ニコン&花王レジェンドリーダーが明かすグローバルCMS標準化の舞台裏

2025年11月19日、都内にて「Adobe User Group - Leaders Meetup  ~レジェンドリーダーが挑むwebサイト変革プロジェクト~」が開催されました。今回は、グローバル規模のデジタル基盤を支えてきた株式会社ニコン 横井真悟氏と花王株式会社 田中剛氏の2人に登壇いただきました。テーマは、グローバルに展開するサイトを効率よく管理し、ガバナンスとスピードを両立する「標準CMS」をいかに構築/運用していくのか。その大規模プロジェクトの裏側と、推進のカギとなる組織作り/人材育成のリアルが語られました。

数百のwebサイトが乱立、ITとマーケティングの融合へ

最初のセッションでは、ニコンの横井真悟氏が登壇し、「IT部門発・デジタルマーケティング推進組織立ち上げの舞台裏 ~事業横断マーケティングを可能にした組織変革とは?~」をテーマに講演を行いました。

同社では、2024年11月に同社IT部門が旗振り役となってデジタルマーケティング推進組織を設立し、その基盤としてAdobe Experience Managerを導入しています。そして2025年5月には、B2B事業情報を集約した「B2B統合サイト」をリリースしました。

Adobe Experience Manager導入前の同社の大きな課題は、全社を統括するマーケティング組織が存在しなかったことです。事業部ごとにマーケティングを行っていたため、web広告が競合したり、統廃合後も旧サイトが放置されたりと、全体最適が図れない状況が続いていました。

また、同じ製品領域でも担当事業部が異なるケースがあり、問い合わせ対応などで事業横断の連携が複雑になっていたと言います。

「事業部ごと、子会社ごと、国ごとなど、数百のwebサイトが乱立しており、ガバナンスやセキュリティの対策にも大きな労力がかかっていました」(横井氏)

株式会社ニコン

ITソリューション本部

デジタルマーケティング推進課長

横井 真悟氏

こうした状況を受け、IT部門が主導してデジタルマーケティング推進組織を立ち上げられました。なぜIT部門が旗振り役となったのか。横井氏は次のように説明します。

「マーケティングは、今やIT技術なしでは成り立ちません。web構築、コンテンツ制作、セキュリティ、個人情報保護やアクセシビリティへの対応など、扱うツールも多岐にわたるため、IT知識がなければ、適切な選定すら難しいのです」(横井氏)

そんな中、Adobe Experience Managerを活用したB2B統合サイトの企画が広報部門から立ち上がります。広報とIT部門は以前からweb管理体制で連携しており、外部パートナーである株式会社イントリックスも広報からの紹介でした。

「広報がコンテンツ制作を担ってくれるのであれば、その間にマーケティング人材を育成し、ノウハウを蓄積できると考えました」(横井氏)

まず着手したのが人材確保です。必要な役割とスキルのマップを作成し、計画的に採用を推進。また、CXから戦略立案、システム開発まで一貫して担える体制を整え、キャリアパスとしての魅力を高めることで、挑戦志向のある人材を獲得していきました。

さらに、マーケとITのスタンスを橋渡しする仕組みも整理。慎重に要件定義を進める「モード1」と、アジャイルで試行と改善を繰り返す「モード2」は、どうしても対立しがちです。

「この間に入り、双方をつなぐ“ガーディアン”として調整するのがマネージャーの役割です。月イチの振り返りではKPT法で課題を洗い出し、毎週の定例で解決を進めています。上司および、メンバー間での1on1も実施し、さらに毎朝10分の雑談タイムを設けることで、話しにくさを解消するようにしています」(横井氏)

ページビューが8倍に、業務効率も大幅アップ

こうした取り組みの結果、現在ではデジタルマーケティング推進組織として事業部からの信頼も高まりつつあると言います。

「記事作成時には取材にも同行しますし、展示会連動広告を打つ際にはランディングページも作成します。さらに、MAやCRMの導入支援も計画しています」(横井氏)

現在では、マーケ人材とIT人材が互いの領域を理解し合う文化も育ってきており、マーケ人材は「ITパスポート」を、IT人材は「The Model」を学ぶことで、専門用語の“共通言語化”を進めているそうです。

その結果、Adobe Experience Managerの導入もスムーズに進み、新製品コンテンツのCMS投入は、これまで数日かかっていたものが約4時間で完了するようになったと言います。

「さらに、イントリックスと協力して制作したコンテンツにより、ページビューは従来の8倍に、お問い合わせページへの誘導数も3倍に伸びました」(横井氏)

さらに、Adobe Analyticsの導入によって高度な分析が容易になったとのことです。加えて、Adobe Experience Managerのコンポーネント化により、コンテンツ制作期間は4.5週間から3週間へと、1.5週間の短縮を実現。

「ここはまだ改善の余地があり、AI化を進めれば全体で1週間ほどに短縮できるのではないかと考えています」と横井氏は語り、セッションを締めくくりました。

CMS基盤を進化させてきた、花王のこれまでの歩み

2つ目のセッションでは、花王の田中剛氏が登壇し、「CMSをグローバル基盤として展開する運用ノウハウとは?」というテーマで講演いただきました。

花王は、グローバルコンシューマーケア事業やケミカル事業を展開し、数多くのブランドを保有しています。それぞれのブランドには専任のオーナーが存在し、デジタル戦略部門はそのすべてのサイト運用を支える必要があります。

