CXM(顧客体験管理) の実践

顧客体験管理(CXM)を実践する上でのポイント

前回の記事で、マーケティングDXにおける顧客体験管理(CXM)の重要性や、顧客体験管理基盤を検討する際の登場人物であるCxO、マーケター、IT部門ならびにエンジニアにとっての顧客体験管理のあるべき姿についてご説明しました。今回はAdobe Experience Cloudを活用して優れた顧客体験を提供している国内企業の事例を交え、CXMを実践する上でのポイントをご紹介します。

CXMの実践によって実際に提供されている顧客体験

まずは、実際にCXMを実践することで提供されている顧客体験についてご紹介します。

データを活用することで、どのような顧客体験が提供できるかを踏まえた上で、自社にとって最適な顧客体験を設計し、スピーディーに実践できるようになるためには何が必要かを検討しましょう。

リアルタイムなパーソナライゼーションの実現

上記の図は、お客様の行動に応じてリアルタイムに提供しているリテール業界における顧客体験です。パーソナライゼーションは、ブランドとの初接触である「未認知でのブラウジング」の時点から始まっています。「認知」の段階から「初回購入」、「エンゲージメント」、「2回目購入」、「2回目購入後」の順に具体的な顧客体験の内容を見てみましょう。

A: 未認知でのブラウジング

B: 非顧客向けのパーソナライズ

C: 注文完了と合わせて会員登録

D: ウェルカムメールの受信

E: アイテムの詳細情報に関するメールの受信

F: レコメンドメールの受信

G: カートリマインドメールの受信

H: 値下げや在庫わずかであることの通知

I: 購入したアイテムの使い方を通知

J: クロスセルのオススメメールの受信

上記のようなカスタマージャーニーのマイクロモーメントごとに、数多くのパーソナライゼーション施策を実行することにより、ブランドの信頼が高まり、ロイヤルティの高いお客様を増やす結果につながります。

CXMを実践する上でのポイント

前項では、CXMを実践することで提供している具体的な顧客体験をご紹介しましたが、このような顧客体験を提供するためには、自社の体制面・基盤面の強化が欠かせません。

特に、CXMに関しては、顧客体験を提供する施策の精度と本数が重要であることから、顧客体験管理基盤の構築はゴールではなく、スタートラインに立った状態であることを意味します。

優れた顧客体験を提供するために数多くの施策を実行している企業では、最適化施策を年間100本以上実施しているケースもあります。また、施策においてAI/MLを活用した施策が占める割合も年々増加しており、施策の売上貢献額のうち、70%以上をAI/ML活用施策が占めるケースも少なくありません。これは、優れた顧客体験は「パーソナライゼーション」の規模と精度が肝であり、パーソナライゼーションの実現にはAI/MLが欠かせないことを示しています。

このような顧客体験管理のための最適化施策を数多く実行するためには、また、AI/MLを活用して施策の効果を最大化するためには、体制面の強化が欠かせません。現在の組織において、CXMを実践する上で不足している人材・スキルセットが何かを判断した上で、必要な人材の育成および採用を進めてください。データに強い人材の確保なしに、CXMの成功は難しいでしょう。

また、体制面においては、CxO、マーケター、IT/エンジニアの連携が重要です。CxOが中心となり、全社で顧客体験管理を推進することにコミットした上での旗振りを行い、具体的な施策に関する立案、設定、評価をマーケターが担当、その下支えとして、IT/エンジニアが開発を伴う施策の実装や各種データの収集、各ツール間のデータ連携をリアルタイム性高く実現することで、顧客体験管理の取り組み全体の成功率を高めることができます。

優れた顧客体験を提供するまでのロードマップ

データ活用度がまだ低い事業の場合には、CXMを実践し、具体的な成果をあげるためには複数年でのロードマップを描くことが重要になります。CXMの取り組みを開始した初年度にすぐに売上増などの結果を求められることもありますが、初年度は基盤の導入だけでなく、人材育成も重要になることから、1件以上の成功事例の創出は必須としながらも、その売上貢献のスケールアップよりも次年度以降に向けた足固めに注力する方が、関係者の納得感が得られやすく、結果としてうまくいくケースが多いです。

実際のロードマップの例を見てみましょう。

上記の図は、実際に国内企業にて取り組んだCXMの実績にもとづいたロードマップです。

取り組みの初年度はAdobe Analyticsを利用した顧客の行動分析、Webサイトのボトルネック分析や分析手法のトレーニングに注力しました。これにより、Webサイトや顧客体験の課題が数多く発見され、一覧化されます。このWebサイトの課題を解消するために、Adobe Targetを利用したA/Bテストを数多く実施していきます。分析によって明らかになったWebサイト上のボトルネックを改善することで、CVRが改善し、取り組みによる売上貢献度が可視化されるとともに、施策立案者にとっての成功体験を創出することに成功しました。

その上で着手したのがAdobe Targetを活用したパーソナライゼーションです。はじめに行ったパーソナライゼーションは、行動データにもとづくレコメンデーションでした。レコメンドは、来訪者に関連性が高いコンテンツを自動で訴求できることから、AI/MLを利用した施策の中でも最も効果が出やすく、且つ数多くの来訪者に対してリアルタイムに適用できる施策です。

このパーソナライゼーションの質を高めるために次に活用したのがAdobe Audience Managerです。

Adobe Audience Managerにより、クロスデバイスでセグメントを作成できるだけでなく、類似オーディエンスのモデルやペルソナ分類のモデルなどのAI/MLを活用したセグメントの予測により、高度なセグメンテーションが可能になりました。

次年度には、Adobe Campaignを活用したマーケティングオートメーション施策を開始しました。初年度にAdobe TargetによるWebサイト上のボトルネックを改善したことで、メールを中心としたマーケティングオートメーション施策の効果を最大化することができました。

また、一般的なマーケティングオートメーションと異なり、Adobe Analyticsの行動データやAdobe Targetのレコメンドデータが利用できることから、特定のページや特定のアイテムを閲覧した来訪者に対するトリガーメールや、レコメンドを活用したパーソナライズドメールが配信できました。

翌年度には、Adobe Experience Platformを利用することで、これまで以上にリアルタイムなパーソナライゼーション施策が実行できるようになりました。来訪者の特定の行動からN分後にパーソナライズされた関連性の高いメールを配信することで、マーケティングオートメーション施策の効果自体も飛躍的に向上させることができました。また、リアルタイムという点だけでなく、実店舗の購買データも活用したクロスセル訴求のレコメンドデータを活用したトリガーメールの配信など、チャネル横断のパーソナライゼーションの実現にも成功しました。

このように、CXMを推進する際には、CXMの実践に関する複数年でのロードマップを描き、顧客体験の提供に関する関係者全員が、自身の成長とビジネスの成長の両方を感じながら、積極的にCXMに取り組める仕組みづくりが求められています。

今回ご紹介した事例やポイントを踏まえた上で、自社にとっての顧客体験管理のあるべき姿を明確にしていただき、大規模に優れた顧客体験を提供するためのパーソナライゼーションを実行する基盤の選定と、組織横断で顧客体験を管理する体制の構築を進めてください。

優れた顧客体験の提供に対して予算およびリソースを割り当てることが、企業の競合優位性を高めることにつながり、継続的な事業の革新と創造につながっていきます。