アカウントベースドマーケティング(ABM)ガイド
B2B(企業間取引)企業にとって、価値の高いリードを顧客に変えることには困難が伴います。重要なのは、より多くのB2B意思決定者をコンバージョンするだけでなく、より高いROI(投資利益率)を生み出すパーソナライズされた顧客体験を創出することです。
ABM(アカウントベースドマーケティング)は、B2Bの営業およびマーケティング戦略であり、それらの両方の部門が協力して、自社に適していると思われる特定のターゲットアカウントに働きかける必要があります。これは、特定の価値の高い見込み客をターゲットとし、売上につなげるための強力なアプローチです。
AMBは、企業が最適なアカウントを絞り込むのに役立つため、急速に主要なマーケティング手法になりつつああります。しかし、ABMで成果を上げるには一定の時間がかかるので、ABMの長所と短所を理解しておくことが重要です。この記事では、ABMの概要とその重要性を解説し、独自のABM戦略を構築するための実行可能なステップを紹介します。
主な内容:
- アカウントベースドマーケティングとは?
- アカウントベースドマーケティングの利点
- アカウントベースドマーケティングの仕組み
- アカウントベースドマーケティング戦略の構築
- アカウントベースマーケティングとインバウンドマーケティング
- アカウントベースドマーケティングの事例
アカウントベースドマーケティングとは?
ABMとは、営業部門とマーケティング部門が特定の組織、つまりアカウントに焦点を絞って取り組むB2B戦略のことです。アカウントベースドマーケティングでは、マーケターと営業担当者が戦略を共有し、同じ目標の下でひとつの収益チームとして協力し、アカウントごとに顧客体験を構築します。この統合チームは、いくつかの重要なアカウントを選択し、協力することで、より多くのビジネスを獲得します。
従来のマーケティングでは、コンテンツマーケティングやリードベースのマーケティングなど、広く網を張って顧客の反応を待つインバウンド戦略を重視していました。ABMでは、アカウントに属する特定の個人をターゲットに、営業チームと歩調を合わせてマーケティングに取り組みます。
ABMでは、大規模なグループをターゲットとするのではなく、企業が働きかけたいと考えている特定の企業の見込客に向けたコンテンツ制作に重点を置きます。ABM戦略では、複数の意思決定者をターゲットにすることができるため、大企業が顧客の場合に特に効果的です。
アカウントベースドマーケティングの利点
ABMは、あらゆるビジネスに適しているわけではありませんが、企業アカウントをターゲットとするB2B企業には非常に効果的です。ABMが企業にもたらす大きな利点のいくつかを見てみましょう。
マーケティング部門と営業部門の連携
営業部門とマーケティング部門は従来から別々の部門として分かれています。しかし、両部門の役割は複雑に絡み合っているため、営業部門とマーケティング部門を分けることは意味をなしません。これらの部門が分断していることで、コミュニケーションミスや対立が生じ、施策のパフォーマンスが低下してしまいます。
ABMが非常に効果的なのは、営業部門とマーケティング部門を統合するために必要な構造を提供するからです。営業部門とマーケティング部門を統合するのに苦慮しているのであれば、ABMを取り入れることで、両部門の分断を自然に取り払い、ワークフローを簡素化することができます。
一貫性のある顧客体験の構築
PwCの調査では、消費者の48%が、一貫性のある信頼できる体験がロイヤルティの鍵であると回答しています。B2Bの見込客も含め、あらゆるバイヤーが一貫性を求める時代においては、さまざまなマーケティングモデルを取り入れることが重要です。
ABM戦略は、営業部門とマーケティング部門の取り組みを連携させ、どこでリードとやり取りしても、一貫性のある体験を提供することができます。また、 ABMに特化したマーケティングプラットフォームは、企業のあらゆるチャネルで一貫した質の高い体験を提供することを容易にします。その結果、顧客からの信頼が高まり、コンバージョン率が向上し、アカウントの損失が低下します。
ROIの向上
マーケティング施策を成功させるには時間とリソースが必要ですが、それでもマーケティング戦略に投入した分の見返りが期待できるはずです。投資収益率、つまりROIは、マーケティング戦略が効果的かどうかを判断するための重要な要素です。
