収益貢献にコミットするJCBのデジタルマーケティング戦略
日本発唯一の国際カードブランドを運営する会社として、ワールドワイドに事業を展開する株式会社ジェーシービー。そのカード会員獲得や、カードの利用促進、会員のLTV(ライフタイムバリュー)の最適化といった事業活動のためのデジタルマーケティングを支援しているのが、コミュニケーション本部 メディアデザイン部です。
今回は、アドビとビジネス・フォーラム事務局の共催で配信されたオンラインセミナーの中から、ジェーシービー(以下、JCB)のデジタルマーケティング戦略の内容をご紹介します。ご登壇いただいたゲストは、同社 コミュニケーション本部 メディアデザイン部の西野広一氏。お話を伺ったのは私、アドビ DXインターナショナルマーケティング本部 フィールドマーケティングマネージャーの松井真理子です。
各事業部と連携しながら、より効果の高いマーケティング施策を企画
ひと口にカード会社といっても、その種類は様々。カードを発行するだけでなく、決済サービスのための基盤を運営してブランドを確立し、そのブランドや決済基盤を世界中のカード発行会社に提供している国際カードブランド運営会社もあります。
「JCBは、日本発唯一の国際カードブランド運営会社です。2025年3月末時点で1億6977万会員、海外だけで3679万会員に上り、約160の国と地域でJCBカードをご利用いただいています」と、西野氏はJCBのビジネスについて説明しました。
世界中の会員がJCBカードで買い物をする金額は、年間50兆円以上(2024年度)。加盟店数は約5600万店に上るとのことです。
西野氏が所属するコミュニケーション本部 メディアデザイン部は、そんなJCBが新規カード会員の募集や、カード利用促進のために発行する印刷物/web媒体の制作および統制業務、カスタマーサポートのDX企画/推進などの業務を統括する部門です。
その中でも、西野氏はweb統制グループに所属し、各事業部が展開するデジタルマーケティングを最適化するための支援を行っています。
「JCBは、クレジットカードの他にも、ローンカード、紙のギフトカード、保険など、 様々な商品やサービスを扱っています。商品/サービスごとのデジタルマーケティング施策も、集客から、入会への誘導、入会後の顧客エンゲージメントの最適化など、非常に多岐にわたります。各事業部と連携しながら、より高い効果が得られる施策を企画し、その結果をもとに施策の改善を図っていくのが私たちの仕事です」(西野氏)
勝利数や、コンバージョン数、コンバージョン率を定量的に計測
西野氏が担当しているデジタルマーケティング支援の範囲を示したのが、下の図です。
これは、クレジットカードのデジタルマーケティングの例ですが、web集客を増やすためのSEO対策支援やweb広告運用支援に始まり、ランディングページに遷移したユーザーの入会率を高めるCRO(コンバージョンレート最適化)、会員によるショッピングや各種サービスの利用を促進する顧客エンゲージメント最適化など、幅広い領域にわたる支援を行っています。
「集客から利用促進に至るまで、つまりLTV全体でデジタルマーケティングの最適化を図り、支援する各事業部のKPI達成、ひいては JCB全体としての収益拡大に貢献するのが、我々の使命 です」と西野氏は語ります。
様々な支援業務の中でも、西野氏のチームが主要業務と位置付けているのがCROです。CROは2020年度から始めた活動で、すでに5年にわたる活動実績があります。
「どんな施策を打てば、コンバージョン率(入会率など)が高まるのかをA/Bテストで検証しながら、施策をブラッシュアップしています。5年間に実施した施策のA/Bテストは合計で530本に上りました」(西野氏)
初年度は70本程度だったテストが、直近では年間100本以上に上るなど、改善スピードは年を追うごとに加速しています。
「実際のアプローチとしては、まずUI/UX上のボトルネックを発見し、どうすれば改善できるのかという仮説を立てた上で、テスト、効果検証、さらなる改善というPDCAサイクルを回しています」と西野氏。このうち、課題の発見や効果検証に用いているのが、アドビの分析ツール「Adobe Analytics」です。
「Adobe Analyticsを使えば、実際にどれだけABテストの勝利数や、コンバージョン数、コンバージョン率が達成できたのかが定量的に計測できます。施策ごとの効果を精度高く評価/分析できるのがありがたいですね」(西野氏)
「分析レベルの向上」と「ユーザー理解の深耕」で壁を乗り越える
5年間にわたって合計530本のCRO施策を行った結果、収益貢献額は10.5億円にも上りました。
「サイトトラフィックを改善するだけでも、いかに 大きな財務的インパクト がもたらされるのかが分かり、その重要性に対する経営層や各事業部の認識も深まりました」と、西野氏は数字には表れない大きな効果が得られたことを明かしました。
とはいえ、5年前にスタートしたCRO施策は、最初から順調に成果を上げられたわけではありません。「進めていく中で、いろいろな壁にぶつかりました」と西野氏は率直に語ります。
中でも大きな壁となったのは、施策の「質」よりも「量」に依存しがちになってしまったことだと言います。「CROの収益貢献額を上げるには、施策の『量』を増やす方法と、『質』を上げる方法がありますが、『質』の良し悪しはすぐには分かりにくいので、つい『量』を追い求める傾向が強くなってしまったのです」(西野氏)。
施策の本数が増えると、1本ごとの仮説が甘くなり、検証にも十分な時間が割けなくなります。その結果、改善のためのナレッジはたまらず、施策の「質」がどんどん低下してしまい、ますます「量」に頼るようになるという負のスパイラルが回り出すのです。
この悪循環を断ち切るため、西野氏たちのチームは2つの対策を打ちました。1つは「分析レベルの向上」、2つ目は 「ユーザー理解の深耕」 です。
「『分析レベルの向上』については、施策ごとに『検証チェックシート』というものを必ず作成し、実施前の仮説が、実施後、想定通りになったのか? 想定外だったとすれば、何が原因だったのか?ということをしっかり分析するようにしました。『ユーザー理解の深耕』では、数字に表れないお客様の声やユーザー調査の内容をもとに、マーケティングコンセプト設計書を作成し、それに基づく施策の効果を確かめて、設計書をブラッシュアップしていくという方法を採り入れました。この2つの対策によって、ユーザー理解に基づいた一定の『質』が担保されたPDCAを回せるようになりました」と西野氏は語ります。
こうしたアプローチの改善が実を結び、5年間で10.5億円という収益貢献につながったのだと言えるでしょう。皆さんも、ぜひこのJCBの事例を参考にしつつ、デジタルマーケティング施策の最適化に取り組んでいただければと思います。