小売企業のオムニチャネル戦略完全ガイド
消費者は、複数のチャネルや接点を通じて、商品の検索、調査、購入、カスタマーサポートへの問い合わせをおこないます。2020年以前から、小売企業のデジタル化やオムニチャネルへの移行が進み、COVID-19のパンデミックによってその傾向はさらに加速しました。
オムニチャネルの急速な拡大により、小売企業の多くは、顧客にリーチする最適な方法を見出すことに苦慮しています。顧客が利用するチャネル、プラットフォーム、デバイスの数は、今後も増加し続ける可能性があります。
本記事では、小売企業のオムニチャネル戦略の概要と、効果的な戦略を構築してビジネスを成長させる方法を解説します。
- 小売業企業のオムニチャネル戦略とは?
- オムニチャネルとマルチチャネルの違い
- オムニチャネル戦略の重要性
- オムニチャネル戦略の推進方法
- オムニチャネル戦略でプレゼンスを構築するためのチャネル
- 小売企業のオムニチャネル戦略のベストプラクティス
- 小売企業のオムニチャネル戦略の将来
小売業企業のオムニチャネル戦略とは?
小売企業のオムニチャネル戦略では、顧客があらゆるチャネル、プラットフォーム、デバイス、顧客接点を通じて企業とやり取りし、商品を購入したり、オファーやサポート受けたりできるようにします。 これにより、顧客がカスタマージャーニーのどこにいても、シームレスな体験の提供が可能になります。
例えば、ソーシャルメディアで見つけた商品を企業のwebサイトで注文し、近くの店舗で受け取ることができます。このように、オムニチャネル戦略では、顧客はソーシャルメディア、オンラインのカスタマーサポート、サードパーティのマーケットプレイスなどを通じて、企業にリーチできます。
オムニチャネルとマルチチャネルの違い
オムニチャネルとマルチチャネルは、同様の意味で使用されることもあるため、混同されがちです。しかし、両者には明確な違いがあります。
マルチチャネル戦略 では、複数のチャネルでビジネスを展開するものの、それらのチャネル間につながりはほとんどありません。例えば、顧客がモバイルアプリを通じてカートに商品を追加したとしても、その行動はwebサイトに反映されない可能性があります。これは、購買とコミュニケーションのオプションが統合されておらず、それぞれ独立していることを示しています。
一方、オムニチャネル戦略 では、それぞれの顧客接点を統合することで、顧客の動向に即した包括的なコミュニケーションを実現します。チャネル全体で一貫性のあるブランディングを実現するためには、顧客接点の統合が不可欠です。オムニチャネル戦略を適用することで、電話、webサイト、ソーシャルメディアを問わず、顧客は一貫性のあるサービス体験を享受できます。また、あらゆるチャネルで在庫状況を共有および更新することで、顧客は店舗に行く前に、webサイトで在庫があるかどうかを確認できます。
オムニチャネル戦略の重要性
オムニチャネル戦略の策定は、あらゆる小売企業が取り組むべき課題です。顧客は、チャネル間をスムーズに移動できることを期待しているため、オムニチャネルの重要性は高まり続けています。
理想の顧客にリーチ
今日のオーディエンスは、さまざまなチャネルを利用しています。オムニチャネル戦略は、適切なチャネルで的確なオーディエンスにリーチするのに役立ちます。オーディエンスが反応する可能性が高い場所で、適切なオファーをプロモーションすることで、各オーディエンスグループに効果的にアプローチできます。
顧客満足度の向上
顧客は、認知から購入、サポートに至るまでのあらゆる段階で、企業と容易にやり取りできることを期待しています。また、顧客体験をシンプルにすればするほど、顧客の満足度は高まります。
売上の増加
自社の商品を見つけて購入したり、企業と関わったりすることができる複数の顧客接点を提供します。質の高い顧客体験は、オーディエンスのエンゲージメントを促進し、レビューと口コミによるプロモーションを強化して、顧客ロイヤルティの向上と売上の増加につながります。
オムニチャネル戦略の推進方法
オムニチャネル戦略を適用、強化する方法は、企業ごとに異なります。ここでは、その出発点となる主要なステップを解説します。
1.顧客の把握
顧客を把握することで、コンバージョンにつながる可能性が高い、パーソナライズされたメッセージを配信できます。効果的なオムニチャネルプロセスでは、複数の顧客接点からデータを収集し、堅牢なペルソナを構築します。
