グローバル市場に向けたB2Bマーケティングで営業案件数を倍増させた旭化成グループの取り組みとは

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4年連続で「DX銘柄」に選定される企業は、グローバル標準のマーケティング基盤構築をどのように進めたのでしょうか。今回は、アドビとビジネス・フォーラム事務局共催で展開しているイベント「MARKETING FOR SUCCESS」シリーズの中から、「顧客体験強化による営業案件倍増の“舞台裏” ― 旭化成のデジタル共創戦略」の内容をご紹介します。

ご登壇いただいたゲストは、旭化成株式会社 デジタル共創本部 CXトランスフォーメーション推進センター センター長 鈴木岳氏と、2023 Japan Adobe Advocatesの旭化成エレクトロニクス株式会社 マーケティング&セールスセンター デジタルマーケティング部 第二グループ 主査 井上望氏です。そして私、アドビ株式会社 DXインターナショナルマーケティング本部 フィールドマーケティングマネージャー 松井真理子がお話を伺いました。

全社4万人のデジタル人材化を目指す旭化成グループの本気の取り組み

マテリアル/住宅/ヘルスケアの3つの事業領域を持つ総合化学メーカーである旭化成グループでは、2021年に「DX VISION 2030」を策定。「導入期(2016〜2019年)/展開期(2020〜2021年)/創造期(2022〜2023年)/ノーマル期(2024年〜)」の4つのフェーズに分けたDXのロードマップを作成し、グループ一丸となってDXを推進されています。

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そんな旭化成グループのDXをリードされているのが、旭化成エレクトロニクス株式会社で25年以上にわたって電子部品のマーケティング/営業の経験を持つ鈴木岳氏です。

鈴木氏が所属するデジタル共創本部には、研究開発のDX推進を担う「インフォマティクス推進センター」と、製造/生産DX推進を担う「スマートファクトリー推進センター」、そしてマーケティング/営業DX推進を担う「CXトランスフォーメーション推進センター」があり、DXによるビジネス変革や経営の高度化、デジタル基盤強化のための人材育成や風土改革などに取り組まれているそうです。

なかでも鈴木氏がセンター長を務めるCXトランスフォーメーション推進センターのミッションは、「旭化成の各事業組織へのデジタル支援により、マーケティング+営業部門の変革を行い、お客様満足を獲得することで、事業成果を達成する」ことです。そのために「マーケティング+営業の人材育成」「デジタルマーケティングの高度化」「ビジネス変革」の3本柱で活動していると言います。

B2Bマーケターの確保にお悩みの企業が少なくない中で、どのように人材育成をされているのでしょうか。この疑問に対し、鈴木氏は次のように語ります。

“4万人の社員全員のデジタル人材化” を目指している旭化成グループでは、『オープンバッジ制度』という人材育成プログラムを開発しました。マーケティングにフォーカスすると、レベル5になればマーケティング検定1級/マーケティング・ビジネス実務検定A級、上級ウェブ解析士/ウェブ解析士マスターといった資格相当のプロフェッショナル人材である証明になります。私ももちろん受けていますし、社長も含め旭化成グループの全社員がレベル3のデジタル活用人材になるよう、取り組みを進めているところです」。

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MOpsとして事業に貢献する動き

次に、井上氏がMOps(マーケティングオペレーション)として活躍されている旭化成エレクトロニクスの事例をご紹介します。

同社のデジタルマーケティング部は、リードジェネレーションチームとリードナーチャリングチームのある「フィールドマーケティンググループ」と、マーケティングインフラチームと基盤インフラチームのある「マーケティングオペレーショングループ」に分かれており、井上氏はMAの専任担当としてマーケティングインフラチームでMAやCRMの改修/オペレーションをされています。要するに、フィールドマーケティングチームが立案した施策の効果を最大化するために、陰のブレーンとして、実装したり分析したりするのがMOpsの役割ということです。そんな井上氏は、「今の環境が整うまでには、様々な課題があった」と明かし、具体的に次の点を挙げました。

