単一の顧客像(SCV)の構築方法
テクノロジーによって企業は膨大な量の顧客データにアクセスできるようになりますが、それは容易にアクセスでき、解釈し、利用できる場合にのみ役立ちます。重複するデータ、一貫性のない情報、古い情報、不完全な顧客プロファイルなどは、優れた顧客体験を構築することを難しくします。
単一の顧客像(SCV)を構築することで、個々の顧客に関するあらゆるデータをひとつプロファイルに統合し、潜在的な購入者をターゲットにしたり、既存顧客により戦略的なサービスを提供したりすることが可能になります。マーケター、営業担当者、カスタマーサービス担当者などが、単一の顧客像を活用することで、一人ひとりのニーズに合わせてカスタマージャーニーをカスタマイズすることができます。
この記事では、単一の顧客像の構築を支援するために、次の内容について解説します。
単一の顧客像とは?
単一の顧客像(SCV)とは、顧客や見込み客に関するあらゆるデータを統一的にまとめたものです。 360度の顧客像や統一された顧客像(UCV)と呼ばれることもあります。企業は、単一の顧客像にようって顧客と企業とのやり取りの履歴を確認できるため、カスタマージャーニーを改善し、顧客体験を向上させることができます。
単一の顧客像の利点
単一の顧客像を構築し、維持すべき理由はたくさんあります。営業部門やマーケティング部門には、それぞれ独自の利点がありますが、どの業界のどの部門にも共通する利点もあります。
データへの容易なアクセス
単一の顧客像では、あらゆる顧客情報が一箇所にまとめられるので、ある部門はアクセスできるのに、ほかの部門はアクセスできないというデータの分断化のリスクを軽減することができます。単一の顧客像では、組織内のあらゆる部門が、購入者がカスタマージャーニーのどの段階にいても、サービスを提供するために必要なデータにすばやくアクセスすることができます。
マルチタッチアトリビューションの向上
マルチタッチアトリビューションにより、顧客とのインタラクションに、購入プロセスに沿った適切な重み付けをすることができます。単一の顧客像では、個々の顧客が各チャネルでどのような影響を受けているかを確認し、どのマーケティング活動が成功しているか、または成功していないかを判断することができます。 そして、より正確なカスタマージャーニーマップを構築し、今後の施策の立案に役立てることができます。
パーソナライゼーションの簡素化
単一の顧客像は、詳細な履歴を持つ個別の顧客プロファイルを提供します。それにもとづいて、マーケティング体験、セールス時の会話、顧客サービスの課題などをより適切にパーソナライズすることができます。また、これらのプロファイルはリアルタイムで更新されるため、常に最も適切な情報を入手でき、あらゆる顧客体験を優れたものにすることができます。
カスタマーサービスの向上
単一の顧客像は、カスタマーサービス担当者に、顧客と企業との過去の関係を確認するために必要なデータをリアルタイムで提供します。たとえば、ある購入者が問題を抱えて電話をかけてきた場合、たとえ対応した担当者が以前に話したことがなくても、その購入者が顧客になった時期、購入履歴、以前の電話履歴、その電話内容などを知ることができます。 このような詳細な情報にアクセスできることは、問題の迅速な解決に役立つだけでなく、顧客に安心感を与え、全体的な体験、ブランドの信頼度、ロイヤルティなどを向上させることができます。
単一の顧客像の構築方法
単一の顧客像の設計やフォーマットは、企業によって異なります。また、業界、顧客のタイプ、CRMやCDPの使用状況によっても、構築手順が異なります。ここでは、単一の顧客像をできるだけ効率的に構築するために、あらゆる企業が従うべき一般的なステップをいくつか解説します。
1. 既存のデータとカスタマージャーニーを把握する
単一の顧客像を構築するための最初のステップは、あらゆる顧客データとその組織内の所有者を把握することです。データウェアハウス、POSシステム、メールマーケティングソフトウェア、カスタマーサポートプラットフォームなどのデータソースについて、各部門で独自に監査を実施します。どのようなデータが収集され、どこにどのように保存され、誰がそれにアクセスできるかを確認します。
このプロセスでは、共通の目標により部門の足並みを揃えます。各部門の関係者全員が、今後どのようなデータを収集し、どこに保管する必要があるのかを理解していることを確認します。
あらゆるデータが配置され、部門間で適切に統一された状態で、カスタマージャーニーマップを見直します。これにより、顧客のさまざまなチャネルでの関わり方や、購入プロセスの各ステップに至る様子を可視化することができます。 そのために必要なことは、次の通りです。
- 目標を設定する:カスタマージャーニーの目標は、組織の目標を反映し、すでに使用している指標と整合性が取れている必要があります。
- ペルソナを定義する:どのような顧客ペルソナをターゲットにするかを明確にします。具体的であるほど効果的です。
- 顧客接点を特定する:購入者がカスタマージャーニーで接するあらゆる顧客接点を特定します。これがカスタマージャーニーの基盤になります。
- 現在のバイヤージャーニーをマップ化する:顧客が辿る可能性のあるあらゆるバリエーションを考慮する必要があります。
- 理想のバイヤージャーニーをマップ化する:購入者に 歩んで欲しい道筋 をマップ化します。望ましいカスタマージャーニーと実際のカスタマージャーニーの間のギャップを把握することで、マーケティングとセールスの取り組みがどこで食い違っているのかを確認することができます。
カスタマージャーニーマップを把握することで、現在収集しているデータを把握し、ギャップを明らかにすることができます。カスタマージャーニーに弱い部分や不確かな部分があれば、そこに関係する顧客接点に、より質の高いデータを使うことができます。
2. ソフトウェアを評価する
現在使用しているソフトウェアを評価するか、新しいソフトウェア(CRM、CDP、DMPなど)の購入を検討します。現在のシステムが有効か、新しいシステムが必要かを判断するには、次のことについて検討します。
