情報収集、制約、アフターケアまで、顧客のあらゆる期待に応えて、長期的な信頼関係の基盤構築を目指す

日産自動車株式会社

創業

1933年

所在地:神奈川県
従業員数:22,471名(単体)152,421名(連結)

(2016年3月末現在)

https://www.nissan.co.jp/

200%

メルマガの開封クリック率が向上

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課題

新車検討時、顧客がディーラーを訪問する回数は2.6回程度。対面でのコミュニケーション機会の減少は、顧客理解の低下につながりかねない

一つの車種には様々な側面があるが、マス広告で訴求できるのはその一部だけ。カバーし切れないニーズをいかにすくい取るかが課題だった

どのようなコンテンツがディーラー訪問、成約に近づくかが把握できていなかった

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成果

顧客の理解を深め、顧客への情報発信を最適化する仕組みにより、バナーやコンテンツのコンバージョン率の向上などを実現

いくつかのパターンのコンテンツを用意。同一車種でも、顧客特性に応じた訴求が可能に

顧客との対面機会の減少にどう対応するか

世界20の国や地域に生産拠点を持ち、160以上の国や地域でビジネスを展開している日産自動車(以下、日産)。グローバルでの販売台数は2013年度に500万台を突破し、2016年度には560万台に達する見込みです。

 

日産の成長を支える原動力の1つがマーケティング力です。2011年度から16年度までの中期経営計画「日産パワー88」においては、「ブランドパワーの強化」と「セールスパワーの向上」を戦略の柱と位置づけ、マーケティング及びセールス活動の一層のレベルアップに取り組んできました。

 

特に自動車業界は、消費者の行動変化、ビジネス環境の変化が大きく、従来のマーケティング活動を抜本的に見直す必要があったと言います。その変化を端的に示すのが、新車検討時のディーラーへの訪問回数でしょう。

 

「直近の調査によると、ディーラーへの合計訪問回数は2.6回。以前、お客様は何度もディーラーに足を運んでくれたものですが、最近は2、3回だけ。多くのお客様がWebなどで情報を収集して検討し、ある程度欲しいクルマを決めた上でディーラーを訪問しています。つまり、自動車メーカーは、お客様と直に接する機会を劇的に失ってしまっているのです」と日産で国内マーケティングを担当する工藤然氏は説明します。

 

この状態では、せっかく日産のクルマに興味を持つ消費者がいても、日産側からそれを把握したり、ニーズに合わせた情報を提供したりすることは困難です。結果、その消費者は、日産以外のクルマを選んだり、クルマの購入そのものを諦めたりしているかもしれません。

 

そこで、急速に高まったのがデジタルマーケティングの重要性です。「Webがクルマ選びにおいて大きなウェイトを占めるようになっている中、Web上での行動や思考プロセスを予測すること、つまり『カスタマージャーニー』を把握することでお客様をより理解し、お客様の特性や行動パターンに応じた適切なアプローチを行えば、より成約に近いステージのお客様のディーラーへの来店を増やすことができると考えました」と工藤氏は話します。

 

クルマのマーケティングはテレビや新聞、雑誌を中心としたマス広告が主体でした。広く知ってもらうという点で、マス広告は有効な手段の一つですが、どうしても特定のイメージで訴求することになります。

 

「例えば、SUVの『X-TRAIL』は、多くのお客様にわかりやすく伝えるために『タフな2列シートのクルマ』というイメージを打ち出しています。しかし、同じX-TRAILを3列シートのファミリーカーとして使いたいと考えているお客様も少なからずいます。デジタルマーケティングを活用し、そうしたニーズを潜在的に持っているお客様をきちんと把握して、アプローチできるかどうかが大きなテーマとなっているのです」と工藤氏は強調します。


開発本部 情報システム部 IT 基盤& オペレーションチーム マネージャー 鈴木 敏之 氏

「1人ひとりのお客様のニーズをとらえることができれば、無限のプレゼンテーションができるはずです」

 

日本デジタルカスタマーエクスペリエンス部 主管 工藤  然氏


リアルとデジタルをつなぐことができるプラットフォームを目指す

デジタルマーケティングを推進するために、まず日産は組織体制を見直しました。以前は宣伝部、販売促進部、IT部門などがそれぞれの立場からマーケティングに関与していましたが、顧客DBやDMP(Data Management Platform)にかかわる機能を日本デジタルカスタマーエクスペリエンス部に集約。日本リージョンの常務執行役員直轄にすることで機動力を高め、特定領域に特化せず顧客視点で活動を横串できる体制を整えました。

