50 カ国 40 言語 100 サイト 世界共通の顧客体験を実現する――パナソニックに学ぶ本社主導のオムニチャネル戦略
グローバル企業が世界中の消費者に対して、“らしさ”を損なわずに高いクオリティの顧客体験を届け続けることは、決して容易ではありません。
今回は、アドビとビジネス・フォーラム事務局が共催したオンラインイベントMarketing for Successから、「パナソニックの “ブレない” 顧客体験戦略~多国・多言語・多通貨 の消費者とつながるには?~」と題したセッションの模様をお届けします。
ご登壇いただいたのは、パナソニック株式会社 海外マーケティング本部 CXマーケティングセンター デジタルエクスペリエンス部 部長の北村聡氏です。聞き手はアドビの松井真理子が務めました。
お客様大事”の経営基本方針を起点に描くパナソニックの顧客体験提供
1918年に創業し、約108年という長い歴史を持つパナソニック。創業者である松下幸之助氏が掲げた「お客様大事の心構え」を今もグループの経営基本方針の中核に据え、大切にしていると言います。
この“お客様大事”という言葉には、「お客様に喜びを与えることに存在価値がある」「お客様の番頭になる」というマーケティングの本質とも言うべき大切な意味が込められており、「それぞれ今の言葉に置き換えると、次のようになります」と北村聡氏は語ります。
- お客様に喜びを与えること→顧客体験(CX)の提供
- お客様の番頭(※)になる→AIを活用したOne to Oneマーケティング(オムニチャネル戦略)
※番頭:商店において、使用人(社員)のうち、営業/経理など、店のすべてを預かる者。
このように、“お客様大事”というブレない経営基本方針を軸としたパナソニックのオムニチャネル戦略とは、どのようなものなのでしょうか。
伝統的なブランド会社であるパナソニックは、これまで販売店や量販店、ブランドショップなど、オフラインのリアルチャネルを主戦場としてきました。しかし、昨今はD2CやSNSなどのデジタルチャネルも強化しながら、オンラインの販路拡大を進めています。逆に、オンラインのD2Cから始まったスタートアップでは、POP UPストアやリアル店舗を設ける動きが加速しています。
その理由は、顧客が多種多様なチャネルを往来しながら購買活動を行うことにあります。そのため、オンライン/オフラインのどちらかだけでは、顧客のニーズに応えることができないのです。
加えて、パナソニックでは、洗濯機/衣類乾燥機などの「生活家電」、エアコンなどの「空調家電/季節家電」、冷蔵庫や炊飯器などの「キッチン家電/調理家電」、テレビやデジタルカメラなどの「AV機器/カメラ」、ドライヤーやスチーマーなどの「美容家電」、マッサージチェアや体組成計などの「健康家電」、他にも電池やモバイルバッテリー、カーナビやエコキュートなど、多岐にわたる商品を展開しています。そのため、カスタマージャーニーを一口で定義することはできません。
「オンラインで選び、そのまま購入に至る商品」もあれば、「店舗で下調べをした後に、オンラインで価格を比較し、再び店舗に戻って購入される商品」もあります。このように顧客はオフラインとオンラインのチャネル間を行き来しながら、「認知→比較→購入→サポート→活用/シェア→再購入」とファネルを進んでいきます。その過程では、パナソニックとの様々なタッチポイントが存在します。
「だからこそ、もしどこかで手を抜けば、お客様の心が離れてしまうかもしれません。オムニチャネル×フルファネルで、最適なタッチポイントを設計し、丁寧にケアし続けることが最も重要だと考えています」(北村氏)
グローバルで質の高い顧客体験を提供するために
そんなパナソニックでは、2012年にAdobe Experience ManagerをCMSとして導入し、当時はグローバルで73サイト、31言語の多言語運営を開始しました。
「以前はサーバーが世界中に分散していたため、国や地域によっては『サイトの表示速度が遅い』『モバイル対応していない』『安全性に不安がある』などの課題がありましたし、サイトの内容や提供しているコンテンツはバラバラでした」。それが、Adobe Experience Managerにより、「スピードやセキュリティ面の課題を解消できただけでなく、グローバルでブランドイメージを高位平準化できました」と北村氏は振り返ります (現在は50カ国、40言語、約100サイトへと拡大)。
