ペルソナデザインとは?その作成方法やマーケティング活動方法をご紹介

はじめに

広告、コンテンツ作成、メール配信、セミナー/展示会の企画など、すべてのマーケティング施策をする上で、顧客への理解は欠かせません。情報や物が溢れている昨今、万人に向けられたメッセージや商品では、誰も受け取ってくれません。顧客に選ばれるためには、ペルソナを明確に定義し、彼らのカスタマージャーニーに寄り添いながら、顧客とコミュニケーションをしていくことが求められています。

今回は、具体的なペルソナ作成方法と、ペルソナをいかにマーケティング活動に活用していくかを事例と共にご説明します。

目次

  • ペルソナとは
  • ペルソナデザインのメリット
  • ペルソナの具体的な作り方
  • マーケティングにペルソナを活用するには?

ペルソナとは

ペルソナ&カスタマ・エクスペリエンス学会が公表している定義によると、ペルソナとは「企業が提供する製品・サービスにとって最も重要で象徴的な顧客モデル」です。

通常のマーケティング活動では、

の軸で顧客をセグメンテーションし、その中から標的とする的(マト)を定めるターゲティングのプロセスを踏みます。ペルソナでは、そこからさらに踏み込んで、理想の顧客像を、あたかも実在しているような"人物像"として描き出します。

例えば、BtoB企業のターゲティングでは「売上高1000億円以上/製造業/部長格以上の意思決定者」などで定義されますが、ペルソナでは「売上高1500億円のグローバル製造業に勤める50歳の男性。マネジメントスキルを買われ、中途で入社し、様々なシステム開発プロジェクトを統括。プロジェクトマネジメントに関する業界紙を購読し、NewsPicksでの情報収集を日々欠かさない。休日はアウトドア型で、特にゴルフとヨットに熱中している。」など、その人の顔や生活が具体的に思い浮かぶレベルまで顧客像をリアルに描きます。

※セグメンテーションやターゲティングについては 『マーケティング戦略の立て方と実践例』 で解説しています。

ペルソナデザインのメリット

定性調査や定量調査などのデータを集め、社内で繰り返し議論をするなどの手間をかけ、ペルソナを作成することにどのようなメリットがあるのでしょうか?

1.顧客のことを深く理解できる

最大のメリットは、なんといっても顧客への理解が深まることです。
マーケッターの中には、ターゲット顧客のことを「大企業の人事担当者」、「健康意識の高い主婦」レベルの大まかにしか把握していない人は意外に多いものです。しかし、それでは効果的なマーケティングは実行できません。

ペルソナデザインの過程で、ユーザーインタビューや行動観察、営業やカスタマーサポートへのヒアリングをする中で、マーケターは顧客に対する理解を深めることができます。法人企業の場合は特に、顧客と直接触れるのが営業やサポート担当者だけで、マーケターは直に顧客に会ったことがない・・という場合も少なくありません。そうしたマーケターにとって、ペルソナデザインのプロセスは非常に有意義な機会になります。

2.意思決定が迅速になる

顧客のことを深く理解できていれば、どんなチャネルで、どんなメッセージやコンテンツを、どのタイミングで届け、どれぐらいの予算をかけるのか、といった判断を迅速にできるようになります。

このメリットは思いの外、大きく、特にWebサイトリニューアルや大きなキャンペーンを実施する時など、営業担当者や経営陣など、複数人を巻き込みながら進めるプロジェクトでは、大きな威力を発揮します。

マーケティング担当者の一存ですべてを決められない場合も、具体的な人物像が描かれた「ペルソナ」があることで、プロジェクトチーム内に判断軸が生まれ、意思決定やコミュニケーションのスピードは劇的に早くなります。

3.的確で刺さるマーケティング施策が打てる

何かの施策を企画する時に「大手企業のSNS運用担当者」と「年商1000億円以上のグローバル製造業の宣伝部に所属している20代後半の男性で、自社のFacebookページのいいね!数を増やしたいと思っているSNS運用担当者」のどちらで、刺さるマーケティングができるでしょうか。

