オムニチャネルマーケティングとマルチチャネルマーケティングの違いを解説
顧客は、ひとつのチャネルのみを利用しているわけではありません。ソーシャルメディア、電子メール、SMSメッセージなど、数多くのチャネルを絶えず移動しています。目まぐるしく変化する顧客の行動を把握するには、顧客が自社と接触するために使用するあらゆるチャネルに対して、一貫したマーケティング戦略を展開する必要があります。
多くの企業は既に、電子メールやソーシャルメディアなど、さまざまなチャネルを使用して顧客と接触しています。これらのチャネルを運用および統合する手法は、顧客体験だけでなく、マーケティングのROIにも大きな影響を与える可能性があります。 多くの企業は、顧客体験と売上を向上させるために、異マルチチャネル戦略やオムニチャネル戦略に投資し、多様なチャネルを管理しています。
オムニチャネルマーケティングとマルチチャネルマーケティングは、類似しているように思えるかもしれませんが、マーケティングのパフォーマンスに影響を与える、大きな違いがいくつかあります。両者の違いを把握することで、自社に最適な戦略を判断できるようになります。
本記事では、オムニチャネルマーケティングとマルチチャネルマーケティングの定義、相違点、優れた戦略の策定方法を解説します。
オムニチャネルの定義
オムニチャネルマーケティングとは、企業が複数のチャネルを統合し、顧客にシームレスな購買体験を提供する取り組みを指します。顧客が自社と接触する場所、時間、方法にかかわらず、優れた体験を確実に提供できます。
オムニチャネルマーケティング戦略では、次のようなあらゆる顧客対応チャネルを統合します。
- ソーシャルメディア
- デジタルコマース
- チャットボット
- PPC広告
- ブログ
- 電子メール
- SMS
- webサイト
- 実店舗
オムニチャネルマーケティングを導入すれば、あらゆるチャネルをまたいで、統合されたメッセージ、プロモーション、施策を同時に構築できます。顧客がいつどこで自社と接触しても、一貫性のある摩擦のない体験を提供できるようになります。 オムニチャネル施策を適切に展開することで、顧客の興味関心や、これまでの自社との接触にもとづいて、ニーズに即した有益なオファーを確実に届けることができます。
例えば、オーディエンスがwebサイトにアクセスし、製品をカートに追加したものの、購入を完了していないとします。その場合、オーディエンスがそのまま離れてしまうのを防ぐために、電子メールを通じて、カート内の商品の割引オファーを自動的に配信できます。 また、ソーシャルメディアや検索エンジンでリターゲティング広告を配信し、同様の割引オファーを提供できます。 オーディエンスが購入を完了すると、感謝メールやレビューを依頼する電子メールが自動的に送信されます。
オムニチャネルマーケティングは、さまざまなチャネルで買い物客と対話する機会を数多くもたらしてくれます。例えば、次のようなシナリオが考えられます。
- 顧客はオンラインで商品を注文し、店舗で受け取ることを選択した
- 顧客はソーシャルメディアで商品を購入したあと、webサイトで返品しようとした
- 顧客はwebサイトを離れたあと、電子メールやInstagram広告でショッピングカートに関するリマインダーを受け取り、購入を完了した
オムニチャネルの大きな利点は、複数の接点をまたいで、買い物客と一貫してコミュニケーションできることです。顧客が自社とエンゲージしない場合、ファネルを通じて他のインセンティブを提供したり、別の施策を展開したりすることで、より多くの顧客をコンバージョンへ導くことができます。 オムニチャネルマーケティング基盤を構築すれば、これらを大規模に推進し、ビジネスを成長させることができます。
オムニチャネルでは、顧客が企業に接触する方法はひとつではありません。顧客は、商品の受け取り場所や返品場所にかかわらず、いつでも同様のエクスペリエンスを享受できます。これは、顧客満足度とブランドの一貫性に大きく貢献します。
オムニチャネルの利点
オムニチャネルマーケティングは複雑に思えるかもしれませんが、洗練された戦略を展開することで、買い物客が自社を真っ先に想起するよう促すことができます。オムニチャネルマーケティングは、次のようなメリットをもたらします。