B2Bマーケターの大多数は、ABM施策には予算に見合う大きな価値があると考えています。実際、マーケターの76%は、ABM戦略は、ほかのどのマーケティング戦略よりも大きなROIを生み出すと回答しています。また、このマーケティング手法に価値を見出す企業も増えており、大企業や中堅企業のB2Bマーケターの70%がABM戦略の立ち上げを計画しています。
販売サイクルの合理化
B2Cの販売サイクルは数時間から数日で完了しますが、B2Bでは数週間、数カ月、ときには数年かかることもあります。その間、リードとの関係を育むために、多くの時間とリソースを費やすことになります。
ABMでは、価値の高い売上につながる可能性が最も高いアカウントに注力することができます。力を分散させるのではなく、行動を起こす準備ができているアカウントに注力します。こうした手法を適用しても、B2Bの販売サイクルは数週間から数カ月かかることもあります。しかし、ABMのワークフローは最初の接触から成約までの時間を確実に短縮します。
コンテンツの関連性と顧客の信頼の向上
理想的なシナリオでは、リードは、固有のニーズとセールスファネルの位置に合わせたコンテンツを受け取ります。従来のマーケティング手法では、このようなことは困難でしたが、ABMでは、リードに関連性の高いコンテンツを提供することがはるかに容易になります。
たとえば、検索エンジン最適化(SEO)の代理店であれば、オートメーションを利用して、パーソナライズされたSEOレポートをターゲット企業に送付することができます。B2Bのリードは、ニーズに合った的確なコンテンツを求めており、その期待に応えれば、信頼が育まれ、最終的には販売につながる可能性が高まります。
アカウントベースドマーケティングの仕組み
ABMの利点について把握したところで、ABM戦略の仕組みを探ってみましょう。B2B戦略はどれも独自性がありますが、ABM戦略には次のような共通点があります。
- コラボレーション: ABMは、単なるマーケティングの取り組みではありません。営業部門とマーケティング部門のコラボレーションが必要とされます。
- カスタマージャーニーマップの構築: B2B企業は、特殊なタイプの顧客をターゲットにすることがよくあります。こうした顧客のニーズを詳細に把握するには、アカウントが顧客になるまでのステップ、つまりカスタマージャーニーを視覚的に表現する必要があります。このプロセスでは、顧客の立場に立って、顧客の悩みを特定し、つまずきやすい箇所を減らします。
- リードのクオリフィケーション: 強力なリードクオリフィケーションの実践は、高度に注力したABM施策を実施するための鍵です。ABM戦略を実施しているチームは、ターゲットアカウントを非常に重視します。適切なABMソフトウェアであれば、ナーチャリングの準備が整っている(整っていない)アカウントのクオリフィケーションをおこなうことができます。
- 適切なABMプラットフォーム: ABMは、適切なテクノロジーなしには実現できません。ABMプラットフォームは、意欲的な計画を実行するための、スマートオートメーション、AIを活用したセグメンテーションツール、顧客関係管理(CRM)プラットフォームなどを提供します。
たとえば、経営幹部にコーチングサービスを提供するビジネスを運営している会社があるとします。この会社の営業部門とマーケティング部門は協力して、目標と指標を定め、ある企業の経営幹部を自社ビジネスに引きつけるための戦略を構築します。両部門は協力して、口コミによる紹介、webサイトへの訪問、ウェビナーへの参加など、ターゲット企業の経営幹部が顧客になるまでの道のりをマッピングします。
こうした接触手段をCRMに追加し、ABMソフトウェアに顧客接点を記録しながら、顧客関係を育成し始めます。ABMシステムは、営業電話やマーケティング資料提供などの顧客接点で、適切なメンバーに自動的にアラートを発し、ターゲット企業がこの会社のコーチングサービスを選択するまで、リードのクオリフィケーションを支援します。
アカウントベースドマーケティング戦略の構築
アカウントベースドマーケティングの基本を理解したところで、ABM施策を構築するための5つのステップについて解説します。
1.ターゲットアカウントの特定
従来のマーケティングでは、興味を抱いているリードに対応する必要がありましたが、ABMでは逆のアプローチをとります。まず、取り引きをおこないたい企業を特定し、そのターゲットアカウントに合わせたマーケティング施策で興味を引きます。