 

さらに同社はデジタルマーケティングを支える基盤となる、デジタルプラットフォームの構築にも着手。情報同士を即座に関連付けるという観点から「Speed」「Relevancy」というキーワードを掲げ、散在するデータや社内に蓄積された知恵をいつでも、使いたいときに、つなげ合わせて活用できること、個々に必要な情報、特定情報が有効なカスタマーを見つけられること、そして、必要な情報を最適な形で提供して、顧客の背中を押すことができることができるデジタルプラットフォームづくりを目指しました。

 

その際、最も重視したのがリアルとデジタルのタッチポイントをつなぐことです。

 

「デジタルの比重は増していますが、店舗などリアルのタッチポイントの重要性が低下したわけではありません。以前、チームの中で『どんなときに感動したか』を話し合ったことがあります。それぞれの体験に共通していたのは、人が介在していること。たとえば、ある企業から『誕生日おめでとう』というメッセージをメールで受け取るよりも、その企業の店頭のスタッフから同じことをいわれるほうがはるかにうれしいはずです。日産が目指すのはデジタル側の情報を参考にしながら、リアルのチャネルで適切な顧客体験を提供する。逆に、リアル側で収集した情報がデジタルへとフィードバックされ、次のよりよい顧客体験につながることが理想です」(工藤氏)。

 

このようなプラットフォームを実現するために、日産はグローバル規模で「Adobe Experience Cloud(旧Adobe Marketing Cloud)」を活用しています。

 

アドビを選んだポイントについて、工藤氏は次のように説明します。

 

「グローバルで統一したデジタルマーケティングのプラットフォームを構築できる点が高く評価されました。また、最初は一部のツール導入からスタートし、徐々に他の領域のツールも加えていくというように、同一プラットフォームの上で段階的に機能を拡充させることができる点もポイントとなっています」。

顧客行動に応じた情報提供を実現。高度な行動分析にも挑戦

Adobe Experience Cloudを活用して、日産は様々な施策を積み重ねています。

 

【コミュニケーションの最適化】

日産の取り組みとして、まず挙げられるのがオウンドメディア(自社Webサイト)におけるコミュニケーションの最適化です。

 

「Adobe Analytics」によって「どこからWebサイトにたどり着いたか」「Webサイトのどのページを回遊したか」など、自社Webサイトにおける顧客の行動履歴を分析して、人物像を推定。それをWebサイトに表示するコンテンツに反映させます。

 

【コンテンツの最適化】

Webコンテンツの最適化施策としては、「Adobe Target」によるA/Bテストや多変量テストなどに取り組んでいます。Webサイトにおけるボタンの位置や形状などのデザイン、あるいはコピーの文言についてA/Bテストを実施。直帰率、離脱率の改善により、コンバージョンが増加しました。

 

また、Webカタログのコンテンツ最適化を図るために、コンテンツの並び順に関する多変量テストを行っています。Webカタログはいくつものパーツで構成されています。最適な並び順を見いだすことにより、コンバージョン率が大幅に改善しています。このテストでは、車種ごとの傾向の違いも把握することができました。

 

【One to One メールマーケティング】

メールも重要なコミュニケーションの場と位置づけ、メールマーケティングにも積極的に取り組んでいます。ここで重視しているのがOne to Oneマーケティングの実現です。「お客様の属性情報に基づいてメルマガの内容や送信のタイミングを自動的に変えています」(工藤氏)。

 

キャンペーンなどを通じてメールアドレスを登録した顧客のWebページの閲覧履歴などから「知りたいと思っていること」を推測。ある顧客はカラーバリエーションを気にしているかもしれません。また、燃費を重視している人、技術情報に注目する人もいるでしょう。こうした情報を分析した上で、「カラーバリエーション」「燃費力」「技術力」というメインのコンテンツカセット、「ユーザーボイス」「他メーカー比較」「見積もり」「ローンファイナンス」といったコンテンツカセットを顧客に応じて組み合わせ、複数のパターンのメルマガを配信しているのです(図1)。そのために「Adobe Campaign」を利用しています。

 

「当初は、もっと多くのコンテンツカセットを用意したりしましたが、増やしすぎても、期待したほどの費用対効果は上がらないということがわかり、最適化を繰り返しました」と工藤氏は話します。

 

こうしたメルマガ配信により、開封率は約1.3倍、クリック率は約2.6倍、開封クリック率は約2倍になりました。

 

