ロームの10年にわたるデジタルマーケティングの軌跡
Adobe Marketo Engageのユーザーグループ「MUG(AdobeMarketoEngageUser Group)」には、様々な分科会があります。本稿では、2024年9月6日に大阪で開かれた「KANSAI MUG」についてご紹介します。
ゲストスピーカーとして今回ご登壇いただいたのは、ローム株式会社 販売統括本部 マーケティング・コミュニケーション部 デジタルマーケティング課 デジタルマーケティング推進G グループリーダー 平山将希氏(2024 Japan Adobe Advocates)と、同グループの佐藤風氏です。同社の10年間にわたるデジタルマーケティング構築の歴史について、ご苦労や紆余曲折、それらを乗り越えたご経験も合わせて語っていただきました。
講演後には、参加者のリアルなお悩みにお答えいただく「大質問大会」や、懇親会も実施。大盛況となったKANSAI MUGの模様をお届けします。
ロームのマーケティング組織について
1958年創業のローム株式会社は、品質を第一とする企業理念のもと、LSI、半導体素子、モジュールといった多岐にわたる製品を製造販売しています。また、日本を本社として、アメリカ、中国、台湾、韓国、シンガポール、インド、ドイツなど世界各国に拠点を持ち、約4,700億円の売上高のうち、半分弱は海外が占めるグローバル企業でもあります。
そして同社のマーケティングを担うマーケティング・コミュニケーション部は、営業組織の傘下にあります。営業組織には、国内営業本部、海外営業本部、販売統括本部の3つがあり、中でもマーケティング・コミュニケーション部は販売統括本部に属していると言います。
そんなマーケティング・コミュニケーション部の役割は、「技術ブランディング/詳細認知向上」「集客・リード獲得」「リード育成」「営業連携・販売促進支援」であり、特に平山氏と佐藤氏が所属するデジタルマーケティング推進グループでは、下図の「集客・リード獲得」「リード育成」「営業連携・販売促進支援」を担っているそうです。
「『一人でも多くのリードを獲得し、ナーチャリングを通して、ホットリードの創出を行うこと。そのリードが案件、そして売上につながること』を目指し、Adobe Marketo Engageの仕組み作りやデジタルマーケティング施策の計画/実行/分析、デジタルマーケティングの社内浸透、人材育成に力を入れています」(平山氏)
施策で振り返るロームのマーケティングの歴史
同社の10年にわたるマーケティングの変遷をたどってみると、「マーケティングチャネルの拡大期」「海外展開期」「営業連携期(営業トライアル期/営業連携展開期)」の大きく3つに分けることができるとのこと。それぞれの期間で何をされてきたのか、一つずつご紹介していきます。
<マーケティングチャネルの拡大期>
2011年頃より、約5,000件のリードを対象にメルマガの配信を開始。12年頃は展示会への出展を盛んに行っており、一度に2〜3万件のリードを獲得できていたことから、リードジェネレーションには苦労されていなかったと言います。
しかし、「せっかくリードが増えても、メルマガ以外の活用手段がない」 という課題があったことから、13年より自社(新横浜/京都)を中心に、週1でプライベートセミナーを実施。“技術の学び”をコンセプトに、エンジニアが講師に立つことで、ロームの技術力(信頼感)をアピールしていきました。このセミナーは18年以降オンラインにも広げ、現在も続けているそうです。
そして14年には、オフラインとオンラインが連動した接点の創出に向け、オウンドメディア「TechWeb」もスタートしました。上記セミナーと連動する形で、エレクトロニクスに関わるすべてのエンジニアに向けた技術情報を提供しているサイトです。開始以降、「電源」「IoT」「Motor」の3サイトを順次立ち上げ、15年からは多言語展開も開始。日本語、英語、簡体字、繁体字、ハングルの5言語で展開されています。さらにロームの全製品カテゴリーをカバーするために、22年には3サイトの統合リニューアルを実施。今では年間300万アクセスを誇るサイトへと成長しています。
<海外展開期>
マーケティングの海外展開を進めるにあたり、同社では15年にAdobe Marketo Engageを導入されました。日本で導入後、翌年にはグローバル展開を開始。CoE(Center of Excellence)の考え方 をもとに、パーテーション分けやフォルダ構成、名称ルールの設定など、グローバルでの活用に向けたルールを作成したと言います。
海外展開においては、各国の法律が大きな障壁となりがちです。特にGDPRに対応する際には、社内の法務部やAdobe Marketo Engageの担当者に質問したほか、他社のAdobe Marketo Engageユーザーと議論を交えたこともあったと言う平山氏。「海外でマーケティングを展開する際には、個人情報の取り扱いに敏感になる必要があるため、あらゆる情報収集が重要になってくる」 と警鐘を鳴らしました。
