【イベントレポート】医師の処方につなげる製薬会社のオウンドメディアコミュニケーションとは?

どのようにして自社の医薬品に対する理解を深めてもらい、患者に処方してもらうか──。2023年4月に開催された「ファーマIT&デジタルヘルスエキスポ2023」において、博報堂メディカルの澤井茂都子氏、製薬会社出身の三澤 竜之介氏、アドビの山田 智久が製薬会社のオウンドメディアの有効活用法について議論しました。

オウンドメディアが抱える3つの課題

三澤氏 製薬会社にとって医師とのコミュニケーションは、欠かせない取り組みです。オウンドメディアは、そのための欠かせないチャネルの1つです。多くの製薬会社がオウンドメディアの有効な活用方法を模索しています。ここでは「ターゲットDr.の満足度を高めるオウンドメディアコミュニケーション」と題し、製薬会社のオウンドメディア活用方法を議論します。

では、まず製薬会社のオウンドメディアが抱えている課題を整理します。大きく次の3つの課題があるのではないでしょうか。

(1)戦略策定

オウンドメディアの価値をどう捉え、どう位置付けるべきかが整理できていない。活用目的を具体的に描けず、DX戦略にオウンドメディアを組み込めていない。

(2)提供価値

オウンドメディアを医師とのコミュニケーションに活用しようとはしているが、医師のニーズを把握できていないため、適切なコンテンツがそろっていない。あるいは、コンテンツの作り方がわからない。

(3)顧客体験

オウンドメディアを通じて実現したい顧客体験を定義できていない。

自社でデータを保有できることが価値の源泉

山田 アドビではPDFを扱うAdobe Acrobatなどのソフトウェアだけでなく、他にも様々な技術やサービスを提供しています。Webサイトの適切な運用を実現する技術と支援サービスも1つ。オウンドメディア活用支援においても豊富な実績を持っています。

その立場から1つ目の課題である戦略策定に対する考えを述べます。

オウンドメディアの位置付けを理解するには、まず他のチャネルも含めてコミュニケーション全体を整理する必要があります。それをまとめたのが下の図です。MR(メディカル・レプリゼンタティブ)が直接行う情報提供、メールで行うフォロー、外部メディアを使ったプロモーション活動など、様々なチャネルと並んでオウンドメディアは、コミュニケーションの一端を担っています。

グラフィカル ユーザー インターフェイス, アプリケーション, Word 自動的に生成された説明

では、オウンドメディアならではの価値とはなんでしょうか。自社でデータを保有できることは、見逃せない価値の源泉です。オウンドメディアを訪問した医師がどんなコンテンツを閲覧したかなど、行動や傾向を計測し、分析することで、その医師の興味や目的、つまり「見えない声」を理解し、興味や目的ごとのセグメント化、それをベースにした仮説の立案と適切な情報提供につなげることができるからです。

このようなコミュニケーションを実施できているオウンドメディアは、医師にとっても、場所や時間を問わず必要な情報を入手できる信頼できる有用なチャネルとなり、ひいては製薬会社や医薬品に対する信頼にもつながっていきます。

三澤氏 オウンドメディアの中核を担うコンテンツの質についてもお聞かせください。

澤井氏 博報堂メディカルは、製薬会社様のマーケティングおよびデジタル活用を支援しています。

オウンドメディアに限らず、コンテンツを考える上で重要なのが医師の様々なタイプに対応したコンテンツを用意することです。例えば、MRとの関係性や、日々、どのようなチャネルにアクセスして、どのようなコンテンツを閲覧しているかなど、医師のタイプごとにジャーニーを描き、それに合ったチャネルを通じて、適切なコンテンツを提供することで閲覧率を高めるのです。

ダイアグラム 中程度の精度で自動的に生成された説明

例えば、MRとの関係性を重視している医師なら、MRを中心にコミュニケーションを行います。オンライン専任MRを設け、常に問い合わせを行いやすい環境を用意するのも1つの方法です。反対にメディアからの情報収集を重視する医師なら、オウンドメディアや外部メディアを積極的に活用しながらコミュニケーションを行っていきます。

