


設立
1941年
所在地:東京
従業員数:1,526名(2018年3月31日現在)
www.mitsuifudosan.co.jp
グループ企業のサイト内行動や商業施設の来館データ、パブリックDMPのデータなどを統合した分析を実現
グループ企業のサイト内行動や商業施設の来館データ、パブリックDMPのデータなどを統合した分析を実現
課題
デジタルテクノロジーを活用してイノベーションを創出したい。
グループ内の各事業のデータを統合分析して、より大きな付加価値を生み出したい。
広告やキャンペーンが事業にどの程度貢献しているのかが明瞭ではない。
成果
グループを横断した統合分析環境を整備し、グループ全体で顧客の全体像を捉えられるようになった。
A/Bテストやコンテンツの出し分け、レコメンドなどの施策を積極的に実施できるようになった。
広告やキャンペーンの効果を測定し、施策の有効性を証明することができた。
グループのシナジーを高めるために統合分析にチャレンジ
複数の事業を展開する企業グループは、事業ごとに異なる顧客チャネルを持っています。デジタルマーケティングに取り組む上では、チャネルごとに最適化を図るのはもちろん、各チャネルから収集されたデータを統合し、相互に活用することでグループのシナジーを高めることも重要なテーマとなります。
三井不動産グループもまた、グループごとに分散しているデータの統合と分析にチャレンジしています。
同社は1941年に設立されたオフィスビルや商業施設、ホテルやリゾート、物流施設など、幅広い事業を通して複合的に街や空間を創りあげていく総合デベロッパー。三井不動産が手がけた代表的なものに、六本木の「東京ミッドタウン」「ららぽーと」「三井アウトレットパーク」「三井ガーデンホテルズ」などがあります。
最近では商業施設のリアル店舗における買い物とネットショッピングの双方の良さを同時に享受できる、新しいコンセプトのファッションECモール「Mitsui Shopping Park &mall(アンドモール)」など、多種多様な事業を展開。グループ内の企業数は実に313社にも上ります。
「当然、事業ごとに顧客データを収集、蓄積し、様々な施策を実施していますが、統合することでさらに新しい価値を生み出すことが可能になると考えています。例えば、ほぼ一生に一度の買い物となる住宅販売ではお客様との接点は非常に限られています。また、ホテルに宿泊する回数も多くの方は年に数回くらいです。しかし、商業施設においては、多くのお客様とより頻繁に接点を持っており、『赤ちゃん用品を購入した』など、ライフスタイルやライフイベントを推測できるデータを収集することができます。仮にその商業施設のデータから、住宅購入ニーズを抽出することができれば、こちらからお客様に新しい提案を行うことが可能になる。そう考えて、グループ間のデータ統合に取り組んでいます」と同社の中島誠氏は話します。
分析の精度とソリューション間の親和性を評価
この三井不動産グループのデータ統合、および分析基盤として活用されているのがアドビのソリューションです。
まず導入を決めたのが「Adobe Analytics」でした。
「私たちが目指したのは三井不動産グループ全体を横断した分析。例えば、単に外部からの流入を計測できるだけでは要件に合致しません。それに対してAdobe Analyticsは、サイト流入後、どう回遊して、どうコンバージョンしたかなどを精緻に分析できる。また、フォールアウトドリルダウン分析やレポーティングなどの機能も充実しており、統合分析の基盤として最適だと判断しました」と中島氏は説明します。
その上で、プライベートDMP(Data Management Platform)として「Adobe Audience Manager」、コンテンツの出し分けやレコメンド機能を実装するために「Adobe Target」の採用も決定。「統合分析の結果をアクションにつなげていくにはセグメンテーションやコンテンツの最適化が不可欠。それらを実行するソリューションをアドビで統一することで、ソリューション間のデータ連携が行いやすくなるといったメリットを得られると考えました」と中島氏は続けます。
データ項目を標準化するなどして分析環境を整備
Web統合分析基盤の整備は、中島氏の所属するITイノベーション部が中心となり実行。単に各事業の持つデータを収集するのではなく、グループ全体で可視化したい指標を得るために必要な標準データ項目の策定、分析結果をグループ内で統一された指標として把握するためのデータ定義などを進めました。「項目は同じでもデータの中身は違う場合があるためです。例えば、同じコンバージョンでも、住宅販売なら資料請求、商業施設なら来館(リアル店舗)・購入(ファッションECモール)、ホテルなら予約がコンバージョンとして定義されています」(中島氏)。
こうして整理されたデータ項目は、おおよその分析ニーズを網羅してはいますが、中には独自にデータを取得したいと考える事業もありました。その場合は、事業のKPIを定義して個別に実装。「ただし、追加する取得データ項目もメニュー化して、できるだけ標準化しています。アドビソリューションは『Dynamic Tag Management』を装備しており、ユーザーが手軽にタグ管理を行えますから、このような作業も効率的に進めていくことができました」と中島氏は言います。
現在では80を超えるサービスやサイト間で統合分析が行えるようになっていますが、分析対象となるサービスやWebサイトは、今後も順次拡大していく計画です。

「三井不動産グループ全体を横断した分析を行うには、きめ細やかな分析が行えるAdobe Analyticsが最適だと判断しました」
ITイノベーション部 専門役 中島 誠 氏
統合したデータの分析でより深い顧客理解が実現
同社はWeb統合分析基盤の整備をきっかけとして、ITイノベーション部と現場で各事業を推進する企業が互いに連携しながら、これまでにはなかった数々の新しい取り組みにチャレンジしています。
Webサイトをまたいだユーザー回遊の可視化
統合分析では、複数事業のWebサイトでデータを収集し、それを集約して分析することで、単独のWebサイト内だけでなく、Webサイトをまたいだ顧客行動を可視化することができるようになっています。