同社では現在、Adobe Experience Managerをグローバル基盤として活用。webコンテンツ管理基盤である Adobe Experience Manager Sites では 695サイト、11.5万ページ を配信し、画像/動画/CM素材を管理するAdobe Experience Manager Assets では 329万点、72TB のデジタルアセットを運用しています。さらに、AWS上に構築した 303台のサーバー を用いて、日本/アジア/欧米のサイトを共通環境で展開しています。※講演時点

「日本とアジアは東京リージョン、欧米はバージニアリージョンに配置しています。1カ所に集約することで、ガバナンス、広告管理、著作権管理などを統一できる点が大きなメリットです」(田中氏)

花王株式会社

デジタル戦略部門情報システムセンター

カスタマーリレーションシップマネジメント部

MKグループエンゲージメントアーキテクチャ

マネージャー

田中 剛氏

花王では、デジタルアセットを単にwebサイトへ配信するだけでなく、社内の様々なシステムと連携させる “データハブ” として活用しています。商品マスターや研究所の成分データとの連携、流通向けシステムへのデータ提供、お客様相談室向けシステムへの連携といった基幹領域に加え、ECサイト「My Kao Mall」では製品情報の自動ページ生成を実現。さらに、YouTube連携により、動画の公開/非公開をAdobe Experience Manager 側から自動で制御できる仕組みも整えています。

ここに至るまでの25年間、段階的にCMS基盤を進化させてきた花王ですが、その歩みを時系列で田中氏は紹介。

まず2000年頃、webコンテンツ管理システム(WCM)を導入します。その当時、自身でHTMLを書いていた田中氏は、当初はWCMの導入に否定的だったそうですが「大量の類似ページを効率的に生成する必要性」を理解し、自らテンプレート化を進めていきました。

2003年には製品カタログをテンプレート化し、ブランドサイトの管理もWCMへ移行。2005年には、約9割のサイトがWCM上で運用され、ガバナンスを利かせた統一管理が実現しました。

2007年にはweb2.0対応として大規模リニューアルを実施し、テンプレート活用の運用モデルをアジアへも拡大。その後2009年にデジタルアセットマネジメント(DAM)の環境構築を開始し、YouTubeをストリーミングサーバーとして活用を開始します。2012年には、WCM環境をすべてAWSへ移行しました。「当社のような規模の企業でAWSの全面採用を決断したのは、かなり早かったと思います」(田中氏)。

そして、2015年にAdobe Experience Managerを導入し、CMS環境のグローバル統合を実現します。

「欧米のスタッフからは“日本にこの規模の統合は無理だ”と言われましたが、こちらの技術的な知見を理解していただいてから、ようやく話を聞いてもらえるようになりました」と田中氏は振り返り、技術優位性の重要性を強調。

その後も、マスター連携による製品カタログの刷新や、EC機能の拡張などを継続し、現在の基盤につながっています。直近のテーマはAdobe Experience Manager as a Cloudへの移行検討であり、「2027年の運用開始を必ず実現したい」と田中氏は意気込みを語りました。

システム導入で失敗しないために大事なこと

最後に田中氏は、25年間の経験から得た“システム導入で失敗しないための原則”を共有しました。発注者と受注者の間で完成イメージが食い違う背景には、要件定義の抜け漏れが必ず存在すると言います。田中氏はカレーの調理を例に用いて説明しました。

「カレーの盛り付け方の指示がなければ、想像とはまったく違う料理が出てきてしまいます。これは座組みの問題で、クライアントと開発委託先の双方から “クリエイティブの視点” が抜け落ちているのです。そこを補完する第三者が必要です」(田中氏)

もう一つ多い失敗例として挙げたのが、「導入したシステムが活用されない」というケースです。「システム導入前に業務フローを設計しなければ、必ず失敗します。私はこれを『活躍想像図』と呼んでいます」(田中氏)。

さらに、現場が受け入れられる運用モデルになっているか、困ったときにサポートできる体制があるか、などの検討も必須だと話します。

「システムそのものはお金を払えば導入できます。本当に大事なのは、『使える状態』を設計すること。これが、長い経験を通じて私が学んだことです。次の世代には、この先のナレッジをさらに積み重ねていってほしいです」と語り、田中氏はセッションを終えました。

セッションの後には、アドビの今村康弘が登壇し、ITとマーケティングの両組織がこれまで以上に密接に連携する重要性を強調しました。

「横井さん、田中さんのお話にもあったように、これからは組織横断での連携が不可欠です。スピードも求められる時代ですので、今日のような場で他社の事例に触れ、皆様の次の一歩につなげていただければと思います」(今村)

最後には、横井氏/田中氏、アドビ社員、参加者が交流するネットワーキングの機会も設けられました。ITとマーケティングが融合する時代に、リーダーとして何ができるのか──。活発な意見交換が行われ、未来に向けたヒントを持ち帰る場となったのではないでしょうか。