営業の強い会社でマーケティングが信頼を勝ち取る2つのカギとは
2022年9月に開催されたAdobe Experience Makers Live 2022のセッションの中から、日商エレクトロニクス株式会社 マイクロソフト事業部 部長の近藤智基氏による「商品単価の高いB2Bマーケティングを成功させる秘訣とは?」の模様をお届けします。
もくじ
- 営業が強い会社を変えるには
- 売上にコミットするマーケ組織
- 顧客視点のマーケティング戦略
双日グループのIT機器専業商社として、商品単価が高く、購入検討期間が長い製品を取り扱っておられる同社。かつては営業の人間関係や製品力で顧客を獲得できていたものの、昨今では製品力の高い商材が少なくなり、新規顧客の獲得も難しくなったことで、Adobe Marketo Engageを活用したデジタルマーケティングの強化に取り組まれました。あらゆる商材で成果を出し続けながら、社内からも高い評価を得られる組織作りと戦略を実行されている近藤氏が、その成功の秘訣を語ります。
営業が強い会社を変えるには
長年、エンジニアとして経歴を積んでこられた近藤氏は、2014年にマーケターへと転身。社内外で数々の賞を受賞される中、2022 Adobe Marketo Engage ChampionのMarketing Executive of the Yearに輝きました。
そんな近藤氏が勤める日商エレクトロニクスは、双日グループのIT機器専業商社です。シリコンバレーのスタートアップの商品を日本に持ってきて、お客様に販売するという事業をされています。したがって、同社のマーケティングでは、ブランディングよりもデマンドジェネレーション、つまり案件創出が主な目的となっています。
同社が取り扱う商品単価は1,000万〜1億円ほど。B2Bの高額商品であることから、検討期間が非常に長く、半年〜2年かかることもあると言います。強い営業力を武器に接待でお客様と仲良くなり、既存顧客のアップセルやクロスセルを図るスタイルでビジネスを拡大してこられた同社。その一方、新規顧客の獲得には苦戦していたそうです。
「パートナー様から案件を紹介いただいたり、イベントに出展したりして、たまに新規顧客が増えていたのですが、リードに対しては何の戦略もなくメルマガを送っているだけ。webサイトも海外のスタートアップの人に言われたままのことが書いてあるだけで、製品を知らない人にはまったく響かないwebサイトになっていました」(近藤氏)
この状況をどうにか打破したいと考えた近藤氏は、デマンドジェネレーションに取り組むことを決めました。しかし、営業力の強い会社でよくある“営業との壁”にぶつかることになります。マーケティングで案件を創出しても、「ターゲット顧客ではない」と放置されることや、マーケティングはコストセンターと見なされ「売上に貢献していない」と見られてしまう。これらの障壁が立ちはだかって、なかなかマーケティング活動に対する協力が得られなかったと言います。
このような逆風を、近藤氏はどのように乗り越えたのでしょうか。近藤氏は過去を振り返り、「ポイントは『売上にコミットするマーケ組織』にすることと、『顧客視点のマーケティング戦略』にすることの2つだった」と語ります。
それぞれのポイントについて、詳しくご紹介していきましょう。
売上にコミットするマーケ組織
当初はイベントの回数やリードの件数をKPIとして、案件数まではコミットしないといった方針でマーケティングをしていたと言います。しかし、これでは営業から見ると「そんな案件につながらないようなことに、お金を使うなよ」と思われてしまう。そこで近藤氏はマーケティングのKPIを売上に変更。「営業の売上目標に対して、マーケティングからこれだけの案件数を提供する」とコミットしたのです。
売上を作るためには商談を作らなければならない。商談を作るためにはインサイドセールスのコール数を増やさなければならない。コール数を増やすためには、より質の高いリードを多く集めてこなければならない。このように逆算をしながらKPIを設定するとともに、それぞれのKPI達成を目標としたチーム作りに着手しました。
具体的には、リードからコールまでのパーセンテージをKPIに持つ「デマジェンチーム」、コールした結果ハイタッチセールスに商談を渡す「インサイドセールスチーム」、そして自らお客様のところへ出向き、BANT情報を獲得して営業に渡す「ハイタッチセールスチーム」。これら3つすべてをマーケティングが担うことで、「営業に受注率の高い案件を渡すこと」にこだわっていったのです。
