プロジェクト管理入門:アジャイルチームとは
アジャイルプロジェクト管理は、その発端であるソフトウェア開発の域を超え、幅広い分野で導入されています。米国の企業の70%以上が、アジャイル手法を作業管理に欠かせないフレームワークであると見なしています。独自のアジャイルチームを構築し、成長させることは、困難に思えるかもしれません。アジャイルプロジェクトマネージャーは、十分なリソースを継続的に確保しながら、チームが成果を最大化できるように努めなければならないため、特に負担が大きくなります。
しかし、アジャイルチームを編成しなければ、市場の急激な変化、新規参入企業によるイノベーション、業界の予期せぬ変動などに迅速に適応することができず、さまざまな課題に直面することになります。
アジャイルチームの概要や仕組みを把握することで、高まり続ける顧客のニーズから、プロダクトイテレーションの遅延に至るまで、状況の変化にすばやく対応できるようになります。アジャイル戦略を採用している企業は、プロジェクトの成功率が64%に達しているのに対し、その他の戦略を導入している企業は、成功率が49%にとどまっています。
この記事では、アジャイルチームの概要、利点、編成方法を解説します。
アジャイルチームとは?
アジャイルチームとは、開発、検証、納品の各段階を通じて、アジャイルプロジェクトを成功に導くことを目的とした、さまざまなスキルを持つ従業員で構成されるチームです。通常、特定の分野の専門知識を有する、5から10人のメンバーで編成します。
アジャイルチームには、明確なビジネス目標が設定されています。また、自律的な統制と行動、責任の共有、部門横断的な連携が不可欠となります。
アジャイルチームは、アジャイル手法に従ってプロジェクトを管理します。つまり、大きな目標を小さなフェーズに分割し、継続的なイテレーションと改善を通じて目標の達成を目指します。「アジャイル」という言葉のとおり、チームは制約を受けることなく、各フェーズの課題をすばやく解決し、プロセスを柔軟に調整できます。
アジャイルチームの利点
あらゆる状況の変化に対応できる柔軟性と拡張性は、アジャイルチームがもたらす利点のほんの一部にすぎません。多くの企業は、アジャイルチームの数多くのメリットを享受するために、ソフトウェア開発だけでなく、幅広い分野でアジャイルチームを導入しています。ここでは、アジャイルチームの利点をいくつか紹介します。
- 顧客エンゲージメントと顧客満足度の向上: アジャイルの反復的なアプローチにより、企業は新しい製品やサービスを継続的に生み出し、顧客との良好な関係を維持できます
- 製品品質の向上: アジャイル手法では、プロセスの改善に焦点を当てます。チームは、成長分野を見つけ出し、プロセスを迅速化することで、その場しのぎの対応ではなく、長期的な品質管理を実現できます
- 適応性の強化: プロセスの途中で柔軟に調整できるため、ダウンタイムを最小限に抑えながら課題を解決し、変化に適応できます。また、タスクに優先順位を付けることで、プロセスを効果的に進めることができるようになり、一貫性のある納品が可能になります
- プロジェクト管理の強化: プロジェクトの最終目標を設定し、進捗状況を継続的に追跡することで、成果物を定期的に確認し、調整できます
- リスクの軽減: 漸進的なアプローチにより、目標を達成できないリスクを最小化し、期待値や戦略を見直すことで、確実に成果を上げることができます
- コラボレーションとフィードバックの促進: アジャイルチームでは、積極的なコミュニケーションが重視されます。チームメンバーは、定期的にミーティングを実施し、フィードバック、進捗状況の報告、改善策の提案をおこなう必要があります
アジャイルチームの特徴
アジャイルチームを編成および実践する方法は、企業ごとに異なります。しかし、優れたアジャイルチームに共通する特徴がいくつかあります。アジャイル手法の目的のひとつは、チーム間の分断を排除し、効率的かつポジティブなコラボレーションを促進することです。その点を考慮したうえで、アジャイルチームの主な特徴を説明します。
チームワーク
成功を収めているアジャイルチームは、あらゆる行動やコミュニケーションにおいて、チームの一体感を醸成しています。チームメンバーは、成功事例と失敗事例を率直に共有し、必要に応じて解決策を提案したり、チームメンバーの功績を称賛したりするなど、互いに協力することが推奨されます。チームの結束力を高めることで、チーム全体のパフォーマンスが向上し、目標を達成できます。
生産性の向上
アジャイルチームは、緊密な連携により、高い生産性を発揮できます。誰が何に対して責任を持ち、いつタスクを遂行するのかを明確にすることで、各メンバーがチーム内での自身の立場を把握し、タスクを短期間で完了できます。
部門横断的な連携
部門横断的なアジャイルチームは、T字型チームと類似しています。ただし、前者のチームメンバーは、部門の垣根を越えて連携する必要があるため、従来よりも幅広いスキルセットを有している可能性があります。これにより、さまざまなプロジェクトに取り組み、作業スピードを加速させることができます。プロセスを合理化し、外部リソースの支援を待つことなく、より多くの作業を短期間で遂行できます。