- 一貫したブランドプレゼンス:顧客の90%が、あらゆるチャネルで一貫性のある体験が提供されることを期待しています。オムニチャネルマーケティングは、カスタマージャーニーのあらゆる接点で一貫性を確保し、顧客の期待に応えるのに役立ちます。 例えば、Google広告のプロモーションは、ソーシャルメディア、webサイト、店内看板のプロモーションと合致している必要があります
- コンバージョンの促進:マーケティングチャネルを統合することで、顧客はどこにいても自由に商品を購入できるようになります。特定のチャネルを通じて購入する必要がなくなるため、顧客は、スマートフォン、広告、webサイトなど、任意のチャネルですばやく決済できます。 3つ以上のチャネルを使用する施策は、単一チャネルの施策に比べて、購入率が287%高いため、オムニチャネルは、ジャーニー全体のコンバージョンを向上する優れた方法であると言えます
- 売上の増加:コンバージョンの向上は、売上の増加につながります。オムニチャネルの顧客は、他のどのタイプの顧客よりも、購入額が高くなります。例えば、Targetは、オムニチャネルの買い物客の購入額が、実店舗の買い物客の4倍高いことに気がつきました。顧客の生涯価値と平均注文額を増やしたい場合は、オムニチャネルが最適な手法であると言えます
マルチチャネルの定義
マルチチャネルマーケティングでは、複数のチャネルを通じて製品やサービスを販売します。ただし、これらのチャネルは分離されており、互いに独立しています。
マルチチャネル施策では、チャネルごとに個別の戦略を策定して運用できます。つまり、チャネルごとに異なるプロモーションを実施する可能性があります。チャネル間の一貫性を確保することが困難なため、クロスチャネルのプロモーションは一般的ではありません。
例えば、顧客がwebサイトにアクセスし、ショッピングカートに商品を追加したとします。顧客はメール配信をオプトインしたため、放棄されたカート向けのメッセージが自動的に配信されます。 ただし、カートに商品を追加した顧客向けのメッセージではなく、新規顧客向けのオファーが届きます。 顧客がそのまま決済に進む可能性もありますが、電子メールの内容は、顧客の混乱を招く恐れがあります。
マルチチャネルマーケティング施策は分断されているため、チャネルごとに異なる戦略を試すことができます。オムニチャネルとは異なり、マルチチャネルは、あらゆるチャネルを網羅しているわけではありません。 そのため、最も効果的なチャネルに集中して取り組むことができます。
マルチチャネルの利点
マルチチャネルは、オムニチャネルのように統合されたアプローチではないものの、次のようなメリットがあります。
- チャネルの優先順位付け:マルチチャネルマーケティングでは、最も効果的なチャネルに時間と労力を集中させることができます。あらゆるチャネルにリソースを分散するのではなく、売上が最も多いチャネルを優先させます。 マーケターの52%が、3から4つのマーケティングチャネルを使用しているため、マルチチャネルを導入すれば、最も成果を上げているチャネルのみに専念できます。時間やリソースが限られている企業にとって、マルチチャネルは最適な戦略であると言えます
- 商品を重視:オムニチャネルでは、顧客体験に焦点を当てます。一方、マルチチャネルは、商品を戦略の中核に据えます。そのため、自社サイト、Amazon、eBayなどで商品を販売するコマース企業の多くは、マルチチャネル戦略を採用しています。 これらのプラットフォームは互いに連携していないため、 企業は、商品を販売して売上につなげることに集中できるようになります
- 簡素化:マルチチャネルマーケティングは、ビジネスの複雑さを排除し、戦略を簡素化するのに役立ちます。マルチチャネルはオムニチャネルほど複雑ではないため、最終的にはオムニチャネルを導入したいと考えている企業にとって、優れた出発点となります。 統合されたマーケティング戦略を採用したい場合、マルチチャネルは、早期に成果を上げ、リソース集約型のオムニチャネル戦略に投資する前に、トラブルシューティングを実施するのに役立ちます
オムニチャネルとマルチチャネルの違い
ここまで、オムニチャネルとマルチチャネルの概要を説明してきました。次に、両者の違いについて解説します。実際、両者はまったく異なる戦略です。
