マッチングプラットフォームで生まれる膨大なデータをAdobe Analyticsの活用で効率的にマネジメント
株式会社リクルート
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60%
削減できたデータ戦略に関する業務量
課題
- 会社統合に伴いデータ要件が複雑化したため、ビジネスデータのより高度なマネジメントが必要になった
- メタ情報の入力率が40%ほどしかなく、入力したデータもどのような目的/形式で入力されているのかがつかめていなかった
- 約2000名のアカウントのレポートスイートや権限の管理に手が回らず、人的コストも大きかった
成果
- Adobe Analyticsのデータフィード機能でビジネスデータを適切に管理し、データサイエンスにも対応した改善につなげることができた
- 入力利活用ソリューショングループがAdobe Analyticsを通してデータ管理を代行することで、入力率が96%にまで改善し、データ精度が向上
- Adobe Analyticsの管理APIで権限クリーニングを自動化し、レポートスイートの半減を実現。業務量60%削減に成功
「マーケターやアナリスト、データサイエンティストといった人たちが顧客体験を強化するためのコアな業務に集中してほしい。その思いに応えてくれるのがAdobe Analyticsです」
プロダクト統括本部 プロダクト開発統括室
データ推進室 データテクノロジーユニット データプロダクトマネジメント1部 利活用ソリューショングループ
橋本はるな氏
「まだ、ここにない、出会い。より速く、シンプルに、もっと近くに。」というミッションを掲げ、様々なライフイベント、ライフスタイルでのマッチングプラットフォームを提供する株式会社リクルート。同社にとって、膨大なアクセスデータを解析し、ガバナンスも含めたデータマネジメントを適切に行うことは、幅広い領域で事業を展開する上で重要なポイントだ。同社が進めるデータマネジメントの取り組みとは、どのようなものなのだろうか。
幅広い業務分野ゆえのデータマネジメントの重要性
リクルートが扱う領域を大きく分けると、人材領域と販促領域の2つがある。
人材領域は、個人ユーザーの求職活動と企業クライアントの採用活動とのマッチングサービスを提供し、『リクナビ』や『タウンワーク』、『フロム・エー ナビ』などを展開。一方の販促領域は、住宅や旅行、美容、飲食、ブライダルといった幅広い事業分野に合わせ、企業クライアントの事業運営を支援する各種ソリューション(『SUUMO』、『じゃらん』、『ホットペッパービューティー』または『ホットペッパーグルメ』、『ゼクシィ』、『Airレジ』など)を提供している。
いずれの領域にも共通しているのは、個人ユーザーと企業クライアントを結ぶマッチングプラットフォームであり、テクノロジーやデータを駆使して業務運営の効率化を支援するSaaSを提供しているということ。これだけの幅広い分野で国内最大級のプラットフォームを展開する同社にとって、データがいかに重要な意味を持つかは言うまでもない。
同社には、すべてのサービスにまたがり、全社横断でのデータ戦略を担うデータ推進室という部署がある。この部署で、アクセス解析におけるデータ戦略やデータの品質管理、ガバナンスといったデータマネジメントを行う利活用ソリューショングループを率いるのが橋本はるな氏だ。
同社は、データ収集やアクセス解析にAdobe Analyticsを活用しているが、初めて採用したのは16年前の2008年。導入は橋本氏が入社する前だったというが、当時の経緯について、「導入前は解析ツールをサービスごとに選定していましたが、データを一元管理するためにツールを統合しようということになったと聞いています。その際、サービスのデータ要件を満たせるかどうか、カスタマイズが柔軟にできるかどうか、スケーラビリティが十分かどうかといった点について、他社製品と比較検討した上で導入に至りました」と語る。
「それぞれの要件に対して変数でカバーできることに加え、各要件のデータを横串で使いたいという考えもあったため、カスタマイズやスケーラビリティを重視した結果、残ったのがAdobe Analyticsだったということです」
同社がメインで活用しているのはAdobe Analyticsだが、これと前後する形で、A/Bテストやパーソナライゼーションに長けたAdobe Targetを導入しているほか、10年ほど前にはマーケティングオートメーションで顧客との関係を最適化するAdobe Marketo Engageを、5年ほど前にはコミュニケーション方式のチャネルを増やしてプッシュ通知を強化するためにAdobe Campaignを導入しているという。
データ精度向上や業務効率化をデータフィードで実現
導入から16年間、外部環境にも自社にも様々な変化があり、Adobe Analyticsの活用方法もこれに伴って変化していると橋本氏は語る。
「2008年の導入当初は、まさにアクセス解析の分析からスタートしました。サイトの流入や回遊、コンバージョンをモニタリングし、改善に生かすという使い方です」
プロダクト統括本部 プロダクト開発統括室
データ推進室 データテクノロジーユニット データプロダクトマネジメント1部
利活用ソリューショングループ
橋本はるな氏
その後、2012年に同社は一度、分社化し、2021年に再統合するが、これに伴いデータ要件が大幅に複雑化した経緯がある。橋本氏によると、こうした変化に対応できているのはAdobe Analyticsのデータフィード機能の恩恵が大きいとのこと。
データフィードは、Adobe Analytics からデータを取得し、最適化や改善に生かすことが可能だ。橋本氏によると、店舗への申し込みやコールセンターの情報といったビジネスデータを施策につなげるほか、データサイエンスの重要度が高まったことを受け、データサイエンティストがTableauやBIツールを活用して営業現場とデータを共有したり、レコメンドでユーザーの体験をより高度化したりといった使い方もしているという。
