【イベントレポート】第4回|Adobe Experience Manager ユーザー会
9月30日、第4回Adobe Experience Manager ユーザー会(以下、AEM UG)が花王株式会社にて開催されました。当日は、約40名17社のAdobe Experience Managerユーザーが集いました。
今回のテーマは、「オンプレからCloudへ」。「いつかはクラウド版(Adobe Experience Manager as a Cloud Service)に切り替えたい」とお考えの皆さんが気になる質問に、多数お答えいただきましたので、ぜひご参考いただければと思います。
約100社の外注先と管理する、花王のwebサイト
まずは花王の高嶋さんより、Adobe Experience Manager活用の現状について紹介がありました。
花王では、グローバルで708サイト、アセット数282万件(55TB)、年間4億PVをAdobe Experience Managerで運営されています。サーバはAWS。本社のある日本のTokyo RegionとAEMEA(欧米)のVirginia Regionの2拠点で、グローバルインフラとして提供しているのが特徴です。

商品画像や能書テキストはAdobe Experience Managerに格納し、データを製品カタログや「My Kao Mall」(自社ECサイト)を通じて生活者へと展開されています。商品登録フォームや販売管理フォームといったECで必要な多くの機能も、Adobe Experience Managerの環境上で構築。CM動画も併せて格納し、公開日/終了日を指定した上で、web Video Managementを経由し、花王のYouTubeチャンネルで配信しているそうです。
続いて、Adobe Experience Managerのアカウント管理について話がおよびました。700以上ものwebサイトは、約100社にもおよぶ外注先の制作会社や代理店が制作しているため、「花王Adobe Experience Managerトレーニング会」を隔月で開催。トレーニングの参加者にだけAdobe Experience Managerのアカウントを発行することで、ガバナンスを利かせていると言います。併せてマニュアルサイトも提供しており、常に最新の情報を共有されています。
アセットに関しては各事業部や作成部門をはじめ、商品画像やCM/動画制作を行う外部パートナーにライセンスを提供しており、各自が登録できるようにしています。こちらも運用マニュアルを各種用意し、不明点について問い合わせを受け付けるサポートメンバーも配備しているとのことでした。
「このように、複数のリージョンで大規模なサイト運営を、ガバナンスを利かせながら運用しているため、現在のオンプレミス環境からクラウド環境へと移行するには、かなりのパワーを要することが分かっています」と語る高嶋さん。「今日ご参加の皆さんのうち1/3はすでにクラウド化されているとのことですので、ぜひこの後生の声をお聞かせいただきたい」とセッションを締めくくりました。
花王 高嶋 智也さん
花王のレジェンドに聞く、Adobe Experience Manager活用
次に、参加者の皆さんから寄せられたAdobe Experience Managerの運用に関する質問に対し、花王の田中さんがお答えくださいました。いくつか抜粋して、ご紹介します。
Q. もしAdobe Experience Managerを一から導入し直せるとしたら、まずは何をしますか? また、それはなぜですか?
田中さん:標準のコアコンポーネントを使うつもりにしていたが、結果的にオリジナルのコンポーネントを複数作ることになってしまいました。そのため、現状セキュリティパッチを適用する際には、念のためすべて動作確認をしなければならなくなっています。やり直せるなら、オリジナルのコンポーネントは作らないようにしたいですね。
後は、今から導入するならクラウド版を利用できるので、リージョンを分ける必要はなくなり、インスタンスも1つで済むかもしれません。クラウド版なら保守運用はアドビに任せられるので、コストやスピードの面でメリットがあるのではないでしょうか。
