組織のつくり方がMA活用の成否を決める?! マーケティング基盤とオペレーション整備のヒント
2021年4月に開催した世界最大級のデジタルエクスペリエンスのイベント「Adobe Summit」。その日本版である「Best of Adobe Summit Japan Edition」のフォローアップイベントとして、6月に「Best of Adobe Summit BREAKOUT」を開催しました。今回はその中から、ユーザベースFORCAS 事業部 セントラルカスタマーサクセス 嶋田氏、ヤプリ遠藤氏をゲストに迎えて行なったパネルディスカッション「B2Bマーケティング基盤とオペレーション整備」の模様をお届けします。モデレーターはアドビDXマーケティング&セールスデベロップメント本部 マーケティングマネージャー 松井 真理子が務めました。
もくじ
- マーケターにテクニカル的な知識が求められる理由とは
- Marketo Engageの管理者権限は誰が持つべき?
マーケターにテクニカル的な知識が求められる理由とは
**松井:**Adobe Summitの中で「マーケターにはある程度テクニカル的な知識が必要だ」という話がありました。確かに、マーケターはテクニカル的なところは専門ではないけれど、社内外のコミュニケーションを設計する上で、避けては通れないことが多くあると思います。さらに実際の現場では、営業との連携も欠かせません。営業とマーケターが共通言語で話ができるようになるために、あるいはデータ整備に協力してもらうために、これまでどんな苦労がありましたか?
**遠藤氏:**営業とマーケの連携がうまく回るようになるまでは、結構苦労しました。具体的な困難としては2つありました。1つ目はAdobe Marketo Engage(以下、Marketo Engage)を最初に導入してから、インサイドセールスの業務理解とルール決めをするところです。Marketo Engageは、リード化してから受注までの状況を明確にして使う必要があると思うのですが、当時のヤプリではリードの定義が曖昧で、履歴すら入っていなかったり、ExcelやSansanなどいろいろなところにデータが散在していたりして、データが全然整っていなかったんですね。なので、それらをすべて把握してルール化して、Marketo Engageに落とし込んでいくのが大変でした。とはいえ、その過程を通じて、インサイドセールスとマーケの溝が埋まったというか、共通言語がどんどんできて信頼関係が築けたとは思っています。
2つ目はスコアリングルールを決めて、ハウスリードから商談をつくっていくところです。スコアを決めること自体は簡単で、スコアが高くなったリードをどんどんインサイドセールスに渡していたのですが、それに対してインサイドセールスがアタックしてくれなかったり、アタックしてもなかなか商談が取れなかったりして。インサイドセールスからしたら、「なんで80点だとホットリードだと言えるの?」「どうやって電話したらいいの?」というのがわからないんですよね。だから今はMarketo EngageのSales Insightを使って、スコアそのものよりも「金額ページを見た人だよ」「このサービスに興味がある人だよ」といったことがわかるようにしたことで、架電率や商談率が上がっていきました。
https://main--bacom-blog--adobecom.hlx.live/jp/blog/fragments/offer-ma-dg2ls
**嶋田氏:**組織のゴールは常に変化するものなので、マーケティング・インサイドセールス・営業の間でコンフリクトが起こることはよくあると思います。コロナ禍に入ってFORCASでもオンラインイベントをするようになっていたのですが、一回のイベントで3,000リードくらいドンッとMarketo Engageに入ってくるようになったんです。母数が多いので、インサイドセールスもアポ数は目標達成できていました。でも営業は「受注が厳しい」と言う。なんでだろう?と。組織を超えた課題として、共通認識を持つ必要がありました。
FORCASのホットリードは、イベントやセミナーに来てくださったお客様です。当たり前ですが、活動してくださっているので、アポは取れやすいですよね。でも、すべてが私たちのビジネスとフィットするお客様かと言われれば、そうではありません。特に、MAを導入した当初は「ホットリード=ターゲット企業」であると誤認されがちです。FORCASで言えば、「ホットリード=今、活動頻度が高い人or今、望ましい行動をした人」ですが、「ターゲット企業=受注率が高い企業」です。この掛け合わせが以下の図の赤文字で示した私たちの一番欲しいお客様であるという共通認識をまずつくってから、具体的な施策に落とし込んでいくことが大切だと思っています。
**松井:**ありがとうございます。お互いの話を聞いて、ご質問はありますか?
**嶋田氏:**今お話しした通り、FORCASでは、基本的にセミナーをフックに何かの施策が進むというシンプルなオペレーションで、細かなスコアリングはしていないので、ヤプリさんでスコアリングをされているのがすごいなと思って。ちなみに最高は何点なんですか?
**遠藤氏:**実は、細かくスコアをつけているわけではなくて、今は閾値を5点にしています。これが10点や20点だったらもっといいという考え方ではなく、5点以上はすべて同じ扱いですね。「スコアリングの設計を難しくしない」のが成功への近道な気がします。
逆に伺いたいのが、「ホットリードとターゲット企業を掛け合わせたところを狙っていく」という点について。これをMarketo Engageに実装するのって、すごく難しいですよね。そういう欲しい人たちは、そもそもの母数が多くないですし。その辺りで苦労したことはありましたか?