AI(人工知能)を利用したリアルタイムの(CRM)ソフトウェアを導入すれば、あらゆる顧客データを統合し、顧客プロファイルを構築できます。これにより、消費者が最も興味のある商品を予測し、適切なチャネルでターゲットを絞ったオファーを提供できるようになります。
2.適切なチャネルの選定
統合された顧客プロファイルにもとづいて、ターゲットオーディエンスが好むチャネルを特定します。最も多くの時間を費やしているソーシャルメディア、ショッピングに利用しているデジタルチャネル、企業と接触する方法など、オーディエンスの行動パターンと傾向を探りましょう。
これらのインサイトは、リソースを優先的に投入すべきチャネル、必要に応じて施策に追加できるチャネル、成果につながらない可能性が高いチャネルを把握するのに役立ちます。また、ターゲットを絞った施策を策定し、オーディエンスがよく利用するチャネルを通じてリーチできます。
3.カスタマージャーニーの構築
各チャネルをつなぎ合わせてカスタマージャーニーを構築することで、効果的なオムニチャネル戦略を策定できます。顧客がどこからジャーニーを開始し、どのような経路で情報収集、レビューの確認、競合他社との比較、購買をおこなうのかを把握しましょう。それらのインサイトを活用すれば、ジャーニーの各段階において、あらゆるチャネルで顧客が必要なものを提供できるようになります。
例えば、多くの顧客がソーシャルメディアで商品を認知し、最終的にwebサイトで商品を購入したとします。この場合、マーケティング部門は、ソーシャルメディアでの認知度を向上させる施策に投資し、webサイトのCTAを強化する新たな方法を模索する必要があります。
4.各チャネルの目的の明確化
バイヤーズジャーニーにおいて、各チャネルがターゲットとするオーディエンスや顧客接点は異なります。これは、企業によるチャネルの活用方法にも影響を与えます。
まず、オーディエンスのエンゲージメントにもとづいて、各チャネルの主な用途を特定しましょう。例えば、顧客はTwitterを利用してカスタマーサポートに問い合わせる一方で、Facebookを通じて商品を購入しているかもしれません。また、webサイトで企業の情報を収集し、クーポンが配布された場合にのみ電子メールを開封する顧客もいるでしょう。これらのインサイトをもとに、オムニチャネル戦略を適切な方向に導くことができます。
続いて、ソーシャルメディアマーケティング戦略でセグメントを構築し、さまざまなターゲット層にリーチしましょう。例えば、Facebookでは中高年層をターゲットとした施策を展開し、TikTokでは若年層のオーディエンスとエンゲージします。
チャネルは、目的に応じてメインとサブに分けることができますが、それらは固定されるものではありません。オムニチャネル戦略では、それぞれの顧客グループが、ブランディングのどの部分に反応しているのかを把握し、それに応じて施策を調整できます。
5.あらゆる要素の統合
webサイト、実店舗、ソーシャルメディアのプロフィール、各種ツールがシームレスに統合されているかどうかを検証しましょう。顧客は、ジャーニー全体を通して、さまざまなチャネルを利用します。小売企業が複数のチャネルで顧客に接触したとしても、顧客は、それらの接触を、連続したひとつの会話として捉えています。そのため、一貫性のある、シンプルで分かりやすいジャーニーを構築することが重要です。
これを実現するためには、AIを利用してリアルタイムの顧客プロファイルを維持し、顧客からの接触やエンゲージメントを見落とすことなくビジネスの機会につなげることができるツールが必要です。また、部門間の連携を促進し、あらゆる従業員が同じデータを利用して作業できるようにする必要があります。
6.明確なブランドボイスの確立
一貫性のあるブランドボイスは、自社の評判を向上し、競合他社との差別化を図るのに役立ちます。オーディエンスは、企業から期待できるものは何かを把握している必要があります。オーディエンスの期待に応えることができなければ、信頼を損なうことになります。
