来訪率3倍に急増させたアステラス製薬のオウンドメディア活用術
オウンドメディアを通じて、お客様とコミュニケーションを図りたいが、なかなか思うようにお客様までコンテンツを届けられないとお悩みの方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、2023年12月4日に行われたAdobe Marketo Engage ユーザー総会「MUG Day」のセッションの中から、Adobe Marketo Engage導入によってメールからオウンドメディアへの来訪率274%を達成したアステラス製薬株式会社の取り組みをご紹介します。ご講演いただいたのは、同社 Omni Channel Strategy & Operations Associate Director 小泉晋之介氏と、Associate Manager 大石幸太氏です。
マーケティングで業界特有のビジネス構造を乗り越えるには
2005年に山之内製薬と藤沢薬品工業が合併して誕生したアステラス製薬。泌尿器科領域を得意とし、70カ国以上で事業を展開する、国内2位の製薬会社です。そんなアステラス製薬では、マーケティングオートメーションのAdobe Marketo Engageやコンテンツ管理システムのAdobe Experience Managerといったアドビ製品を利用しながら、パーソナライズされたシームレスなオムニチャネル体験を提供されています。
その起点となるのが、同社の医療従事者向けオウンドメディア「Astellas Medical Net」です。このオウンドメディアのコンテンツを届けるため、同社がどのようにしてAdobe Marketo Engageを活用されているのか。この話に入る前に、まずは製薬業界特有の2つの特徴を見ておきましょう。
- エンドユーザー≠顧客、マーケティング対象=顧客
製薬会社のエンドユーザーは患者さんです。しかし、患者さんは基本的に自分でどの薬剤を使用するかという最終的な意思決定はできません。つまり、アステラス製薬にとっての顧客であり、オウンドメディアでコミュニケーションを取るべき相手は医師が中心なのです。
- 売上計上のタイミング≠顧客の意思決定のタイミング
医薬品は製薬会社から薬局へいきなり運ばれるわけではなく、“医薬品卸”を介して流通しています。その医薬品卸が薬局からの注文に応じて医薬品を納入するのですが、ここが製薬会社にとっての売上計上のタイミングとなります。つまり、顧客である医師が処方箋を発行した(医薬品の購入を意思決定した)タイミングとは異なるわけですね。
これらの事情により、リアルタイムコミュニケーションに代表されるような DSP等の運用型広告で顧客行動が変化した直後にクリエイティブを切り替えることはできませんし、マーケティング施策の効果を正確に把握することも難しいといいます。「だからこそ、できるだけ質の高いメール配信や、オウンドメディアでコンテンツのレコメンドなどを通じたコミュニケーションが、我々にとって非常に重要になってくるのです」(小泉氏)
上記の図が、今のAdobe Marketo Engageを中心としたコミュニケーションフローです。Adobe Marketo Engage導入前は、セグメントごとに「メールだけ」「メール+営業」「メール+ウェビナー」といったチャネルを使い分けて、“戦略中心のプッシュ型マーケティング”を行っていたという同社。しかし蓋を開けてみると、実はすべてのセグメントに対して同じメールが送られているといったことが起きていたといいます。
そこで同社はAdobe Marketo Engageを導入。セグメントはそのままに、状態を追加で定義し、セグメントと状態のマトリックスで、それぞれに最適な施策を仕掛けていく“顧客体験中心のカスタマージャーニー型”へと切り替えたそうです。
「Adobe Marketo Engage導入後、メールからオウンドメディアへの来訪率が274%へと約3倍に増えました」と語る大石氏。次に、この大きな成果を上げた具体的な取り組みを見ていきましょう。
来訪率約3倍を実現したメールコミュニケーションの裏側
同社のメールコミュニケーションでは、次の3つの軸によってコンテンツを設計しているといいます。
・属性軸
属性軸のメインとなるのは職種です。同社にとってメインの顧客は医師ですが、ときに医師だけでなく薬剤師や看護師も顧客になるケースもあります。当然、職種が異なれば知りたい情報も変わってきます。例えば、医師であれば「投与した結果、どんな副作用が出るのか」が知りたいというケースがあり、薬剤師であれば「服用する際の用法/用量」などの患者さんに説明するための情報が必要なケースがあります。このように職種によって求められる情報を提供できるよう、適宜割り当てて進められたそうです。
・行動軸
行動軸とは、例えば「ウェビナーの視聴履歴の有無別」や「開封時間帯別」といったものです。顧客が能動的にコミュニケーションを取ろうとしたタイミングをトリガーにして、パーソナライズを仕掛けているのです。ただし、開封時間帯別に関しては、開封時間でスコアリングしてコンテンツを出し分けたものの、クリックパフォーマンスにはあまり影響はないことが判明したといいます。
・コンテンツ軸
Adobe Marketo Engageのダイナミックコンテンツ機能を使い、メールの中身を動的に出し分けたり、A/Bテストで最適化を促進するAdobe Targetを用いてオウンドメディア内でコンテンツを出し分けたりされています。
MRがアクションにつなげるためのSNS Bot活用法
続いては、オウンドメディアに来訪した顧客のデータをMR(営業担当)連携するために同社で活用されているSNS Botについてのお話です。
「製薬業界におけるMRの役割は非常に強い。パーソナライズを実現できる最も有効なチャネルは人です。その人であるMRが最小の時間で有効なデータを取り扱えるようにするために、情報提供する手段については、様々な検討を重ねてきました」と語る大石氏。そうして辿り着いたのが、「取り扱う情報の質や意味が異なるSNS Botをいくつか用意する方法だった」と言います。
顧客がオウンドメディアに来訪して特定の行動を行った場合、Adobe Marketo Engageがデータを収集。SNS Botを通じて、自動で担当MRに個別メッセージが入る仕組みになっています。
SNS Botに関しては、重要度と緊急度で種類を分けており、この 設計には営業担当者にも入ってもらった そうです。また、購買して欲しい(属性)と購買したい(行動)を掛け合わせたスコアリングを用い、このうちの一部をMRに通知して商談につなげる取り組みもされているといいます。
「最終的に最良な顧客体験を提供するのは、MR自身です。どんな通知を受け取ればその後の営業活動に繋げられるのか、どんなアクティビティがあればお客様のインサイトを把握できるのか、といった情報を出してもらうよう議論を進めていきました」(大石氏)
このようなSNS Botを実装してから約1年の間にMRに通知した件数は5,000件以上。この通知によってMRが行動した結果、顧客の購買行動につながった事例も出てきているそうです。
最後に、アステラス製薬のマーケティングを支えるシステム構成についてご紹介がありました。Adobe Analyticsでオンライン行動のデータ分析を行った後、プライベートDMPでセグメンテーションを行います。そのデータはAdobe Marketo EngageやAdobe Targetと連携しており、Adobe Experience Managerでパーソナライズされたコンテンツ配信をされています。
「シームレスなオムニチャネル体験を提供するには、データ連携のしやすさが重要。非常に高い成果を出せるシステム構成になっていると感じているので、皆様にもぜひ参考にしていただきたいです」と小泉氏は語り、講演を締め括りました。