webサイトのグローバル展開におけるベストプラクティスとは?

世界で事業を展開する企業にとって、webサイトのグローバル対応は欠かせません。いかに効率良く、効果的に運用するかが課題となっています。

このテーマについて、Adobe Experience Managerのユーザーが最新情報を共有する場として、2025年7月、「Adobe Professional Services Meet Up 2025 Summer」を開催。当日は、多くのグローバル企業からAdobe Experience Manager を利用するwebサイト管理者様にご参加いただき、熱気あふれる議論が交わされました。その模様をレポートいたします。

「Shift Left」でグローバルサイト運営にガバナンスを利かせる

今回のMeet Upは、Adobe Experience Managerのユーザー、または導入を検討している企業を対象に、アドビのコンサルタントによるグローバル対応のフレームワークと最新の技術動向についてのプレゼンテーション、先進ユーザーの取り組み事例を披露するパネルディスカッションなどが行われました。

冒頭、アドビ プロフェッショナルサービス本部 グループマネージャーの永島 充がオープニングトークとして、本イベントのキーワードとなる「Shift Left」について説明。Shift Leftとは、ソフトウェア開発の現場で使われる用語となっており、開発工程図の左側(=構想段階)で、できるかぎり最終的に求められる機能やそれに関わる必要事項などを想定しておくことで、手戻りを減らし、開発を効率化するコンセプトです。

Shift Leftとは、構想段階で可能な限り、必要な機能や事項を想定し、開発を効率化する考え方。

「この考え方は、webサイトのグローバル化についても当てはまります。サイトの公開日を優先して開発を進めてしまうと、国内のページをすべて作ってから、グローバル展開を考え始めることになりかねません。それでは手遅れです。機能だけでなく、それを支えるプロセス、組織を含めたグローバルプラットフォームの要件を満たすためには、Shift Leftの考え方で、プロジェクトの最初の段階からグローバル化を前提に取り組む必要があります」と永島は説明しました。

アドビ プロフェッショナルサービス本部

グループマネージャー

永島 充

グローバルサイト戦略を成功させるガバナンスモデル

続いて、アドビ プロフェッショナルサービス シニアコンテンツ ストラテジーアーキテクトの蒲生慶都が、「Adobe Experience Manager グローバルコンテンツガバナンスモデル」の詳細を説明しました。これは、アドビのプロフェッショナルサービス(コンサルティングチーム)が考案したベストプラクティスであり、アドビがwebサイトのグローバル展開を進める企業に独自に提供しているフレームワークとなっています。

蒲生は、このモデルを導入することでの企業が得られるメリットについて、「戦略とブランドの一貫性を保ち、リスクを可視化することができます。また、運用のコストとスピードを最適化し、グローバルとローカルの連携強化も可能です」。

Adobe Experience Manager グローバルコンテンツガバナンスモデルでは、「コンテンツ戦略」「オペレーション戦略」「ローカライゼーション戦略」「コミュニケーション戦略」の4つの軸で構成されています。

Adobe Experience Manager グローバルコンテンツガバナンスモデルでは、アドビのコンサルティングチームの独自フレームワークであり、「コンテンツ戦略」「オペレーション戦略」「ローカライゼーション戦略」「コミュニケーション戦略」の4つの軸で構成。

1つ目のコンテンツ戦略は、コンテンツを誰に届けるかを定義することです。これには3つのポイントがあり、まず各地域や文化圏のターゲットオーディエンスの特性やニーズを理解し、どの言語で展開するか、言語のバリエーションを決めます。次に、コンテンツを作る際の標準を定めます。国が違っても自社のブランドに一貫性を持たせるためのガイドライン、マーケティングやプライバシーの法制度に沿ったポリシーを定め、品質基準を決めます。最後に、グローバルとローカルを区分します。「何を共通にして、どこからローカルにするかを決めます。例えば、製品情報やブランドメッセージはグローバルで統一し、キャンペーンやプロモーションはローカルで最適化する、といった役割分担を明確にしていきます」と蒲生は説明。