チャネルごとに最適なコンテンツを配信しながらも、あらゆる施策において、一貫性のあるブランドボイスを維持する必要があります。TikTokで真面目な動画を配信しつつ、LinkedInでユーモアのあるコンテンツを提供するなど、チャネルを問わず、自社の独自性をアピールしましょう。自社のブランドボイスが特定のチャネルで効果を発揮していない場合は、的外れなオーディエンスにリーチしている可能性があります。
7.戦略の管理と調整
顧客データの増加に伴い、オムニチャネル戦略も進化し続けます。戦略を定期的に見直し、ターゲットオーディエンスに最適なチャネルで、適切なコンテンツを配信できているかどうかを確認しましょう。例えば、特定のチャネルでカスタマーサポートの需要が高まっている場合、そのニーズに応えるために、リソースの配分を変更する必要があります。
顧客に配信しているメッセージを検証し、スプリットテストを実施して、成果を上げているかどうか、調整が必要かどうかを確認します。コンバージョンに達していない場合は、あらゆる広告施策の成果を分析し、それぞれのチャネルにおいて広告施策を終了する、新たな広告施策を開始する、メッセージを変更するタイミングを把握する必要があります。
オムニチャネル戦略でプレゼンスを構築するためのチャネル
一度にあらゆるチャネルでプレゼンスを確立する必要はありません。オーディエンスにとって最も重要なチャネルから着手し、目的を明確にしながら追加するチャネルを検討しましょう。
webサイト
オムニチャネル戦略でどれほど多くのチャネルを採用したとしても、webサイトは、依然として企業のデジタルマーケティングの基盤となっています。他のチャネルを追加する前に、さまざまな要因を考慮しながら、webサイトでの顧客体験が複雑化していないかどうか、ジャーニーを通じてオーディエンスを適切に導いているかどうかを確認することが重要です。
- ナビゲーション: webサイトのメインナビゲーションは、新規訪問者であっても直観的に操作できることが求められます。セカンダリナビゲーションを活用して、ジャーニーをできる限りシンプルで分かりやすいものにすることが大切です
- サイト構造: webサイトのあらゆるページを整理し、訪問者を次のステップ(メール配信の登録、関連コンテンツの閲覧、購買など)に誘導する必要があります。カスタマージャーニーにおけるつまずきや行き止まりを排除し、スムーズに進めるようにします
- CTA: サイト上のあらゆるCTAは、該当するページの意図に合わせて最適化する必要があります。CTAのパフォーマンスが低い場合は、見直しをおこない、必要に応じて調整しましょう。
ソーシャルメディア
手当たり次第に多くのソーシャルメディアでオムニチャネル施策を展開すると、顧客を失望させることになりかねません。ひとつのソーシャルメディアに焦点を当てて、強力なプレゼンスを確立することが大切です。オーディエンスが最もよく利用するソーシャルメディアで優れた体験を構築してから、他のチャネルを追加し、それに応じてコンテンツを調整しましょう。
ターゲットを絞った同じまたは類似のキーワードとハッシュタグを使用し、一貫性のあるコンテンツでオーディエンスとエンゲージメントすることで、あらゆるソーシャルメディアをまたいでオーディエンスを導き、オムニチャネルでのプレゼンスを高めることができます。
アプリ
アプリでは、オーディエンスはいつでもどこでも企業と接触できるため、ブランドプレゼンスの向上に役立ちます。多くの場合、アプリは、スマートフォンの利用者が求める機能を提供し、その利便性を高めることを目的としています。例えば、顧客は、モバイルサイトよりもアプリを通じて商品を購入し、実店舗での受け取りを予約できることを期待しているかもしれません。
あらゆる企業にアプリが必要なわけではありません。それを判断する優れた方法のひとつは、モバイルデバイスを通じたwebサイトでのエンゲージメントを検証することです。顧客が実店舗でモバイルサイトを利用していたり、モバイルサイトで商品を頻繁に購入している場合は、アプリの導入を検討してみましょう。
マーケットプレイス
マーケットプレイスは、売り手(企業)と買い手(顧客)をオンラインで結びつける役割を果たします。その効果は絶大で、ますます多くのソーシャルメディアサイトがデジタルコマースツールを導入し、オンラインストアを立ち上げるようになっています。Amazonなどの一部のマーケットプレイスサイトでは、保管、配送、カスタマーサービスも一貫しておこなっています。