その後、2014年にはAdobe Analyticsを、2016年にはAdobe Creative Cloudを導入。「大きな転機となったのは、2022年にAdobe Commerceを導入したときだったとのことです。
Adobe Commerce を導入してAdobe Experience Managerと連携することで、「オンラインで商品を探し、詳細情報を確認し、購入する」というシームレスな顧客体験を、グローバルで統一された形で提供できるようになりました。
そしてもう一つ、「地域ごとに求められるコンテンツを、迅速に制作できるようになった」というメリットもあったと言います。各国独自のコンテンツ制作や季節プロモーションを行うため、画一的なコンテンツを用意しておくだけでは対応できません。そこで、地域ごとに必要なコンテンツを迅速に制作できる仕組みを整えた結果、D2Cの売上は前年比20%以上の成長を実現。
様々な苦労を乗り越えながら北村氏が学んだのは、「グローバルと地域の役割分担の重要性」でした。
パナソニックでは、グローバルのヘッドクォーター(本部)がマーケティング戦略を策定し、共通基盤を構築。その中で、各国/地域にあるリージョナルヘッドクォーターは、裁量を持って各国/地域に最適な戦術を考え、マーケティング活動を推進しています。
「日本本社の人間が、お客様に近い場所にいるローカルの担当者の意見を“いかにリスペクトできるか”がカギになると考えています」(北村氏)
AIを活用したCXとDXでOne to Oneマーケティングを目指す
続いて、パナソニックではAIを活用した顧客体験向上の現在と未来について、どのように考えているのか、お話を伺いました。
北村氏はAI活用について、「CX:AIを使ってお客様に付加価値を届ける」と「DX:AIで業務プロセスを効率化する」の2つの方向で取り組む考えを示します。要は、利益創出(CX)とコスト削減(DX)のためにAIを活用し、効率化によって浮いた資金を、より良い顧客体験を提供するために再投資するというサイクルを回すというわけです。
「まずはCXの観点において、現代の消費者はAIに質問して回答を得ることで、問題を解決しています。かつてのように、キーワードで検索し、webサイトを一つひとつ渡り歩き、自分が欲しい答えを探し回る必要がなくなりました。いわゆるゼロクリックの世界ですね」
実際、パナソニックの海外サイトでは、この1年間でAI経由の流入が10倍以上に増加しているのだそう。若年層では7〜8割、60代でも約5割がAI検索を利用していると言います。「そのため、流入だけでなくサイト設計そのものを、AIの進化に応じて変えていくことが欠かせません」(北村氏)。
他方、DXの観点では、AIを活用してオペレーションを標準化し、コンテンツ制作のプロセス変革を進められています。その結果、7割以上のコスト削減、6割以上のリードタイム短縮につながったそうです。
このようにAI時代の顧客体験の向上に向けて、順風満帆に進んでいるように見えますが、対応しきれていない課題はないのでしょうか。この疑問に対し、北村氏は次のように答えます。
「オムニチャネルや顧客接点強化と一口で言っても、実際はオンラインとオフラインで多数の接点が存在し、それらはまだ十分に連携できているとは言えません。例えば、コールセンターへの問い合わせ内容が来店の接客に生かしきれているわけではない。この状況を変える必要があります」
目指すのは、各接点で提供した体験や、そこで得た顧客からのフィードバックを顧客データベースに統合し、より良い接客につなげること。その先に、一人ひとりに寄り添ったOne to Oneマーケティングの実現を見据えていると北村氏は言います。
最後に北村氏から、「私はパナソニックを通じて、日本の商品の良さや価値を、世界中に届ける仕事をしています。同じように、日本発で海外進出に挑戦されている皆様と協力できることがあれば、ぜひご一緒したいと考えていますので、ぜひお一人で悩まずに、同じ日本企業として、共に日本の価値を届けていければと思います」とメッセージをいただきました。