ターゲット戦略を立てて、リードの質に関する不毛な議論から脱却しよう
Adobe Marketo Engage(以下、Marketo Engage)を活用して、顧客体験をより良いものにするためには、戦略的なターゲティングが欠かせません。Marketo EngageとSalesforceをはじめとするSFAを連携して、ターゲティングにマッチしたコンテンツを継続的に送り続けるには、どのような戦略を立てる必要があるのでしょうか。今回はMarketo Engageのユーザーグループ「JMUG」において開催された「JMUG - Marketo × SFA 勉強会 vol.2 戦略ターゲティング」の模様をお届けします。
講師は、2014年よりMarketo Engageの利用を開始し、2017年のMarketo Championでもある、株式会社ユーザベースでFORCASのカスタマーサクセスを担当している嶋田真弓氏です。マーケティング施策を実行していても、いまいち効果を実感できない方々に向けて、嶋田氏の経験や実例を交えながら、ターゲティング戦略の重要性について解説していただきました。
もくじ
- マーケターが解放されるためにターゲティング戦略が必要だ
- ターゲット企業を決める具体的な方法とは
- Marketo Engageでターゲットの確らしさを検証しよう
マーケターが解放されるためにターゲティング戦略が必要だ
本題に入る前に、まずはリード管理においてマーケターが苦労を強いられている原因を整理しておきましょう。
人を起点としたリード・ベースド・マーケティングの根幹を担うMA。入ってきたリードをナーチャリングして確度を高め、インサイドセールスや営業にトスしてSFAやCRMへとつなげていくのが基本です。
そんなときに他部署からよく誤解されるのが、「マーケティングががんばればがんばるほど、質の良いリードを多く獲得できる」というものです。マーケターにとっては当たり前のことですが、実際のところ、入ってくるリードの質を選ぶことはできません。どこの媒体に広告を出稿するか、どの展示会に出展するか、といった、ある程度の工夫はできたとしても、基本的に入ってくるリードは"アンコントローラブル"なものです。
「リードは、属性もフェーズもさまざま。まったく初めてのお客様もいれば、過去に失注したお客様が入ってくることもあります。そんな現実を無視して、『事業成長のためにリード獲得の目標が"倍々ゲーム"になっていく』というのは、どこの企業でもよくある話ではないでしょうか」(嶋田氏)
他にも、マーケターを苦しめるものとして、「新規リードを増やすために、新しいチャネルにチャレンジすればいい」という安易な発想があります。やってみたことのないチャネルに期待されても、やってみなければどうなるかはわかりません。"とりあえず"やることにしても、これまでの業務にプラスで作業が発生することになりますし、それだけ工数をかけても結果が伴わないことももちろんありえます。
あるいは、「コールドリードのナーチャリングをしよう」というのも、言うは易く行うは難しの代表例。そもそもコールド=興味・関心の低いお客様ですから、それ相応の時間がかかりますし、打率も良くはありません。同様に、「ロストリードの掘り起こし」も難易度が高い施策のひとつです。ロスト(失注)理由を管理して、失礼がないように注意を払う必要がありますから、メンテナンスコストは高くなりがちです。
そしてマーケターが苦労を強いられる最たるものが「リードの質に関する議論」です。せっかく獲得しても、「質が悪い」と言われて架電してもらえない。未対応が積み重なっているにもかかわらず、営業目標を達成できないのは、「リードが足りないせいだ」と言われる。"リードの質"について、いろいろと指摘されるが、人によってポイントがバラバラで、ふわふわした議論にしかならない...etc.
「結局、入ってくるリードは有象無象である以上、質の安定を求められても無理な話です。この質の話を解決しない限り、量を増やすしかなくなるという悪循環は止められません。リードの質とはつまりターゲットのこと。マーケティングと営業で互いに合意したターゲットを定義し、それに特化したリード獲得施策で打率を高めることでしか、この不毛な議論に終止符を打つ方法はないのです」(嶋田氏)
ターゲット企業を決める具体的な方法とは
ターゲットについて考えるときに、西口 一希氏の著書『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』を参考にしている、と語る嶋田氏。「ターゲティングとは理想的な顧客を定義することである」とした上で、「話を聞いてくれる会社を探すのではなく、『この顧客なら絶対に自社のプロダクトを快く買ってくれる』と自信を持てる購買層を顧客として定義すべきだ」と言います。
では、そんなターゲットを具体的にどう見つけていけば良いのでしょうか。
まずやるべきことは、自社の顧客を徹底的に分析して、N=1を深く理解することです。そのプロセスに正解はありませんが、「①データドリブンに顧客を理解する」「②顧客に直接ヒアリングする」という2つを掛け合わせると良い、と嶋田氏は語ります。
① データドリブンに顧客を理解する
顧客分析に役立つデータの例として以下を挙げました。
<外部データ>
- 会社の業績が良い
- 投資意欲や投資体力がある
- 会社規模が一定以上ある
- 自社プロダクトがニーズフィットしやすい特徴を持つ
- マーケットポテンシャルが大きい
<内部データ>
- すでに社内にコンタクト情報がたくさんある
- マーケティング/営業/サポートなどの投資対効率が高い
② 顧客に直接ヒアリングする
顧客にヒアリングする際の質問例として以下を挙げました。
- いつ、どんなシーンでプロダクトを使っていますか?