- 使用中のツール:現在使用しているソフトウェアが単一の顧客像を構築できるかどうかを評価します。 新しいシステムを導入する場合は、すでに使用しているものと互換性があるかどうか、または重複がないかどうかを確認する必要があります。
- 部門間の連携性:機能が異なる複数の部門が、単一のソフトウェアをカスタマージャーニーの該当セグメントに適用できれば、顧客データ管理プロセスをさらに簡素化することができます。
- 新しいデータセット:新しいデータを発見することは、顧客プロファイルのギャップを埋めるのに役立ちます。 より優れたデータにアクセスできれば、各顧客がどのような顧客接点でやり取りしているのかがより明瞭になります。
3. データを統合する
収集したデータのシステムへの統合を開始します。データを監査し、矛盾点を発見し、解決します。 次に、データウェアハウス、POS、コールセンターなどのシステムの統合を開始し、一元化します。
包括的な顧客プロファイルを構築するためにどのような顧客データが必要なのかわからない場合は、次の項目を確認することから始めましょう。
- デモグラフィック:年齢や性別など
- 連絡先情報:電子メールアドレス、電話番号、住所など
- 購入履歴:単品購入や定期購入など
- 行動データ:ソーシャルメディアや検索履歴など
- カスタマーサポートの履歴:過去の問い合わせ内容や連絡方法など
- 顧客の好み:服のサイズ、販促物への反応、色の好み、最も関与しているチャネルなど
最初は、顧客プロファイルの内容が少なくても問題ありません。プロファイルの初期範囲は、すでに保持しているデータによって決まりますが、時間の経過とともに広がっていきます。
4. 顧客IDを解決する
IDの解決とは、顧客プロファイルを構築し、個々のデータポイントを正しいプロファイルに割り当てることです。このステップを実施しないと、顧客のインタラクションが重複して表示され、別人のように見えることがあります。 これは、匿名および半匿名のデータを扱う場合に特に当てはまり、修正するのがさらに困難になる可能性があります。
ID照合システムを利用して、個々の顧客に対応するあらゆるデータポイントや半匿名のデータを適切に追跡してください。顧客データそれぞれに識別子を付与し、情報を正しい顧客に結びつけます。 たとえば、電子メールアドレス、クレジットカード情報、IPアドレスなどの識別子を設定します。
これは、データを正しく整理し、顧客体験の向上に役立てるためであり、単一の顧客像を構築する上で非常に重要なステップです。
5. システムをテストする
新しい一元管理システムを導入する場合、テストを実施して、データの収集、整理、表示が正しくおこなわれていることを確認します。小規模なデータセットから始め、徐々に増やしていくことで、問題の特定が容易になります。
新しいシステムを導入する場合でも、現在のシステムを使用して単一の顧客像を構築する場合でも、その機能を定期的にテストすることが重要です。これは、データリンクやリアルタイムの更新に関する問題が発生する前に、その問題を迅速に特定するための継続的なプロセスです。
6. 関連部門にアクセスを提供する
マーケティング、営業、カスタマーサービス、製品開発など、社内の関連部門と単一の顧客像を共有します。リアルタイム更新を全員に許可し、バイヤージャーニーに沿って顧客を支援するための最新データが常時入手できるようにします。
各部門の主要メンバーと協力して、データガバナンス戦略を確立し、データの収集、保存、処理、アクセスの方法について、全員の見解を統一します。
単一の顧客像を構築する際の隠れた課題
単一の顧客像を構築するために、現在の顧客データシステムを監査し、新しいツールを導入する際に、課題に直面する可能性があります。たとえば、消費者データの収集を制限する法令のように、企業側ではどうにもならない問題もあります。 しかし、企業側でコントロールできる課題もあり、それを認識しておくことは困難への対処に役立ちます。
旧来のシステム
単一の顧客像を構築する上で最も大きな課題のひとつは、古いシステムと統合できるソフトウェアを見つけることです。データ管理システムを全面的に見直すことは、予算的に難しいかもしれません。 しかし、旧来のシステムに固執すると、最新のCRMやCDPが単一の顧客像を提供するために必要なリアルタイムのデータにアクセスすることが難しくなります。 可能であれば、長期的な投資をしてでもシステムを更新し、データ管理を容易にすることには価値があります。
分断されたデータ
社内のさまざまな部門から集めた、分断されたデータを調整するのは、時間のかかる作業です。データが分断されていると、各部門は、それぞれの重要業績評価指標(KPI)に関連する特定の情報セットにしかアクセスできないため、単一の顧客像を構築することが難しくなります。 調整に参加するメンバーには、十分な時間を確保し、合理的な期待値を示してください。
一貫性のないデータ
データの分断には、一貫性の欠如も伴います。データポイントが 重複 している場合、ある部門の情報が最新で、ほかの部門のものは古いことがあります。この場合、どの情報が正しいか、あるいは最新であるかを判断する必要があるため、データのクリーニングを難しくします。 データの不整合を調整するための明確なプロセスを確立してから、作業を開始しましょう。
単一の顧客像の構築を始めるにあたって
単一の顧客像は、顧客データをより効果的に活用し、顧客体験のあらゆる段階をパーソナライズするために役立ちます。また、部門ごとに正確なデータにアクセスし、そのデータを個々の消費者に正しく帰属させ、より優れたカスタマーサービスを提供するための効率的な方法にもなります。
現在の顧客データとジャーニーマップをしっかりと把握した上で、バイヤージャーニーのさまざまな段階でデータを収集できるCRMと、顧客データを個々のアカウントプロファイルに統合し、リアルタイムに更新するCDPを活用します。このふたつのツールにより、単一の顧客像の構築がより簡単になります。
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