CMOが顧客中心のブランドを作り上げるためのデータ活用とDX

急速な社会の変化を受け、デジタル上の顧客への対応を行うマーケティング部門の役割が。本記事では、Adobe Experience Cloud Blog(英語)より、CMOが顧客中心のブランドを作り上げるために、顧客データとデジタルの接点創出について解説します。

見直されるCMOの役割

近年、企業が顧客を理解し、顧客の要望に応えるために様々な変革を進める上で、戦略策定におけるマーケティングの役割が拡大しています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを受け、目まぐるしく社会が変化し続けていることも影響の1つといえます。

企業にとって、変化によって起きた最も顕著な転換は、突然かつ大規模なビジネスのオンライン化でした。調査レポート「Digital Trends 2021年版」によると、その転換によって、マーケティングはかつてないほど急速に、経営にかかわる議題となりました。その結果、CMO(最高マーケティング責任者)の役割が一から見直されています。

このレポートには、「デジタルへの転換は劇的であり、至る所で発生した」と記されています。「ほとんど例外なく、ブランドは自社のデジタル戦略を、マーケティングや顧客サービス、あるいは商品の一要素ではなく、顧客体験とビジネスの成長の核となる推進要因と考える必要があります」

ほとんどの企業においては、マーケティング部門がデジタル上の顧客へ対応する責任部署です。そして、このデジタルでの顧客増加は急激に進んでいます。データを見ると約半数の企業が、新たな顧客が多数現れたと報告しており、同じく約半数の企業が、これまでと異なる顧客行動と購入経路を経験したと回答しています。

「当社の現状では、デジタルの接点は非常に重要なものとなりました」と、ある回答者は語っています。「ほとんどの場合、マーケティング部門はこうしたプロジェクトを既に主導しており、マーケティング部門が社内で持つ重要性とリーダーシップは、さらに大きなものになりました」

企業がこうした新たな顧客を理解し、その要望に応えようと奮闘する中、2020年の1年間を通して、戦略策定におけるマーケティングの役割が拡大したと、回答者の4分の3が答えています。

世界的なワクチンプログラムが、「ニューノーマル」を実現するという希望をけん引している今、多くのCMOが直面している課題はデジタルに適応するリーダーとしての役割をいかに確立し、維持できるかという点です。

CMOの成功の鍵を握る、リアルタイムのデータとデジタル変革

アドビのチーフテクノロジーアドバイザーであるScott Rigbyによると、変化し続ける環境においては、状況の変化と、その変化がもたらす顧客行動への影響を、マーケティングが把握できることが重要になります。

「私たちは変化の激しい環境におり、ロックダウンが繰り返されています」とRigbyは言います。「先進的な企業では、顧客データにどのような変化が起こっているか、実情をリアルタイムに、かつ正確に把握しています」

その結果、顧客体験を提供、追跡、管理するテクノロジーへの持続的な投資を戦略的に行ってきた企業は、2020年の下半期に成功を収めました。「Digital Trends 2021年版」によると、こうした企業の70%以上が競合他社に勝っており、当該分野で「他社を大幅に勝る」確率は、平均より3倍高いものでした。

顧客データの照合、理解、さらにはデータに基づいた行動への投資が、今後のCMO成功の鍵となります。

顧客データの活用による、エグゼクティブの協力関係の推進

パンデミックを受けて顧客行動への注目が高まったことにより、CMOの力も強まりました。顧客データとインサイトが持つ価値が、経営陣のさらなる協力関係、特にCOO、CCO、CIO、CFOとの協力を推し進めています。

Gartnerの最新の調査「Leadership Vision for 2021」によれば、CMOは「経営陣の間での連携および協力関係を明確にし、深める」ことで、成功を揺るぎないものにする必要があります。この調査では、経営陣の90%が、各部門のリーダーに対し、COVID-19の危機的状況において、強力かつ部門横断的な協力の実現を期待していることが明らかになりました。

この好例がスーパーマーケットチェーンのColesです。CMOのLisa Ronson氏は、希望の食料品や生活必需品の供給に関する不安からパニック買いに至るまで、顧客行動の急激な変化に対処するために、自社のCOOおよびCCOと、少なくとも1日に1回は打ち合わせを行っていると語っています。

「当初は、協働とコミュニケーションがすべてでした」とRonson氏は言います。「私たちは一般的なリーダーシップチームよりもはるかに詰まったスケジュールで、意思決定を行っていました。1日に2回や3回とまではいかずとも、少なくとも1回は打ち合わせを行っていましたし、電話でも頻繁にやり取りをして、全員が情報を共有するようにしていました」

顧客に新たな衛生要件を順守してもらい、店頭でのソーシャルディスタンスに関する指針を提示できるようにする上で、それに関わるロジスティクス、コミュニケーション、マーチャンダイジングをしっかりと調和させる必要がありました。

