コンテンツ&データ&ジャーニーでパーソナライズを実現するアステラス製薬の取り組みとは
製造業を取り巻く競争環境が激化する昨今。良いモノを売るだけでなく、最高の顧客体験を届けるためには、テクノロジーを活用した営業/マーケティング戦略のアップデートが不可欠です。そこで今回は、アドビとビジネス・フォーラム事務局共催で展開しているイベント「MARKETING FOR SUCCESS」シリーズの中から、「製薬会社の『コンテンツ&データ&ジャーニー』最適化への挑戦」をご紹介します。
ご登壇いただいたゲストは、2024 Japan Adobe Advocates のアステラス製薬株式会社 オムニチャネル ストラテジー&オペレーションズ オムニチャネルエクスペリエンスパートナー 大石幸太氏。アドビ株式会社 DXインターナショナルマーケティング本部 フィールドマーケティングマネージャー 松井真理子がお話を伺いました。
アステラス製薬のコミュニケーションプラットフォーム
2005年に山之内製薬と藤沢薬品工業が合併して誕生したアステラス製薬株式会社。主に医療用医薬品の研究開発及び製造販売をされており、70カ国以上で事業を展開する、グローバルな製薬会社です。
大石さんは、「製薬業界のビジネスモデルはB2B2Cであり、少し特殊です」と言い、次の特徴を挙げました。
1. エンドユーザー(患者さん)≠顧客、マーケティング対象=顧客(医師)
製薬会社の薬を購入するエンドユーザーは患者さんですが、どの薬を処方するのかを決めるのは医師です。つまり、エンドユーザーである患者さんは、アステラス製薬にとって価値を提供すべき存在であるものの、直接的な顧客ではありません。マーケティング対象としてコミュニケーションを取る相手は、意思決定を行う医師が中心なのです。
2. 売上計上のタイミング≠顧客の意思決定のタイミング
医薬品は“医薬品卸”を介して流通しており、薬局に直接納入されるわけではありません。製薬会社から医薬品卸に納入したタイミングで、製薬会社の売上として計上されます。したがって、医師が処方箋を発行したタイミングや、どのような患者さんが、どの薬局で薬を処方してもらったか、といった最終的な情報は製薬会社に入って来ません。
これらの状況を踏まえた上で、主たる顧客である医師や医療従事者の方へ最良の体験を提供するため、「アステラス メディカルネット」を通じたコミュニケーションの高度化を図っているとのことでした。
そんなアステラス製薬では、オウンドメディア「アステラス メディカルネット」(会員制サイト)を起点として、マーケティングオートメーションのAdobe Marketo Engageやコンテンツ管理システムのAdobe Experience Manager、Adobe TargetやAdobe Analyticsといったアドビ製品を活用。
以下の図のように、プライベートDMPに格納されている「顧客データベースに紐付く顧客データ」「オフラインデータ」「サードパーティのデータ」をAdobe Analyticsでセグメント化を行い、Adobe Targetで異なるUIをオウンドメディア上で体験していただけるようにされています。また、そのセグメントを用いて、Adobe Marketo Engage でパーソナライズされたメールも配信。それによって得られたインサイトやデータをMRに還元することで、包括的に個別最適化されたシームレスなオムニチャネル体験を提供されています。

