Adobe Customer Meet up Series Report - Customer Journey powered by AI

顧客接点の多様化とデータ量の爆発的な増加により、企業の顧客体験(CX)を取り巻く環境は大きな転換点を迎えています。顧客はもはやチャネル単位で企業を評価するのではなく、web、メール、アプリ、SNS、さらには生成AIを介した接点までを含めた一連の体験全体を通してブランドを認識しています。

こうした状況を背景に、アドビでは「Customer Journey powered by AI」をテーマに、AI時代における顧客エンゲージメントの実践のためのユーザーミートアップを開催しました。本記事では、当日のAdobe Product Management TeamのSenior DirectorであるVikas YadavによるKeynote、製品アップデート、グローバル事例、またディップ株式会社の三村芽衣氏に発表いただいたAdobe Journey Optimizerの事例をご紹介します。

顧客体験は「キャンペーン」から「オーケストレーション」へ

本イベントの冒頭では、アドビより、現在のマーケティング環境を取り巻く大きな変化が共有されました。顧客はもはや単一のチャネルではなく、web、メール、アプリ、SNS、さらには生成AIを介した接点までを含めた体験全体を通してブランドを評価しています。重要なのは、どのチャネルで接しても「自分に関係のある情報が、適切なタイミングで届く」ことです。

手に持った携帯電話のスクリーンショット AI 生成コンテンツは誤りを含む可能性があります。

このような環境下では、従来のようにキャンペーン単位で施策を設計・実行するだけでは、顧客の期待に応えることは難しくなっています。そこでアドビが提唱しているのが、Customer Experience Orchestrationという考え方です。

Customer Experience Orchestrationとは、データ、コンテンツ、チャネルを個別に最適化するのではなく、それらを1つの“体験システム”として統合し、顧客一人ひとりの行動や意図に応じて「誰に、何を、いつ届けるか」を継続的に判断/実行していく考え方です。このオーケストレーションを実現する中核として、Adobe Experience Platformを基盤としたAIと、目的特化型のエージェント群が紹介されました。

Agentic AIが実現する、“実行までつながる”CX

Vikas Yadavのセッションでは、まずこのCustomer Experience Orchestrationを支える中核として、Agentic AI の役割が紹介されました。アドビは、汎用的なAIではなく、顧客体験に特化した目的別エージェントをAdobe Experience Platform上に実装しています。

これらのエージェントは、ジャーニー設計、コンテンツ制作、データ分析、最適化といったCX業務を横断的に支援し、複数のAIが連携しながら動作します。重要なのは、AIが単にインサイトを提示する存在ではなく、実行を前提に組み込まれている点です。

テキスト が含まれている画像 AI 生成コンテンツは誤りを含む可能性があります。

例えば、Adobe Journey Optimizerでは顧客行動や過去データを学習したAIが、配信タイミングの最適化やコンテンツ選択を自動で判断します。これにより、マーケターは個別の調整作業から解放され、より戦略的な設計や改善に集中できる環境が実現されます。

AJO最新アップデートと進化の方向性

本イベントでは、特にAdobe Journey Optimizerの最新の進化についても共有されました。Adobe Journey Optimizerはリアルタイムな1:1コミュニケーションとバッチ型施策を統合し、顧客の状態や意図に応じた柔軟なオーケストレーションを可能にしています。

今後のロードマップでは、Journey Agentによるジャーニーのシミュレーションや自動テスト、AIによるコンテンツ生成・品質チェック、配信前の件名パフォーマンス予測など、AIを前提とした運用高度化が段階的に強化されていくことが示されました。これらは、マーケターの創造性を奪うものではなく、むしろ創造性を発揮する余地を広げるための進化と位置づけられています。

Global Customer Story:Real Madridに学ぶ、スケールするCX

Customer Experience Orchestrationのグローバル事例として紹介されたのが、Real Madridの事例です。世界中に6億人以上のファンを持つ同クラブでは、Adobe Journey OptimizerやReal-Time CDPを活用し、グローバル規模でのパーソナライズされた体験提供を実現しています。

Real Madridでは、オンライン/オフラインの行動データを統合し、ファンの関心や状況に応じたメッセージを、メール、モバイルアプリ、SMSなど複数のチャネルで配信しています。その結果、数億通規模に及ぶパーソナライズドメッセージ配信を行いながら、配信スピードの大幅な向上と、エンゲージメントの強化を両立しています。この事例は、CXオーケストレーションが「一部の顧客向け施策」ではなく、「大規模な顧客基盤にも適用可能」であることを示しています。

Global Customer Story:Auckland Airportが実現した、リアルタイムCX

もう一つのグローバル事例として紹介されたのが、Auckland Airportです。同空港では、Adobe Journey Optimizerを活用し、駐車場予約やラウンジ利用などの行動データを起点に、リアルタイムな顧客コミュニケーションを実施しています。

例えば、駐車場を予約した利用者に対し、来場タイミングに合わせて関連オファーを配信するなど、状況に応じた体験設計を実現しています。これにより、売上向上だけでなく、運用効率の改善やコンテンツ制作時間の短縮といった効果も得られています。AIを活用したCXは、顧客満足度向上と業務効率化の両立を可能にすることが示されました。

日本企業事例:ディップ社「バイトル」に見るPersonalization at Scaleを実現する、AI活用の実践例

イベント後半では、日本のユーザー事例として、ディップ株式会社 マーケティング本部の三村芽衣氏、およびアドビのプリンシパルビジネスコンサルタント 橋本より「バイトル」の取り組みが紹介されました。顧客一人ひとりに合わせたコミュニケーションは重要な一方で、それはもはや差別化要素ではなく競争前提条件になりつつあります。一方で、多くの企業が直面しているのは「どうスケールさせるか」という壁です。

