「Adobe AI Forum Tokyo」イベントレポート後編: AI実装で進化するマーケティング
2026年3月10日に開催された「Adobe AI Forum Tokyo」。イベントレポート前編では、特別講演/対談を通じたAIネイティブ時代の成長戦略とマーケティングのあり方について紹介してまいりました。
後編となる本稿では、様々な企業の特別ゲストをお招きしたイベントの中から、株式会社電通デジタル 小林大介氏とセニア スタント氏、アドビ 清水仁志によるパネルディスカッション、アドビ 阿部成行、今井裕志の各セッションをご紹介します。
電通デジタルがアドビと目指す先進的AI活用
まずは、「マーケティング組織における生成AI実装のリアル」と題し、株式会社電通デジタル 小林大介氏とセニア スタント氏、アドビ 清水仁志の3名によるパネルディスカッションが行われました。本セッションでは、アドビ製品を活用した生成AIのプロジェクト事例を中心に、マーケティング現場での実体験や、組織浸透に向けた課題などが語られました。
電通デジタルはアドビ製品のユーザーであると同時に、販売パートナーでもあります。一方で、アドビのクリエイティブエージェンシーとして電通デジタルが支援しており、双方向の関係性があります。
今回、両社の共創による具体的な生成AIの活用事例として、Adobe FireflyやAdobe AcrobatのAI機能、Adobe GenStudio for Performance Marketingを用いた広告やEメール制作の効率化を紹介。
スタント氏は、Adobe GenStudio for Performance Marketingを活用したEメール制作の取り組みについて、従来の分担作業中心のフローを、テンプレートとプロンプト入力によって複数のパターンを自動生成する仕組みに変えることができたと説明。「アドビとの打ち合わせ内容をAdobe AcrobatのAI機能で要約し、プロンプトに積極的に取り込むため、非常に効率的です」と、具体的な工夫を語ります。また、複数のバリエーションを迅速に用意できるようになったことで、業務リソースの大幅な効率化につながっている点もメリットになっていると話しました。
グローバルソリューション室 ビジネスプロデュース第2事業部
アカウントマネージャー/プロジェクトマネージャー
セニア スタント氏
マーケティング本部 執行役員本部長
清水仁志
清水も、「AIはときに予期せぬ“ポエティック”な表現をすることがあり、それが意外と高いクリック率を叩き出す面白さがあります」と話し、テストを繰り返すことの意義を説明しました。
次に小林氏は、クライアント企業におけるマーケティング業務の変革について、現在は単なるお試しの時期を過ぎ、AIを使って本格的に業務を変える段階に入っていると指摘。「AIで成果を出すためには、マーケティングの業務プロセスを棚卸しして、可視化することが大事です」と述べ、属人的な暗黙知に頼っていた複雑な判断をAIに置き換えることで、人とAIによる新しい業務プロセスを作り上げていく重要性について語りました。
ただし、AI活用を定着させるためには、ツールの導入だけでなくAIのフローを組織に浸透させることが重要です。小林氏は、その一環として電通デジタルの「AIビジネスアイデアソン」を紹介しました。これは社内から数百件のアイデアを集め、海外(モンゴル)の開発拠点で、プロトタイプを高速開発するという取り組みです。社員のモチベーションにもつながっていると小林氏は語ります。
AIトランスフォーメーション部門 部門長
小林大介氏
そして、AI活用の今後についてスタント氏は、AIは単なるツールではなく、ワークフローに組み込んで初めて価値が出るとし、「繰り返しの作業に時間を使うのではなく、より上流設計や戦略を一緒に考えられるような時間に使っていきたいです」と意気込みを述べました。
最後に小林氏より、権利関係をクリアしたクリエイティブを生成できる点がアドビ製品の強みだとした上で、「AIを業務の中に組み込んで新しいプロセスを作っていくことが、当社の価値提供につながっています。両社のタッグで、成功ケースを増やしていきたいですね」と語り、セッションを終えました。
AIでブランドのルールを守りながらコンテンツを量産する
続いて、「AIで加速するコンテンツ制作:スピードとスケールで、品質は守り高める」と題したアドビの阿部成行によるセッションでは、企業が直面するコンテンツ制作の課題と、AIを活用した具体的な解決策を紹介。
阿部はまず、現代はAIの普及によって、消費者がよりパーソナルな文脈で会話をすることが前提になってきたと話し、パーソナライゼーションの重要性を提起します。
その一方で、「情報の消費サイクルは急速に短くなっており、エンゲージメントの半分を獲得するまでの期間(半減期)はTikTokでわずか10秒、YouTubeでも10日間に圧縮されています。生活者の新しいコンテンツに対する飽くなきニーズが、制作現場に大きなプレッシャーを与えているのです」と、阿部は説明しました。
この課題に対してアドビでは、企画から制作、配信、分析までの一連のプロセスを「コンテンツサプライチェーン」として定義し、円滑なコンテンツの制作プロセスを支援するツール群を提供しています。本講演では、AIが最も貢献できる領域として3つのソリューションをデモンストレーションとともに提示しました。
1つ目は、大規模な制作に役立つAPIである「Adobe Firefly Services」。デモンストレーションでは、大量の画像をアップロードすると自動で背景が削除され、指定した文脈に沿った画像合成や各ストレージへの出力が瞬時に行われる様子が示されました。