2つ目がオペレーション戦略。ここでは、グローバルサイトのガバナンスを「中央集権型」「連邦型」「分散型」から選択していきます。中央集権型の場合は、本社が作ったコンテンツをAdobe Experience Managerのライブコピー機能を利用して展開し、各地域のコンテンツを作る方法が有効です。逆に分散型の場合は、各地域の独立したコンテンツの中に、本社のコンテンツを取り込んで翻訳する流れになります。いずれの場合も、コンテンツ管理の責任範囲を定め、承認フローも明確にする必要があります。

3つ目の軸であるローカライゼーション戦略は、翻訳をどういう体制で進めるか。人か機械翻訳かを判断し、人の場合は社内のスタッフか、それとも外部の翻訳者に依頼するのか、さらに、原稿のやりとりなど実際の翻訳のフローも決めます。「ここを明確にしておかないと、翻訳の品質にばらつきが生まれ、ユーザー体験を低下させます」(蒲生)。

そして4つ目のコミュニケーション戦略は、直接Adobe Experience Managerの機能とは関係しないものの、ガバナンス全体を形骸化させないための重要な項目になります。例えば、変更時に誰にどう伝えるのかルールを策定。またグローバルチームとの定期的なミーティングや、マニュアルの整備も必要です。

アドビ プロフェッショナルサービス

シニアコンテンツ ストラテジーアーキテクト

蒲生 慶都

翻訳管理システムを正しく運用する

グローバルサイトの運用では、5~10以上の言語に対応する必要があり、翻訳管理システム(TMS)をうまく活用することが、翻訳の質を高め、ブランドの多国展開を効率化する上で重要になります。それにより製品名や用語を統一することが容易になり、一貫性のある翻訳が実行できます。また、マニュアル操作で原文のファイルを操作することは、ミスを犯すリスクもありますが、TMSによって運用プロセスを自動化することができます。特にTMSとAdobe Experience Managerを同期することで、膨大な量のページの翻訳でも不安なく、効率的に運用することが可能です。

また、多くのTMSには翻訳メモリという機能があり、過去に翻訳した原文と翻訳のペアを保存し、再利用することで運用効率を大幅に高めることができます。グローバルサイトの運用にはなくてはならないTMSは、各社からサービスが出ていますが、「機械翻訳の種類やAdobe Experience Managerを含めた複数システムとの連携機能の有無が、TMS選びのポイントになります」と蒲生はアドバイスしました。

またAEMの導入は、地域ごとに段階的に進めることが一般的です。国や地域ごとに異なる課題をクリアするためには、専門家のサポートが欠かせません。蒲生は「AEMの導入においても、Shift Leftの考え方は重要で、アドビのプロフェッショナルサービスでは要件定義の段階から運用までサポートしています」と説明しました。

アクセシビリティはすべての人にとって重要

次に、グローバル展開において必要な「アクセシビリティ」の確保について、アドビ プロフェッショナルサービス コンテンツ ストラテジーアーキテクトの小林玲美が説明。小林はまず、米国や欧州をはじめ、世界でアクセシビリティに関する法律が相次いで制定されており、訴訟リスクも急増していることに触れました。

2017年から2022年の5年のうちに、訴訟件数は約4倍に増加。「デジタルサービスにおいて、障がい者に対する差別を禁止するというのが、米国アクセシビリティ法の考え方です。某飲食チェーン店では、ECサイトの画像に代替テキストが無く、スクリーンリーダーを当てても何の画像かを読み取ることができていませんでした。それに対し最高裁は、同社に賠償とサイトの改善を求める事案もありました」(小林)。

アクセシビリティを改善することは、法的なコンプライアンスの確立と同時に、ユーザー体験を向上し、ユーザーリーチを拡大します。さらにブランド価値をも高め、結果としてビジネスパフォーマンスの向上につながります。

