営業がフォローしたくなる顧客接点創出とSQLの最大化
「マーケティングからリードを渡しても、営業がフォローしてくれない」など、マーケティングと営業の組織の壁を感じているマーケターの皆さんも多いのではないでしょうか。営業はどんなデータがあれば、リードをフォローしてくれるようになるのか。Adobe Marketo Engage User Groupのユーザー総会「MUG Day」で披露されたサイボウズ株式会社 事業戦略室 SalesOpsの吉見梓氏と高橋栞氏によるセッション「営業がフォローしたくなる顧客接点創出とSQL*の最大化」の模様をお届けします。
*SQL=営業が用件を把握し商談を進ている状態のリード・案件
Adobe Marketo Engageとkintoneを連携して営業活動を徹底サポート
Adobe Marketo Engageの導入前にインサイドセールスやカスタマーサクセスを立ち上げたサイボウズ。当初は部署をまたいだ顧客データの共有がなかなかうまくいかず、「顧客体験が低下しているのではないか」という危惧があったと言います。また、忙しい営業メンバーがお客様の行動を把握しきれず放置してしまい、商談機会を逃している懸念もありました。そこで、Adobe Marketo Engageを導入し、営業が商談に集中する環境を作ると共にSQLの最大化につなげていこうと考えたのです。
サイボウズではノンプログラミングで業務システムを簡単に作れるクラウドサービス「kintone」を中心に利用しており、営業はここで顧客情報などを見ています。そこに「リードマスタ」というアプリを作り、API連携やWebhookでAdobe Marketo Engageのデータを連携することで、「1. 営業リード条件の設計」「2. アラート通知」「3. リサイクルメール配信」の3つの機能を持たせました。
これらの機能について、1つずつご紹介していきます。
1. 営業リード条件の設計
Adobe Marketo Engage経由で、イベント/展示会、セミナー、オンデマンドセミナー、トライアル、問い合わせ、資料請求、紹介など、様々なチャネルから流入してきたお客様のうち、MQL*に値するリードをリードマスタアプリに取り込みます。このときに、ただ単にそのまま営業に渡すのではなく、サイボウズでは次の2点を工夫していると言います。
*MQL=マーケリードからインサイドセールスへ送客する、チャネル別に設定された閾値基準を超えたリード
- 組織の中のどの部門やチームに渡すのか、誰に渡すのかといったところまで細かく決めて、リード差配を行う。→部門やチームをたらい回しにされることがなくなった。
- リードマスタに入れる条件について、営業と相談しながらチャネルごとに設定し、常に変更を繰り返す。→営業の納得感があるのでフォローされないことがなくなった。
2.アラート通知
営業がアラートを受け取るシーンを見ていきます。外出先で営業がスマートフォンを開くと、kintoneのモバイルアプリから「お客様がIT部門向けセミナーに参加しました」と通知が来ていました。通知をタップするとkintoneのリードマスタアプリが開き、誰がどのセミナーでどんなアンケートに答えたのか、また契約情報や他チームの対応履歴など、次のアクションを決めるために必要な情報がすべて見られるようになっています。
このアラートにも工夫があります。単に「セミナーに参加しました」とお客様の行動が書いてあるだけでなく、「ぜひ事後アンケートを確認してください」と、営業のネクストアクションを促すものにしているのです。また、リードマスタアプリの顧客情報の下には、担当営業の名前と対応状況を変更する項目があり、ここで放置していると「進捗はどうですか? Adobe Marketo Engageにお任せしたいものはリサイクルにしましょう!」というアラートも出るようになっています。
こうしたアラートは営業の要望に応じて作成しており、加えて営業自身で何の通知を受け取りたいのかを決められるようになっています。例えば「このお客様は積極的にフォローしたいから、通知は全部受け取ろう」という設定を営業自身が選択できるようになっているそうです。
3.リサイクルメール配信
営業がお客様の対応をして、お断りになってしまったとき。Adobe Marketo Engageのエンゲージメントプログラムでリサイクルに回す方も多いと思います。このときにサイボウズでは、リードマスタアプリを開いて、このお客様にどんな内容のメールを、どんな頻度で、どのメールアドレスに送るかといったことを、営業自身が決められるようにしています。
「お客様のことを一番良く理解しているのは、過去に対応した営業メンバーです。その営業が最も適切だと思うものを選んでもらうことで、コンバージョンにつながっていくのではないかと考えています」(高橋氏)
