海外先進企業に共通するCXM=顧客体験管理の本質とは? ~Adobe Summit 2024、50個以上のブレイクアウトセッションから読み解く潮流~


Adobe Summit2024ではKeynoteにて「Customer Experience Management in the era of AI」が今年のキーメッセージとして発表されました。Customer Experience Management(CXM)=顧客体験管理という言葉は2019年のSummitでも使われており、アドビ自身が体現し提唱し続けているメッセージの一つです。

店舗のスタッフが自分に合った良い接客をしてくれた、モバイルアプリでタイミング良くクーポンが届いたなど、良い顧客体験の提供に関する取り組みはすでに一般化していると思います。が、別の店舗に行った時の接客は良くなかった、Webサイトの購入導線が悪く途中で買うのをやめてしまった、という良くない顧客体験が同時に提供されてしまっている場合、これは企業が顧客体験を「管理」できている状態とは言えません。

顧客体験管理とは、データから顧客一人ひとりを理解し、包括的なカスタマージャーニーのすべてのモーメントにおいて一貫した顧客の期待を超える体験を提供し、そのすべてを企業として管理し続けること、とアドビでは説明しています。

AIの時代と言われる現代で、いかにAIや生成AIのパワーを活用して顧客体験管理を実現していくのか、これが今年のテーマである「Customer Experience Management in the era of AI」です。

200以上行われたブレイクアウトセッションでは、顧客体験管理に取り組み、成果を上げてきた企業の事例共有が数多くありました。本ブログでは、アドビコンサルティングサービスのメンバーが各セッションを見ていく中で浮かび上がった「海外先進企業に共通するキーワード」を元に、顧客体験管理の実現に必要な本質を読み解きます。

キーワード1:Experiment & Iterate – 実験すること、反復すること

General Motors(GM社)のMarketing Test & Learn Center of Excellenceチームに所属するKristen Opie氏はアドビのコンサルタントであるTheresa Andersonとともに、セッション「S811 - Turbocharged: General Motors' Drive for Experimentation Excellence」の中で、実験の文化作りと実験を行い続けるためのCenter of Excellence(中央集約)チームをどのように構築したのかについて講演されました。

GM社では新しい企業Visionとして000Vision*を掲げ、このVisionの実現のためにあらゆる組織やビジネス、マーケティングのやり方を変革していく必要があった、と述べています。そしてその変革においては実験が不可欠、というキーメッセージからセッションは始まります。

*A world with zero crashes, zero emissions and zero congestion - 事故ゼロ、排出ゼロ、混雑(渋滞ゼロ)。100年以上続く自動車会社として、自動運転や電気自動車への変革を表したVisionであり成長戦略。

Experimentation is crucial for GM’s digital transformation

Kristen Opie

Head of Test and Learn Center of Excellence, General Motors

セッション内ではCenter of Excellenceを構築するための重要な考え方として、データに基づいた仮説立てをまず行うこと、そして構築のステップとして、①基礎となるプログラム作り②スケールの計画③テスト・実験文化の醸成について、GM社の2022年からの取り組みが紹介されました。

実験を遂行するチームを立ち上げ、文化を醸成した結果、2023年の1年間で400以上の施策を実施し、成果の例としてeコマースでの注文数4.2%の上昇を紹介しています。

グラフィカル ユーザー インターフェイス, アプリケーション 自動的に生成された説明

マーケティングカテゴリごとに何をどのようにテストをしたのか?

グラフ, バブル チャート 自動的に生成された説明

GM社におけるCoEアプローチのベネフィットや制約など。

最後にKristen Opie氏は自身の学びとセッションのKey Takeawaysとして以下を述べています。

”シンプルなアイデアが大きな影響を与える。小さく始めて、反復し、適応させる。失敗することを知っておくこと。いや、失敗する。だから、ピボット(軌道修正)する準備をしておくこと。そして最後に、学んだことを行動に移し、それに応じて規模を拡大する責任を持つこと”

Kristen Opie

Head of Test and Learn Center of Excellence, General Motors

キーワード2:Collaboration & Orchestration - 共同で行うこと、連携すること

USに650万人以上の会員を抱えるロードサービス企業のCMOであるLisa Melton氏は登壇されたセッション「SK2 - Maximizing Marketing Performance and ROI」の中で、以下の発言をしています。

私たちは、人材、プロセス、テクノロジーが一体となったとき、組織としてより強くなることを証明してきた

Lisa Melton

Chief Marketing OfficerAAA Northeast

アドビのテクノロジーを活用されたことはもちろん、成果の創出には人材とプロセスが紐づいていることの重要性を説明しています。

人材に対してはスキルセットよりもマインドセット重視で採用することで大きな成功を収めた(必ずしもアドビの経験者を求めない)好奇心旺盛で、チャンスを最大限に生かそうとする人、挫折を乗り越え、そこから学ぶ人、そのような強固な土台があればスキルを(後から)トレーニングすることができる、と述べています。

プロセスについては迅速な実験とデジタル最適化に対する、データ主導のアプローチの浸透を徹底させるために以下のルール(一部の例)を設けたと述べています。

こうして強固な組織を作り、成果創出のための取り組みを続けた結果、2017年~2023年の6年間で、会員アップグレードの獲得数180%増、新規会員の獲得コスト50%削減などを達成。結果的に、会社事情でマーケティング予算が増えない中でも年次成長を達成してきました。

プロセス部分で言及されている通り、Lisa Melton氏も「実験を繰り返すこと」の重要性に触れ、このプロセスこそが自分たちのFoundation(基礎)であると述べています。

