CDP、CRM、DMPは、いずれも何らかの形で顧客データを扱っており、頭文字も似ているため混同されがちです。それぞれのプラットフォームには、ビジネスにおける固有の役割があります。共通点・相違点・利点を整理し、適切に評価することが重要です。
DMP・CDP・CRMの概要と分析を簡潔に整理することで、以下のポイントが明確になります。
DMP、CDP、CRMの違いとは?
DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)、CDP(顧客データプラットフォーム)、CRM(顧客関係管理プラットフォーム)の主な違いは、顧客データをどのような目的で保存・整理するかにあります。既存顧客の管理、潜在顧客へのマーケティング、統合顧客プロファイルを構築するための情報の統合など、それぞれが異なる方法でデータを利用します。
データ・マネジメント・プラットフォーム(DMP)
DMPは、第三者から顧客データを収集し、より効率的にターゲットオーディエンスを絞り込み、主要な属性をセグメント化します。DMPは、顧客データを取得し、匿名化した上で、ターゲット広告のために他社とデータ交換を行います。これにより、デジタルマーケティングの効率化が図れます。
DMPは、大規模に収集される仮名化データを扱うため、既存のユーザー情報と直接結び付けることはできません。とはいえ、DMPを取り巻く状況は大きく変わろうとしています。インターネット全体でオンライントラッキング手法が見直される中、GoogleによるサードパーティCookieの運用方針変更や、企業による高度なトラッキング保護の導入が進んでいます。こうした変化の中で、DMPが今後どのように進化し、広告主向けにサードパーティデータを提供し続けられるかは、まだ明確ではありません。
顧客データプラットフォーム(CDP)
CDPは、幅広いデータソースから情報を収集することで、顧客の包括的かつ多面的なプロフィールを構築します。CDPは、webサイトの訪問履歴、カスタマーサービスでのやり取り、モバイルアプリの利用状況、店舗での購買行動、さらにCRMやDMPなどの他システムからの情報を統合し、顧客データを一元管理します。
CDPが扱うのは、ファーストパーティデータのみです。とはいえ、CDPは本来バラバラなデータポイントを統合し、顧客一人ひとりの全体像を明確かつ実行可能なかたちで描き出します。複数のチャネルにまたがる詳細な顧客像は、セールスパイプラインのあらゆる段階で、最適なアプローチを実現するための貴重なインサイトを提供します。
顧客関係管理プラットフォーム(CRM)
CRMの焦点は、既存顧客 と リードの関係を管理することです。購入履歴や顧客の連絡先情報、過去のやり取りなどのデータを整理・管理するのに役立ちます。
CRMのデータは、セールスパイプラインの予測や管理に役立つため、カスタマーサービス担当者や営業担当者によく利用されています。CRMは、セールス、マーケティング、経理、カスタマーサービスの部門間の連携を、顧客情報にアクセスするための一元的なツールを提供することで促進することができます。
CRM・CDP・DMP — 主な相違点
CRM・CDP・DMPはいずれも顧客プロファイルの構築を目的としていますが、そのアプローチはそれぞれ異なり、活用するデータの種類も大きく異なります。
- データソース: DMPは、匿名性の高いサードパーティデータを活用します。一方、CRMやCDPは、ファーストパーティデータを中心に、セカンドパーティデータやサードパーティデータも柔軟に取り扱います。
- 目標: DMPは、新規顧客の獲得を目的としたプロスペクティングに特化しています。一方、CRMは、既存顧客との関係を管理・育成するために設計されています。CDPは、顧客体験のあらゆるフェーズにおいて、エンゲージメントとパーソナライズを実現するための基盤となります。
- 管理部門: CDPやDMPは、主にマーケティング部門が管理・運用します。一方、CRMは営業部門によって活用されることが一般的です。