- どうやって予算確保しましたか?毎年見直し対象ですか?
- プロダクトを使わないでXXXをする場合、どのようにしていますか?
- どんな背景でプロダクトを導入しましたか?
- 意思決定は誰がしていますか?
- いつも見ているメディアは?
- 朝起きたらまず何をしますか?
- プロダクトを認知したきっかけは何ですか?
- いつもの業務を教えてください。たとえば昨日は何をしましたか?
FORCASでは、セミナーによく登壇してくれているスターユーザーに話を聞きに行き、「なぜ買ったのか」「どうやって活用しているか」などをヒアリングしたそうです。次は、逆にうまく使えていない会社に話を聞きに行き、「なぜうまく使えていないのか」「どこに原因があるのか」を聞きに行き、さらに違う属性として、エンタープライズ層という枠組みのユーザーへもヒアリングに行ったと言います。
さらに嶋田氏は自社プロダクトの「FORCAS」を活用して、ターゲットの確らしさを検証していきました。仮説として生まれたターゲットの塊をFORCASに登録すると、実在するターゲット社数や既存顧客比率、過去の実績をもとにした打率などがわかるのです。FORCASを使わない場合は、過去の商談結果から顧客数を割ったら打率が出てくるので、それを安心材料としてターゲットを確定していきましょう。
「ターゲットは一度決めたからといって、今後、一切変更できないわけではありません。何度か施策を回して、確らしさが認められてから全社的に本格始動すればいい。『まずはお試しで施策を回しても良いかな』と覚悟を持てるようにするために、数字で可視化しているのです」(嶋田氏)
ターゲットを確定したら、各チームがどんな施策を打つのかを決めていきます。その際に、他部署でどのターゲットを狙って行動しているのかを共有しやすくするために、ターゲットを一言で表す名前(たとえばSaaS企業・新規市場開拓強化・営業DX注力)をつけておくと良いそうです。
Marketo Engageでターゲットの確らしさを検証しよう
「ターゲットが決まれば、自ずと取るべき戦略が見えてくる」と語る嶋田氏。次はMarketo Engageを用いた実践例を見ていきます。
数ある施策の中で、どこから着手すれば良いかといえば、「比較的スモールでリソースも少なくできる施策=メールの出し分けから始めるのがオススメだ」と言います。そこで定義したターゲットで間違いないと確信が持てるようになれば、少しずつ仕組み化したり横展開したりしていけば良い。ターゲットが変わりやすいうちから、いきなりMarketo Engageでスコアリングやエンゲージメントプログラムの実装に着手する必要はないのです。
「ただし単発のメールであっても、反響があった際のオペレーションは、必ず事前に他部署とも連携して合意をとっておくべきだ」と嶋田氏は強調します。オペレーションとは、たとえば「ターゲット企業からの反響には、ホットリードと同様にインサイドセールスが最優先で対応するのか否か」「ここから入ってきたターゲットにはインサイドセールスから念入りにプロダクトの説明をするのか否か」などを指します。
こうした対応をするためには、FORCASのデータもしくはそれに類する"ターゲットを識別するためのデータ"をMarketo Engage内に取り込んでおく必要があります。
その上で、ターゲット向けのセグメンテーションメールのポイントとして、以下を紹介しました。
① まずは開封率を上げて母数を確保する
- 開封率に関係するのは、送り主・件名・送信時間
- ターゲットに刺さる内容を件名にセットする
② 次にアクションを増やす
- クリック率に関係するのは、本文とCTA(Call to Action)の位置
- FORCASでは直近でセミナーに参加したホットリードにはお礼の内容を差し込んでいる
「とにかくまず大事なのは開封率を上げること。メール内のクリエイティブやデザインにこだわるのは、最後の最後でいい。FORCASでは毎回セグメントごとに内容を変えて3通くらいは出し分けています」(嶋田氏)
加えてFORCASではターゲット企業が望ましい対応をした際に、漏れなく営業にアクションを行ってもらうための施策「ACT NOW」を行なっています。具体的には、Incoming Webhookを使って架電に必要な内容をSlackで通知しているそうです。
最後に嶋田氏は、「Marketo Engageを活用するポイントは、仮説を立てて設計すること。ターゲットを決めたら、彼らが気持ちの良い内容は何なのか、仮説を立てましょう。そして最初からあまり複雑にせずに、シンプルなA/Bテストで結果を回収しながら、PDCAを回すことが大切です」と語り、ウェビナーを締めくくりました。