顧客志向とは?成功のポイントや生まれ変わるための4つの手順

顧客に寄り添う、真の顧客志向組織に変わるには

かつて、企業と市場/顧客の関係は、企業主導のプロダクトアウト型が主流でした。しかし近年は、市場や顧客の声を起点とするマーケットイン型の考え方が広く浸透し、顧客志向に取り組む重要性が増しています。

この記事では、顧客志向の概要を紹介した上で、企業が顧客志向を取り入れるメリットや調べる指標、強化するポイントを解説します。さらに、企業が顧客志向に生まれ変わるための4つの手順や、顧客志向に取り組む際の注意点も紹介するので、ぜひ参考にしてください。

目次

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顧客志向とは

顧客志向とは、顧客の要望やニーズを最優先して製品/サービスを提供する考え方のことです。顧客志向とは反対に、自社の利益を最優先する考え方は「企業志向」と呼ばれます。

顧客志向の目的は、顧客満足度を最大化させて長期的な関係を構築し、持続的な価値を生み出すことにあります。ただし、顧客の要望に応えるだけでは、真の顧客志向とはいえないことに留意しましょう。

また、顧客志向に取り組む際は、顧客自身も認知していないような潜在的なニーズや欲求を満たせる製品/サービスを提供することが重要です。なお、英語では「Customer Orientation」と表記され、顧客志向を言い換えた「消費者志向」という言葉もあります。

顧客志向の重要性が高まっている理由

昨今は、市場に流通するモノやサービスが飽和状態にあり、顧客が選べる選択肢が豊富になっています。競合他社ではなく、自社の製品やサービスが顧客に選ばれる体制を構築するために、顧客志向の重要性が高まっているという背景があります。

また、類似品が流通する市場において、企業は潜在的な顧客ニーズにも応えられる製品やサービスを提供する必要があります。本来の価値やメリットを顧客に理解してもらうことで、自社提供品が選ばれる可能性がアップするでしょう。

顧客志向に取り組む際は、データ分析やペルソナ設定によって顧客理解を深めつつ、継続的に取り組むことが大切です。

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企業が顧客志向を取り入れるメリット

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次に、企業が顧客志向を取り入れるメリットを3つ紹介します。

企業利益の拡大

顧客志向を取り入れることで、顧客のニーズを汲み取った製品やサービスの提供が可能になり、既存顧客のリピート購入を促せます。

顧客満足度を高められれば、自社の製品やサービスに愛着を抱いて継続的に購入してくれる「ロイヤル顧客」の創出も目指せるでしょう。結果的に、企業としての利益拡大につながるというメリットが見込まれます。

また、既存顧客をリピーター化することは、新規顧客を獲得するコストを削減できる側面もあります。マーケティング活動における「1:5の法則」を押さえておきましょう。

これは、新規顧客を獲得する際、既存顧客に製品/サービスを販売する5倍のコストが必要になるという法則です。なお、既存顧客からよい口コミや高評価をもらうことで、新規顧客の獲得を促進できます。

顧客のLTVの最大化

ライフタイムバリュー(LTV)とは、1人の顧客が企業と取引をする際の総収益を表す指標のことで、「顧客生涯価値」ともいわれます。顧客が企業の製品やサービスを購買する期間が長期化するほど、LTVは高まります。

特に、月単位あるいは年単位の契約によって顧客から利用料を得るサブスクリプションやSaaSといったサービスは、顧客に継続的に購買してもらう重要性が高い傾向です。

顧客志向を取り入れ、顧客の要望やニーズに応えられるサービスを常に提供し続けることで、LTVの最大化を目指すことができるでしょう。

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従業員満足度の向上

企業が顧客志向を取り入れることは、従業員満足度の向上につながる可能性が高くなります。これは、顧客志向によって高められる顧客満足度と従業員満足度が、相関関係にあることが理由です。

つまり、自社で顧客志向を達成するには、従業員満足度を向上させる取り組みも並行して進めることが不可欠ともいえます。例えば、従業員満足度が高い企業の場合、顧客の要望を満たす商品の開発や、ホスピタリティの高い接客サービスなどを提供できます。

顧客志向を採用することで、顧客と従業員が良好な関係を構築しやすくなるのです。従業員が仕事に対する達成感を持ちやすくなったり、企業への帰属意識が高まったりする効果も期待できます。