- セキュリティ: CRMやDMPは、顧客の行動を把握し、潜在的なセキュリティリスクを特定するために、外部ツールとの連携に依存するケースが少なくありません。一方、CDPは、外部ツールを必要とせずに顧客の行動を追跡・管理できます。

データタイプ
ファーストパーティデータ
まず最初に、顧客が直接提供する情報(連絡先やアンケートの回答など)は、ファーストパーティデータと呼ばれます。こうした情報は質が非常に高く、顧客理解を深めるうえで欠かせないものです。
マーケターは、信頼性の高い情報を自発的に提供するユーザーを容易に特定できます。情報源に直接アクセスすることで、誤解を招く情報の拡散を防ぎ、プライバシーへの懸念も生じにくくなります。
CDPは主にファーストパーティデータを活用してユーザープロファイルを構築し、顧客の特性、インタラクション、行動をリアルタイムで記録・更新します。一部のDMPでもファーストパーティデータの取り込みは可能ですが、一般的にはサードパーティデータの管理に適しています。
セカンドパーティデータ
セカンドパーティデータとは、他の組織から購入または取得したファーストパーティデータを指します。他社から情報を得ることで、リーチの拡大や新たなインサイトの獲得につながりますが、いくつかの注意点も考慮する必要があります。
パートナーや広告主は、これらの情報を顧客から直接収集していますが、必ずしも正確性が保証されるわけではありません。そのため、プライバシー規制に抵触するリスクや、誤った情報を扱うリスクが高くなります。
CDPとDMPは、いずれもセカンドパーティデータを取り扱います。DMPには、企業間でのデータ共有や販売を効率化するデータエクスチェンジ機能が備わっていることが一般的です。
サードパーティデータ
サードパーティデータとは、データソースと直接関係のない企業が収集、販売するデータのことです。
データ収集企業から情報を得ることで、匿名化されたデータへのアクセスは広がりますが、サードパーティデータは誰でも購入できるため価値は低くなります。競合他社も同じ情報を利用しているかもしれず、必ずしも優位に立てるとは限りません。この種のデータには本質的なリスクも伴います。データ収集企業が、すべての情報についてプライバシー基準を満たしていると保証できるとは限らないためです。
DMPは、主にサードパーティデータを活用して、未知のオーディエンスに関するインサイトを導き出し、ターゲット広告キャンペーンを構築します。
ユースケースと活用例
CRM、CDP、DMPにはそれぞれ明確な違いがあり、関連性はあるものの、個別のユースケースは明確に定義されています。各プラットフォームには多様な機能がありますが、以下に代表的な活用例をいくつか紹介します。
CRM:セールスファネル全体でリードを管理
リードを顧客へと転換するプロセスは、最初から最後まで時間がかかることもあり、複雑になる場合もあります。セールスファネルの各ステージに応じてリードを適切に育成することは、リストが大規模で購買サイクルが長期化する場合、すぐに困難になる可能性があります。
CRMを活用することで、このプロセスの複雑さを軽減できます。各リードの購買プロセスにおけるステージに応じて、コンタクトへの対応を柔軟に調整できます。たとえば、特定の行動にもとづいて、大規模に電子メールを送信することができます。リードにはスコアを割り当てることで、「コールド」から「ウォーム」、そして「ホット」へと段階的に分類できます。初期スコアは、企業規模や役職などのパラメーターに基づいて設定され、最終的にはメールの開封や電話応答といったアクションによって更新されます。
CDP:デジタル体験と対面での顧客体験の結び付け
看板広告や雑誌広告が主流だった時代、マーケティングは広範囲に情報を発信する「ショットガン型」の手法が一般的で、ファネルは広く、分析の信頼性も低いものでした。web解析とデジタル広告がそれを変えました。
それでは、顧客がデジタル環境から離れているときに、オンライン情報をマッチングさせたい場合はどうしたらよいでしょうか?オンライン分析の精度を、実店舗などの他の顧客接点にも適用したい場合はどうすればよいでしょうか?