ペルソナを作ることで、自分たちが誰を喜ばせるのかが明確になります(同時に、誰は喜ばせなくて良いのかも決まります)。結果として、総花的なメッセージではなく、深く刺さるメッセージを、適切なチャネルで伝え、顧客の興味・関心を喚起できるようになります。

マーケティング活動で成果を上げるためには、ペルソナデザインは欠かせないステップだと言えます。

※著名マーケティングコンサルタントの阪本 啓一さんが欠かれた 『「たった1人」を確実に振り向かせると、100万人に届く。 (「市場の空席」を見つけるフォーカス・マーケティング) 』 には一斉に同じメッセージを発信し、都合などお構いなしの土足マーケティングから「たった1人」の興味・関心を満たすメッセージによって、 確実に振り向かせる、第4次産業革命後の新しいマーケティングについて書かれていて参考になります。

ペルソナの具体的な作り方

それでは、ペルソナデザインの具体的な流れを見ていきましょう。

1.いくつかの顧客群に分ける

既存事業であれば、すでに保有している顧客情報(業種や規模、担当者の部署や役職)などから、新規事業であれば、定量・定性調査のデータから、ターゲットとなりそうな顧客をいくつかのグループに分けます。いわゆるセグメンテーションのプロセスです。

2.ペルソナを作成する顧客群を選ぶ

ターゲットとなりそうな顧客群の中から、ペルソナを作成するグループを決めます。明らかに際立った顧客群がなければ、その中で優先順位をつけ、いくつかのペルソナを作成します。

3.データを集める

ユーザーインタビューやユーザー観察、アクセス解析や購買履歴データ、一般に公開されている調査結果などを参照しながら、ペルソナ作成のもとになる情報を集めます。顧客と接することが多い、営業担当者やカスタマーサポート担当者、現場の販売員に話を聞きに行くなど、視点と行動範囲を広げて、洞察の素になる良質な情報を集めましょう。

4.データをまとめ、ペルソナを作成する

上記のプロセスで集めたデータをまとめ、顧客の行動や性格、属性の傾向を抽出。ペルソナシートを作成します。

社内メンバーで作成する場合、 『ペルソナ作って、それからどうするの? ユーザー中心デザインで作るWebサイト』 があると、困った時に参照でき、議論がスムーズに進むので、手元に一冊あると良いかもしれません。

あくまで一つのフォーマットですが、以下のような項目について明文化し、ペルソナシートを完成させましょう。

<基本情報>

<ストーリー>

<仕事上の情報>

<情報源>

<ゴール>

マーケティングにペルソナを活用するには?

1.カスタマージャーニーマップを作成する

ペルソナが完成したら、彼ら(ペルソナ)が課題を認識してから、製品を比較・検討し、導入後に目的を達成するまでの流れを時系列で描きます。「カスタマージャーニーマップ」と呼ばれますが、ペルソナの動きを見える化することで、タッチポイントを洗い出し、適切なタイミングで適切な情報を伝えることができるようになります。

カスタマージャーニーマップの作成については、本 「マーケティング入門」 でも別途、記事を公開予定です。

広告形態ごとの信頼度

※就活が始まってから入社が決まるまでのカスタマージャーニーマップ。
参照:2時間で作るカスタマージャーニーマップ――実例とともに考える新しい「おもてなし」のカタチ | 顧客の行動パターンを理解するためのカスタマージャーニーマップ入門 | Web担当者Forum

2.ペルソナのカスタマージャーニーに寄り添ったマーケティングを実施する

カスタマージャーニーマップが完成したら、彼らにどうやったらリーチできるか、どんな情報、メッセージなら興味・関心を持ってもらえるか、彼らと継続的な関係を作っていくにはどうすれば良いか、といった点を考え、自社の営業・マーケティング施策に落とし込んでいきます。

