データモデリングとは?重要な理由や例などをわかりやすく解説
データモデリングは、企業が収集するデータの関係性などを、図として可視化するプロセスを指す言葉です。データの収集や保存などの効率化を図るためにも、データモデリングの種類や手法を把握することが重要です。
この記事では、データモデリングの概要について説明したうえで、データモデリングが重要な理由や、データモデルの種類を紹介します。さらに、データモデリング手法の例や、データモデリングのプロセスも解説するので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
データモデリングとは?
データモデリングとは、データの流れを図に落とし込み、可視化するプロセスのことです。このプロセスでは、それぞれのデータベースが抱えるデータと、データ同士の関係を図式化した「データモデル」を作成します。
データモデルは、データベース内のデータ要素間の関係性を定義するほか、ソフトウェアの開発や分析の基盤となる要素です。データモデルを構成するものとしては、データモデル図や、データモデル図に記載した細かな要素が含まれます。
また、このプロセスでは、既存のソフトウェアソリューションを改善したり、効率的な新しいデータベースを設計したりするためのロードマップを作成します。その結果、システム内でデータがどのように使用および保存されるのかを把握できます。
データの使用と保存の経路を最適化することで、より正確な分析が可能になり、ビジネス成長を促進するためのインサイト(顧客の潜在的な購買行動の根拠/動機)を獲得できるでしょう。
なお、データベース全体のデータの流れを把握すれば、潜在的なボトルネックを特定し、情報管理戦略を強化することも可能です。
データモデル図の概要
前述したデータモデル図とは、データの名称やデータ同士の関係性を表す図面のことです。データモデル図の構成要素として、以下の3つが挙げられます。
なお、上表のエンティティ(Entity)とリレーションシップ(Relationship)を用いて、システムベースの構築に使う設計手法を「ER図」と呼びます。
データモデリングが重要な理由
次に、データモデリングの重要性が高まっている理由について、5つの項目で解説します。
データの収集や保存などの効率化
データモデリングを実行することで、組織内に点在するデータの効率的な収集/保存/処理などができるようになります。
データを分析するうえで、情報を一元管理できるERPなどのシステムを利用してデータベースを構築する場合を除くと、複数のデータベースからデータ収集などをする必要があります。
そのため、データモデリングによって、データの所在や量、処理プロセスなどを明確化しておけば、作業の効率化が可能です。
また、収集したデータを分析して実用的なインサイトを得ることで、データのROI(投資収益率/投資利益率)を高め、ビジネス上の意思決定にも役立てられるでしょう。
なお、顧客接点のデータを分析/可視化/予測して、精度の高い意思決定と施策立案に役立てられるツールとして「Adobe Analytics」があります。Adobe Analyticsを使えば、インサイトをリアルタイムで取得できるので、より効果的なマーケティング施策に活かすことができます。
データベース開発の正確性や効率性の向上
データベース開発における正確性や効率性を確保するには、データモデリングを適切に行うことが不可欠です。データモデリングによって、信頼性の高いデータベースを開発できるうえ、コストや時間の低減も期待できます。
また、データモデリングによって、データベース同士の関係性や、各データベースで保持する情報、求められる要件、実装が必要な範囲などを明確にできることもポイントです。チームが情報をスムーズに共有できれば、全体的なデータ品質と利便性の向上も図ることができるでしょう。
システム設計の一貫性の確保
データモデリングによって、システム設計、およびデータアーキテクチャの一貫性を確保できるのもメリットの一つです。企業が取り組むシステム設計などの一貫性が保てていないと、データ処理の遅延やビジネス上の機会損失につながるおそれがあります。
しかし、データモデリングを実行することで、あらゆる部門、システム、データベースをまたいで収集した情報の一貫性を確保し、分断を解消することに役立つでしょう。
また、早い段階でデータモデルを定義することで、システム開発過程における要件変更や後戻りにかかる工数を抑える効果も期待できます。
例えば、物理データモデルを使用してデータベースを構築した場合、システム実装やテストにかかる工数を削減することにつながります。
データベース開発や運用におけるコミュニケーションの円滑化
そもそもデータアーキテクチャ設計のために、データモデリングは不可欠です。データアーキテクチャとは、データの構造や配置、相互関係を計画/設計するフレームワーク、ガイドラインなどを指し、データを効果的に管理、活用する設計基盤を指します。
データモデリングをもとにデータアーキテクチャを設計しておけば、役割の異なるステークホルダー間のコミュニケーションを円滑化できるでしょう。