ターゲットアカウントの追跡には多くの時間とエネルギーを費やすことになるので、価値の高い可能性のあるターゲットを選択します。企業によって価値レベルはさまざまで、数百ドルの場合もあれば、数百万ドルの場合もあります。
また、次のような方法でターゲットアカウントを特定することもできます。
- 過去や現在のアカウントに類似したアカウントを調べる
- 規模、年間売上高、所在地などにもとづいてターゲットを選ぶ
- ソーシャルメディアのフォロワーやブログの読者など、すでに関わりのある人脈を詳しく調べる
- 競合他社の取引先を調べ、類似企業を探す
- 業界のニュース記事やプレスリリースを読み、成長企業や企業合併、あるいは自社サービスから恩恵を受けそうな企業について調べる
- 業界のイベントやコンファレンスで人脈を築く
多くのABM戦略では、チームの各メンバーに決まった数のアカウントを割り当てます。あるいは、チーム全員で取り組むターゲットアカウントを10個選定することもできます。
2.ターゲットアカウント内で見込客のランク付け
ターゲットアカウントリストは出発点にはなりますが、漠然と企業にコンタクトすることはできません。リストの企業の従業員や意思決定者の連絡先を特定し、人間関係を育む必要があります。
ABMを成功させるには、高度に洗練されたリードベースのターゲティングが必要です。結局のところ、ABMでも、個人がターゲットであることに変わりはなく、アカウントの文脈の中で個人をターゲットにしています。
見込客の個人連絡先に関する既存のデータがある場合は、CRMを参照して、その個人に意思決定権があるかどうかを確認します。その個人がすでに組織から離れている場合や、意思決定権がない場合は、LinkedInなどでより適切な人脈を探しましょう。
連絡先が見つかったら、CRMに追加します。同じアカウントに何十人もの連絡先をインポートする場合は、アカウント内での見込客のランク付けをチームでおこないます。このプロセスにより、ビジネスの意思決定者に焦点を絞ることができます。
3.マーケティング部門と営業部門の連携
マーケティング部門と営業部門は協力して、最高ランクの連絡先を育成するためのワークフローを構築すべきです。両部門は、以下の点で連携する必要があります。
- ターゲットアカウントと理想的な顧客プロファイル(ICP)
- カスタマージャーニーの各段階でのメッセージの共有
- 追跡する重要業績評価指標(KPI)
- ABM戦略をサポートするテクノロジーの利用方法
- リードクオリフィケーションのための最も重要な行動(スコアリングシステムにより、リードへのアウトリーチの準備状態を定量化する場合もある)
- 各ナーチャリングアクションの担当者。「マーケティング」や「営業」にタスクを割り当てるのではなく、各チームの個人に割り当てるべきである説明責任を明確にすることで、見込客の取りこぼしをなくすことができる。
アカウントベースドマーケティングでは、営業部門とマーケティング部門が定期的にミーティングを持つ必要があります。両部門で毎週ミーティングをおこない、全員の認識の統一をおこないます。
4.パーソナライズされたコンテンツの制作
ABMとは、ターゲットとする組織の特定の見込客をターゲットにすることです。このアプローチでは、ターゲット組織の各見込客の独自のニーズに合わせて、詳細にパーソナライズされたコンテンツを容易に制作できるのが強みです。
たとえば、オフィス用品ビジネスの経営幹部をターゲットにしている場合、自社の類似ビジネスでの成功例を説明するガイドを制作し、経営幹部に直接メールで送ることができます。
B2Bの見込客は、毎日多数のマーケティングコンテンツを受け取っているので、自社に関与してもらうためにはパーソナライゼーションが必須です。ABMをパーソナライズするには、次のような方法があります。
- 特定の役割や企業をターゲットにした広告を制作
- LinkedInで「お知らせ」を受けた際に、連絡先にリーチ
- webやメール施策で動的なコンテンツを利用
- 企業名や人物名に言及(適切な場合)
- ターゲット企業の担当者に一対一のメールを送付
- 業界のイベントで見込客に直接接触
5.成果の測定
B2Bの営業サイクルは非常に長いため、ABM戦略が機能しているかどうかを確認するには時間がかかることがあります。しかし、適切なデータ分析ツールがあれば、無関係なリードに多くの時間を費やす前に、軌道修正することができます。
ABMはデータで成功します。ABMプラットフォームを調べて、次のような重要指標を追跡しましょう。
- パイプラインへの影響
- エンゲージメント率