また、海外展開の際には、各地域に最適な施策を企画/実行することも大切であり、「言語(表現など)」「デザインや色の好み」「一週間の労働状況」「休暇のタイミング」「活用媒体」「活用ツール」「コミュニケーション手段」といった現地の文化/環境などにも気を配る必要があるそうです。
<営業連携期>
マーケティングチャネルを整備して、海外展開も始め、ナーチャリングができるようになったものの、その先の出口がない、つまり マーケティング活動が営業活動につながらない状態 が続いていたと言います。そこで17年より営業との連携をトライアルで開始。社内で動いてくれそうな営業担当者に、「このお客様、今ホットだから行ってください」とお願いをするようなスモールスタートで進めたと言います。
次第に、少しずつ効果が出てきたことから、他の営業担当者も興味を持ち始め、大手直販顧客を担当する営業チームでトライアルを実施してもらえることに。実際、案件につながるような結果が出たことで、ようやく以下の図のような一気通貫の設計図を組み立てられたそうです。
営業連携において気になるのがスコアリングの設計です。同社では当初、あらゆるwebページの閲覧やメールの開封といった活動に対してスコアを付与していたものの、雑味が増えてしまい、ほんとうの興味関心度が見えなくなってしまいました。そこで社内のエンジニアにヒアリングをしながら、製品選定に影響のある行動だけをトラッキングしてスコアを付与するよう変更を加え、300点に達したらホットリードとしてみなすようにしたと言います。
また、このホットリードから案件化につながったお客様の行動を分析したことで、重要な行動特性を発見。この 重要な行動をしたお客様を「激熱リード」 と名付け、Adobe Marketo Engageで検知をした場合、すぐに営業に行動通知を送り、確度の高い営業活動に生かしてもらう取り組みもされています。
メールマーケティングで得られた大きな成果
次に、佐藤氏よりメールマーケティングを活用した施策事例について、ご紹介がありました。
顧客にとって身近な存在である営業担当者から、顧客の課題に沿った内容のメールをAdobe Marketo Engageより配信。これによって高いクリック率が見込めることから、マーケティング的にはタギング増加のメリットがあるほか、営業的にも大勢の顧客にOne to Oneのメールを送れることで、コミュニケーションの強化やアポイントメント/案件獲得につながりやすくなるメリットがあり、まさにWin-Winの施策であったと言います。
具体的な結果としては、開封率が約35%、開封後のクリック率は約70%と、通常のメルマガに比べ、大きな成果を上げることができたと言います。また、お客様からの返信があることも多く、クリックした人に追加でアクションを起こすといった、次の営業活動につながる効果 もあったそうです。
とはいえ、忙しい営業を巻き込む施策であることから、営業担当者の負荷を下げるために、「営業にはメール原稿の作成と配信リストのチェックのみをお願いする(配信作業はマーケティング側で行う)」「メール原稿は過去配信文を参照して作成してもらうか、マーケティング側で作成して配信したい人を募集する」という工夫をしたと話す佐藤氏。配信後には、次の営業活動に生かすためのレポートを提供し、「配信して良かった」と感じてもらえるよう配慮していたそうです。
「タギングはデジタルマーケティングの第一歩です。これまでタギング率をあまり意識されていなかった方は、もっと意識をされたほうが良い。また、メルマガは送ることが目的になりがちですが、『メルマガで何を達成したいのか』 を毎回しっかりと考えることが大事だと思います」(佐藤氏)
この後の大質問会では、「営業にはAdobe Marketo Engageの情報をどれくらい渡しているのか?」「営業が保有するデータをSFAに入力してもらうために、どのような工夫をされているのか?」「メールを配信してからナーチャリングに回すまでの期間はどれくらいで、それをどのように決めたのか?」といったAdobe Marketo Engageユーザーならではの質問が次々と寄せられ、平山氏と佐藤氏から一つひとつ丁寧にご回答いただきました。
また、KANSAI MUG終了後の懇親会では、ゲストと参加者が軽食をとりながら、Adobe Marketo Engage活用に関する活発な意見交換が行われており、皆さん和気藹々とコミュニケーションを取っておられたのが印象的でした。
KANSAI MUGは四半期に一度のペースで開催しています。どうしても東京で開催されるイベントが多い中、関西でユーザーの声が聴ける貴重な機会となりますので、関西エリア在住のユーザーの皆さんはぜひご参加いただき、多くの学びをお持ち帰りいただければと思います。