例えば、ペルソナに該当するユーザが、Webサイトに訪れた時に「欲しかった情報が見つかった!」と喜んでもらえるようなコンテンツを用意するなどして、ユーザとのエンゲージメントを強化していきます。

各情報量の推移

Soup Stock Tokyo:秋野つゆ

ペルソナデザインの事例

おそらくペルソナデザインの最も有名な事例が創業15年で84億円の売上(2015年3月時点)、55店舗を出展したSoup Stock Tokyoの「秋野つゆ」さんです。

当時、三菱商事から日本ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)に出向していたスマイルズ創業者の遠山正道社長が、「1998年、スープのある1日」と題した物語形式の企画書を作成し、KFC社内で起案した際、「秋野つゆ」という架空の女性(ペルソナ)を設定し、意思決定の基準にしていたといいます。

※起業の経緯などは第89回 株式会社スマイルズ 遠山正道 | 起業事例の記事に詳しく掲載されています。

<Soup Stock Tokyoのペルソナ>

設立前の企画時点で、ここまで細かくペルソナが明確になっていたことに驚きますが、これらが明確になっていたことで、商品開発、店舗デザイン、出店場所を議論する際、「これって、秋野つゆさんっぽくないよね」と方向性を決めることができたといいます。
一例として、「秋野つゆ」が行かないであろう若者の街・渋谷にSoup Stock Tokyoの店舗は出店しておらず、ペルソナに基いて、徹底して意思決定をしていることが見て取れます。製品開発、ブランド構築、マーケティング戦略まで、ペルソナが効果を発揮した代表的な例といえるでしょう

日立アプライアンス:旭立信彦

ペルソナデザインの事例

ペルソナデザインをマーケティングに活かした事例として、BtoCだけでなく、BtoBの企業の事例もご紹介します。日立グループで、年間4,000億円以上の売上を誇り、業務用の白物家電や照明・住宅設備機器、冷凍・空調機器を販売している 日立アプライアンス株式会社です。

日立アプライアンスは、ペルソナデザインの対象に少し珍しい顧客像を選びました。日立アプライアンスの商流は、「日立アプライアンス→エンドユーザー」というシンプルなものではなく、「日立アプライアンス→特約店→設備店→エンドユーザー」という多段階の構造を持っていました。いわゆる「卸」にあたる特約店が、全国の中小規模の設備店に商品を流し、それを事務所や店舗などのエンドユーザーが購入する流れです。

そのため、日立アプライアンスは、特約店と日々接し、ニーズはわかっているものの、その先にある設備店が、日々どのような課題を抱えているのか、彼らにどのような情報を提供すれば販売が加速し、日立アプライアンスの製品シェアがアップするのかを掴みづらい状況にありました。

そこで、設備店のペルソナを作成しました。ペルソナ作成にあたり、設備店1,806社にアンケート調査を実施。回答のあった設備店のうち、8割を占めた10名以下の設備店を、営業企画部のペルソナ作成プロジェクト担当者が、営業担当者とともに行脚し、インタビューを行ったといいます。インタビューで収集したデータをもとにペルソナである「旭立(あさひだち)信彦」さんを作成。

いままでぼんやりとしか設備店のニーズや課題を掴めていませんでしたが、ペルソナである旭立信彦さんが生まれたことで、どのような情報を求めているのかを把握でき、あらゆる販促ツールをリニューアル。「輪郭のはっきりしたコミュニケーション」が取れるようになり、同社の事務所や店舗向けのシングルパッケージ型のエアコン市場のシェアは9.8%→11.1%に増加しました。

Soup Stock Tokyoの事例と同様、手触り感のあるリアルな人物像を設定したことで、マーケティング・コミュニケーションを向上させた好例といえるでしょう。

参考:「ペルソナ」マーケティング(BtoB事例) - INSIGHT NOW!プロフェッショナル
参考:日経情報ストラテジー2007年10月号

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