を測定し、そのインサイトをもとにマーケティング戦略を継続的に改善する役割を担います。
MOpsマネージャーがこれまで述べてきた役割を果たし、優れた成果を上げるためには、特定のスキルセットが必要となります。複数のプロジェクトを効果的に管理するだけでなく、さまざまな関係者や部門と連携して施策を展開することが求められます。さらに、その部門の枠を超えた取り組みを統括する責任者として、優れたリーダーシップを発揮し、マーケティング戦略の目標達成に向けてチーム全体を指揮する必要があります。
MOps戦略の導入方法
MOps戦略の具体的な内容やプロセスは、企業ごとに異なります。しかし、その本質的な要素は同じです。ここからは、MOps戦略を成功させるための必要事項について解説します。
1.目標とKPIの策定
まず、MOps戦略の目指すべき方向性と、その成果を測定する方法を明確にします。目標を策定する際は、SMARTの法則、すなわち「Specific(具体的)」、「Measurable(測定可能)」、「Achievable(達成可能)」、「Realistic(現実的)」、「Timely(適時)」という5つの要素を考慮することが重要です。また、成果の測定に利用する指標を定める必要があります。これにより、プロジェクトの関係者全員がプロセスを適切に理解し、目標の達成に向けて取り組みを強化し、目に見える成果を上げることができます。
例えば、電子メールマーケティングによるリード数を前年比40%増加させたい場合、既存のリソースを考慮しながら、その目標が達成可能かどうかを判断する必要があります。また、目標達成の期限を設定することも重要です。
2.戦略の策定
目標を確実に達成するための唯一の方法は、そこに至るまでの道のりを明らかにすることです。現状の把握から最終的な目標を達成するまでの過程を細分化して、段階ごとに小さい目標を設定します。最終目標の策定と同様に、SMARTの法則に従うことが重要です。それぞれの小さい目標が測定可能であることを確認し、明確な期限を設けた上で、適切な人員を割り当てます。
先ほどの例では、MOpsマネージャーはまず、現在の電子メールマーケティングがリードジェネレーションにどの程度貢献しているのかを把握する必要があります。次に、40%増加という最終目標を細分化して、四半期ごとに10%ずつ達成するという小さい目標を設定します。現在最も効果の高い電子メール施策にもとづいて、今後の計画を策定します。
3.戦略の共有
MOps戦略の共有方法は、利用するテクノロジーや組織構造などに応じて異なります。デジタルチャネル、文書、オフィス内での掲示、ホワイトボードなど、その方法は多岐にわたります。
何らかの形でMOpsに関わる、またはその影響を受けるあらゆる関係者にMOps戦略を共有することで、部門をまたいで連携を強化し、一貫性のある方法で取り組みを進めることができます。また、MOpsチームの要求は、実践的かつ合理的である必要があります。
先ほどの例では、MOpsチームがリモート環境やハイブリッド環境で電子メールによるリードジェネレーションを推進する場合、デジタルチャネルによる共有が最善の方法であると言えます。デジタル形式のカンバンボードやウォーターフォール手法なら、チームメンバー全員が、離れた場所から戦略に関する情報にアクセスできます。
4.戦略の実行
戦略を策定し、人員を配置したら、戦略の実行に必要なリソースを準備します。タスクを割り当てる際には、何をどの程度の時間をかけておこない、その結果を誰に報告する必要があるのかを明らかにするようにします。
この段階では、綿密なコミュニケーションがこれまで以上に重要となります。各メンバーがプロジェクトの進捗状況を把握し、関係者に最新情報を共有する必要があります。ここでの目標は、関係者と連携しながら施策の進捗を管理し、成功に導くことです。
アドビのブログ記事では、MOpsマネージャーが日々のスタンドアップミーティングと堅牢なプロジェクト管理ツールを活用して、マーケティング部門の連携をどのように強化するのかについて解説しています。
5.レビューとレポート
MOps戦略の全工程が完了したら、最初の段階で決定した指標をもとに、その成果を測定します。ビジネス目標に照らし合わせて各施策の効果を検証し、関係者と経営陣に対して、マーケティング部門が目標の達成にどの程度貢献しているのかを実証する必要があります。
先ほどの例の場合、MOpsチームは毎月獲得したリード数を確認し、四半期ごとの目標と最終的な前年度比目標に向けて、順調に進んでいることを確認します。施策が望ましい成果を上げているようであれば、MOpsマネージャーは経営陣に対して、マーケティング目標の達成が、自社全体の売上増加にどのように貢献するのかを詳細に説明する必要があります。
MOpsのベストプラクティス
これまで述べてきたように、MOps戦略を成功に導くための方法や取り組みは、企業ごとに異なります。しかし、独自の戦略を構築するにあたり、押さえておくべきいくつかのベストプラクティスがあります。
- カスタマージャーニーを戦略の主軸に据える: カスタマージャーニーは、マーケティング活動を適切な方向へ導くための指針となるものです。そのため、MOps戦略を策定する際も、カスタマージャーニーを軸として捉える必要があります。カスタマージャーニーの各段階において、ターゲットオーディエンスが最も重視しているものを把握し、それをもとに計画と目標の優先順位を明らかにします。
- アジャイルな管理手法を取り入れる: 今日のマーケティング部門にとって、顧客のニーズに柔軟に対応できるかどうかが成功を左右します。そのため、MOps戦略の俊敏性を高める必要があります。デジタル環境は常に変化しており、マーテクも進化し続けています。MOpsチームは、次に来る大きな変化の波を予測し、すばやく適応できなければなりません。
- データと分析への投資を強化する: MOpsチームは、マーケティング施策の成果を正確に測定するために、指標に大きく依存することになります。そのためには、カスタマージャーニーのあらゆるチャネルと接点をまたいで、顧客とのやり取りを把握し、各施策の効果を正確に評価する必要がありますが、手作業では間に合いません。データの活用と分析を強化するためのテクノロジー基盤が必要です。
マーケティング活動を合理化する方法
MOpsの目的は、テクノロジーとプロセスを最適化して、マーケティング部門がその能力を最大限発揮できるようにすることです。その取り組みには、複雑化するマーテクスタックの管理、SMARTの法則にもとづく目標の策定、成果の測定、ワークフローの最適化、業務の効率化が含まれます。
MOpsが果たすべき役割を明らかにすることで、戦略を成功に導くためにどのようなツールや機能が必要になるのか、正確に把握できます。
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