顧客の属性と行動に合わせて、リアルタイムにパーソナライズされた情報を送るには
カスタマージャーニー全体を通して、一貫したパーソナライズをすることに難しさを感じている企業は少なくありません。“顧客行動をトリガーに、よりパーソナライズしたオファーを届け売り上げにつなげたい” といった共通の課題を解決するには、どのような方法があるのでしょうか。今回は、2024年10月に開催されたイベント「真のリアルタイムパーソナライゼーションを実現- 直感的なUIでカスタマージャーニーを構築するハンズオンラボ」において、デジタルマーケティング最先端技術「Adobe Journey Optimizer」の実機体験の模様をお届けします。
真のパーソナライゼーションの必要性
大量生産、大量消費の時代と比べ、消費者の価値観や行動は大きく変化しています。消費者は、マスメディアからの情報を頼りに店頭で消費する時代から、デジタルメディア、SNSを活用し、オムニチャネルを自由に行き来しながら自分の価値観で行動しています。従来の一方通行的なマーケティング手法は、もはや効果的とは言えません。マーケティングは、一人ひとりの顧客の価値観に合わせたパーソナライゼーションが欠かせない時代に入っています。
アドビのデジタル エクスペリエンス事業本部 プリンシパル エンタープライズ アーキテクトである田澤孝之は、「現代のマーケターは、顧客行動の変化を常に捉え、マーケティングテクノロジーであるMarTechを活用しながら、顧客理解を深め、最適なマーケティング戦略を実行していくことが求められています」と話します。 真のパーソナライゼーションの実現には、クロスチャネル、リアルタイム、顧客行動からのイベント駆動での対応がカギとなります。

米国のメジャーリーグベースボール(MLB)の事例は、この変化に対応したマーケティング戦略の成功例と言えるでしょう。
MLBでは、30球団のデータを統合し、MLB全体と各球場向けの2種類のアプリを開発しています。ファンはお気に入りのチームや選手の情報を登録することで、パーソナライズされた情報を取得することができるだけでなく、球場のゲートを通過したタイミングでランチなどの情報をリアルタイムに得ることができます。これにより、MLBでは様々なユーザーデータを獲得しているだけでなく、マーケティング施策に費やす時間を 年間約7200時間も削減。チケット購入層の若返りも実現し、入場者数を 前年比9.6%向上 させているといいます。
この施策を実現しているツールが、アドビの「Adobe Journey Optimizer」です。
Adobe Journey Optimizerとは
Adobe Journey Optimizerの最大の特徴は、リアルタイム性にあります。ネットだけでなく、リアル店舗やコールセンターなどを含めた顧客のオムニチャネル上の行動情報を360度で収集し、リアルタイムにアクションを起こすことができます。「誰に」「いつ/どのチャネルで」「どんなコンテンツを」届けるのかを、コーディング不要かつシンプルなUI によって実現しています。また、大量のコンテンツを処理する能力にも優れており、1時間に約6000万通のメールを送信することも可能となっています。
顧客のオムニチャネル上の行動は様々ですが、大量の顧客に対して、個別にメールをいつ送ればいいかを分析し、配信時刻を変えることは困難です。そこでAdobe Journey Optimizerでは、顧客の行動情報と開封率を分析した結果をAIが学習し、個々の顧客に対して、最適な配信時刻を設定することで開封率を上げることができます。さらに、コンテンツ作成においてはAIアシスタントも搭載しており、企業が内製でコンテンツ作成、更新する運用を支援します。
※Adobe Journey Optimizer:『マルチチャネル マーケティングハブ、(multichannel marketing hub, MMH)』というカテゴリーに属す。MMHは複雑なカスタマージャーニーに対し、顧客のコンテクストを把握し、さまざまなチャネルに対してパーソナライズされたエンゲージメントを実現するテクノロジーの総称。参考:アナリスト評価レポート
こうした特徴を持つAdobe Journey Optimizerの機能と操作感を、参加者の皆様に実際に体感していただきました。講師は、アドビ ソリューションコンサルティング本部のシニア ソリューション コンサルタントである加藤充孝が務めました。