小林は、そもそもアクセシビリティとは、障がいがある方のためだけのものでしょうか、と問いかけました。「例えば、動画に字幕が付いていますが、それは聴覚障がいのある方のためだけではありません。誰にとっても、音声を出せない電車の中や騒音が多い場所でコンテンツを理解するのに役立ちます。アクセシビリティは、すべての人のためと考えることがポイントです」と説明します。

アドビ プロフェッショナルサービス

コンテンツ ストラテジーアーキテクト

小林 玲美

アドビ製品には、あらかじめアクセシビリティに対応した機能が組み込まれています。例えばAdobe Experience Managerのコアコンポーネントには、webサイトアクセシビリティの国際的ガイドラインであるWCAGに準拠した機能が搭載されており、オーサーは簡単に画像の代替テキスト入力や、キーボードナビゲーションをサイトに実装することが可能となっています。

「機能面でアクセシビリティに対応できても、最終的にアクセシビリティを実現するのはサイトのデザインやオーサリング方法次第です。Adobe Experience Managerのコンサルタントは、Shift Leftの考え方に基づき、開発初期の戦略、デザインフェーズからアクセシビリティに関する助言をすることで、問題を早期に発見、解決します」(小林)

Shift Leftのコンセプトで、初期段階からアクセシビリティに着手し、継続的に管理することで、誰でも正しい情報にアクセスできるグローバルサイトを構築することができると、小林は語りました。

上記で紹介したAdobe Experience Manager グローバルコンテンツガバナンスモデル、翻訳管理、アクセシビリティについての詳しい内容は、別途ホワイトペーパーにて詳細を記載しております。

グローバル運用を効率化する最新技術

講演パートの最後には、アドビ プロフェッショナルサービス ソリューションアーキテクトの友野直喜が、現在開発中のAdobe Experience Managerの機能のうち、グローバルサイト運営に役立つものを3つピックアップ。

1つ目は、webサイト配信ツールの「Edge Delivery Services」。最新技術でサイトのオーサリングを最適化し、パフォーマンスを改善させることができます。オーサリング方式は2つあり、属人化を防ぎながらパフォーマンスを向上させる編集ツールと、Microsoft WordやGoogle Docsのコンテンツをそのままweb化する方法から選ぶことができます。

2つ目に紹介した「Sites Optimizer」は、webサイトの構造を分析し、アクセシビリティ、パフォーマンス、SEOやセキュリティの問題を改善。AIによってサイトの課題を短時間で検出し、ワンクリックで修正することが可能です。

3つ目が「LLM Optimizer」です。これは自社のwebサイトがAIモデルによってどのようにメンションされているのかを可視化し、改善するためのツールとなっています。

「今やAI経由のトラフィックが小売りサイトなどに与える影響は非常に大きくなっています。SEOと同等に、LLMに最適化することで、自社ブランドの価値をユーザーだけでなく、AIにも正しく届けることが不可欠です」と友野は説明します。

アドビ プロフェッショナルサービス

ソリューションアーキテクト

友野 直喜

webサイトのグローバル展開は、Shift Leftの考え方でコンセプトやデザインの段階からグローバル化を前提にした開発を行うことが重要です。そして、テクノロジーで解決できる問題は積極的にツールを活用し、開発や運用の効率化を図ることができることを、今回のMeet Upで参加者の皆さんに理解していただきました。

セッション後には、ネットワーキング​の場が設けられ、参加された皆さんは自社が抱えている課題や悩みを打ち明けながら、解決のヒントを探っていました。アドビでは、こうしたMeet Upのようなイベントを通じて、最新の技術動向を提供するだけでなく、ユーザー同士が情報交換をしていただくことが、大切だと考えています。参加者からは「同じ業界のかたと、webサイトをグローバル化する際の課題を共有することができ、良い機会だった」という感想もいただきました。今後も様々なテーマで実施していく予定です。

ネットワーキング​では、参加者の皆さんが和気あいあいと会話をされ、自社の課題や悩みを共有し合い、情報交換をされていました。