顧客体験管理(CXM)を自社の戦略に落とし込んでいく方法
顧客体験管理(CXM)とは
顧客体験管理(Customer Experience Management、以降CXM)とは、ブランドと顧客との間のあらゆるタッチポイントにおける体験をデータにもとづいて最適化することで、顧客ひとりひとりの満足度を高め、顧客のロイヤリティを高めていくことを指しています。
CXMを成功させるためには、顧客の属性や行動を理解するだけでなく、顧客の要望やニーズを予測し、予測にもとづいて、最適なコンテンツを最適なチャネル、最適なタイミングで顧客へ届ける必要があります。
そのため、CXMは広告やメールなどの集客施策をすべてカバーするだけでなく、顧客に関するあらゆるデータを統合しての分析を可能にし、データにもとづいたコンテンツの生成、予測にもとづくカスタマージャーニーの管理までを実現することが求められています。
また、カスタマージャーニーの管理においてはリアルタイム性が重要であり、顧客の”今”のニーズを理解した上で最適なコミュニケーションを図ることが、CXMの成功のポイントとされています。
ブランドおよび企業にとって、自社の競合優位性を高め、顧客との中長期的な関係を構築するために重要なのがCXMであり、優れた顧客体験の提供こそが、競争が激しいデジタル時代を生き抜くための鍵となっています。
CXMを推進する上で多くの企業が抱えている課題
マーケティングDXにおいてCXMが重要であるという情報を目にする機会が増えている昨今、CXMの推進において以下のような課題を抱えている企業が多いのが実情です。
- 現在の戦略において、CXMの重要度が低い
- 自社のCXMが今どのステージにいるのか、何をゴールとすべきかが分からない
- CXMに取り組むことによるROIが試算できない
- CXMに割ける人材が不足しており、マーケティングオートメーション(MA)のような施策の自動化により業務効率化が図れるツールの導入で手一杯
- CXMにおいてはAI(人工知能)/ML(機械学習)を含む高度なデータ活用が必要であり、事業会社にとっては難易度が高い
企業がマーケティングDXを実践し、変化し続けるデジタル時代を生き抜くためには、高度にパーソナライズされたコミュニケーションを提供するCXMを重要戦略のひとつとして捉える必要があり、他社と比較して自社の顧客体験管理のレベルが低いのではないかと感じている企業は、上記のような課題の解決に向けてすぐにでも動き始めなければなりません。
まずはCXMのステップと現在のステージを把握する
着手する必要性は認識しているものの、推進する上で高度なスキルや高価なツールが必要となる点などから、CXMは敷居が高いと思われるケースが多いのですが、重要なのは、顧客視点で考えた時に、顧客に対して自分たちが3年後や5年後にどのような顧客体験を提供できるブランド/企業になるかをしっかり定義し、そのためにどのようなステップを踏むべきかのロードマップを策定・社内に共有することです。
達成すべきゴールおよびマイルストーンが定まれば、目先の売上・利益だけにとらわれずに、自社のCXMのレベルが上がっているかどうかの進捗も管理することができ、将来のビジネス成長の起爆剤となるマーケティングDXのレベルアップを図ることができます。
では、CXMのステップを見ながら、自社がどのステージにいるかを確認していきましょう。
- 顧客体験に関するデータが収集できていない
- アクセス解析ツール/BIを利用し、広告やメールなどの施策の効果検証を行なっている
- Web上での行動データやレビュー、アンケートなどから収集できる顧客の声を集め、定期的に課題を分析している
- データをもとに洗い出した課題に対する施策を立案し、A/Bテストを実施することで各施策の効果検証を実施している
- 顧客のロイヤリティや行動傾向をもとにするセグメントを作成し、セグメント毎のターゲティング施策を実施している
- 顧客の行動にもとづき、特定のイベント発生後に自動でメールなどのコミュニケーション施策を実施している
- オンライン上での顧客の行動や顧客属性をもとに期待している顧客体験を予測し、最適な顧客体験を提供している
- オンライン・オフライン問わずあらゆるデータをもとに顧客の期待している顧客体験を予測し、最適なオファーを最適なタイミングで最適なチャネルで顧客へ提供している
自社が現在どのステージにいるか、把握できましたでしょうか。
一般的には、ステージ5か6まで進んでいるものの、7へのステップアップに苦慮しているケースが多いかと思います。
ここからは、自社のマーケティングDXのステージを5以上に上げていくために何が必要かを考えていきましょう。
具体的に実現する顧客体験(ユースケース)を洗い出す
マーケティングDXのステージ5以上に引き上げるために必要なのが、具体的にどのような顧客体験を提供すべきかを洗い出す工程です。