具体的な成果について橋本氏は、データの精度向上と業務の効率化の例を挙げる。
「データの精度については、以前はメタ情報の入力率が40%ほどしかなく、入力したデータも人の入れ替わりがあるため、どのような目的/形式で入力されているのかがつかめていませんでした。これを利活用ソリューショングループが一括して担当することで入力率が96%にまで改善し、過去にさかのぼってどのような経緯で入力されたデータなのかを把握できるようになりました。
業務の効率化については、Adobe Analyticsのユーザーアカウントが現在2000名分ほどあり、レポートスイートが600ほどありましたが、管理APIで権限のクリーニングを自動化したことでほぼ半分まで減らすことができました。以前は権限管理に月80時間かかっていましたが、この自動化で16時間まで削減でき、大幅な効率化が実現しています。また、管理APIを活用することで業務量も60%の削減に成功しました」
アクセス解析の基礎知識を新人研修の必修プログラムに
Adobe Analyticsを幅広く活用しているからこその課題もある。ビジネス要求をアクセスログの設計に落とし込む知識を持った人材が不足していることだ。冒頭でも紹介したように、同社が扱う事業範囲は多様であることから、本来は各領域のビジネス要求を把握している担当者がデータの設計までを行うのが理想だが、この点について橋本氏はこう語る。
「各事業分野のマーケターやアナリスト、データサイエンティストといった人たちには顧客体験を強化するためのコアな業務に集中してほしいというのが、私たち利活用ソリューショングループの思いです。そのためにも、全社横断的にAdobe Analyticsの管理や運用に関する課題を引き受けるのが私たちの重要な役割だと認識しています」
同社は、Adobe Analyticsの活用にあたり、アドビのサポートプランであるUltimate Successを利用している。 Ultimate Successは、Adobe Success Planの一つであり、日々変化するお客様のビジネスゴール・課題を共にディスカッションし、製品の価値を最大化するための長期的なロードマップを策定した上で、テクニカルとビジネス両面から伴走支援する新サービスだ。
橋本氏によると、「各事業分野の担当者とは定期的にコミュニケーションを取り、どんなサポートやリソースが必要なのかを聞き取っていますが、専門性の高い部分や課題の切り分けといったところでUltimate successの支援を受けています」とのこと。
Adobe Analyticsの導入から16年、サポートをするUltimate success側も長年の伴走を通して業務の内容や現状を把握しているため、「壁打ちの相手としては最適です。レスポンスも早いですし、実情に合ったアドバイスがいただけています」と橋本氏は語る。
同社では、Adobe Analyticsを専門的に扱える人材不足が悩みとなっており、人材育成にも取り組んでいるが、ここでもUltimate successの支援が助けになっているという。
「全社的にAdobe Analyticsを活用し、効果検証のスキルも必要なので、新人研修ではアクセス解析の基礎知識が必修となっています。研修で使用するプログラムは私たちがUltimate successのコンサルティングを受けながら作成し、2001年から提供しています」(橋本氏)
このプログラムは、受講者から短い期間でツールに触れながら分析の基礎知識を身につけられるとの評価を受け、新人研修の中でも満足度が高いプログラムとなっている。また、受講者が各事業領域に配属された後もフォローアンケートを実施し、実際の操作ログと併せて知識が定着しているかどうかが確認でき、学習の効果測定やプログラムのアップデートにも生かされているという。
経営戦略への寄与が評価されアワード受賞
これらの取り組みにより高度な分析機能を備えたデータ駆動型組織へと成長を促したことが評価され、橋本氏は「2024 Adobe Experience Maker Awards」のJAPAN:The Experience Maker of the Yearを受賞している。
評価ポイントは、ここまで紹介してきた管理APIを活用した効率化や新人研修プログラムに加え、経営戦略への寄与があったという。
「半期に一度、アクセス解析の方針や戦略を資料にまとめ、経営層と合意形成を行っていたことを評価いただきました。私たちのグループはインシデントに対する防止や対策をまとめたデータガバナンス強化のためのガイドラインも作成しており、社内表彰も受けています」
Adobe Analyticsを活用して一定の成果を上げ、社内外の評価も受けている橋本氏だが、「やりたいことはまだまだ山積みです」と語る。
「メタ情報のデータフィードは差分を自動アラート仕様にしたいと考えていますし、ビジネスデータの突合やデータサイエンティストが処理しやすいデータへの加工、AIをはじめとする先端技術への対応なども検討していく必要があります。
私たちは全社横断的な組織ですが、データの重要性が増せば増すほど、各事業分野との意思疎通を図り、彼らの価値創造をサポートすることが重要になってきます。現在は、全社横断的にAdobe Analytics運用にあたっているメンバーが各事業分野の担当を兼務する取り組みも進み、ガバナンスも含めたデータマネジメントの精度向上を図っているところです」
最後に橋本氏は、今後考えられる可能性として、Adobe Analyticsを活用したデータ分析に留まらない新たなユースケースへの拡張を挙げる。
「私たちの守備範囲はデータ活用やガバナンス強化ですが、各事業分野の現場では、アドビ のクリエイティブ系アプリを活用したコンテンツやプロダクトデザイン、UI/UXが生み出されています。こうした部署と私たちのデータ分析の連携をさらに強化することで、新たな事例を作っていければと思います」
※掲載された情報は、取材当時(2024年6月)のものです。