ここで重要なのが、コミュニケーションを単発で終わらせるのではなく、ジャーニーに沿って、全体最適の視点で設計することです。メールでWeb Seminarを案内する。参加した医師にはMRがフォローを行い、オウンドメディアに掲載されている関連コンテンツを紹介するなど、連続性を持ったアプローチを検討するなど、連続性を持ったアプローチによって、コミュニケーションからの離脱を防ぎ、最終的な処方獲得のためのハードルを取り除きます。

山田 アドビは、様々な技術で連続性を持ったアプローチの実践をサポートします。

まずAdobe Marketo Engageは、メルマガの効果を高めます。データを通じて、その医師がどのようなステージにあるかを補足。それに応じて件名を変えたり、コンテンツの順序や内容を変えたり、異なるメルマガを出し分けたりできます。

この特長によりAdobe Marketo Engageは、メルマガの開封率、リンクURLからの遷移率の向上を実現し、連続性を持ったアプローチの実践をサポートします。メルマガの出し分けで開封率が3倍になった、セグメントに応じた件名の編集で開封率が1.3倍になったなど、多くのお客様が高い成果をあげています。

また、Adobe Targetを利用すれば、「いつ」「どのページやコンテンツを」「どれくらいの頻度かつ深さで」閲覧したかといった、オウンドメディアの医師の行動に応じて、興味を持っているコンテンツと関連が深いコンテンツを提案するなど、パーソナライズした情報を提供することができます。わかりやすく医師を例にあげていますが、薬剤師など、他の医療従事者も含めてパーソナライズできます。この特長により、Adobe Targetは、オウンドメディアのページビュー、訪問者あたり訪問回数、資料・動画閲覧数といったKPIを20~30%向上させることができます。

医師と患者の視点でシナリオを作る

三澤氏 2つめの課題である「提供価値」についてお聞きします。コンテンツは医師のタイプに対応させるという指摘がありましたが、コンテンツを制作する上でのポイントについてもお聞かせください。

澤井氏 コンテンツの役割は、医師を振り向かせ、処方の検討につなげること。製品を主語に据え、特長や競合優位性を訴える方法はおすすめできません。あくまでも医師や患者の視点に立ったコンテンツであるべきです。

ダイアグラム 自動的に生成された説明

具体的には、医師や患者が抱えている課題を提示して共感を醸成する。その上で課題を解決するための方法としての製品、どのように解決するのかのエビデンスを示す。最後は課題が克服された状態までを描きクロージングする。大きくは、このようなシナリオです。

最初に提示する課題や製品の理解度、つまり「攻略点」は医師ごとに異なります。医師タイプ別にコンテンツを用意する必要があることが、このことからもわかります。

三澤氏 3つめの課題「顧客体験」についてもお聞かせください。

山田氏 どのような顧客体験を提供すべきか。それを考えるには、処方の意向を強く持っているか、そうでないかなど、医師のステージ、およびその変化を正確に理解するための分析が必要です。アドビは、Adobe Analyticsによって、その分析を支援しています。

分析はオウンドサイト上の医師の行動データがベースになるわけですが、予め各コンテンツに「意味付け」を与えておくことで「この動画を見た医師は、積極的に、この分野の情報を求めている」など、高度な行動分析を行っていくこともできます。また、各コンテンツにスコアを付け、そのスコアを集計して、医師の処方意向が高まっているか、ステージの変化を計測することもできます。このような分析結果をコミュニケーションに役立てるのはもちろん、それを参考にしながらオウンドサイトを改修し、より見つけやすく、わかりやすいサイトに進化させていくこともできます。

三澤氏 博報堂メディカルとアドビは、オウンドサイト活用のためのサポートも行っていると聞きました。

澤井氏 DXプロモーション研修、ジャーニー作成、コンテンツクリエーション研修など、実践的なプログラムを用意して、製薬会社様のオウンドサイト活用をサポートしています。ぜひご活用ください。

※本講演に関して、さらに詳しい内容にご興味がある場合は、博報堂メディカルまでお問い合わせください。

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