実現する顧客体験を定義することなく、マーケティングツールの導入やデータ統合、サイトリニューアルのプロジェクトを進めてしまうケースがありますが、このようなプロジェクトの場合には、ツール導入やデータ統合、サイトのリニューアルがプロジェクトの目的となってしまい、結果として優れた顧客体験の提供につながらないケースが多くあります。
自社の顧客体験管理の高度化を推進したいのであれば、ツール選定やサイトリニューアルの前に、必ず提供すべき顧客体験を明確化する手順を踏んでください。
また、提供すべき顧客体験を洗い出す上では、必要なコストやシステム上の制限による実現可否は度外視し、自分たちは顧客にとって何を提供する企業/ブランドになるべきかの理想像を洗い出すことがポイントです。
ここで洗い出された顧客体験を提供することでどのようなベネフィット(売上や利益など)が創出できるかはこの後の工程で明確化し、ROIの試算を行います。
では、どのようなプロセスで提供すべき顧客体験を整理していくべきでしょうか。
一般的には、以下のようなプロセスを踏むことで、顧客体験の網羅性が高く、関係各所の合意も得られやすいアウトプットを作り上げることができます。
- 国内外の事例を収集し、自社にも取り込むべき顧客体験を洗い出す
- 自社で保有する顧客の声を分析し、取り入れるべき顧客体験を洗い出す
- アクセス解析によりWeb上の離脱ポイントや課題を分析し、対策を打つべき施策を洗い出す
- 顧客との接点がある複数の部門の担当者に集まっていただき、顧客体験を洗い出すワークショップを実施する
- 上述のプロセスで洗い出された顧客体験を一覧化し、施策の優先順位付けをする
上記の顧客体験の整理において効果的なのがカスタマージャーニーマップの作成です。
カスタマージャーニーマップの必要性や作成の流れについてはこちらをご覧ください。
実現する顧客体験をもとに売上貢献度を試算する
先ほどのプロセスにおけるアウトプットとして顧客体験の一覧が出来上がった後は、優先度が高い施策から売上貢献度の試算を行います。
売上貢献度を試算する際には、施策ごとに以下の情報が必要です。
- 施策の対象者数
- 現時点の施策の対象者ひとりあたりの売上貢献度
- 施策による対象者ひとりあたりの売上貢献度の上昇率(見込み)
小売業など施策による売上効果が明確な場合
- 訪問回数
- 購入CVR
- 購入単価
施策による訪問回数やCVR、売上貢献度の上昇率の見込みが立てられない場合、類似案件の実績や、他社事例における実績を参考に、当てはめてみましょう。
いずれの実績値も手に入らない場には、現行のシステムやリソースで実現が可能な参考値となり得る類似の施策を実施することを検討します。
施策毎の売上貢献度の試算が終わると、提供すべき顧客体験をする管理することによる売上貢献度の見込みが明らかになり、理想的なCXMを実現するためにどの程度の予算を確保すべきかが見えてきます。
顧客体験を提供するために必要なデータおよび基盤を洗い出す
次に必要になるのが、定義した顧客体験の提供のためにどのようなデータおよび基盤が必要になるかの洗い出しです。
実現すべき顧客体験が明確であれば、以下の要素が明確化できます。
- データソースの種類と数
- 各データに求められる鮮度(リアルタイム性)
- 必要なデータ項目/属性
- 必要となるセグメント
- 必要となるパーソナライズドデータ
- 必要となる予測モデル(AI/ML)
- データ連携先の種類と数
実現すべき顧客体験が明確でない場合に見落としがちなのが、データの鮮度(リアルタイム性)や、予測モデル(AI/ML)の要件です。
顧客体験を管理するための様々なデータを統合した箱ができたとしても、数日遅れたデータしか連携されておらず、精度の低い予測しかできないなど、結果として優れた顧客体験の提供にならないといった事態に陥ってしまうケースがあります。
上記の要件を明確にすることで、以下のようなツールが本当に必要なのか、どのツールであれば実現できるのか、ROIはどの程度かを正しく判断することができます。
- カスタマージャーニー分析基盤
- マーケティングオートメーション(MA)
- デジタルアセット管理(DAM)
- コンテンツ管理(CMS)
- CDP(顧客データプラットフォーム)
- DMP(データ管理プラットフォーム)
- パーソナライズ基盤
- コマース基盤
- AI(人工知能)/ML(機械学習)基盤
アドビでは、CXMのためのプラットフォーム「Adobe Experience Platform」や、優れた顧客体験によりビジネスを成功に導く、包括的なクラウド基盤「Adobe Experience Cloud」を提供しています。
顧客体験を提供するために必要な人材・組織を定義する
ここまでのステップを踏むことで、提供すべき顧客体験は何か、それにより期待される売上貢献度はどの程度か、実現に必要となるツール・基盤が何かを決めることができました。
残るは、理想とするCXMの実現に必要な組織、人材の定義と、必要な人材の育成・確保の方法です。
この点に関しては、別の機会にご説明致します。