責任の明確化
チームメンバーは、必要に応じて互いに助け合う必要がありますが、各メンバーのタスクと責任を明確に定義することで、集中力を維持しながら効率よく作業を進めることができます。プロジェクトマネージャーやスクラムマスターは、タスクが重複していないことを確認することで、各メンバーの作業範囲が明確になり、生産性と効率性を維持できます。
価値を主軸とした自律型組織の構築
アジャイルチームは、自身の活動が自社にどのような価値をもたらすのかを把握することで、最高のパフォーマンスを発揮できます。チームリーダーは、最初にプロジェクトの目標、成果物、価値を明確に定義し、日々のタスクがどのように最終製品やサービスに反映されるのかを実証する必要があります。
トレインの活用
トレインは、優れたアジャイルチームが活用しているスケジュール戦略のひとつです。あらゆるチームメンバーは、最終目標を達成するまでの過程で、イテレーションを繰り返し実行することで、プロジェクトを予定どおりに進めることができます。
感情的知性
アジャイルプロジェクトでは、チームメンバーは期日までに成果物を確実に納品しようとするため、大きな負担がかかることがあります。高い感情的知性を備えたアジャイルチームは、仕事かプライベートかを問わず、ストレスを適切に管理し、目の前の作業に専念できます。これにより、困難な状況に直面した場合でも、パニックに陥ることなく冷静に対応し、プロジェクトを順調に進めることができます。
優れた適応性と学習意欲
アジャイルチームは、あらゆる環境の変化に適応しながら、プロジェクトをスムーズに進めることができます。多くの場合、チームメンバーは自身に最適な職場環境を把握しており、どのような状況においても優れた生産性を発揮できます。
高度なT字型スキル
T字型スキルを有するチームメンバーは、プロジェクトの概要や全体像を把握しながら(Tの横棒)、特定の分野における深い専門知識(Tの縦棒)を有しています。この能力は、特定の分野における開発やプロセスを推進したいと考えているチームにとって、大きな強みとなります。
アジャイルチームの役割と責任
アジャイルチームは通常、役割に応じて責任を明確に分担しています。アジャイル手法では、チームメンバーはさまざまな役割を担うことができますが、特に重要なものは次のふたつです。
プロダクトオーナー
プロダクトオーナーは、幅広いビジネス目標に合わせて、タスク、期日、期待値を設定する責任があります。アジャイルマーケティングでは、チームリーダーとして、プロジェクトの進捗を監督する役割を担います。通常、CMO、ディレクター、マネージャーなどの管理職がプロダクトオーナーを務めます。主な任務は、アジャイル開発プロセスを、管理可能なイテレーションに分割することです。
スクラムマスター
スクラムマスターは、チームメンバー全員が効率的に作業できるようにプロセスと構造を構築することで、プロダクトオーナーが作成したタスクリストを遂行できるようにします。プロジェクトを進める方法を監督し、社内外のチーム間のコミュニケーションを促進する役割を担います。
スクラムマスターは、スクラム手法固有の役割ですが、ハイブリッド型の「スクラムバン」でも採用されることがあります。主な任務は、リクエストの絞り込み、バックログの管理、スクラムミーティングの司会進行です。この役割は、必ずしも管理職を割り当てる必要はなく、各チームメンバーがローテーションで担当することができます。
アジャイルチームには、プロダクトオーナーとスクラムマスターだけでなく、ほかにも重要な役割がいくつかあります。例えば、内部関係者のひとりがプロジェクトを依頼したり、プロジェクトの立ち上げや変更について他のチームと調整する際に、進捗状況を把握したりできます。ほかの関係者は、タスクの方向性に影響を与える可能性のある、重要なフィードバックを提供できます。
開発者などの一人ひとりのチームメンバーが、チーム全体の生産性と成果に貢献しているのです。
アジャイル手法の種類
アジャイル手法には、さまざまな種類があります。あらゆる企業に最適な、唯一の手法はありません。多くのビジネスリーダーは、パフォーマンスの向上と目標の達成を目指して、さまざまな手法を組み合わせることで、チーム、業界、自社にとって最適なアプローチを構築しています。ここでは、最も一般的な手法をいくつか紹介します。
1.スクラム手法
スクラム手法は、ソフトウェア開発などのさまざまな分野で広く普及しているアジャイル手法のひとつです。チームメンバーは、自律的な手法により、一連のタスクを繰り返し実行します。チームは、ミーティングを定期的に実施し、ツールを活用しながら共通の目標に向けて連携する必要があります。ミーティングを通じてフィードバックを提供し、最終製品の完成に向けて、開発サイクルを段階的に進めることができます。スクラム手法は、頻繁な変更と適応性が求められる環境に最適です。
2.カンバン手法