一方、Colesのリサーチ&インサイトチームでは、オンラインの顧客データと、店舗での購入データ、コールセンターのデータ、個別受託調査、およびその他の情報源(レシピサイトTaste.com.auでの検索アクティビティなど)とを組み合わせて、顧客の行動パターンの変化を考察する顧客センチメントレポートを週次で作成しています。

「当社は、様々なパートナー企業をとても頼りにしています。それはリサーチとインサイトに関するパートナー企業だけではありません。テクノロジーのパートナー企業が、大量のデータを、分刻み、時間刻みで調査し、極めて洞察に満ちた形で提供してくださいます」Ronson氏はアドビのExperience Makers Liveイベントでこのように語っています。「当社はこのように多くの情報源を利用していますが、それはオーストラリアのすべての人々の心情を本当の意味で理解するためなのです」

顧客データの背後にあるインサイトを理解することで、Colesでは部門を横断しての一連のイニシアチブが推進されました。

顧客が食料品の買いだめを始めると、Colesは供給を維持するために店舗の営業をいったん調整しました。その後、保存がきく食料品を幅広くそろえて販売し、それらを使った料理ができるようになるよう、レシピも売り出しました。このとき、データ活用に関する新たな協力関係が活用されたのです。

「多くのお客様が一から料理を作った経験がないにもかかわらず、小麦粉をたくさん買い込んでいました」とRonson氏は語ります。「2020年の6月は、オーストラリア人の94%が、以前よりも多く料理をしていました」

9月までに、同社は「What’s for dinner?(今日の夕ご飯は?)」というキャンペーンを展開する方向に軸足を移していました。このキャンペーンによって、顧客が新しいレシピを覚えられるようになり、ホームクッキングのブームが後押しされました。これは、家族が家で過ごす時間が長くなり、子どもと楽しく過ごしたいというニーズによる部分もあります。

デジタル変革を推進する、技術的基盤の構築

CMOとCIOの協力は、パートナーシップの中でも特に重要です。これにより、CMOがテクノロジーを利用して、顧客の求める体験をもたらす上で役立つインサイトを生み出すことができるからです。

クラウド上でデータを管理する企業が有利であることは明白です。「Digital Trends 2021年版」によると、CXリーダーに分類された企業の3分の2が、マーケティングデータのためのクラウドベース統合型プラットフォームか、異なるシステムを連携するデータ管理レイヤーのいずれかを利用していました。

MG Motor Indiaのようなブランドは、テクノロジーの変革にメリットを見出しており、CIOであるManish Patel氏とデジタルマーケティングおよびコンテンツ戦略部門のトップであるUdit Malhotra氏との緊密な協力に支えられ、顧客体験の統一されたイメージを生み出しています。

この企業でまさに進行中のデジタル変革では、同社ブランドのwebサイト、50の販売代理店webサイト、そしてデジタルスクリーンをAdobe Experience Manager上で展開しています。そのため顧客は、このいずれかのデジタルチャネルと接触する際に、一貫性と統一性のある体験を得ることができるのです。この変革の成果は、既に400%以上のリード数の増加と9%のコンバージョン率の増加という数字としても現れています。

このようなさまざまなチャネルにまたがってブランドと顧客との間で行われるデジタルインタラクションは、Adobe Analyticsで取得されます。そして、蓄積されたインサイトを活用し、よりパーソナライズされた顧客体験を提供するために、Adobe Targetを使用します。MG Motorは、Adobe Audience Managerで生成されたデータ、販売代理店および同社webサイトから収集されたセカンドパーティのデータ、およびサードパーティのデータを使用して、リーチ数の増加とセグメント規模の拡大を目指しています。

「MG Motorにとって、顧客体験は最も重要です。そのためには、優れた広告を展開する以上のことが必要なのです」Malhotra氏はこのように語っています。「コンテンツのイノベーション、優れた体験の提供、データが備える能力、これらに対するアドビの知見により、当社はデジタルをはじめとする各種プラットフォーム全体にわたって、さらに充実した顧客体験を推進できるようになりました」

新たな顧客行動を成長のチャンスに変える

顧客行動の変化に対応し、新たな収益源と成長をもたらす機会を活かすことのできるCMOは、リーダーとして長く活躍できる傾向にあります。

Gartnerによると、これは「ビジネスおよび財務上の洞察力が十分でないという認識」に対処し、克服することへのCMOのニーズを示しており、戦略的意思決定に関与するとともに、その決定に影響を及ぼし続ける絶好の機会なのです。

Tourism AustraliaのCMOであるSusan Coghill氏は、この組織の経営幹部であり、顧客データから新たな成長機会を見出し、活用しているマーケターです。