特に数百万〜数千万人規模の会員基盤を持つサービスでは、

といった課題が顕在化します。

今回のCustomer Meet upでは、ディップ様(バイトル)の事例を通じて、“少人数体制でも成果を最大化するAI活用” がどのように実践されているのかをご紹介しました。

具体的な取り組みとしてまず紹介されたのが、LINEでのニアリアルタイム案件レコメンドです。仕事詳細の閲覧や応募完了といったユーザー行動をトリガーに、最新の行動データをプロファイルに反映。その情報をもとに、API連携で案件レコメンドを行い、LINEで即時配信します。ポイントは、「速さ」だけではありません。配信過多を防ぐため、配信後一定時間は再配信しないといった制御もジャーニー内で行われています。この施策では、従来施策と比較してCVRが向上する成果が確認されており、カルーセル表示件数なども含め、現在も継続的にA/Bテストを継続しながら、ユースケースを段階的に拡張しています。重要なのは、単発施策ではなく“検証し続ける仕組み”として運用されている点です。リアルタイムデータを活用しながらも、統制された配信設計と継続的な改善プロセスを両立。これがスケール可能なパーソナライゼーションの基盤となっています。

もう一つの象徴的な事例が、メール配信時間帯のパーソナライゼーションです。バイトルでは、多くの会員に対して日次でレコメンドメールを配信しています。配信時点での高精度なレコメンド生成はAdobe Journey Optimizerにより実現できていました。しかし一方で、「いつ届けるか」はパーソナライズされていませんでした。大量配信を前提とする中で、人手による時間帯テストには限界があり、そこで、「最適な配信タイミングはAIに任せる」という判断がなされました。Journey AIによる配信時間最適化を導入した結果、従来は送信直後に集中していた反応がAI最適化後は時間帯全体に分散しました。

この結果、顧客ごとの最適なタイミングで開封/クリックが発生し、コンバージョンが向上するという成果が見られました。特筆すべきは、コンテンツ自体を変更せずに成果を改善でき、また施策はボタン一つで設定可能なため、「高度なAI活用」=「高い導入・運用コスト」ではないということが証明できた点にあります。限られたリソースでも即時にROIを創出できる施策として、非常に再現性の高いアプローチといえます。

バイトルの事例を通じて示されたのは、AI活用の成功が一度の大規模施策で実現するものではなく、日常の運用として定着しているという点です。最初から完璧を目指さず、効果が可視化しやすい領域から着手し、小さな改善を高速で回しながら、成果が出た施策を横展開するという積み重ねが、“Personalization at Scale”につながっています。パーソナライゼーションとは、特別なプロジェクトではなく、データとAIを前提にした運用文化そのものなのです。

Q&Aセッション:Adobe Journey OptimizerとAI時代のマーケティングを深掘りする

ロードマップ紹介の後には、プロダクトマネジメント責任者である Vikasおよびディップ 三村氏を中心に、参加者とのQ&Aセッションが実施されました。

例えば、AIは既存のSaaSを置き換えるのか? それとも新しい価値を生むのか? AIが既存のSaaSを飲み込むのではなく、AIを活用して今までのSaaSにはなかった新しい価値を、Adobeはどう作ろうとしているのか? という問いに対して、「AIがSaaSを置き換える」のではなく、「SaaSの体験価値を再定義する」という考え方が説明されました。Adobe Journey Optimizerのロードマップでは、既存のワークフローをAIで自動化するだけでなく、マーケターがこれまで扱えなかった複雑な判断や文脈を扱えるようにすることが重視されています。AIは“機能の代替”ではなく、意思決定の質を高めるための存在として位置づけられています。

またハイパーパーソナライゼーションが自動化される中で、最後までAIに任せず、人が担うべき役割は何か? という質問に対して、Adobe Journey Optimizerロードマップが示すのは、「人は判断を手放すのではなく、判断のレイヤーを引き上げる」という方向性です。AIが担うのは、大量のデータ処理、パターン抽出、リアルタイムな最適化などが得意な一方で、人は、体験全体の設計思想や、ブランドとして何を大切にするのか、どのKPIを最適化すべきかといった、戦略/倫理/創造性の領域を担い続けるべきだ、という考え方が共有されました。

ディップに対しても、理想的な活用を阻む「社内事情」はどう乗り越えたのか? データ分断や既存ツールなど、社内事情による制約を、企業はどのように乗り越えてAdobe Journey Optimizerを活用しているのか? という質問がなされ、Adobe Journey Optimizerを「いきなり完璧に使う」ことを目指さない姿勢が強調されました。実際、多くの企業では、まずは一部チャネル/一部ユースケースから開始し、成果を確認しながら、段階的に統合範囲を広げるというアプローチが取られています。Adobe Journey Optimizerは段階的な成熟を前提に設計されたプラットフォームであり、ロードマップ自体もその前提で描かれています。

今後の展望

今回のセッションを通じて、各製品のロードマップが示していたのは、「高度なことを一気にやる」ことではなく、日々のマーケティング業務をどう現実的に前に進めていくかという視点でした。リアルタイムデータやAI Agentは、すべてを自動化する魔法ではなく、既存の施策や運用を置き換えるものでもありません。限られたチャネルやユースケースからジャーニーをつなぎ、反応を見ながら改善を回す。その中で、セグメント更新や出し分けといった“人が手作業でやっていた判断”を徐々にAdobe Journey OptimizerとAIに任せていくことが現実的なアプローチになります。今後マーケターに求められるのは、ツールの細かな設定を極めることよりも、「この体験は自動化して良いのか」「ここは人が判断すべきなのか」を見極める力が重要になってきます。

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