**嶋田氏:**私たちはターゲット企業の選定はFORCASの機能を使っているので、それを使えばそれほど難しくはないです。マーケティングとインサイドセールスと営業との間で、戦略の共通認識さえ握っておけば、Marketo Engageでの実装自体も難しくはないですよ。
Marketo Engageの管理者権限は誰が持つべき?
**松井:**Adobe Summitの中からもう1つ、「一元管理型(Centralized) vs 分散型(Decentralized)」の話をしていきたいと思います。MA導入時に見落としがちな体制設計の部分ですね。たとえばウェビナーをする際に、「MAとウェビナーのプラットフォームの連携は誰がやるの?」となった場合、どのような体制で進めていくでしょうか。
以下の図のイメージは、左から赤の「一元管理型」、ピンクの「分散型」、オレンジの「ハイブリッド型」を示しています。
- 一元管理型:真ん中にいる管理者チームが、各部門からのリクエストを取りまとめて、適切に構築する。各部門の人は、管理者チームが定めたルールに従って運用する。
- 分散型:管理者チームはいるけれど、実際に構築するのは各部門。管理者チームはサポートするだけ。
- ハイブリッド型:時と場合によって一元管理と分散型を使い分ける。
FORCASとヤプリの組織体制出してもらいましたので、まずはこちらの説明をお願いできますか?
**遠藤氏:**ヤプリはマーケティングに9名いて、インサイドセールスが14名。この2つの組織のメンバーはMarketo Engageのアカウントを持っている人が多いです。あとはセールスが20名、CSが16名。CSでメールマーケティングに関わる人はMarketo Engageのアカウントを持っています。ヤプリでMarketo Engageを導入したときは一元管理型で、そこから1年半くらいはそのままの体制で進めていました。導入時はやる気のある人にリーダーシップをとってもらうと早く進むと思います。逆に今は施策の本数が増えてリソースが足りなくなってきたので、各部門に権限を渡しておまかせするようにしています。ちょこちょこミスは出てしまうのですが、大事なところは権限委譲していないので、ミスが出たとしても、すぐに直せば大きな問題にはなりません。
**嶋田氏:**私たちはマーケティングとCSの一斉メール配信でMarketo Engageを使っているのと、インサイドセールス、営業、CSがMarketo Sales Connectを使っています。全部で50名ほどいるうち、ID発行数は20くらいですね。組織体制としてはハイブリッド型に近いのかな?と思います。前職でもMarketo Engageの管理者経験のある人がCSにたくさんいますので、IDの発行やアプリのインストールといった基盤に関わることは、このメンバーが兼務で担当しています。また、Marketo Engageを使う人が入社したら、同じメンバーからMarketo Engageの講習を3時間くらいするようにしていて、気をつけて欲しいことを理解してもらってからアカウントを発行するようにしています。分散型のいいところは、複数人で使うことで知見が深まって利活用の促進につながるところなので、CSのMarketo Engageに詳しい人がサポートしながらも、戦略立案や施策設計はマーケティングにおまかせするような役割分担をしていますね。
**松井:**2社で共通しているのは、「最初の構築部分はしっかりとわかっている人が管理者権限を持って進めていき、ある程度、整備できた段階で権限委譲することで、リソースを確保したり新たな施策につなげながら活用度を広げていく」ということですね。
本日は貴重なお話をありがとうございました。私も含め、Marketo Engageのユーザー同士は、社内だけでなく他社のユーザーさんとも、日々、活発に議論を交わしています。ご縁があってMarketo Engageのユーザーになっていただいた際には、またユーザー会でお会いできるのを楽しみにしています。
<登壇者>
株式会社ユーザベース FORCAS 事業部 セントラルカスタマーサクセス 嶋田 真弓 氏
地図上のパノラマ写真作成などのプロジェクトに関わった後、2014年7月にfreee入社。同社のMarketo導入や、個人事業主や法人向けのメールマーケティング施策を牽引。2018年FORCASに入社。現在はカスタマーサクセスチームで、導入後のお客様へのオンボーディングチームのリーダーを務める。2017 Marketo Engage Champion 受賞。
株式会社ヤプリ マーケティング本部 マス&オンラインマーケティング部 遠藤 実咲 氏
2015年新卒で株式会社CCPRに入社。Web/TVなどのメディア掲載やSNSを活用したPRプランニング業務を行う。2018年、株式会社ヤプリ マーケティング部に入社。オフラインマーケティングを経験した後、Marketo Engage導入やSFAの整備を行い、ナーチャリングの仕組みを構築。現在はデジタルマーケティング業務を推進。2021 Marketo Engage Champion受賞。