なお、一般にデータベースの開発や運用は異なるチームが担当しますが、データアーキテクチャがチーム間の共通認識として機能するので、スムーズなデータ活用が可能となります。
属人性を排したデータベース運用の実現
自社のデータモデリングに取り組むことで、属人性を排したデータベースの開発や運用を実現できます。もしデータベース構築をSIer(システムインテグレーター)などのベンダー企業に委託している場合、ブラックボックス化が発生しやすくなります。
一方、データベースを含めたシステム全体を自社で管理できている場合は、データベースの開発/運用/分析などに携わるメンバーの変更や増員が発生しても、最適化した状態での運用が可能です。
なお、企業全体でデータの透明性を向上させ、意思決定者に必要な情報を提供することで、新たなビジネスチャンスの獲得につながる可能性もあります。
データモデルの種類
データモデリングでは、ビジネスワークフローを可視化するために、3種類のデータモデルを使用できます。各データモデルは、社内のデータの流れについて独自のインサイトを提供できることが特徴です。また、3つのデータモデルを組み合わせて使用することもできます。
ここでは、各データモデルを詳しく解説します。
1.概念データモデル
概念データモデルは、企業のデータを詳細に可視化し、データの全体像を表します。多くの場合、プロジェクトの早い段階で使用するため、ほかのタイプのモデルよりも先に作成する必要があります。
前述のとおり、データ全体を構成する各要素を「エンティティ」と呼び、概念データモデルはエンティティの整理、およびそれぞれの関係をモデリングする役割を担います。
プロジェクトの開始時またはデータを整理する初期段階で、関係者や経営陣によって作成されるので、部門間の関係や自社とベンダー間の関係を包括的に把握できます。
なお、概念データモデルは、ほかのモデルタイプとは異なり、特定のテクノロジーやデータベースと関連付けられていません。
2.論理データモデル
論理データモデルは、概念データモデルよりもデータの要件について詳細に記述していることが特徴で、通常は概念データモデルを関係者に提示したあとに作成します。
企業のエンティティやデータの流れを、具体的かつ詳細に説明でき、エンティティをさらに細かく整理した情報である「属性(アトリビュート)」が追加されていることが特徴です。
一般的には、モデル化の対象となるデータをアプリケーション単位などに絞ったうえで、モデリングを実行します。
また、論理データモデルは、技術的なシステム要件ではなく、重要なデータ構造やデータ型を定義することも特徴です。そのため、技術担当者は論理データモデルを使用して、データベースの設計要件を把握できます。
3.物理データモデル
物理データモデルは、上記2つのデータモデリングのプロセスを経て整理されたデータのエンティティと属性を、データベース設計に落とし込むためのモデルです。論理データモデルをもとに作成されるケースが一般的です。
データベース内でデータが物理的にどのように保存されるのかというスキーマ(構造)を提供します。多くの場合、このモデルにはシステム固有の要件とプロパティが含まれるので、3つのモデルのなかでデータを最も詳細かつ具体的に説明できます。
また、物理データモデルは、企業が導入するアプリケーションソフトウェアやデータベース管理ソリューションに特化して作成されることが特徴です。物理データモデルで定義されるソフトウェア要素には、次のものが含まれます。
- フィールド:データの個々の項目
- 列:表(テーブル)における縦方向のデータの集合体
- インデックス:データベースのアクセス効率を高める仕組み
- トリガー:自動的に特定の処理を行うプログラムの起動条件
- 制約:データの扱いに関する条件
物理データモデルは複雑で、作成に時間と労力を要します。しかし、新しいデータベースを開発したり、既存のソリューションを再構築したりする際の重要な基盤となります。
データモデリング手法の例
ここでは、最も一般的なデータモデリング手法を7つ紹介します。
関係データモデリング
関係データモデリングは、1970年代にIBMによって開発された一般的なモデリング手法で、リレーショナルデータモデリングとも呼ばれます。
行と列で構成された表形式のテーブルでデータクラスを視覚化する点が特徴です。複数のテーブルに格納されたデータ要素の関係をマッピング(割り当て)できます。
構造化データをモデリングするのに適しており、物理データの格納状況を詳細に把握する必要がないので、多くのモデラーが採用しています。なお、リレーショナルデータの集合を管理するものは「リレーショナルデータベース」と呼ばれます。
ERデータモデリング
ER(エンティティ関係)データモデリングは、エンティティをマッピングし、エンティティに関連する特定の属性を識別するための、より複雑な関係データモデルです。
エンティティには、顧客データ、従業員データ、製品情報、請求書などが含まれます。また、属性には、顧客のメールアドレス、従業員の姓、製品価格、請求書の作成日などが含まれます。
階層型データモデリング
階層型データモデルは、データの親子関係をツリー状に表現したものです。IBMのIMS(情報管理システム)は、階層型データモデルの典型的な例であり、多くの企業で導入されています。
