優れた顧客体験の提供に向けた企業のあり方 vol.2
データを生かすアクションのためのコンテンツと業務プロセスの標準化
昨今、顧客接点からのデータをリアルタイムで収集し、可視化することができるようになりました。しかし、そのデータを生かしてリアルタイムなアクションにつなげることができている企業は、まだ少数派です。顧客体験を改善するwebサイトの制作を支える基盤について、アドビ株式会社 デジタルエクスペリエンス事業本部 市場開発の阿部成行よりご説明します。
vol.1:メタバース時代に欠かせない企業が備えるコミュニケーション力とは?
もくじ
- 顧客データ分析を生かすのはリアルタイムアクション
- コンポーネントとプロセスを標準化する意義
- 顧客ごとにパーソナライズしたデジタルコミュニケーションの時代
顧客データ分析を生かすのはリアルタイムアクション
vol.1でお話しした通り、メタバースに代表されるデジタル空間での顧客体験をはじめ、リアル店舗での顧客接点においても、顧客データをリアルタイムに取得/分析し、可視化することは重要です。そのため、企業ではデータをできる限りリアルタイムに収集して、それを分析するBI(ビジネスインテリジェンス)の導入が進んでいます。
しかし、リアルタイムに顧客の状況が分かった際、それを基にしたアクションについては、多くの企業が従来通りのプロセスで進めようとしています。協力会社にコンテンツを発注するために見積もりを取って……といった流れを今でも続けており、非常にアンバランスな状況になっています。
本来であれば、データ収集と両輪の関係にあるアクションにも相応の俊敏性が必要です。さらに言えば、目まぐるしく変化する顧客の状況に対応する柔軟性も求められています。その実現のためには、どのような考え方とシステムが必要になるのかを、今回はお話ししたいと思います。
理想的な両輪の関係とは、データ分析とコンテンツ運用が同期して連携の取れた状態です。データとコンテンツの解像度をそろえることで、両輪のギアがかみ合い同じ方向に進むことができます。その結果、顧客理解に基づいた施策のループが回せるようになると考えています。
例えばB2Bであれば、顧客を企業単位、部門単位、最終的には個人という解像度で属性情報を分析する仕組みが整っている企業は多くあります。一方、コンテンツの領域では製品単位やランディングページといった単位で制作、管理されていることがほとんどです。これでは、顧客の要望を理解できても最適な提案をコンテンツとして組み合わせ、瞬時に提供することは難しいと言えます。
大切なのはデータ分析からコンテンツ運用までを1つのサイクルとして捉えて仕組み化することです。このような取り組みによってどのような効果があるのか、アドビ自身の事例をご覧いただきながら確認していきましょう。
アドビの取り組みは大きく3つに分けられます。1つはデータの仕組み化、次にデザインの仕組み化、そしてそれらを支える基盤、組織となります。
アドビでは、まずデータの仕組み化について、「DDOM(Data Driven Operating Model)」というシステムを用いて顧客データの分析と管理を行っています。カスタマージャーニーの各段階を測定し、必要な施策の割り出しとKPIの管理を行うデータプラットフォームです。
そして、このデータと連動した施策を実行するために「デザインシステム」を運用しています。デザインシステムは顧客に対して企業が一貫したブランドイメージとUI(ユーザーインターフェース)を保ちながら、コンテンツ制作するルールを定めた基盤となります。
アドビではもともと、Adobe PhotoshopやAdobe Illustratorなどの自社製品を開発する際に、そのUIや構造化したデザインのルールを定めたデザインシステムを運用してきました。それが「Spectrum(スペクトラム)」というものです。このデザイン標準をベースとし、webサイトを制作する際に必要な要素に特化したデザインシステムとして新たに構築したのが、「Consonant(コンソナント)」です。Consonantは、webサイトを構築する際の基本的要素(コンポーネント)を多数用意しています。
現在では多くの企業が取り入れているデザインシステムの活用と見ることもできますが、アドビではコンポーネントを用いてプロトタイプを作成するツールと、完成したプロトタイプを、webをはじめとしたデジタルチャネルへと実装するコンテンツ基盤とが連携しているところが大きな違いとなります。