Adobe Journey Optimizerの操作感を体感
参加者の皆様にご用意したPCを使って、Adobe Journey Optimizerのハンズオンを実施。今回アドビでは、ハンズオンのために下記のような架空の想定企業、想定ユーザーの設定をしました。
<想定企業「LUMA(ルマ)」>
業種:大手スポーツ小売り事業者
販売チャネル:実店舗、ECサイト(web/モバイルアプリ)
<想定ユーザー「アドビ桜子さん」>
性別:女性
会員区分:一般会員(ブルー)
利用チャネル:webサイト、モバイルアプリ
行動履歴:1週間前にECサイトで秋物ジャケットをカートに入れたが未購入
現在の状況:今日は休日で、LUMA-御茶ノ水店の近くを散策している

今回のAdobe Journey Optimizerハンズオンの流れは、次のようになっています。
1. テーブル構造の確認
各企業が持っているデータベース、会員データ、webのアクティビティ、来店履歴、コールセンターの履歴などのデータそれぞれに対してテーブルを作成。
2. 顧客プロファイルの確認
各テーブルに入ってくるデータを、1顧客として顧客プロファイルに集約。これは会員IDメールアドレスや電話番号など、顧客を特定できる情報をキーにして、自動的に作り上げることができます。ここが、Adobe Journey Optimizerのリアルタイム性に優れる理由でもあります。
3. オーディエンス設定
1つに統合された顧客プロファイルを対象に、今回の施策でターゲットにするユーザーを抽出するためのオーディエンスを設定(セグメント設定)。
4. ジャーニー設定
最後に、セグメントを切ったユーザーに対してのカスタマージャーニーを設定。
今回のハンズオンでは、上記の①と②を講師によるデモで行い、参加者の皆様は各自の手元に配布されたPC上でそれを確認。そして、③④は参加者の皆様が実際に試しながら、マーケティングのシナリオを作成しました。

1. テーブル構造の確認
Adobe Journey Optimizerのメニューから「データ管理」を選び、スキーマを選択。テーブル定義の一覧からスキーマの中身を見ていくことができます。例えば、会員データベースのスキーマで会員の誕生日や性別などの情報を多階層に管理することが可能です。ただし、マーケターが直接スキーマを操作することはほとんどないため、構造を理解しておけば良いという説明がありました。
2. 顧客プロファイルの確認
ここでは、①で確認した各チャネルからのデータが入ったテーブルから、1つの顧客プロファイルに集約していく過程を説明。想定ユーザーのアドビ桜子さんの場合、何時何分にwebやモバイルでログインしたという情報や、カートに入れたのか、購入したのかといった情報が確認できます。
これらの情報は、LUMAの会員ID、web、アプリそれぞれのクッキーのID情報などを手がかりにつないでいくことで、1つの顧客プロファイルとして統合。例えば、LUMAの会員であるアドビ桜子さんが、コールセンターに電話をかけてくると、携帯電話の番号がプロファイルに紐付けられ、同じ会員IDのwebログインからwebの行動履歴とも結びつくというような形で、プロファイル情報が集められます。
こうした顧客データの名寄せ作業は、1つずつ確認しながら行うと非常に手間がかかります。Adobe Journey Optimizerではルールだけを設定しておくと、テーブルにデータが入ってきた時点で 自動的にプロファイルの統合 を行うことができるのです。
誰に、いつメールを送るかの条件を設定
ここから、講師が提示するシナリオに沿って、参加者の皆様が実際にAdobe Journey Optimizerのリアルタイム処理を体感していただきました。
3. オーディエンス設定
・Adobe Journey Optimizerのトップページから「顧客」の「オーディエンス」をクリック。「オーディエンスを作成」を押すとポップアップが開き、「ルールを作成」から「クリエイト」を選択。
・オーディエンスの名前は、区別するために参加者各チームのPCの番号を先頭にした名前を入力。
・ここからセグメントを設定。最初に属性情報の絞り込みを行う。プロファイルに登録されている「パーソン」を呼び出し、誕生日、性別などの属性を表示。
・性別は女性など、各属性を選択。例えば、今月誕生日の人だけを抽出する場合は、「Birthdate」「今月」と選択する。
・セグメントに顧客が保有しているLUMAのポイント数を組み込む場合も、同様にプロファイル情報から「points」を選択して、一定の数値以下のポイント保有者に絞る。
・途中で、選択しているオーディエンスの比率を知りたいときは、「概算」をクリックすると、属性ごとの比率を確認することが可能です。全体の対象人数を確認しながら、設定を繰り返し、属性を絞り込んでセグメントを精査していきます。
・次にイベントの設定。イベントとは、webのアクティビティ、カート落ちなどの状態によってセグメントを指定することを指します。「イベント」タブから、テーブルに登録されているイベント情報を設定。例えばカートに入れるなど、商品を購入する主要なプロセスは、Adobe Journey Optimizerが「イベントタイプ」として分類しており、イベントタイプからカートに商品を入れて購入した流れを示す「product restored」と「purchase」を選択。商品のカテゴリー設定から、ジャケットなど具体的な商品名を指定することで、その商品を購入したかの確認もできます。
・続いて、イベントからカート落ちのユーザーを設定。「purchase」を選択し「除外する」を選ぶと、カートに商品が入りカート落ちの状態を表現します。
・また、ジオフェンシング機能を使い、指定したポイントから半径何m以内に入ったり、そのエリアから出たりしたタイミングでメールを送るといった設定を加えることもできます。
・これを使い、検索画面で「POI(Point of Interest)」と入力し、「purchase」の右側に配置。そうすることで、カート落ちをした状態で、かつLUMA御茶ノ水店の近くにいる、アドビ桜子さんの現在の状態を設定することが可能になります。
以上でオーディエンス設定は完了です。最後に「公開」を押して、オーディエンスを作成することができました。