本製品を導入しているエスティ ローダーでは、既存のワークフローに生成AIのアプローチを統合し、画像サイズ調整の自動化に成功しています。同社はこれを25のブランドに対して大規模に展開しており、ワークフロー全体で大幅な時間と労力の節約を実現されています。
2つ目は、ブランドルールにのっとったコンテンツ制作を可能にする「Adobe GenStudio for Performance Marketing」です。デモンストレーションでは、ブランドやペルソナなどのパラメーターを指定して、コンプライアンスを守った広告を自動生成し、配信から効果測定までをシームレスに行う手順を説明。複数のコミュニケーションチャネルを持つLumen Technologiesの事例では、本ツールを活用することで作業効率を60%高速化、時間を3分の1に短縮するという、大きな成果を上げています。
3つ目の「Adobe Express」は、誰もがブランドに即したコンテンツ制作を行えるオンライン制作ツールです。阿部は、「現場に権限を委譲していくためには、ルールの仕組み化が必要です」と述べ、テンプレートによって編集権限を制御できる利点を強調。Red Hatは、グローバルチーム拡大の課題に対し、400名のマーケティング担当者全員にAdobe Expressのトレーニングを実施して活用を推進した結果、制作効率は10倍、キャンペーンの成果も2倍に向上するという驚異的な成果を達成しています。
阿部は、「どれもAIを活用した強力なツールですが、どう使うかが重要です。ツールを前提としてお客様固有の課題をどう解決していくかを、一緒に考えていきたいです」と語りました。
ジャパントランスフォーメーション本部
プリンシパルビジネスデベロップメント マネージャー
阿部成行
AIエージェントがマーケティングチームのプロセスを加速する
最後のセッションとして、アドビの今井裕志が登壇。「Adobe Agentic in Action:AIで実現するマーケティングの俊敏性」と題し、AIエージェントがマーケティング業務をいかに効率化し、チーム全体の俊敏性を向上させるのかについて語りました。
大規模言語モデル(LLM)の台頭によるユーザーの流入経路の変化が、企業のマーケティングに大きな影響を与えています。例えば代表的なLLMであるChatGPTとPerplexityとでは挙動が異なり、流入元の把握方法にも変化が生じているため、一律な対応では通用しません。消費者の多くがAIの要約を頼りに意思決定を行う現在、AIとの対話の中に自社ブランドが適切に存在することが求められます。
今井は、この状況を避けるのではなく、前提として受け入れ、正しく備えることが重要だと話します。「私たちがLLMに期待していることはとてもシンプルです。それはお客様とAIとの会話をきっかけに、自社のwebサイトやモバイルアプリにつなげていくことです」。
アドビでは、「Adobe LLM Optimizer」などによって、AIの回答内でブランドがどのように認識され、言及されているかを可視化して最適化する機能を提供しています。
アドビ自身が先んじて自社のwebサイトでこの機能を検証した結果、「アドビブランドの活性が200%以上増加し、流入トラフィックも41%増加。さらに、AIが読み取れるコンテンツを増やすための最適化を実施したことで、1万ページ以上が改善されました。このように、お客様への価値を確認した上で、アドビでは実効性の高いソリューションを提供しています」(今井)。
ソリューションコンサルティング本部
プリンシパルソリューションコンサルタント
今井裕志
講演の後半では、AIアシスタントのデモンストレーションも実施。キャンペーンの計画において、AIアシスタントは担当者の意図を整理して目的を明確化し、4段階のプロセスからなる全体像を構築します。
そのプロセスとは、ターゲット層を抽出するオーディエンス作成、顧客の体験シナリオを描くジャーニー設計、最適なメッセージを用意する新規のコンテンツ生成とモニタリング、そして実行に向けたスケジューリングです。
デモンストレーションでは、状況に合わせてモニタリングのフェーズを一度削除するよう指示すると、AIアシスタントが即座に計画を修正し、実務に即した形に整える様子が示されました。自然言語による指示のみで、オーディエンスの構築からコンテンツのバリエーション生成までを一貫してサポートするこの機能は、業務効率を劇的に高めることが可能です。
また、膨大なデータが日々生成される中、それを分析できる人材の不足も課題となっていますが、AIエージェントを利用することで、誰もがインサイトを素早く得ることができます。
最後に、「アドビは、必要なときに必要な目的のために使える目的特化型エージェントを、皆様自身が自由に活用できる世界を目指しています」と今井は語り、セッションを締めくくりました。
AIの課題と期待があふれる意見が交わされる
本イベントでは講演だけでなく、会場脇に様々なアクティビティやブースも用意。「Express Sticker Studio」でのオリジナルステッカーの作成や、写真からラテアートが作れる「Snap Latte」には多くの人が集まり、楽しそうに体験していました。さらに、「Adobe Agentic AI solutions」の展示ブースでは、アドビの説明員が参加者の質問に答える姿が見られるなど、終始賑わいを見せていました。
そして、講演終了後に行われたネットワーキングでは、マツダ、dentsu Japan、電通デジタル、アドビの各登壇者も含め参加者と交流し、熱心に意見交換。全体を通じて、AI時代のコンテンツ制作、マーケティングの課題を共有し、多くのインサイトが得られたイベントとなりました。次回もぜひ、ご期待ください。