ダイアグラム 自動的に生成された説明

アップグレード率、リニューアル率など、各KPIで効果が見られた。

続いて、コカ・コーラ社のDirector, Global Adtech/Martech Platforms Technical Product OwnerであるVinay Gopinath氏は登壇されたセッション「S434 - Coca-Cola: Unlocking Data to Create Consumer-Centric Commerce Experiences」にて、パーソナライゼーションを成功させる上での第一ステップとして、チーム体制の構築について言及しています。

ビジネス部門のアイデアをテクニカル部門(IT部など)にHand Off(引き継ぐ)する従来の方法では、実現性やテクニカル部門の優先度の観点からPush Backがあり、十分な連携(alignment)ができない。これはCookie lessをはじめテクノロジーの変化や進化が進む現代において、availability/feasibility(可用性と実現可能性)の確認にはただでさえ時間を要するところ、IT部門の確認を待ち、結果Push Backされる状況では意思決定に時間がかかり過ぎるという懸念も含まれていると推察しています。

Vinay Gopinath氏はTrue Collaboration Approachとして、両部門間で核となるユースケースに基づく明確なビジネス成果に結びついたオーナーシップの共有が重要であり、ビジネス・テクニカルが連携し、可視化されたデータによる共同でのプランニング、レビュー、優先度順位付けが必要であると述べています。

グラフィカル ユーザー インターフェイス 自動的に生成された説明

核となるユースケースに基づき、ビジネス部門、テクノロジー部門双方で明確なビジネス成果に結びついたオーナーシップの共有が重要である。

その他にもパーソナライゼーションの成功に関する体系化されたアプローチが紹介され、それらを実行してきたコカ・コーラ社は世界中で何十億という消費者に対してパーソナライズされたメッセージを提供しています。

キーワード3:Work Management & Automation - 既存業務フローを見直すこと、自動化すること

今回のSummitではブレイクアウトセッション全体のうち40近いセッションが、Work Managementに関する内容を含むものでした(Adobe Workfrontのイノベーションセッション含む)

S736 - T-Mobile: A Smart Approach to Intelligent Content」セッションの中でT-Mobile のMarketing Tools, Operations, & Ops. ReportingのIlona Yeremova氏は、こう切り出しています。

“現在の私たちの仕事ぶりを評価し、5~6年前と時計の針を巻き戻すと、大きく違っていて、もっとアナログで、もっとバラバラで、サイロ化されていました。”

Ilona Yeremova

Marketing Tools, Operations, & Ops. ReportingT-Mobile

T-Mobileは正しい体験を確実に届け、顧客のニーズに本当に応えたいという一心で改革に着手しました。

一つはWorkloadを含む状況の可視化です。リーダーシップはその場で決断を下すための適切な情報を手元に持ち合わせていないという課題感から、毎月のキャンペーン計画と状況、業務のプロセスとその進捗状況、誰の稼働が現在多いのか等をダッシュボードとして可視化することに取り組みました。情報も集約された結果、何かの承認について議論するミーティングにおいて、Slackで何を言ったのか、メールで何を言ったのか、など毎度確認することがなくなったと述べています。

二つ目は自動化です。一つのエピソードとして、T-Mobileでは画像のサイズを変更するのに平均10回のミーティングが必要だったそうです。なぜなら、多くの人が意見を言うからです。これらの課題についても、業務フローと承認プロセスを同一のプラットフォーム上で管理・可視化。また、毎月行っているキャンペーンやルーティンワーク等についてはタスクのテンプレートを用意しそれを元に実行していくプロセスに変革していきました。

これらを推進した結果、ある部門では1000時間以上の業務時間削減に成功、別の部門では週当たり7時間のミーティング時間の削減に成功した、と述べています。

また、5年間のチャレンジにおける学びとして以下を述べています。

業務管理は一元的に行わなければならないことに気づきました。そして同じ言語で話し始める必要がある。

Ilona Yeremova

Marketing Tools, Operations, & Ops. ReportingT-Mobile

まとめ(これらキーワードが強調された背景への考察)

Afterコロナにおける様々な変化やNew Normalとしてのやり方のシフト、Cookie less時代の計測・マーケティング方法の変化、生成AIなど全く新しいテクノロジーのビジネス活用、GM社における電気自動車のような新しいビジネス上の取り組み、限られた予算の中で求められる工夫など、数多くの変化の渦中かつ、自分たちの型やセオリーを模索している状況において、仮説を立てて実験を繰り返し、自分たちなりの方法や答えを見つけていくことが重要になっていきています。

加えて、新しい実験や取り組みを行うためには既存のやり方ではなく、ビジネス・IT・マーケティング・デザインなどあらゆる部門との連携や融合が必要であり、それらのチームが生産性高く、効率的にコラボレーションするためには、プロセスや業務フローの見直しと整理、自動化の推進が必要になってきています。

これらの取り組みに注力し、やり続けられている企業が成果を実現しているのではないかと考えます。気を付けなければならないのは、これらを聞いて「反復を目的にしてしまうこと」ではないかと考えます。ただ何かを繰り返せばよいのではなく本質的には良い顧客体験を提供することがあくまで目的であり、その試行錯誤の形として反復と実験の必要性が増しているということを理解し、自社の取り組みに組み入れていくことが重要ではないでしょうか。

アドビによる支援

アドビでは、顧客体験管理を実現するためのアドビソリューションの持続的な活用の支援をはじめとして、企業内で「実験組織」を作り上げるためのフレームワークおよび人材トレーニングの提供。さらには、アドビのコンサルタントがお客様メンバーと一緒にテストと改善を繰り返すDevOpsチームを立ち上げ、日々実行していく部分においても支援を提供しています。

アドビソリューションに精通したアドビのコンサルタントが、顧客体験管理の実現を支援します。

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