カスタマージャーニーを作成
最後に、実際のカスタマージャーニーの設定と、メール文章の作成を体験いただきました。
4. ジャーニー設定
・メニューから「ジャーニー管理」「ジャーニー」を選択し、「ジャーニー作成」をクリックし新規作成。新規のジャーニーに名前を設定し、保存。
・ジャーニーの設定は、「イベント」「オーケストレーション」「アクション」を組み合わせます。イベントはジャーニーを発火させる反応、オーケストレーションは条件分岐、アクションはメールの作成やテンプレートの指定を行うものになります。

・最初に「イベント」の「オーディエンス設定」を選択し、作業エリアにドラッグ。「編集」ボタンを押すとオーディエンス一覧が表示されるので、先ほどのデモで作成したオーディエンス設定の名前を選択。またこの画面で「名前空間」がブランクのときは、一覧から「e-mail」を選択。「保存」を押すと、オーディエンス設定が完了します。
・次にメニューから「アクション」を開き「e-mail」を選択し、そのまま作業エリアにドラッグ。
これで、対象オーディエンスに対してメールを送信するシナリオが設定されました。ここから、送信するメールの文言作成に入ります。
・メインメニューから「メール設定」を選び、リストからメルマガのチャネルを選択。企業内で事業部ごとなど、メールを配信するドメインを分けたいときはここから選択します。
・「コンテンツを編集」を選択し、メールの件名、本文を作成。件名の要素には、顧客データのスキーマから属性データの挿入が可能で、例えば「(フルネーム)様向けの特別セールのお知らせ」のように件名を設定することができます。

・また、メール内に画像を貼り込むことも可能。Adobe Journey Optimizer内で管理しているアセットから画像を選ぶこともできますし、「AIアシスタント」使い、メールの内容にふさわしい画像を生成することもできます(現在、AIアシスタントへの指示は英文のみ対応)。
・ユーザーによってメールを出し分ける場合は、メニューから「条件付きコンテンツの有効化」を選択し、スキーマから対象ユーザーを指定することが可能。アドビ桜子さんはLUMAのブルー会員のため、ブルー会員からシルバー会員への案内を含んだメールを送信するといった設定ができます。

イベント後に参加者の交流会も実施
ここでハンズオンは終了。参加者の皆様は、Adobe Journey Optimizerのオーディエンス設定、シナリオ作成やAIによる画像生成に熱心に取り組んでいただき、操作感や機能を体感いただきました。
ハンズオンイベントの終了後は、参加者同士での意見交換、コミュニケーションの場を設けています。参加者の方からは、「こんなに 誰でも使えるUI だと思っていなかったので驚いた」「顧客データをIDから紐付け していくことで利用価値が高まる様子が理解できた」「位置情報と組み合わせたメール配信の仕組み は、自社にも取り入れたいと思った」「今後自社のマーケティングにも、リアルタイムのパーソナライズ が必要になるかもしれないので、とても参考になった」などの感想が聞かれました。

アドビでは今後も、こうしたハンズオンイベントをはじめ、顧客体験向上に役立つツールをご紹介する機会を増やしていきたいと思います。次回の開催もご期待ください。