「私たちのサイトを見ると、外国を訪れる旅行者と国内旅行者とでは旅の仕方が大きく異なることが分かります」とCoghill氏は言います。「特に、現在のような状況が発生し、人々が飛行機を利用できないようなときには、車での旅行のニーズが高まります」

こうしたニーズに対応するサービスとして、Tourism Australiaは、オーストラリア人の旅行者向けにオンラインマップを立ち上げました。これは旅行に役立つ情報を掲載するとともに、詳細なアドバイスが得られるそれぞれの州や地域のサイトへのリンクを設けたものです。Tourism Australiaでは、マーケティングチームの80%がAdobe Analyticsを利用できるようになっています。このツールを使用して分析した顧客の行動から、国内旅行者がいかに自動車旅行に回帰しているかについて、貴重なインサイトを得ています。

現在、Tourism Australiaでは、海外旅行を計画するように国内旅行を計画することを、オーストラリアの旅行者に勧めています。これは、「バケット(死ぬまでにやりたいこと)リストの体験」のほか、国内旅行産業の支援につながるようなオプションを組み込みながら実現します。

インサイトに基づくアジリティ

「Digital Trends 2021年版」によると、エグゼクティブの間では、インサイトを行動に転換する上でのアジリティとスピードが、2番目の優先事項でした。これを上回ったのはイノベーションのみです。

Bangalore International Airport Limited(BIAL)のCMOであるShalini Rao氏にとって、それはすなわち、テクノロジーを使用して顧客体験を計測、向上、評価することです。

昨年、パンデミックが拡大する中でRao氏が実施した調査の結果、「ロックダウン後に空港が再開したら飛行機で旅行する可能性がある」とした回答者は、わずか24%でした。飛行機での旅行を避ける理由としてほとんどの回答者が挙げたのが、COVID-19に感染することへの恐れです(72%)。

これを受けてBIALは、完全にデジタル化された、顧客の安全を優先するカスタマージャーニー「Parking to Boarding」を構築しました。

「エンドツーエンドで完全非接触を実現した空港は当社が初めてです」と、Rao氏は説明しています。「1年以上かけてデジタル変革の『計画』を立てていたものの、突然、すべてを3週間で実現する必要に迫られました」

この変革には、自動チェックイン機へのQRコードの導入、対面のやり取りを減らすバーチャルビデオヘルプデスク、搭乗券のバーコードを読み取るデジタルスキャナー、行列と空港の交通を管理して密集状態を防止するように改良されたシステムが含まれます。

アドビのテクノロジーを使用して、パンデミック下でも顧客へのエンゲージメントを確保する取り組みを行い、プラットフォーム全体にわたって顧客の安全に関する統一したメッセージを届けました。これにより、同社は需要の落ち込みにもかかわらず、加入者ベースでは30%の成長を達成することができました。

「未だ先行きは不透明なままです。どのような計画を立てているか詳細は言えませんが、誰もが『それが現在の私たちにどんな意味があるのか』と問いかけているのは間違いありません」とRao氏は述べています。

短期的な活動と長期的なブランド確立のバランス

Rao氏のコメントは、マーケティングにおいて、長年にわたって、短期的な活動と、長期にわたる戦略的なブランド成果を追求し続ける重要性との間で対立があり、それが過去1年間で激化したことを示唆しています。

「Digital Trends 2021年版」によると、2020年の下半期を通じて、このように顧客インサイトをすばやく獲得できるブランドが、より成功を収めました。また、ブランドはマーケティングの価値を証明できることで、予算を増やし、長期的なブランド確立に向けた活動を継続できるようになりつつあります。

ColesのLisa Ronson氏は、マーケティングチームを2つに分割することで、早期に課題に対処しました。1つは短期的なCOVID関連の活動に注力するチームで、もう1つは長期的な目標に目を向けるチームです。

Colesは最近、オーストラリア人の生活様式を称賛する「Value the Australian Way」というブランドポジショニングを新たに開始しました。ここで中心になるのは、食、そして友人や家族との集まりです。また、Colesは長期にわたるブランドへの投資に目を向け、マーケティングと広告への支出も増やしています。

「『CXリーダー』は、獲得やリテンションを中心に、マーケティング全体への支出を増やす傾向が強くなっています」と、「Digital Trends 2021年版」は指摘しています。

ほとんどのケースで、CMOの成功の土台となっているものは、データと、デジタルファーストの顧客に対する理解です。そしてそれは、これからの時代に、この業界の多くの会社が土台にすることができるポジションなのです。

「ニューノーマル」の時代、つまりデータを主軸としたCMOにとっての新たな時代へと進む中、新たな収益の機会を特定し、経営陣と協力しながらこういった機会を創出すること、さらにはブランドを支えるために必要な信頼を得て、投資、テクノロジーを確保することも、重要となるでしょう。