しかし、多くの階層型データモデルは、データを管理する際の柔軟性が高い関係データモデルに置き換えられています。また、IMSの代わりに、データのやり取りや管理をスムーズに行える「XML(拡張可能マークアップ言語)」が使用されることもあります。
次元データモデリング
次元データモデリングは、社内外の大量のデータをビジネスの意思決定に活用する「BI(ビジネスインテリジェンス)」におけるアプリケーションで利用されています。
具体的には、データマート(特定の部門や目的に合わせて利便性を高めたデータベース)、あるいはデータウェアハウス(データ分析を目的とした大容量のデータベース)が挙げられます。
次元データモデルは、企業がデータウェアハウスに保存された情報に効率的にアクセスできるように、データ検索スピードを最適化するように設計されていることが特徴です。
なお、次元データモデルでは、データウェアハウスにおける大量の数値データを表形式でまとめた「ファクトテーブル」を使用します。
ファクトテーブルには、製品の購入などのイベントやトランザクション処理(一貫性を保ちながら複数の処理を実行・管理する仕組み)に関する情報が格納されています。
オブジェクト指向データモデリング
オブジェクト指向データモデリングは、ERモデリングと類似していますが、エンティティをオブジェクトとして抽象化する点が異なります。
オブジェクト指向データモデリングでは、同じ属性を共有するオブジェクトをクラスに移動し、階層的に分類できます。そのため、オブジェクト指向データベースでは、テーブルを組み込むだけでなく、より複雑なデータ関係にも対応できます。
なお、多くのハイパーテキストや、マルチメディアデータベース(テキスト/画像/映像など複数のデータを管理するデータベース)が、オブジェクト指向モデリングを使用しています。
グラフデータモデリング
複数のエンティティが紐づく状態を、エンティティの依存関係、またはエンティティの親子関係などといいます。グラフデータモデリングでは、このようなエンティティの依存関係に当てはまらない場合も「1対n」または「n対n」での記述を行えることが特徴です。
近年は、グラフデータモデリングがAI開発や機械学習にも活用されており、注目度が高まっています。
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データモデリングのプロセス
データモデリングは、企業のニーズに合わせて調整できる柔軟なプロセスです。
多くの場合、最初に概念データモデルを作成し、次に論理データモデル、最後に物理データモデルを作成します。これにより、データを詳細に可視化してから、データベースの技術要件を指定できます。
確立されたデータモデリングのプロセスに従うことで、自社のデータ処理とストレージのニーズに関する議論をスムーズに進められるでしょう。意思決定者は通常、次のワークフローに沿って議論を進めます。
- エンティティの特定 社内の様々なエンティティや部門を特定し、リストアップする
- 各エンティティの主要なプロパティを特定 社内の各エンティティを区別する属性を特定する
- エンティティ間の関係を特定 相互に関連するエンティティを提示し、それらの関係を可視化するモデルを開発する
- モデルに追加するデータ属性を特定 モデルに含める必要のある特定の属性(顧客のメールアドレスや名前など)をリストアップする
- 属性のマッピング データ属性を作成し、各エンティティにマッピングする
- 最終確認と正確性の検証 データモデルを確定する前に、意思決定者はその正確性を検証し、初期のフレームワークに関連するエンティティと属性がすべて含まれていることを確認する
このように再現可能なプロセスに従うことで、効果的なテクニカルデータモデルを作成し、ビジネスデータのニーズを明確に特定できます。
データモデルを実現するための基盤の導入
企業がデータモデリングを行うことで、データの収集や保存などの効率化を図れるうえ、データベース開発の正確性や効率性の向上、システム設計の一貫性の確保につながります。
また、一般的な手法である関係データモデリングをはじめ、ERデータモデリング、次元データモデリングなど、用途や目的に合わせて利用できる様々な手法があります。
データモデリングのプロセスも踏まえたうえで、自社に最適なデータモデリング手法を選択しましょう。なお、データモデルの設計を開始する際は、堅牢なデータ基盤を導入する必要があります。
Adobe Real-Time CDPを利用すれば、BtoBやBtoCを問わず、実用的な統合顧客プロファイルをリアルタイムで構築できます。IT部門に顧客データ管理を一任する必要がなくなるため、最適な人的リソースの配分が可能になるでしょう。
また、Adobe Real-Time CDPでは、会話型のAIアシスタントによって、製品情報へのアクセスや、問題のトラブルシューティングの効率化も実現できます。
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(公開日:2023/4/26)