その結果、今ではマーケティングが創出した案件の受注率は、60〜70%にまで上がっているとのこと。「ここまで来ると営業はすごく協力してくれるし、マーケティングの中でも仲間意識が芽生え、『とにかく次に渡せばいい』のではなく、質にこだわったナーチャリングができます。デマジェン/インサイドセールス/ハイタッチセールスまでマーケティングがやり切る体制を作ることがとても大事です」と近藤氏は強調しました。
加えて、「KPIの達成状況はリアルタイムで見られるようにしておかなければならない」と言います。同社ではAdobe Marketo EngageやSFAなどからBI(ビジネスインテリジェンス)にデータを集めて、常にマーケティング部全体で共有しています。数字を握ることで、経営や営業からの協力が得られやすくなるだけでなく、商談化までしっかりとコミットすることで、一つひとつの施策に対するマーケターの意識が大きく変わってくるからです。
顧客視点のマーケティング戦略
2つ目のポイントは、「顧客視点のマーケティング戦略」にすること。冒頭でも紹介した通り、同社の商品は海外のスタートアップから提供されたものです。以前は、「うちのプロダクトはこんなにすごいんだ!」とアピールされたことをそのままコピーしてwebサイトに書いていたのですが、お客様にちゃんと届けるには、お客様のインサイトに合わせた情報へと変えていく必要があります。お客様はどんな悩みを抱えていて、どんな情報が必要なのか、どうやって情報収集をしているのか、などカスタマージャーニーを作ることが欠かせません。
それだけではなく、同社では商品が売れた後にお客様に対して、「このカスタマージャーニーで検討されましたか?」と確認していると言います。「カスタマージャーニーは最初、想像で作るため、お客様に確認を重ねることでだんだん本物に近づいていきます。そうやって本物になってきたカスタマージャーニーに沿って、お客様に届けるコンテンツを考えていくのです」(近藤氏)。
同社でコンテンツを作るのはデマジェンチーム。しかし、同チームは基本的にお客様と接する機会がありません。そこで近藤氏は、デマジェンチームとインサイドセールスチーム、そしてカスタマーサクセスチームを意図的に人材交流させることで、お客様の話を直接聞く機会を作るようにしました。
もう1つ大切にしているのが、みんなで同じペルソナを追うことです。
そのためにデザイン思考を取り入れ、エンパシーマップキャンバスを作成していると言います。これは、お客様が何を見ているのか、お客様が何をしているのか、お客様は何を考えているのか、といったお客様との会話の中で得た情報をすべてマッピングして、お客様のインサイトを浮き彫りにするものです。こうしてできあがったペルソナには名前をつけて、「Aさんに対して、この商品をどうやって売ったらいいかな」と考えていきます。
そこで使うのがバリューポジションキャンバスというフレームワークです。エンパシーマップキャンバスで明らかとなったAさんの欲しい利益や悩みなどを解決するために、自社で与えられる解決策や利益をバリューポジションキャンバスに書き出していきます。これらをチーム内で共有することで顧客への理解が膨らみ、自社の商品が顧客に与える影響もしっかりと理解できるようになる。その上で、マーケティング戦略を立て、コンテンツを作ることで、顧客視点のマーケティングを実現しているのです。
「このように、『売上にコミットするマーケ組織』にすることと、『顧客視点のマーケティング戦略』にすることを大切にしてきたことで、マーケティング組織は急激に成長しています」と語る近藤氏。22年からは30人以上の体制となり、営業の一部であったカスタマーサポートまでマーケティングの管轄内に入っていると言います。
「ある役員からは『近藤が案件を生み出す“魔法”をちゃんとみんなに教えてほしい』と言われ、非常にうれしかったですね。魔法と言われるほどの課題解決ができる部署にしてくれたメンバーには、とても感謝していますし、皆さんもこの2つを守れば、きっと魔法のようなマーケティングを実現できると思います」と語り、講演を締めくくりました。
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