図1:登録者に送付されるメルマガは三層構造。登録者の特性に応じてカセットの最適な組み合わせが導き出され、自動的に配信される

 

【成約と相関の高いコンテンツを分析】

前述した通り、日産がデジタルマーケティングにおいて、重視している目的のひとつが「成約ステージに近い来店者数の増加」です。そこで、成約にいたった顧客がどのようなカスタマージャーニーを辿ったかを分析して、「勝ちパターン」を見つけ、それをマーケティング活動に反映させるための取り組みも行っています。

 

「軽い興味でWebサイトにアクセスした方もいれば、店舗検索や見積もりシミュレーションを利用するなど、購買一歩手前の方もいます。ファネルの各段階の数値を見ながら、コンバージョンを高めるための工夫がどのようにできるかを考えています。そして、仮説を立てPDCAサイクルを回しています」(工藤氏)

 

例えば、顧客の来店時を起点に前後のWeb閲覧履歴を分析することで、見えてくることがあると工藤氏は言います。

 

「来店して成約したお客様と来店のみで成約に至らなかったお客様でのWeb上の行動にはどのような違いがあったのか。来店、成約との相関が高いコンテンツがわかれば、そのコンテンツへの効果的な導線を検証するなど、次の施策が見えてきます」。

 

【より幅広いデータの活用】

日産のデジタルマーケティングにおける、次の大きなテーマは、より幅広いデータの活用です。

 

まず取り組んでいるのが、社内の各システムに分散したデータの統合です。各システムの持つデータをつなぎ合わせることで、「点」は「線」になり、顧客の全体像がより明確になるからです。

 

もっとも顕著な例が、本社が持っているデータとディーラーが持っているデータの統合です。「店頭だからこそ入手できるデータがディーラーにはあります。一方、デジタルマーケティングだからこそ豊富に持っている種類のデータもある。双方のデータを連携させることで、お互いに補完し合える部分は多いはずです」と工藤氏。ディーラーと本社の情報共有は、すでに相当程度まで進んでいますが、それをどう分析や活用につなげるかを現在、検討しています。

 

また、自社で得ることができるデータだけでなく、外部データの活用も視野に入れています。最近は、購入可能なデータセットも増えつつあります。これを日産の持つデータと組み合わせることで、新しい価値を生み出せるのではないかと期待しているのです。

 

「当社が抱えている課題のひとつに、お客様の買い替えサイクルが延びていることがあります。その結果、初回の車検くらいまでは接触機会があったとしても、5年、10年となると次第に疎遠になるケースが多いのです。しかし、その期間もお客様が求めている情報はあるはずです。適切なタイミングでアプローチができれば、ディーラー及び日産への満足感や信頼感は高まるでしょう。購入後の長い期間にお客様をよりよく理解できるようなデータがあれば、サービス改善などに役立てることができると思います」と工藤氏は言います。

 

そうしたデータを持っているのはポイントサービスの運営会社、あるいは通信キャリアかもしれません。それらのデータを通じて、結婚、出産など、顧客のライフステージの変化を把握できれば、よりよい提案ができるはず。工藤氏は視野を広げ、社内外の情報を活用しながら最適な方法を模索しています。

 

顧客がディーラーを訪問する回数が減り、顧客との重要な接点が減少してしまった日産ですが、このように、新たに消費者の購買行動の場所となったデジタルの世界に目を向けることで、これまで以上に、顧客のことを知る機会を得ています。

 

そうして得た情報を基に、顧客一人ひとりのニーズに応じて、欲しいタイミングで、最適なタッチポイントを通じて、役立つ情報を送る。情報収集の段階から、購入、さらには購入後のアフターケアまでをカバーする日産のマーケティングは、単にクルマを売るだけでなく、顧客との中長期的な信頼関係につながっています。

 

そのためのプラットフォームとしてAdobe Experience Cloudには、大きな期待が寄せられています。グローバルレベルでコンテンツ管理を行うための「Adobe Experience Manager」の導入も決めました。

 

Adobe Experience Cloudをマーケティングのための統合プラットフォームとして利用することで、顧客行動の把握から、分析、パーソナライズしたコンテンツの提供、全社的なコンテンツ管理を連動させて行うことができるようになります。

 

こうしたソリューションの活用と長年の経験で培ったノウハウ、およびアドビとのパートナーシップを最大限に活かしながら、日産は顧客との長期的な信頼関係の構築に今後も邁進していきます。

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