食品/消費財業界が目指すべき理想的な顧客体験設計とは

テーブルに肘をついている女性 低い精度で自動的に生成された説明

COVID-19の影響により、人々の購買行動やコミュニケーションの方法は大きく変化しました。それによって、食品/消費財などの製造業や小売業は、ビジネスモデルの転換期を迎えています。他方、テクノロジーの進化もとどまることを知らず、リアル店舗とオンラインに加え、「メタバース」という新しい空間も現れました。こうして顧客接点が多様化する中で、企業のマーケターはどのように顧客体験をデザインし、価値ある情報を届けながらファン作りをしていけば良いのでしょうか。

本記事では、アドビ株式会社 石井 龍夫とマニッシュ プラブネが登壇したウェビナー「最適な顧客体験が生み出す価値提供と信頼づくり」の内容をお届けします。

もくじ

  • 顧客体験のデザインは「選び続ける理由」を作ること
  • コロナ禍のBen & Jerry'sを支えたアドビのコンテンツオプティマイゼーション
  • 「ブランド資産の保護」と「データの民主化」に不可欠なDAM活用
  • OOM時代に向けた行動データの重要性

顧客体験のデザインは「選び続ける理由」を作ること

顧客のライフスタイルの中にデジタルが溶け込んできたことで、顧客接点において取得できるデータのバリエーションは大きく広がりました。こうしたデータをひも解くことで、顧客のインサイトにまでたどり着きやすくなり、提供できる顧客体験も多様になってきています。

特に、これから市場の中心となっていくY世代(1980年代〜90年代半ば生まれ)やZ世代(90年代後半〜2010年頃生まれ)のデジタルネイティブと呼ばれる方たちの購買行動は、デジタルとリアルの境目がとても曖昧であり、データを使って自分という“個”に対して、企業が適切な情報を提供してくれるのは当然のことであると受け止めています。

しかも彼らは、サブスクリプションで継続購入することに馴染みがありますし、自身の“個”としての情報発信力を活かして、「気に入った商品やブランドをSNSで周りに広める」という行動も取ります。

そんな彼らが求める顧客体験をデザインしていくにあたり、企業は次の点に注意すべきであると石井は語ります。

「もはや購買はゴールではなくスタート。顧客体験の中で、いかに顧客が能動的に企業とつながり続けたいという気持ちを促せるか。『選び続ける理由を作る』という視点を持つことが大切です」

この話を受け、マニッシュはデータに基づいた顧客体験の向上を実現している企業として、米国のアイスクリームブランド「Ben & Jerry's」の事例を紹介しました。

コロナ禍のBen & Jerry'sを支えたアドビのコンテンツオプティマイゼーション

Ben & Jerry'sは、84年以来、顧客の声を取り入れた商品開発を行ってきました。当時はリアルな座談会やテストマーケティングなどの手法を用いてソーシャルリスニングを行っていたことで、新商品のアイデアが生まれてから商品をローンチするまで7年もの月日が必要だったと言います。

よりスピーディに顧客の声を活かした商品開発をするにはどうすれば良いのか、そして顧客体験をさらにスケールさせるにはどうすれば良いのか。これらの課題を解決するために、同社ではアドビのテクノロジーを駆使して、様々なタッチポイントで得られたインサイトをグローバルで集約した他、パッケージデザインなどのコンテンツオプティマイゼーションをスタートさせたのでした。

その結果、「アジャイルかつインタラクティブなコンテンツ制作」と、「コンテンツの配信/評価/分析」をデータドリブンで行えるようになりました。具体的には、次の3つのポイントをマニッシュは挙げています。

①単にコンテンツを配信するのではなく、コンテンツという資産をガイドラインで守りながら配信すること。

②配信したコンテンツに対する顧客の反応を集約し、インパクトを計測すること。

③コンテンツのバラエティを広げるために、リアルで個々のシーンに合わせたパッケージ撮影を行うのではなく、3Dテクノロジーなどの技術を駆使して、バーチャルでコンテンツを用意できるようになったこと。

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これらの取り組みは、コロナ禍でリアル店舗を閉鎖せざるを得なかったBen & Jerry'sが、顧客とのつながりを維持しながらデリバリー需要に応える上で、大いに寄与したそうです。

「ブランド資産の保護」と「データの民主化」に不可欠なDAM活用

続いて石井より、長年デジタルマーケティング部門を率いてきた「花王」の事例を紹介。

グローバルで様々なブランドを展開している花王ですが、かつてはアジア/欧米/日本のwebサイトが個別に管理されており、同じブランドでも他国の顧客の動きを把握できない課題があったと言います。しかし、グローバルで統一したプラットフォームを用意し、データを集約するようになったことで、「各国の状況を、日本にいるグローバルブランドマネージャーが把握できるようになった」「各国の成功例/失敗例をグローバルで共有して、コミュニケーションレベルを高められた」というメリットが生まれました。

これらの経験を踏まえ、「グローバルでコンテンツ管理を統括することや、施策の評価を共有することは、日本企業が海外で強くなっていく上で、今後非常に重要になってくるだろう」と石井は語ります。

また、Ben & Jerry'sと同様に、花王でもすでに商品写真は撮影していないとのこと。パッケージデザインの版下をもとに3Dモデルを作成し、それをアドビのデジタルアセット管理ツール「Adobe Experience Manager Assets」(以降、DAM)で管理しながらwebサイトなどで使用しているそうです。DAMでは、それぞれのコンテンツをいつ/誰が/どこで/何に使用したかといった情報がすべてタグづけされています。

DAMからコンテンツを配信するもう1つのメリットは、顧客がDAMから最新の素材をシェアできる仕組みを備えられることです。これにより、DAMで新しいデータに書き換えれば、顧客がソーシャルメディアでシェアしたコンテンツも自動で新しいデータに置き換わります。つまり、パッケージデザインの変更や廃盤になったとしても、古いデータがweb上に残ったままになるという、ブランドにとって不都合な状態を回避できるようになる。ブランドとして『資産の保護』と『データの民主化』を両立できるというわけです。

OOM時代に向けた行動データの重要性

次に、マニッシュはこれからの顧客のライフサイクルを示しながら、「タッチポイントやカスタマージャーニーがどんどん複雑になっていくからこそ、これからはOMOにメタバースも加えた“OOM(Offline, Online, and Metaverse)”について、データドリブンで考えていかなければならない」と説きます。

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そしてAdobe Analyticsでは、OOMのデータ分析も実現可能となっており、メタバースの中で自動運転の実用化に向けた実証実験を行っている自動車業界においては、いち早く取り組みが進んでいることも明かしました。

「このような新たな可能性について、どう見ているのか」と問われた石井は、次のように自身の見解を述べました。

「顧客の行動は嘘をつきません。どの顧客が、何を求めて、どこで、どんな行動を取ったのか。これらのデータをマーケターがしっかりとひも解いて、浮かび上がったインサイトをもとに、最適な価値ある体験を提供していくことが重要です。そして、提供した顧客体験に対するフィードバックに基づいて、さらに商品やサービスのレベルアップを重ねていく。これこそが“人間中心のテクノロジー”の具現化であり、アドビが皆様のお手伝いができる大きなところではないかと考えています。」

オンデマンドウェビナー

本稿のウェビナー「最適な顧客体験が生み出す価値提供と信頼づくり」をオンデマンドにてご視聴いただけます。ぜひご覧ください。

https://main--bacom-blog--adobecom.hlx.live/jp/blog/fragments/webinar-202208-cpg-webinar-jp