花王 田中 剛さん
Q. 日々のコンテンツリリースは、社員さんとベンダーさんのどちらが行っているのでしょうか?
田中さん:承認は花王側でしていますが、コンテンツリリースの作業自体はベンダー(代理店や制作会社)が行っています。①花王の事業部門やクリエイティブ部門の担当者がAdobe Experience Managerのプレビューエリアで確認しOKを出す、②代理店がワークフローを投げる、③我々が承認する、という流れですね。我々が承認したものは、予約した時間に公開されるようになっています。
Q. Adobe Experience Manager活用における課題について教えていただきたいです。
田中さん:Adobe Experience Managerを導入してから7〜8年が経ちますが、不都合なところは改修してきましたので、システム的な課題はありません。あるとすれば運用面で、新規の制作会社がすぐにHTMLを書きたがること。HTMLを書くと、テスト工数がかかるので、我々のコンセプトではHTMLは書かせません。とはいえ、自由な表現においては不平不満につながることがあるので、花王のAdobe Experience Managerに慣れている熟練の会社に限って、フルHTMLコンポーネントを開放することもあります。
クラウド版へ移行するときに気になるあれこれ
最後は、すでにAdobe Experience Managerのクラウド版に切り替えているマクニカ 嶋内さんとソフトバンク 田村さんに、クラウドにまつわる疑問にお答えいただきました。
グローバルサイトをAdobe Experience Managerで構築しているマクニカですが、クラウド移行時の工数については、「実態は移行というよりスクラッチで作り直すイメージ。フロントをしっかり情報設計した上で、テンプレートやコンポーネントに徐々にブレイクダウンしていきました。フルスクラッチに近い工数がかかるので、半年から1年かかりましたね」と嶋内さんは語ります。
マクニカ 嶋内 宏和さん
移行で苦労したのは、グローバルサイトのリニューアルだと語る嶋内さん。運用を十分に考慮しなかったため、海外の子会社からクレームが来てしまったそうです。「デザインにフォーカスせず、以前のCMSからそのままAdobe Experience Managerに移管したので、フロントだけでもコアコンポーネントを作り直そうかという話が上がっています。まだ移管して2年ほどしか経っていないんですけどね……」。
とはいえ、クラウド版に移行したことで、かつてオンプレミスで別のCMSを利用していた頃と比べ、エンジニアの人的コストが大きく削減できたという嶋内さん。今はサーバの保守運用はアドビに任せられることや、セキュリティ面も二要素認証でシステム連携できているため、いろいろな意味で安心感があるそうです。
他方、法人向けのソフトバンクでwebサイトを運営している田村さんは、「移行時に配慮すべきなのは、できるだけ標準のコンポーネントだけで開発すること。Adobe Experience Managerのクラウド版は自動アップデートが入るので、カスタマイズしすぎると自動アップデートした直後に思わぬ挙動をしたり表示が崩れたりする場合もあるからです。Adobe Experience Managerの運用を始めて4年経ちますが、コアコンポーネントに沿った運用にしているため、今のところ問題なく使えています」。
加えて田村さんは、「運用をスムーズに軌道に乗せるためには、アドビのコンサルタントやAdobe Experience Managerの知見が豊富な制作会社に依頼することが重要だ」と強調します。「初期投資はかかりましたが、その分、クラウド版ではインフラの保守運用はアドビがしてくれます。今はサイト運用も内製できるようになったので、長期的に見ればかなりコストを抑えられていると考えています」。
ソフトバンク 田村 慧さん
さらにコスト面では、こんなメリットもあると言います。「私はインフラの知識が全然ありませんでしたが、Adobe Experience Managerのクラウド版であれば、少し勉強するだけで、簡単なサーバの設定変更は自分でできるようになりました。毎回外部ベンダーに委託して、費用が発生するようなことがないのも、すごく良いところですね」。
今回のAEM UG は、初参加の方が約半数を占め、オンプレミス版、マネージド版、クラウド版をご利用の方が、それぞれほぼ同じ割合ずつ参加されていました。

今後も、 AEM UG は定期的に開催される予定です。ユーザー会はどんなユーザーにも開かれた場所です。ぜひ日々の業務で疑問や悩みを抱えている際には、ユーザー会で参加者の皆さんに尋ねてみてください。きっと何か解決の糸口が見つかるはずです。
次回のユーザー会情報は、AEM UGページでお知らせ予定です。AEM UGメンバー登録してお待ちください。また、このユーザー会は、Adobe Experience Managerのユーザーが運営メンバーとしてイベント開催に向けて準備しています。イベント運営にご興味のあるユーザーさん、ぜひご連絡ください。