たとえば、顧客が企業のwebサイトで特定の問い合わせを行ったり、製品を閲覧したりした場合、CDPからのリアルタイムフィードバックにより、その情報が営業担当者やカスタマーサービス、さらには店舗スタッフにも共有されます。これにより、各インタラクションが一体となり、統一感のあるブランドイメージを発信できるようになります。さらに、瞬時の変化にも対応できる、より精緻で実用的なカスタマープロファイルの構築も可能です。
Dick’s Sporting GoodsがCDPを活用してパーソナライズを実現した方法

米国最大のスポーツ用品小売企業のDICK's Sporting Goodsでは、CDPを統合して顧客体験をパーソナライズし、2000万人以上の会員を誇るロイヤルティプログラムのScoreCardを拡張しました。
同社では、Adobe Real-Time CDPを活用して、顧客とのインタラクションに関するインサイトをチャネルをまたいで収集し、実際に利用しているマーケティングプレイブックを更新しました。さらに、プロファイルとセグメントを利用して、好きなスポーツや商品にもとづいてカスタマージャーニーをカスタマイズし、ScoreCard会員にパーソナライズされた特典を提供しています。
DMP:新しいオーディエンスの発見
新しいオーディエンスセグメントを戦略的に見つけるのは容易なことではありません。検討すべき選択肢や分析方法は無数にあるように思われます。ここで活躍するのが、AIを搭載したデータ・マネジメント・プラットフォームです。
DMPなら、既存顧客と類似の特徴を有し、同様の行動パターンを取る、新しいオーディエンスをアルゴリズムで見つける類似モデリングを利用して、優良顧客のどの要素が他のセグメントと共通するかを特定できます。企業は、このような類似セグメントを特定することで、ターゲティング広告を展開しながら、新しいオーディエンスを発見することができます。
Princess Cruises:DMPを活用してコストを削減
世界第3位のクルーズ会社であるPrincess Cruisesでは、旅客の好みを把握し、人々がクルーズを通じて新しい旅のスタイルを発見できるように、広告戦略にDMPを導入しました。
同社では、Adobe Audience Managerを活用して、予約データ、CRMデータベース、さらにはスタッフのメモなどの情報をもとに、オーディエンスを開拓しています。どの層がクルーズを利用し、人気のアクティビティや体験、サービスを好むかというインサイトは、Princess Cruisesが価値の高い見込み顧客を的確にターゲティングし、キャンペーンの効率化を図るうえで役立っています。
たとえば、Princess CruisesではDMPを活用して広告運用を最適化した結果、各プロパティにおけるランディングページのコストを65%削減し、識別可能なオーディエンス数を300%増加させることに成功しました。
最適なプラットフォームの選び方
どのプラットフォームが最適かは、ビジネスのニーズと目標によって異なります。どのような課題を解決する必要があるのか、どのようなプロセスを改善する必要があるのかを検討しましょう。
- 業務プロセスや顧客体験の改善を目的とする場合、CRMは、業務全体の効率化と秩序の確立に貢献し、これまで不足していた運用面の整備を支援します。
- アウトバウンドマーケティングでリードを増やすのを目的とする場合、DMPを活用することで、広告予算の最適化が可能になり、より精度の高いターゲティングによってデジタル広告の効果を一段と高めることができます。
- 新しい顧客インサイトの獲得を目的とする場合、CDPを活用して顧客データを統合することで、セグメントの精緻化や、従来は見落とされがちだった相関関係の可視化が可能になります。
CDP導入で第一歩を踏み出す
マーケティングチームが、顧客のジャーニー全体を通じて真にユニークな体験を提供する準備が整っているなら、Adobe Real-Time Customer Data Platformの導入をご検討ください。最高の顧客体験を提供するには、リアルタイムのインサイトが不可欠です。アドビは業界トップクラスのデータガバナンスを維持しつつ、それを実現します。
どのプラットフォームを活用するのか迷ったら、最終目的を考えてください。それぞれのプラットフォームで何ができるのかを確認するのではなく、自社が何を必要としているかを考えるべきです必要な機能やツールが明確になれば、ビジネスに最適な選択ができるようになります。場合によっては、複数のプラットフォームを組み合わせる必要があるかもしれません。