マーケティングにペルソナを活用するには?
1.カスタマージャーニーマップを作成する
ペルソナが完成したら、彼ら(ペルソナ)が課題を認識してから、製品を比較・検討し、導入後に目的を達成するまでの流れを時系列で描きます。「カスタマージャーニーマップ」と呼ばれますが、ペルソナの動きを見える化することで、タッチポイントを洗い出し、適切なタイミングで適切な情報を伝えることができるようになります。
カスタマージャーニーマップの作成については、本 「マーケティング入門」 でも別途、記事を公開予定です。
※就活が始まってから入社が決まるまでのカスタマージャーニーマップ。
参照:2時間で作るカスタマージャーニーマップ――実例とともに考える新しい「おもてなし」のカタチ | 顧客の行動パターンを理解するためのカスタマージャーニーマップ入門
2.ペルソナのカスタマージャーニーに寄り添ったマーケティングを実施する
カスタマージャーニーマップが完成したら、彼らにどうやったらリーチできるか、どんな情報、メッセージなら興味・関心を持ってもらえるか、彼らと継続的な関係を作っていくにはどうすれば良いか、といった点を考え、自社の営業・マーケティング施策に落とし込んでいきます。
例えば、ペルソナに該当するユーザが、Webサイトに訪れた時に「欲しかった情報が見つかった!」と喜んでもらえるようなコンテンツを用意するなどして、ユーザとのエンゲージメントを強化していきます。
各情報量の推移
Soup Stock Tokyo:秋野つゆ
おそらくペルソナデザインの最も有名な事例が創業15年で84億円の売上(2015年3月時点)、55店舗を出展したSoup Stock Tokyoの「秋野つゆ」さんです。
当時、三菱商事から日本ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)に出向していたスマイルズ創業者の遠山正道社長が、「1998年、スープのある1日」と題した物語形式の企画書を作成し、KFC社内で起案した際、「秋野つゆ」という架空の女性(ペルソナ)を設定し、意思決定の基準にしていたといいます。
※起業の経緯などは第89回 株式会社スマイルズ 遠山正道 | 起業事例の記事に詳しく掲載されています。
<Soup Stock Tokyoのペルソナ>
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名前:秋野つゆ
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年齢:37歳
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性別:女性
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職業:都心で働くバリバリのキャリアウーマン
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特徴:
- 独身か共働きで経済的に余裕あり
- 社交的な性格
- 自分の時間を大事にする
- シンプルでセンスの良いものを追求する
- 個性的でこだわりがある
- 装飾性よりも機能性を好む
- フォアグラよりもレバ焼きを好む
- プールに行ったら平泳ぎではなく豪快にクロールで泳ぐ
設立前の企画時点で、ここまで細かくペルソナが明確になっていたことに驚きますが、これらが明確になっていたことで、商品開発、店舗デザイン、出店場所を議論する際、「これって、秋野つゆさんっぽくないよね」と方向性を決めることができたといいます。
一例として、「秋野つゆ」が行かないであろう若者の街・渋谷にSoup Stock Tokyoの店舗は出店しておらず、ペルソナに基いて、徹底して意思決定をしていることが見て取れます。製品開発、ブランド構築、マーケティング戦略まで、ペルソナが効果を発揮した代表的な例といえるでしょう
日立アプライアンス:旭立信彦
ペルソナデザインをマーケティングに活かした事例として、BtoCだけでなく、BtoBの企業の事例もご紹介します。日立グループで、年間4,000億円以上の売上を誇り、業務用の白物家電や照明・住宅設備機器、冷凍・空調機器を販売している 日立アプライアンス株式会社です。
日立アプライアンスは、ペルソナデザインの対象に少し珍しい顧客像を選びました。日立アプライアンスの商流は、「日立アプライアンス→エンドユーザー」というシンプルなものではなく、「日立アプライアンス→特約店→設備店→エンドユーザー」という多段階の構造を持っていました。いわゆる「卸」にあたる特約店が、全国の中小規模の設備店に商品を流し、それを事務所や店舗などのエンドユーザーが購入する流れです。
そのため、日立アプライアンスは、特約店と日々接し、ニーズはわかっているものの、その先にある設備店が、日々どのような課題を抱えているのか、彼らにどのような情報を提供すれば販売が加速し、日立アプライアンスの製品シェアがアップするのかを掴みづらい状況にありました。
そこで、設備店のペルソナを作成しました。ペルソナ作成にあたり、設備店1,806社にアンケート調査を実施。回答のあった設備店のうち、8割を占めた10名以下の設備店を、営業企画部のペルソナ作成プロジェクト担当者が、営業担当者とともに行脚し、インタビューを行ったといいます。インタビューで収集したデータをもとにペルソナである「旭立(あさひだち)信彦」さんを作成。
いままでぼんやりとしか設備店のニーズや課題を掴めていませんでしたが、ペルソナである旭立信彦さんが生まれたことで、どのような情報を求めているのかを把握でき、あらゆる販促ツールをリニューアル。「輪郭のはっきりしたコミュニケーション」が取れるようになり、同社の事務所や店舗向けのシングルパッケージ型のエアコン市場のシェアは9.8%→11.1%に増加しました。
Soup Stock Tokyoの事例と同様、手触り感のあるリアルな人物像を設定したことで、マーケティング・コミュニケーションを向上させた好例といえるでしょう。
参考:「ペルソナ」マーケティング(BtoB事例) - INSIGHT NOW!プロフェッショナル
参考:日経情報ストラテジー2007年10月号