<課題①:webコンテンツが質/量ともに不十分>

・グループ会社のCMSプラットフォームを使用していたため、自由な運用ができなかった。

・HTMLコードで実装しなければならないCMSだったため、品質/スピード/費用の面で課題があった。

・グローバル市場に向けたwebサイトでありながら、日本語中心のサイト構成になっていた。

<課題②:マーケティング運営面>

・MAはリード獲得のための“フォーム管理ツール”としてしか活用できていなかった。

・マーケティング施策の効果測定ができていなかった。

・マーケティングで創出したリードを営業に渡すオペレーションが構築されていなかった。

このような課題を解決するために、同社では2020年にAdobe Experience ManagerAdobe Marketo EngageAdobe Target、そしてAdobe Analyticsを導入。次のような効果が表れたと言います。

<効果①:web環境を変えたことで、コンテンツの質/量が向上>

・(HTMLの記述が不要な)Adobe Experience Managerによって自由度が上がり、質の高いコンテンツを作れるようになった。

・ほぼすべてのコンテンツを内製化できるようになり、外注費の削減&スピードアップにつながった。

・グローバル市場を前提とした3言語(日英中)6サイト(日本、北米、欧州、その他、韓国、中国)を構築して、地域ごとのローカライズが可能となった。

<効果②:マーケティングオペレーションの確立>

・MAの活用が進み、ニュースレターやウェビナー、ナーチャリングプログラムなどの各種マーケティング施策に加え、ABM(アカウントベースドマーケティング)もスピーディに実装できるようになった。

・MAとCRMとBIツールを連携したことで、マーケティング施策が収益にどう結びついているのかを一気通貫で効果測定できるようになった。

・マーケティング~営業間のMQLの受け渡しができるようになった。

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このように劇的な進化を遂げた旭化成エレクトロニクスのweb環境ですが、3言語6サイトの運用を始められてから約3年が経った今、どのような運用をされているのか、もう少し詳しく見ていきましょう。

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多言語対応が得意なAdobe Experience Managerでwebサイトを構築したことで、英語で実装したコンテンツを他の地域にコピーして、各エリアに適した画像に差し替え、日本語や中国語に置き換えたりしてローカライズを実現。「お客様の顧客体験を高めることができた」 と井上氏は語ります。

また、Adobe Marketo Engageを使ったABMの実践例として、次の3つの取り組みをご紹介いただきました。

・メール文面を出し分ける……6つのエリアの営業と連携しながら、それぞれのお客様にコンテンツを出し分ける。また、ターゲットのお客様だけに絞って、特別な情報を提供している。

・限定メルマガ+コンテンツ……ターゲットのお客様専用のメールマガジンを配信。併せて専用のランディングページに誘導することで、特別感を演出している。

・プライベートウェビナー……ターゲットのお客様限定のウェビナーを開催。ZoomとAdobe Marketo Engageを連携しておき、リード獲得につなげている。

デジタルマーケティングでグローバル市場に向けて大きく躍進

これまでの取り組みによって、どのような成果が上がっているのでしょうか。

「旭化成エレクトロニクスでは、デジタルマーケティング起因の獲得案件数のCAGR(年平均成長率)が+50%を達成。また、狙い通り、全案件の海外比率のCAGRも+12%を達成しています。これらには、グローバル標準のマーケティングオペレーションモデルを追求 してきたことが、一つ大きく貢献していると思います」と評した鈴木氏。

さらに井上氏は、「社内の営業担当者や製品開発担当者からも感謝の声が届いています。マーケティングの独りよがりではなく、ちゃんと他部門の方にもメリットを感じていただけた表れだと思います」と喜んでおられました。

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最後に、「とはいえ、私たちも試行錯誤しながら進めている部分もまだまだあります。製造業の皆様と一緒に切磋琢磨しながら歩んでいければと思っていますので、User Groupでご一緒できることを楽しみにしています」と言葉を残された鈴木氏と井上氏。ぜひご興味のある方は、アドビのUser Groupにご参加いただけると幸いです。