例えば、住まい事業においては、戸建てやマンション、新築・中古など、ニーズに応じて「三井のすまい」「三井のリハウス」「三井ホーム」「三井の賃貸」など、多くのサイトが存在していますが、それぞれのサイトは独立しており、単独での分析しか行っていませんでした。
しかし、顧客は新築マンション購入を検討しながら、同時に同じエリアの戸建てや賃貸を検討したり、条件を変えて異なるエリアの物件を探すこともあります。実際、サイト間をまたいで統合分析を行うと、物件やエリアごとの顧客の検討範囲や推移の傾向に差が見えてきました。
販売物件ごとの顧客の行動特性が明らかになればプロモーションや適切な提案に反映できます。また、今後は外部データも活用しながら、住宅検討を保留した顧客が検討を再開するタイミングを発見するといったことにもチャレンジしたいと考えています。
インバウンドを対象とした来館分析
近年、日本には数多くの外国人観光客が訪れており、このようなインバウンドへの対応も重要な施策となっています。
三井ショッピングパーク ららぽーとや三井アウトレットパークでは、インバウンドの顧客がどこから来たのかを把握するため、旅行代理店、およびキャンペーンにQRコードを割り当て、QRコードを持参した来館者にはノベルティを提供するといった取り組みを行っています。
このQRコードの利用状況と来館測定で得られたデータはAdobe Analyticsで分析・レポート化して、キャンペーンの立案などに役立てています。
Webサイトだけでも、各事業が数百万から数千万の来訪者を持つ。また事業を横断したポイントプログラムもあり、これらのデータを統合分析することで、新しい付加価値を生み出したいと考えた。
オフィス入居企業向けサイトのコンテンツ改善
現在、同社のオフィス事業(賃貸事業)の入居テナント数は約3,000社にもおよびます。これらの企業および、各企業の従業員をサポートするために同社は「COMMONS PAGE」という会員サイトを運営しています。
ここでは会員を対象にしたイベントの企画やコミュニティの運営を行っており、企業同士、あるいは個人同士のつながりを促進したりしています。また、ビジネスに関連の深いテーマを取り上げて、仕事のヒントや生活を豊かにする情報提供も行っています。
このCOMMONS PAGEではGeolocation Technology社の「どこどこJP」へのAPIを活用して、来訪者のIPアドレスから訪問者の所属企業を特定。企業ごとの訪問者数や訪問回数、PV数、閲覧コンテンツを可視化し、どんな企業に、どのコンテンツが人気なのかなどを調査。コンテンツ改善や、イベント企画などに活用しています。
A/Bテストによるサイト改善とレコメンド
Adobe Targetを活用したA/Bテストも行っています。
「例えば三井ガーデンホテルズでは、トップページ内でのコンテンツ配置についてA/Bテストを実施。コンテンツ配置がコンバージョン率にどう影響するのかをテストし、コンテンツ配置を改善した結果、コンバージョン率が4.7%改善しています」(中島氏)
また三井のすまいでは、Adobe Targetと「Adobe Experience Manager」を組み合わせ、常時レコメンドを実現。これまでに見た物件のデータにもとづき、おすすめ物件の情報を動的に出し分けています。
ネット広告とキャンペーンの効果を可視化
商業施設に設置しているフリーWi-Fi「MSP Free Wi-Fi」で来館計測を行い、そのデータとネット広告のデータをAdobe Audience Managerで統合し、Adobe Analyticsで分析することで広告のインプレッションによる効果測定も行っています。
従来、ネット広告のコンバージョンは、あくまでも広告がクリックされたかどうかであり、仮にクリックしたとしても、それが本当に商業施設への来館につながっているのかまではわかりませんでした。しかし、この仕組みによって広告の来館への貢献度が正確に把握できるようになったのです。
「実は社内にはネット広告の効果を疑問視する声がありました。とはいえ、来館アンケートを見ると『Webで知った』という回答も多いため簡単には利用をやめることも難しく、正確な効果測定の必要性を感じていました。測定の結果は、広告配信のあった来館者のほうが広告配信のなかった来館者よりも多いことが判明。同時に広告配信ありの来館者のうち、クリックしなかった人がクリックした人の40倍近くもいることもわかりました。つまり、以前はクリック数をコンバージョンと捉えていましたが、たとえクリックされていなくても広告はインプレッションだけで十分な効果があるということがわかったのです」(中島氏)
さらに商業施設内では、IoTデバイスとしてロボットを活用し、ロボットからの提案に沿って館内の店舗を回ってもらうキャンペーンの効果測定も実施。結果、キャンペーンに参加した顧客のほうが、購買金額、レジ回数、滞在時間のいずれも長いことがわかり、キャンペーン効果を裏付けるデータを取得することができました。
パブリックDMPと連携したデモグラフィック分析
プライベートなDMPであるAdobe Audience ManagerとパブリックDMPの連携も行われています。
具体的には、Web上の膨大なレコードデータを解析して、企業の知りたい外部データを生成してくれるデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社のパブリックDMPである「AudienceOne」をサードパーティデータとして、同社の持つファーストパーティデータと突き合わせることで、性別や年齢、年収によって顧客と三井不動産との接点がどのように変化していくのかといったことの可視化にも取り組んでいます。
現在、三井不動産グループは「VISION 2025」というグループ長期経営計画を掲げ、この中で「テクノロジーを活用し不動産業をイノベーション」することを目標に掲げています。今回、整備した統合分析基盤を軸に各事業で活発化しているデータ活用もまた、そのイノベーションのひとつ。始まったばかりの取り組みが、今後、どのように加速し、どのようなシナジーにつながっていくのか目が離せません。