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顧客志向を調べる指標

顧客志向を調べる際は、おもに以下3つの指標を活用できます。

顧客満足度を測る指標。自社が提供した製品/サービスに対し、顧客がどの程度満足しているかを数値で表す

これらの指標を活用することで、自社の顧客志向がどの段階にあるのかを調べることが可能です。

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顧客志向を強化させるポイント

成功のポイントは、あらゆる接点で顧客の「快」を最大化すること

続いて、顧客志向を強化させる具体的なポイントについて見ていきましょう。

顧客ニーズの把握

顧客志向を進めるには、顧客のニーズを正しく把握することが重要です。顧客の購買行動や好み、価値観といった部分を理解し、潜在的なニーズをつかむことができれば、顧客から選ばれやすい製品やサービスの提供につながります。

顧客ニーズを把握する方法例としては、アンケートやインタビュー、過去の購買履歴や顧客情報の分析/共有などが有効です。なお、ニーズの分析に使えるフレームワークとして、以下の2つが挙げられます。

最終購入日(Recency)、購入頻度(Frequency)、購入金額(Monetary)の3つの指標で顧客をグループ分けして、マーケティング施策の立案などに活用する手法

不特定多数の顧客を、同じニーズや性質を持つグループに分けて、消費者ニーズの把握やターゲティングに活かす手法

顧客情報の一元管理

顧客情報を一元管理し、全社的に情報共有することで顧客志向をスムーズに強化できます。カスタマーサポート部やマーケティング部、プロダクト開発部などの各部門で管理している顧客情報をまとめることで、情報の補完や顧客の多角的な理解に役立つでしょう。

また、顧客と接して得た情報を一元管理することを「顧客関係管理(CRM)」といい、企業が導入できるCRMツールなどもあります。

CRMツールを導入することで、部門間の垣根を越えて顧客情報を共有できるので、より多角的な提案が可能となり、顧客志向に効果的に取り組めるでしょう。

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顧客との交流時間の増加

顧客志向を進めるために、顧客と交流する時間を増やすことも重要です。顧客とコミュニケーションを図ることで、顕在ニーズや潜在ニーズを探れるほか、信頼関係の構築にもつながるでしょう。

顧客と接点を持つ具体的な機会として、以下が挙げられます。

また、近年は会話型のIoTデバイスなど、新しいコミュニケーション手段も次々に登場しています。このような顧客接点では、潜在顧客から固定顧客、離反寸前の顧客まで、すべての顧客のエクスペリエンス(体験)を最大化する戦略が求められているといえるでしょう。

なお、顧客と交流する時間を増やすことは「ファンマーケティング」の一環です。ファンマーケティングでは、顧客を単に消費者として捉えるのではなく、自社のブランドや製品の「ファン」として関わってもらい、信頼関係を構築することに重点が置かれています。

顧客のフィードバックを活かした改善

顧客のフィードバックを製品やサービスの改善に活かすことも、顧客志向につながります。顧客のアンケート結果やレビュー、サポートセンターからのフィードバックなどを分析した上で、有効な施策を検討するとよいでしょう。

例えば、「購買プロセスの複雑化が原因で、購買の手間が増えている」という意見をもらった場合は、購買プロセスの効率化によって顧客体験の改善を実現できます。

また、自社のサービスに対して顧客からクレームを受けた場合は、その原因を根本的に理解することも大切です。クレーム内容を細かく分析することで、より大きなトラブルに発展するリスクを低減できるでしょう。