カンバン手法は、さまざまなリクエストに一貫して対応しながら、進行中の作業を合理化する、リーン方式の作業管理手法です。作業プロセスを視覚化し、必要な工程やリソースに応じてアイテムをスムーズに進めることができます。ワークロードはプロジェクトオーナーによって管理されます。プロジェクトオーナーは、キューにデータを入力し、チームメンバーが開発またはレビューのために各アイテムを選択できるようにします。
3.クリスタル手法
クリスタル手法では、プロセスではなくコミュニケーションとインタラクションに焦点を当てます。チームメンバーは、ワークフローを自律的に管理するうえで、課題や効率性に関する意見を率直に表明できます。ドキュメントやレポート要件の制約を受けることなく、一般的なガイドラインに従ってコラボレーションを促進し、相互に情報を共有できます。これにより、チームの連携を強化し、スコープクリープを阻止できます。
4.エクストリームプログラミング(XP)手法
XP手法では、エンジニアリングのベストプラクティスを遵守することに重点を置きます。チームメンバーは、コラボレーションを促進しながら、継続的な開発を実現するために、12のスプリントを繰り返し実行する必要があります。これには、小規模リリース、一貫した統合、コードの所有権などが含まれます。
5.動的システム開発手法(DSDM)
DSDM手法は、リリースを迅速化したい企業に最適です。数多くのイテレーションを伴うクイックリリースを主軸として、プロジェクトの途中または完了後に変更や見直しをおこなう可能性を考慮した戦略を策定できます。アジャイルチームは、依然としてプロセスと手順に従う必要がありますが、スクラム手法よりも作業スピードを加速できます。
アジャイルチームの編成方法
理想的なアジャイルチームの規模は、3から7人程度の小規模です。これにより、活発なコミュニケーションを維持し、大規模なチームに伴う複雑性を軽減できます。多くの企業では、各チームにプロジェクトオーナーを配置していますが、ひとりのプロジェクトオーナーが複数のチームを担当することもできます。チームメンバーは、プロジェクトオーナーに進捗状況を報告します。チームメンバーが7人以上いる場合は、複数の小さいチームに分割できます。
ここでは、アジャイルチームを編成するためのヒントをいくつか紹介します。
- 従業員の能力の把握、調整、割り当て: チームを編成する際は、ビジネス目標と成果を設定することで、チームが進むべき道を明確に示すことができます。ビジネスニーズを最優先に考慮し、適切なチームメンバーを招集する必要があります
- 期待値と作業範囲の設定: チームリーダーは、計画の対象範囲を明確にする必要があります。これにより、ほかの関係者によるスコープクリープや、チームのコラボレーションやイノベーションから生じる付帯業務を回避できます
- 自律型組織の構築: アジャイルチームが生産性を維持するためには、各メンバーが安心して意見を共有し、自身のタスクに主体的に取り組むことで、チームに貢献できていると感じられるようにする必要があります。適切なスキルと資質を有する人材を選定し、一人ひとりの能力を発揮できるような環境を整えることが重要です
- 人ではなく作業管理を重視: 目標達成に向けた戦略を策定するうえで、最適な人材を選定します。チームリーダーは、作業項目の優先順位、要件、期日を明確にし、自律型組織を構築することに重点を置く必要があります
- プロダクトオーナーとのコミュニケーションの促進: プロダクトオーナーは、タスクとビジネス目標を調整します。一方、各チームメンバーは、計画を柔軟に変更できるようにするために、重要なフィードバックを提供する必要があります
アジャイルチームのまとめ
緊密なコミュニケーションは、アジャイルチームの優れたコラボレーションを実現するための重要な要素のひとつです。これにより、的確な意思決定を下し、各メンバーがそれぞれの責任を果たしながら、プロジェクトを進めることができます。アジャイルチームを編成する際は、長期にわたりチーム全体のコラボレーションを促進し、成果を向上できるように、次のような対策を講じる必要があります。
- チームメンバー全員が、ビジョンとタスクが一致していることを把握できるようにする
- 多様なスキルセットを持つチームメンバーを選定することで、専門分野が重複しないようにする
- 定期的なフィードバックループを構築し、学習サイクルに組み込む
- アジャイルチームのメンバーがほかのチームを兼任することを避ける
- カンバンボード上のさまざまな作業タイプを把握および管理する
- 予測可能性を高めるためにサービスクラスを導入する
- チーム間の依存関係を視覚化し、コラボレーションを合理化する
適切なツールを導入してアジャイルチームを成功に導きましょう
プロジェクトマネージャーとチームリーダーは、アジャイル手法が特定の役割と機能にどのように対応するのかを把握することで、プロジェクトの成果を向上させることができます。アジャイル手法をスムーズに導入し、チームメンバー全員に適切なタスクを割り当てるには、適切なツールを活用することが重要です。
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アジャイルプロジェクト管理の詳細については、アドビのブログ記事をご参照ください。