- 開封率
- クリックスルー率
- コンバージョン数
- クロスセルとアップセル
- 年間契約高
- 顧客生涯価値
- 成約率
ABMでは、リードの数よりもリードとのエンゲージメントの質に重点を置きます。セールスサイクルは長くなる傾向にありますが、取引規模は大きくなります。ABM戦略の成果が上がっていれば、理論的には平均成約額が増加します。
アカウントベースマーケティングとインバウンドマーケティング
アカウントベースドマーケティングは独立したマーケティング戦略ですが、ほかのマーケティング戦略の要素を借用しています。たとえば、ABMはインバウンドマーケティングと関連しており、このふたつの戦略の相性は優れています。
インバウンドマーケティングでは、価値があり、有益な、あるいは教育的なコンテンツを制作し、通常、リードは、オーガニック検索、ソーシャルメディア、有料検索などを介してコンテンツを見つけます。インバウンドマーケティングは、新しいリードをビジネスに導くのに最適ですが、ABMのターゲットアカウントの関心を引き付けることもできます。
これこそ、インバウンドマーケティングがABM戦略の成功を促すもととなるものです。インバウンドマーケティングでは、見込客がいる場所で、見たいコンテンツを見たいときに見せることができます。
インバウンド戦略とABM戦略を融合させることで、より多くのターゲットオーディエンスにアプローチすることができます。自社にとって理にかなっている限り、このふたつの戦略は並行して実施すべきものです。企業によっては、ABMが80%を占め、リードベースのマーケティングが20%であったります。この割合が逆であったり、半々の企業もあります。この割合は完全に企業次第であり、リソースや成熟度、目標、販売する製品やサービスによって大きく変動します。
アカウントベースドマーケティングの事例
ABMの実施方法は、企業によって異なります。自社ビジネスで強力なABM戦略を構築するには、他社がABMをどのように取り入れているかを調べてみるのが良い方法です。
DocuSignはABMの優れた事例のひとつです。同社は、ターゲットに定めた6つの業界に合わせて独自のwebサイトを制作しました。そして、ディスプレイ広告を通じてターゲットとなる連絡先をこれらのwebサイトに誘導しました。同社は、誰がこれらの特化したwebサイトを訪問するか正確に把握していたため、各サイトに高度にパーソナライズされたコンテンツを掲載し、コンバージョンを大幅に増加させました。
コンテクスチュアルインテリジェンス企業のGumGumは、T-Mobileのアカウントをターゲットにしていました。そこで、T-MobileのCEOを主人公にしたスーパーヒーローのコミックを制作しました。このコミックはバイラルマーケティングで広がり、T-Mobileのアカウント獲得に成功しました。
ABMは、デジタル領域だけでおこなう必要はありません。製品デザイン企業のIntrideaは、Ogilvyのニューヨーク本社前のビルボードを首尾よく購入し、注目を集めました。
効果的なアカウントベースドマーケティング戦略の立案
ABMを自社ビジネスに取り入れる方法は多数あります。ABM戦略は、価値の高い見込客を顧客に変えるために、営業部門とマーケティング部門を連携させ、リソースをより効率的に活用する優れた方法です。
独自のABM戦略の立案を開始するには、見込客とリードを見直し、パーソナライズされた体験から利益を受ける価値の高い潜在顧客を特定することから始めましょう。これらの見込客をABMソフトウェア内でランク付けし、営業部門とマーケティング部門の間で共有ワークフローを構築し、パーソナライズされたコンテンツを制作し、成果を測定します。
ABM戦略を立案することと、その戦略を実行することはまったく別のことです。特に営業部門とマーケティング部門の規模が大きい場合は課題も積み重なります。そのため、Adobe Marketo EngageのようなABMに適したソフトウェアを利用して、施策を支えることが重要です。
Adobe Marketo Engageは、あらゆる規模の施策を管理できる強力なマーケティングオートメーションおよびCRMツールです。また、チャネルをまたいだ顧客体験のパーソナライゼーションとオートメーション、AI(人工知能)を活用したオーディエンスのセグメンテーションなどにより、営業部門とマーケティング部門の連携を支援します。
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