部門間の連携強化

カスタマーサポート部と営業部の連携を強化することで、顧客に提供するサービスの質を向上させられ、顧客志向を促せます。

例えば、部門間の連携を強化すると、新製品の情報を知りたいという要望を持つ顧客について、サポート担当者から営業担当者にスムーズに知らせることができます。

また、営業担当者に対して技術的な質問が寄せられた際に、専門知識を備えたサポート担当者に取り次ぐことも可能になります。

このように、異なる部門間の連携を強化するために、前述のCRMツールを導入することも有効です。

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顧客志向に生まれ変わるための4つの手順

真の顧客志向とは、そして組織が生まれ変わるには

ここからは、企業が顧客志向に生まれ変わるための4つの手順を確認していきましょう。

手順1:組織の強みと弱みの評価

顧客志向に生まれ変わるステップ(1):組織の強みと弱みの評価

まずは、組織の現状を把握するために、現状の自社の商品やサービスにおける強みと弱みを評価し、目標とのギャップを整理しましょう。

例えば、顧客理解の項目で「顧客の志向をどこまでつかむべきか」という問いを深める場合は、以下のように理想と現状の取り組みを書き出しましょう。

【顧客志向の把握における理想】

顧客が自社商品と一緒に使って楽しんでいる商品やサービス、利用シーンについても把握できる

【現状の取り組み】

会員登録時の情報、購入後アンケートの結果、および購入履歴を保有し、分析している

上記のように書き出すことで、成熟度スコアを算出できるとともに、理想とのギャップも明らかにできるでしょう。

手順2:組織と仕組みの調整

次に、手順1で導き出された現状の成熟度を踏まえて、理想と現実のギャップを埋める具体的な手法について検討し、組織と仕組みの調整を行いましょう。

前述した例であれば、理想に近付くための有効な取り組みとして、「アンケート項目を増やす」という方法などが挙げられます。

この取り組みと併せて、顧客の手間を増やす可能性などを考慮して議論も行うことで、ブラッシュアップが可能になります。

なお、顧客志向の実現に向けては、コストやニーズ、各関係部門の作業負荷とのバランスを取りながら、現実的な改善アプローチを採用できるように注意することも大切です。

手順3:変革のロードマップの作成と実装

顧客志向に生まれ変わるステップ(3):変革のロードマップの作成と実装

手順3では、手順1および2で定義したアプローチに従い、実際にプロジェクトを始動します。その際、変革に向けたロードマップの作成と実装を行うことで、目標を明確化し、進捗を可視化させた状態でプロジェクトに取り組めます。

また、ロードマップをもとに企業として負荷の少ない取り組みから優先して行い、早期に成果を出しながら進めることもポイントです。

ただし、顧客ニーズは移ろいやすく、提供したほうがよいエクスペリエンスもそれに伴って変化するので、プロジェクトを適宜軌道修正することも重要です。

プロジェクトの途中で変更要求があることを想定し、コストと期間、影響範囲を考慮しながら、柔軟に対応できるようにしておきましょう。

手順4:長期の競争優位性を確保

手順4では、企業としての長期的な競争優位性の確保に向けて、PDCAサイクルを回すことが重要です。手順3で実行したアクションの成果を適切にレビューすれば、手順1で確認した自社の強み/弱みや、理想とのギャップに変化が見られるでしょう。

場合によっては、理想とする目標が変わるケースもあります。また、当初は可視化できていなかった課題が出てきたり、目標達成に有効な新たなテクノロジーや方法論が出てきたりする可能性もあるので、しっかりと確認しましょう。

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顧客志向に取り組む際の注意点

白い背景に黒い文字が書かれた絵 中程度の精度で自動的に生成された説明

企業にとって価値のある顧客志向を実践するには、3つの注意点を押さえておく必要があります。

顧客志向の行き過ぎ

過度な顧客志向に陥ると、自社の利益を減らすことにつながります。顧客の要望やニーズにすべて応えようとした結果、自社の採算を度外視してしまい、利益が下がることは本末転倒といえるでしょう。

顧客志向は、顧客の要望やニーズを最優先して製品/サービスを提供する取り組みですが、それに付随して自社の利益を向上させることも不可欠です。顧客と長期的に良好な関係を構築しつつ、安定的な企業経営を実現させるための視点を忘れないようにしましょう。

潜在ニーズの見落とし

顧客の直接的な要望や顕在ニーズのみを製品/サービスに反映させるのではなく、潜在的なニーズを見落とさないようにすることが大切です。潜在ニーズを分析することで、新規顧客獲得に向けた施策を実施することも可能です。

潜在ニーズを探る方法として、顧客が抱える欲求を深掘りするようなインタビューやアンケート、市場調査、カスタマージャーニーの作成などが挙げられます。

顧客満足度への依存

顧客満足度は、自社の顧客志向が適正であるかを図る一つの指標になります。とはいえ、顧客満足度のみを重視すると、短期的な戦略や施策に陥ってしまい、長期的なビジネスモデルの実現が困難になるおそれがあるので注意しましょう。

また、顧客満足度の高さが、継続的な購買に結び付かないケースがあることも考慮しておく必要があります。顧客のリピート購入を促すには、実際の購買行動などを分析し、適切な対策を講じることに重きを置くとよいでしょう。

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顧客志向に取り組んで企業利益の拡大につなげましょう

企業が顧客志向を取り入れることによって、企業利益を拡大できたり、顧客のLTVを最大化させられたりするメリットが見込まれます。

顧客志向を強化させるには、顧客ニーズの把握や顧客情報の一元管理、顧客との交流時間の増加といったポイントを押さえることが大切です。

また、顧客志向に取り組む際は、行き過ぎた顧客志向を実践して自社の利益を減らしたり、潜在ニーズの見落としによって顧客志向の方向性がずれたりしないように注意が必要です。

顧客情報を一元的に管理する上で、マーケティングに役立つデータ基盤を導入するのも手です。例えば、カスタマーデータプラットフォーム(CDP)を利用することで、顧客情報の収集/分析/統合が可能になり、効率的かつ適切な顧客志向の実践へとつなげられます。

アドビの「Adobe Real-Time CDP」は、BtoB/BtoCを問わず、複数のチャネルのデータを統合して、実用的な自社の顧客プロファイルを構築できるデータ基盤です。

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(公開日:2022/7/18)