自社サイトに加えて、オンラインストアを開設し、顧客が自社を認知する機会を増やすことを検討しましょう。顧客は、よく利用するマーケットプレイスを最初に訪れる傾向があります。そこで企業と接触した場合、企業のオンラインストアで商品を購入する必要がなくなります。各マーケットプレイスには、初めて利用する顧客向けのツールが用意されています。
検索連動型広告
広告は、顧客が検索時に商品を見つけやすくするだけでなく、ブランド想起とリピート購入を促進するのに役立ちます。
多くのソーシャルメディアは、検索連動型広告を提供しています。その一方で、企業はソーシャルメディアでインフルエンサーのスポンサーを務めることで、オーディエンスと直接エンゲージメントし、信頼性を高めています。どちらの戦略も、顧客がよく利用するチャネルで自社をプロモーションすることに主眼を置いています。
さまざまな広告プラットフォームを調査、検証し、コンバージョン率が最も高いプラットフォームを特定しましょう。理想とするペルソナが好むチャネルが明らかになれば、効果的な検索連動型広告の制作や、インフルエンサーとの戦略的な提携にリソースを集中させることができます。
小売企業のオムニチャネル戦略のベストプラクティス
あらゆるチャネルには、それぞれ学ぶべきベストプラクティスがあります。ここでは、オムニチャネル戦略を包括的に最適化するのに役立つ、基本的な戦略を紹介します。
デバイスやプラットフォームに応じたCTAの活用
チャネルと施策の主な目的にもとづいて、各プラットフォームに合わせてCTAを調整しましょう。
例えば、オーディエンスがソーシャルメディアで企業を見つけた場合、自社プロフィールのCTAは、オーディエンスをサイトやアプリに誘導して詳細を確認できるようにする必要があります。特別なオファーメールに対する顧客のエンゲージメントが高い場合、割引やオファーに焦点を当てたCTAを作成しましょう。
商品の配送
顧客が商品をどのように受け取るのかを考慮しましょう。これは、あらゆるチャネルに欠かせないプロセスです。自宅への無料配送、実店舗での受け取り、実店舗でのパーソナライズされたサービスの提供を検討しましょう。
カスタマーサポート
各チャネルのあらゆるステップで、顧客の課題を解決するように計画を立てましょう。あらゆるチャネルでサポートリクエストに対応できるように、プロセスを簡素化しましょう。
多くのCRMでは、カスタマーサービス担当者が、過去に顧客といつどこで接触したのかをすばやく確認できるようになっています。これは、堅牢なオムニチャネル戦略を実現するうえで特に重要です。顧客は、同じ課題に何度も直面したり、別のカスタマーサービス担当者に個人情報や購入の詳細を伝えたりする必要はありません。
小売企業のオムニチャネル戦略の将来
小売企業のオムニチャネル戦略は、常に進化しています。例えば、市場で顧客中心の考え方がますます浸透したことで、返品プロセスが改善されました。顧客は、企業による優先的な対応と、迅速かつ容易な返品を期待しています。
パーソナライゼーションは、顧客ロイヤルティと信頼関係の構築に役立つため、今日のオムニチャネル戦略の原動力となっています。オムニチャネル戦略では、それぞれの顧客層がどの商品を好むのかを把握し、体験を構築する必要があります。優れた顧客データと調査を活用することで、最適な商品を提案できます。
また、カスタマーサービスでAIを活用すれば、サポートリクエストを適切な部門に引き継ぐことができます。技術的な課題に関するリクエストや、サブスクリプションの解約など、顧客の問い合わせ内容は多岐にわたります。自動カスタマーサービスチャットは、顧客の状況と課題を把握し、それに応じて対応します。単純な問い合わせであればAIのみで対応できますが、人とのつながりは依然として不可欠です。
オムニチャネル戦略の次のステップ
オムニチャネルでプレゼンスを構築して最適化することは、容易なことではありません。企業は、小売業界のデジタル変革に対応し続ける必要があります。
まず、利用者に配慮した堅牢なwebサイトを設計することから始めましょう。続いて、顧客の習慣およびニーズを調査し、ブランドプレゼンスを構築するのに適したチャネルとその優先順位を決定しましょう。
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