例えば企業がwebサイトのリニューアルを実施するときに、企画会議で制作会社や広告代理店がPowerPointの資料を作成して配布すると思います。その資料をPDF化してやり取りするのではなく、Adobe XDというプロトタイピングツールを使うことにより、完成形に近いデザインを見せながら議論することができます。しかもAdobe XDで作られたページがデザインシステムの標準コンポーネントから作られることで、実装環境でも対となるコンポーネントでコーディングが進められ、効率よくwebサイトを公開することが可能です。
このように、デザインツールとコンテンツ基盤が扱う部品の最小単位をコンポーネントとして共通化して、デザインシステムによって規格化することで制作から実装までをシームレスに連携させることができます。こうすることでアドビでは、顧客データ分析と同期してリアルタイムなコンテンツ配信を実現させています。
コンポーネントとプロセスを標準化する意義
デザインの仕組み化と聞くと、テンプレートに情報を流し込んで公開するコンテンツマネジメント管理(CMS)をイメージされる方もいらっしゃるでしょう。もちろん間違いではありませんがそれだけではありません。アドビの事例のようにページという単位から、さらに細かいコンポーネント、つまりコンテンツを構成する素材、構成要素にまで細分化して取り扱うプロセスの標準化まで含む概念となります。
コンテンツを構成する部品単位で標準化、規格化することは、コンテンツ制作を効率化するだけではなく、お客様ごとにコンテンツの内容を最適化するパーソナライゼーション施策を行う際でも有効です。
下記は、アプリが起動する際に表示される画面です。アドビでは、製品起動時に提供する情報をお客様ごとにパーソナライズしています。起動画面は細かく領域が分割されており、製品を起動する頻度やよく利用する機能の傾向などを分析して、ユーザーが必要とする情報をコンポーネント単位で組み立てて表示しています。
コンテンツを分割して管理することで、webをはじめアプリやメール、SNSなどを含めた多数のデジタルチャネルに向けて、提供するコンテンツをパーソナライズすることが可能となります。
顧客ごとにパーソナライズしたデジタルコミュニケーションの時代
ここまで、webサイトのリアルタイムな構築と運用において、デザインシステムが重要な役割を果たすことをお話ししました。また、企業が収集している顧客データを生かすために欠かせないパーソナライズにとっても、コンテンツを分割して管理する考え方は重要なのです。
統計的にも、共通のコンテンツよりもパーソナライズ化したコンテンツのほうが、反応率が高いことが明らかになっています。企業はそれを認識しており、コンテンツマーケティングを重視する動きも見られますが、例えばコンテンツをA/Bテストし、顧客の反応が良いほうに合わせていくような取り組みは、手間がかかってしまうためすべての企業が取り入れられていないのが現状です。
こうした、パーソナライズした顧客接点の自動化を「デジタルコミュニケーション」と言っていますが、デザインシステムの導入は、デジタルコミュニケーションの実現のためにも不可欠だと言えます。
アドビ社内の例をお話ししますと、顧客接点は約40のポイントが定義されており、顧客ごとにコンテンツを出し分けています。そのため、グローバルで毎日20TBのパーソナライズされたコンテンツが配信されています。そしてアドビのwebサイトでは、デザインシステムによる運用の効率化と自動化により、従来よりも60%サイトの構築を高速化することができているのです。
一般的な大企業では、自社のwebサイトといっても数百ページになることが普通です。これを手作業で管理していては、リアルタイムに更新することは不可能です。デザインシステムは、昭和のメディア、広告業界でやってきた人海戦術から決別し、真のデータドリブンなコンテンツ運用を実現する基盤だということが、お分かりいただけるかと思います。
今まで経験と勘に頼っていた顧客接点の世界は、あらゆるデータをリアルタイムに収集し、クリエイターが作ったコンテンツがどれぐらい最終的な経営にインパクトを与えているのかまで、答え合わせができる時代になっています。それがデジタルコミュニケーションによって生まれる新しい価値だということに気付くことが重要です。
次回は、デジタルコミュニケーションがAI、自動化の技術によってさらに進化する、次世代のデザインとマーケティングについてお話しします。
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