顧客もMRも喜ぶデータ活用を実現
同社はAdobe Marketo Engage導入以前、セグメントごとにチャネルを使い分けて、“戦略中心のプッシュ型マーケティング”を行っていたものの、「すべてのセグメントに対して同じメールが送られてしまう」といった問題が起きていました。
そこでAdobe Marketo Engageを導入し、“顧客体験中心のカスタマージャーニー型”へと切り替えることに。属性軸、行動軸、コンテンツ軸の3つの軸でメールコミュニケーションのコンテンツを設計した結果、「メールからオウンドメディアへの来訪率が274%と約3倍に増えました」と大石氏は語りました。
また、Adobe Marketo Engageを活用したメール以外の施策として、SNS botによるMRへの情報提供にも取り組まれているとのこと。Adobe Marketo EngageとSNS botを連携して、オウンドメディアで特定の行動を取った顧客の情報が、担当MRに自動で届くよう設計されています。この通知をもとにMRが行動した結果、顧客の行動変容につながった事例も出てきているそうです。
さらに詳細な同社のAdobe Marketo Engage活用における取り組みについては、こちらをご覧ください。
デジタルマーケティングプロセスの民主化
マーケティングオートメーションやプライベートDMPに格納されているデータを社内で効率良く活用するには、データ分析と解析の最適化が重要となります。そこで、同社のマーケティング部門では、組織内にデジタルマーケティングのスキルを持った人材を増やす研修にも力を入れています。「我々が目指す最終形は、web分析をはじめとするデジタルマーケティングプロセスを民主化することです」と語る大石氏は、「分析/仮説立案/検証の3つのフェーズに分けた研修を設計し、それぞれ次のような取り組みを行っています」と明かしました。
1. 分析
まずはAdobe Analyticsを使って、顧客のカスタマージャーニーの中でどこにボトルネックがあるのか、最適化すべき場所はどこなのかを見つけられるようにします。
2. 仮説立案
次に、問題がある場所に対して、何を変えれば改善するのか、何の数値がどう変化すれば成功とみなすことができるのか、成功指標を考えられるようにします。
3. 検証
最後に、誰にこの体験を届けるべきなのかを考え、Adobe Targetをフル活用しながらA/Bテストを実施。仮説立案で策定した成功指標を元に、良い体験を設計できるようにしていきます。
「A/Bテストをするにも、AとBに何を立てたらいいのか分からない」「A/Bテストをしてもあまり差が出ず、なかなか最適化のサイクルがうまく回らない」といったように、仮説立案に難しさを感じている マーケターは少なくありません。大石氏は、こうした課題をどのように解決しているのでしょうか。
「我々は仮説の精度を上げるのは難しくて当たり前という前提で、無理やり7つのパターンを決め、仮説立案のアシストをしています。それに我々はB2B2Cであり、かつ弊社のオウンドメディアを閲覧できる医療従事者の数も限られているので、そもそも検証できるN数が少ない。よって、できるだけビジネスインパクトの大きくなる改修ができるようにしています」(大石氏)
この研修は、対象者である「マーケティング組織担当者/BI担当者/営業DX担当者(一部)」を9つのレベルに分け、2時間のプログラムを年に4回、オンラインで実施されているとのことでした。

新たに誕生した「Healthcare MUG」とは
大石氏は2023年2月に製薬業界向けのAdobe Marketo Engage User Group「Healthcare MUG」を立ち上げ、リーダーとしてご活躍しておられます。参加者の皆さんからは、「同業だから話せる安心感 があり、ナレッジがとても参考になる」とコメントをいただいています。

「国民皆保険制度のもので成り立つ日本のヘルスケア業界では、規制や関連法規などが多く存在します。そんな制約がある中でも、我々マーケターは顧客に最良の体験を提供しなければなりません。同じ境遇を持った仲間同士で、心理的安全性の高いグループを作り、一緒に壁を乗り越えていけたらと思っています。同じ業界に閉じられたグループで他社の話を聞けるので、『ここはもっとがんばらないと』といった自社の立ち位置を客観的に知ることができる貴重な場になっています」(大石氏)
製薬業界向けに限らず、アドビにはプロダクトごとに、様々な切り口のユーザーグループが存在しています。ユーザー同士で深いディスカッションを行うことで、「新しいアイデアの発見」や「自社のデジタルマーケティングの活性化」につなげていただけます。導入前に「自分たちに使いこなせるのか不安だ」と思われている皆さんも、このようなユーザーグループがあることで、ユーザー同士で助け合いながら安心して活用を進めていただけますので、ご興味のある方はぜひご参加いただければと思います。
