富士通のビジネスを変革するインサイドセールス戦略
今回は、アドビが主催するイベント「Adobe User Group - Leaders Meetup」から、マーケティング関連部門のマネージャークラスを対象とした「組織変革を起こすマネージャーの本当の仕事」と題したセッションの内容をご紹介します。
お招きしたゲストは、富士通株式会社 デジタルセールスディビジョン長としてインサイドセールスに取り組む友廣啓爾氏。聞き手として、アドビ DXインターナショナルマーケティング本部 フィールドマーケティングマネージャーの松井真理子がお話を伺いました。
MQLから購買グループ開拓への変化が起きている
セッション開始前、まずは松井よりB2Bマーケティングで起きている変化についての話がありました。2024年から広がり始めた 「Goodbye, MQL. Hello, Buying Group.」 という言葉を紹介し、その変化をこう解説します。
「B2B戦略では、マーケティング活動で創出された確度の高いリードで案件を作るMQLが長年有効だとされてきましたが、アドビでは2023年からMQLがマーケティング部の指標ではなくなりました。MQLに代わって世界のマーケティングの新たな潮流となっているのが、既存アカウントを再定義し、これまでリーチできていなかった購買グループを見つけて案件につなげるという考え方です」(松井)
この変化は、リードベースやアカウントベースドマーケティングだけでは、収益に貢献するマーケティング活動が不十分であることを意味しています。したがって、案件化以降のマーケティング部門の貢献度やアカウントごとのエンゲージメントスコアも見られるようになったのです。
また、松井はセッションの前提として、日本の労働生産性が低下している点についても言及。富士通でインサイドセールス面から営業と連携する友廣氏は、労働生産性の低下の原因の一つに、従来の営業スタイルが変化のスピードについていけていない点を指摘しました。
「時間の使い方や業務の効率面でも課題がありますし、ウォーターフォール型からアジャイル型に脱皮できない現状もあると感じています。デジタルやデータを活用したインサイドセールスの視点から組織や営業スタイルを変革したいというのが私の思いであり、富士通における役割だと考えています」(友廣氏)

マネージャーは「我々」という意識を持つべき
セッションは、友廣氏が24年夏に上梓した『富士通式! 営業のデジタルシフト カルチャーを変え、売上の壁を超える方法』をテキストとして進められました。セッションテーマは、前半が 「小さい部署でも改革できるマネージャーの仕事」、そして後半が 「『既存の新規』に開拓の目を向ける」。いずれも友廣氏の著書から松井がキーワードを抜き出し、友廣氏の解説をもとにディスカッションを行いました。
前半の「小さい部署でも改革できるマネージャーの仕事」にて、松井が最初に取り上げたキーワードは、「1000回を超えるタテヨコナナメのステークホルダーとの打ち合わせ」です。
これについて友廣氏は、富士通にジョインして注力したのは、役員をはじめとする各方面に対しインサイドセールスの重要性を説いて回ることだったと言います。「実際に1000回を超えたかどうかはさておき、熱意をもって愚直に訴えました。特に重視したのが、常務や専務などのクラスです。日本の従来型トップダウンでは現場の反発を招くこともあるため、マネージャークラスの方が組織変革を目指す場合、自分より上のポジションのキーパーソンとの意識合わせや、社内の横のつながりで味方を作っておくことが有効です」。
続いて松井が挙げたキーワードは、組織拡大に伴う「30人、50人、100人の壁」です。友廣氏がリーダーを務めるデジタルセールスディビジョンは、21年にわずか3名からスタートし、25年現在では120名強のメンバーを擁する組織へと拡大しました。

「一般的には30人、50人、100人と言われますが、デジタルセールスディビジョンの場合は、そもそもカルチャーフィット重視で採用を行っているため採用率が低く、なかなか人員が増えないという事情がありました。特に高いと感じたのは100人の壁です」(友廣氏)
松井が「100人の壁を越えたとしても、人数が増えたことで様々な課題が出てきそうですね」と述べると、友廣氏は「階層ができて情報流通が滞ったり、徐々にサイロ化して各自の業務範囲が狭まったりといった課題はどうしても出ますね」と回答しました。
これに関連しながら、かつ前半のテーマである「小さい部署でも改革できるマネージャーの仕事」の解としてキーワードに挙げたのが、「リーダーの考えを共有できる優秀なメンバーを第2階層におく」です。
「第2階層に留まらず、今日お集まりの皆さんのようなマネージャーは、リーダーの考えをどう現場に伝えるかが重要です。私自身、チームの方針について語るときは『私』ではなく『我々』という言葉を使います。組織の規模に関わらず最優先なのはチームなので、皆さんも『我々』という主語を使い、リーダーの考えをチームでどのように共有するかを意識してもらえればと思います」と友廣氏は語りました。
顧客満足度を上げ、売上を最大化するために必要なこと
後半のセッションでは、「『既存の新規』に開拓の目を向ける」をテーマにディスカッションが進みました。松井が最初に挙げたキーワードは、「既存の新規がなぜ重要なのか、先発完投型営業スタイルの問題点」です。松井が冒頭に紹介したB2Bマーケティングの変化について友廣氏に聞くと、MQLの限界について以下のような背景を説明しました。
「日本はこれまで人材の流動化が少なかったため、一人の営業が長くアカウントを担当し、企業サイドもその個人に任せるというセールスが成り立っていました。一人の営業が案件の種を見つけ、提案からクロージング、アフターフォローまで担当するようなスタイルを私は先発完投型と呼んでいますが、人材の流動化の高まりや担当者がリタイアした場合、こうした属人的な売り方は維持できなくなります」(友廣氏)
松井が「そこで重要になるのが、アカウントの再定義と新たな購買グループの発掘ですね」と水を向けると、友廣氏は「最終的に顧客満足度を上げ、売上を最大化する方法の一例が、営業プロセスをマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスカスタマーサクセスに4分割するThe Model方式です」と応じました。

ただ、友廣氏によると「営業担当者は自分の案件や顧客を抱え込む傾向があるので、業務分割には抵抗があるでしょうね。彼らを説得するには、インサイドセールス側も真剣に向き合う姿を見せ、成功実績を積み上げる必要があります」とのこと。加えて「デジタルセールスディビジョンと営業部門との間で、メンバーの交換留学をすることで相互理解を深めたり、データドリブンと情報共有の説得力を示すために活動をすべてダッシュボード化したりといったことにも取り組んでいます」と話しました。
インサイドセールスを極めることで生産性を向上
松井が後半セッションの2つ目のキーワードとして挙げたのが、「より大きな売上が見込める、より多くの案件獲得する組織と仕組み」です。「生産性を考える上で量ではなく質が重要になっている現在、友廣さんの部隊は具体的にどのように動いているのでしょうか」と松井は質問。
友廣氏は「多数のターゲットにアプローチする従来のインサイドセールスとは違い、デジタルセールスディビジョンでは、エンタープライズ型のインサイドセールスを極めることが、生産性を高めることにつながると考えています。最初は金額が少なくても、これを突破口に大きい案件につながることもありますし、重要なのは顧客のキーパーソンとのつながりをCRMで管理し、正確にトラッキングすることです」と答えました。
この日の参加者は、マーケティング関連部門のマネージャーが中心でした。それだけに、この日のB2Bマーケティングの変化やマネージャーの仕事、組織変革といった話題は刺激になったのではないでしょうか。セッション終了後は、参加者によるディスカッションの時間が設けられ、似た立場で業務に取り組む者同士だからこその活発な意見交換も行うことで、価値のあるイベントとなりました。