オムニチャネルマーケティングは、顧客志向の手法です。複数のチャネルを、調和のとれた単一のショッピング体験に統合します。 顧客がどこにいて、自社とどのように接触したいのかを把握し、それに応じて施策を調整できます。 通常、プロモーションは同じまたは類似しているため、買い物客は、あらゆるチャネルで同様のオファーを同時に受け取ることができます。
マルチチャネルマーケティングでは、あらゆるチャネル向けに独自のエクスペリエンスを構築します。包括的な顧客体験に焦点を当てるのではなく、主に製品やサービスに重点を置いています。
マルチチャネル戦略では、複数のチャネルに対応しますが、あらゆるチャネルとデバイスを網羅しているわけではありません。チャネル体験は統合されておらず、静的なものであるため、 買い物客が自社サイトで得られる体験は、ソーシャルメディアの体験とはまったく異なります。 マルチチャネルの利点は、適切な情報を的確なオーディエンスにタイミングよく提供できることです。 オムニチャネルのように、あらゆるチャネルに投資するのではなく、売上が最も多いチャネルに時間と資金を集中させることができます。
マルチチャネルでは、複数のチャネルに投資しますが、オムニチャネルほどチャネル間の連携が緊密ではありません。一方、オムニチャネルでは、あらゆるエクスペリエンス、デバイス、チャネルを、ひとつの戦略に統合します。 これにより、買い物客がどこにいても、シームレスなエクスペリエンスを構築できます。
ある戦略の方が他の戦略よりも優れているように思えるかもしれませんが、実際はそれほど単純ではありません。ビジネスモデル、リソース、顧客、目標に応じて、オムニチャネルとマルチチャネルのどちらを選択するべきかを判断する必要があります。
オムニチャネル戦略とマルチチャネル戦略の例
ここまで、オムニチャネルとマルチチャネルの主な違いを解説しました。両者の戦略をより深く把握するために、いくつかの例を見てみましょう。
オムニチャネル戦略では、顧客が自社と接触する場所にかかわらず、同様のエクスペリエンスを提供できるため、より同質的であると言えます。例えば、次のようなシナリオが考えられます。
- 顧客は新製品に関する電子メールを受信し、実店舗を訪れたあと、自社サイトで製品を再度閲覧しました。 実店舗に在庫があることを確認し、注文したあと、店舗で商品を受け取りました
- 顧客は商品の有料広告を見て、クリックして商品ページにアクセスしました。その商品を注文し、自宅に配送してもらい、ソーシャルメディアで商品を高評価しました。 その後、自社のソーシャルメディアのフィードに、その顧客のコンテンツを再投稿しました
- 顧客はモバイルバイスで検索中に、商品の広告を目にしました。商品をカートに追加し、あとでPCで購入することにしました。 顧客が自社サイトに戻ってくると、先ほどの商品とプロモーションがカートに入っていることに気がつきました
一方、マルチチャネルでは、各チャネルが独立して運用されます。顧客ではなく、企業中心のメッセージを配信します。 例えば、次のようなシナリオが考えられます。
- 顧客が、Amazonなどのサードパーティのマーケットプレイスを通じて、商品を注文しました。しかし、商品に不満があり、返品したいと考えています。 その場合、webサイトから直接返品するのではなく、Amazon Marketplaceを通じて返品をリクエストする必要があります
- Instagramのフォロワーに、特別割引を提供しました。顧客はそのプロモーションを見て、webサイトにアクセスしてプロモーションを利用しようとしました。 webサイトではプロモーションについて言及されていなかったものの、商品を購入することにしました
- 顧客は、webサイトのチャットアプリを通じて、カスタマーサービス担当者に質問しました。その後、顧客は自社のFacebookページにアクセスし、再度問い合わせようとしたものの、ふたつのチャネルが連携していないため、同じ質問を繰り返す必要がありました
オムニチャネル戦略とマルチチャネル戦略の選定
マルチチャネルとオムニチャネルの違いを把握した今、どちらが自社に最適なのか疑問に思うかもしれません。それは、利用可能なリソースと柔軟性に左右されます。