リードクオリフィケーションも営業と一緒に
「『リストを渡しても営業がフォローしてくれない』『セミナーの効果測定をしても実際どれだけ売上につながったのか判断がつかない』といったことがサイボウズでも過去に起きていました」と語る吉見氏。この状態を脱却するために、どのような取り組みをされたのでしょうか。
サイボウズでは、マーケティングが定期開催しているライブウェビナーの他、営業施策で行っているライブウェビナー、リアルで行うワークショップ、市況に応じて営業が単発で開催するライブウェビナーなど、様々なセミナーを開催されています。
これだけ頻度高くセミナーを開催していると、日々数多くの新規リードやホットリードが創出されます。そのリストをまとめて営業に渡してしまうと、「大量の通知で埋もれてしまい、本当に大事なアラートに気づけない」「情報収集レベルのリードが混じっていると、質の悪いリストと判断して見てくれなくなる」「真面目な営業はすべてフォローしようとして疲弊してしまう」といった事態に陥ってしまいます。
それを避けるために重要なのが、リードクオリフィケーションです。
サイボウズでは、セミナーの企画時から、「セミナーの目的」「フォロー方針」「どんな人を集めるか」など、営業と綿密なすり合わせをしており、セミナー終了後にフォローするためのリストは、営業の要望に応じて複数作成。それぞれを適切なチームに渡して、事後フォローをしていると言います。
ちなみに、「どんな人を集めるか」を考えるときには、Adobe Marketo Engageのスマートリストを見ながら「こんな条件なら何人くらいいますよ」と、営業のアプローチしたい対象者がデータベースに含まれているのかまで、一緒に確認しているそうです。保有している対象者数によっては新規リードを獲得することから検討しなくてはなりません。
セミナー運営の仕組みは、以下の通り。Adobe Marketo EngageとZoomを連携し、ライブウェビナーで収集したデータはすべてAdobe Marketo Engage経由でkintoneに集約されるようになっています。
リードマスタには「対応中リード」と「クオリファイリード」が入っており、ステータス管理によって対応漏れを防ぐアラートが自動で送られるようになっています。他方、リード精査には、リードマスタに入らなかった「ストックリード」が蓄積されており、営業が余力のあるときにフォローするリードを見繕えるようにしています。
つまり、基本的にはリードマスタだけを見ておけば顧客のキャッチアップは完結するものの、目標達成度や戦略などに応じて、営業が自らの判断でフォローするリードを増やせる自由度を持たせておくことで、自立して営業活動をコントロールできる環境を整えているのです。
オンデマンド視聴でもリストの質を落とさないために
サイボウズではライブウェビナーに加え、Brightcoveを活用したオンデマンドセミナーも配信しているとのこと。セミナーをオンデマンド化すると、「いつでも視聴できるメリットを提供できる」「動画なので伝えられる情報量が多い」「運営工数を削減できる」といったメリットがある一方、いつでも視聴できるがゆえに、熱量が高くない人にも視聴され、リストの質が低くなる懸念があったと言います。
しかし、BrightcoveとAdobe Marketo Engageを連携して使うことで、お客様の視聴データを取得できるようになる他、Adobe Marketo Engageのフォームに動画を埋め込んで視聴前に個人情報を取得できるようにしたり、タギングしたりもできるようになります。
お客様がオンデマンド配信の動画を視聴したら、Webhook経由でkintoneに視聴データを登録。さらにその中から“8割以上”視聴してくれたリードをkintoneで絞り込み、コール部隊が電話をかけます。単に視聴データを営業に渡すだけでは「リードの質が悪い」と言われてしまいかねませんが、“8割以上”視聴リードの中からコール部隊によってさらに精査されたホットリードだけを営業に渡すことで、リードの質を担保しているそうです。
「この8割以上という数字も、営業から指定されたもの。約60%の人が8割以上視聴してくれています。そして、ライブ配信のウェビナーをオンデマンド化した結果、毎月の視聴者数は増加しており、いつでも視聴できるメリットを感じていただけていると評価しています」(吉見氏)
最後に、吉見氏は顧客接点創出とSQL最大化のポイントとして、次の3つを挙げました。
- クオリフィケーションルールは営業と検討/合意する
- 営業がアクションしやすい情報を届ける
- リストに優先度をつけ、共有方法を工夫する
あらゆるマーケティング活動を営業と二人三脚で進めることで、営業が“フォローしたい/したくなる/しやすい”取り組みになっていくんですね。