クロスチャネルマーケティングは、一般的に、最善の選択肢であるとは言えません。一方、マルチチャネルマーケティングは、一部の企業にとっては優れた選択肢であると言えます。次の条件に当てはまる場合、マルチチャネルマーケティングが最適である可能性が高いです。
- リソースが限られている場合:チャネルの統合は、手間のかかる作業です。 マーケティング部門が小規模である、またはマーケティング予算が限られている場合は、マルチチャネルマーケティングを導入することで、リソースを最大限に活用できます。 チャネルは個別に運用するため、あらゆるチャネルを統合し、一貫性のあるメッセージを配信するために労力を費やす必要はありません。 また、マーテクスタックを小さくすることで、コストを削減できます
- 簡素化したい場合:オムニチャネル施策は複雑であるため、よりシンプルなアプローチを採用したい場合は、マルチチャネルが最善の手法です。 製品に重点を置きたい企業やコマース企業に最適です
- 柔軟性が不可欠な場合:あらゆるチャネルで同様のメッセージを配信するのは、窮屈に感じるかもしれません。 マルチチャネルでは、各チャネルで異なるアプローチを採用することができます。 これは大きな利点です。各プラットフォームの独自の機能を使用して、それぞれのオーディエンスに合わせてメッセージをパーソナライズできます。 例えば、Instagram、webサイト、Amazonごとに、製品のさまざまな機能やプロモーションを宣伝できます
一方、リソースが十分にあり、チャネル全体で一貫したメッセージを配信する必要がある場合は、オムニチャネルが最適な戦略であると言えます。オムニチャネルを実現するには、サポートシステムを構築する必要があります。 具体的には、ITインフラストラクチャ、大規模かつ経験豊富なマーケティング部門、部門間の連携が必須となります。 また、組織構造の改革が必要となる場合もあります。
オムニチャネルには、顧客体験を合理化できるという大きな強みがあります。これだけで、次のような利点を得ることができます。
- 顧客維持率の向上
- ロイヤルティの向上
- 競争力の維持
このように、どちらの戦略もさまざまなメリットをもたらしてくれます。オムニチャネルの複雑さに対応できる予算とインフラストラクチャがあれば、マルチチャネルマーケティングに比べて、長期的なメリットを享受できます。
もちろん、今すぐマルチチャネルを採用しても問題はありません。そこから経験を積み、より多くのリソースを確保できたタイミングで、オムニチャネルアプローチに切り替えることも可能です。
最適な戦略の策定方法
オムニチャネルマーケティングとマルチチャネルマーケティングの違いを把握することで、自社のニーズに最適な戦略を判断できるようになります。
オムニチャネルなら、あらゆるチャネルで統合されたシームレスな顧客体験を提供できます。消費者は、さまざまなプラットフォームで企業と接触し、チャネルを問わず会話をスムーズに続けることができます。
一方、マルチチャネルでは、マーケティングリソースを最もパフォーマンスの高いチャネルに集中させることができます。オムニチャネルに比べて包括性に欠けるものの、小規模な企業は、オムニチャネルに移行するための出発点としてマルチチャネルを導入することで、早期に成功を収めることができます。
マルチチャネル戦略とオムニチャネル戦略はどちらも、複数のチャネルでコンテンツを制作および展開することを推奨していますが、次のような相違点があります。
- 焦点:オムニチャネルは顧客に焦点を当てる一方、マルチチャネルは企業と製品に重きを置いています
- リーチ:マルチチャネルでは、ふたつ以上のチャネルに対応します。一方、オムニチャネルはあらゆるチャネルを網羅します
- 統合:マルチチャネルでは、各チャネルを独立して運用します。一方、オムニチャネルでは、あらゆるチャネルで同様の戦略を展開する必要があります
始める準備ができたら、実現したい戦略について検討しましょう。利用可能なリソースを確認し、戦略が実現可能かどうか、開始するために必要なものは何かを判断します。 統合型マーケティングを初めて導入する場合、または現在リソースが限られている場合は、まずはマルチチャネルを選択することを検討しましょう。 経験を積むことで、いつでもオムニチャネル戦略に切り替えることができます。
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