CRM(顧客管理)とマーケティングオートメーション(MA)の関係性と違い、導入のメリットとは?
近年、企業および個人の購買プロセスにおける意思決定の基準が変わってきています。これまで以上に、「良い顧客体験」が重要視されるようになり、顧客体験の向上について多く語られるようになりました。特に、ここ10年ほどで、「良い顧客体験」を提供するための考え方「CRM(顧客管理)」を支援するITサービスが数多く登場して一般化してきましたが、その中で、「より一貫性のある顧客体験」を提供することを目的として、マーケティングオートメーション=MAが話題に上がることも増えてきました。本記事ではCRMシステムの導入をご検討中の方、CRMシステムを導入したものの、目に見える効果までは感じられていない、という方向けに、CRMシステムとマーケティングオートメーション(MA)の関係性と、それぞれのシステムを導入した際に見込まれる効果についてご紹介いたします。
目次
- CRM(顧客管理)が重要とされている理由
- マーケティングにおけるCRMの役割・重要性
- CRMシステムとは?
- SFAとは?
- マーケティングオートメーション(MA)とは?
- 営業フェーズで考えるCRMシステムとマーケティングオートメーション(MA)の役割の違い
- CRMシステムとマーケティングオートメーション(MA)の導入の目的は?
- CRMシステム(SFA)導入済みの企業がマーケティングオートメーション(MA)導入によって得られるメリット
- マーケティングオートメーション(MA)活用事例
- CRMとマーケティングオートメーション(MA)の関係性についてのまとめ
CRM(顧客管理)が重要とされている理由
CRMという言葉が使われるようになったのは1990年代からですが、その根幹となる顧客管理の必要性は1950年代などさらに昔に遡ります。旧来から、顧客満足度の向上による顧客との長期的な関係構築の実現や営業活動の再現性を高めるために、顧客データの収集や顧客行動にあわせた活動の重要性は理解されていましたが、それを実現するためのフレームワークは用意されていませんでした。1980年代に入ると、ビジネスの世界においてコンピュータの利用が始まり、デジタルなデータベースを構築し、蓄積されたデータの分析に基づいたマーケティングキャンペーンが実施されるようになりました。その後、コンピュータやソフトウェアの進化により、顧客の属性情報に加えて応対履歴や購買履歴などのより細かなデータを蓄積し、複合的にデータを活用することが可能になり、1990年代中盤にCRMという言葉が提唱され、営業マーケティング活動に利用されるようになりました。そして、1990年代後半に数多くのベンダーからCRMを実施するためのシステムが提供されるようになりました。
CRMの目的は以下のようなものが挙げられます。
- 顧客が求める製品やサービスを提供する
- 営業組織がより効率的に売れるようにする
- 顧客のリテンション(継続的な購買や利用)を促し長期的な関係を築く
- 顧客のことをより深く理解する
- 組織の生産性を向上させる
国内でも1990年代後半から2000年代にかけてCRMの理解やシステムの導入が進んできましたが、顧客管理が近年さらに必要とされるようになってきた要因として、インターネットの発達が挙げられます。かつては営業担当者から提案を受けたり、店舗に来店したりすることで新しいサービスや商品を知り、情報を集めることが中心でした。現在は顧客自らがインターネットで簡単に情報収集できるようになったため、顧客の購買行動の実に90%は消費者自らによる情報収集で完結していると言われるようになりました。その結果として、顧客の購買プロセスは長期化し複雑化する傾向にあります。顧客が情報収集を主体的に行うようになったことで、顧客は商品やサービスを購入する際により自分のことを理解し、良い顧客体験を提供してくれる企業を選ぶようになった、というデータも出てきました。
このような背景から、顧客体験を設計した上で営業マーケティング活動を行い、顧客満足度を高めることが長期的な利益の貢献に結びつくことが明らかになってきたため、企業側も顧客の情報を管理し、良好な関係を築いていくことが求められています。そういった関係構築に役立つソリューションとしてよく耳にするものとして、CRMシステム、SFA、MAが挙げられます。
顧客の期待値の変化
参考記事: The History of CRM (Infographic)
http://customerthink.com/the-history-of-crm-infographic/
マーケティングにおけるCRMの役割・重要性
CRMに取り組むことは、1人1人の顧客に関するデータを1つのプラットフォームに集約し管理することでもありますが、CRMに未着手の企業では以下のようなことが起きているのではないでしょうか。
- 営業が交換した名刺情報を営業個々人で管理している
- 展示会で獲得したリストやウェブサイトからの問い合わせなどの顧客情報がExcel等でバラバラに管理されている
- 購買情報、商談情報、顧客情報が別々に管理されている
このような状況では「良い顧客体験」の設計に必要な情報の集約・蓄積が不十分です。施策に必要なデータの在り処が分からず、集めるのに時間が掛かったり(結局見つからないことも多々)、営業個々人の能力や記憶力頼みの活動になったり、反響数をKPIとする単発の施策やキャンペーンを繰り返してしまったりすることになるでしょう。顧客情報を集約・蓄積することで、1人ひとりの企業・顧客の購買までの流れを追っていくことが出来ます。誰に、どんなタイミングで、どのような情報を提供したことが顧客の購買行動に繋がったのかという知見を得ることができ、そこから「何が上手くいったのか、何が上手くいかなかったのか」という考察も得やすくなります。その考察をもとに営業マーケティング活動を見直すことができれば、成功の再現性を高めることができるでしょう。
「新規顧客獲得には既存顧客から収益を上げる(リピートしてもらう)5倍の費用がかかる」という法則が巷にあるくらい、新規獲得にはコストがかかります。顧客管理から過去の成功・失敗をを読み解き、成功の再現性を高めることで、収益効率を高めることにも繋げることができるでしょう。
CRMシステムとは?
顧客管理(CRM)システムは、自社の従業員やサービスと顧客との接点を記録するためのシステムであり、顧客の基本情報に紐づいて様々な情報を記録し活用するために使われます。CRMシステムで管理する項目は例えば以下のようなものが考えられます。
- 顧客の属性情報(名前、住所、電話番号、メールアドレス等)
- 顧客との接点(購買情報、会員登録情報)
- 企業担当者が収集した情報(訪問履歴、サポート対応履歴等)
CRMシステム導入のゴールは、顧客情報に基づいた対応や施策の実施による顧客満足度の向上、それによるLTVの向上です。これは、企業視点での営業・マーケティング・カスタマーサポート活動から、顧客視点によるアプローチへの変革を意味します。例えば、これまで多くの企業では自社の決算にあわせてキャンペーンやセールが実施されることも多かったのではないかと思いますが、CRMに基づいた施策においては、顧客の予算取りのタイミングや競合製品のリース切れのタイミングでのキャンペーンの実施、BtoC商材では買い替えタイミングでのクーポン発行や、オレンジ色の服をよく購入している人にはオレンジ色の新商品を案内する、といったような施策に置き換わってくるのです。
SFAとは?
営業管理システム(SFA)は、上記のCRMシステムの中でも営業活動に視点を置いて開発されたシステムを区別するために使われることが多く、これまで営業担当者が属人的に抱えがちであった情報を記録し、可視化することで、企業全体で売上までのプロセスを把握できるようにするものです。基本的な機能としては、以下のものが含まれます。
- 顧客情報管理(企業名、部門名、役職等)
- 営業活動管理(活動記録、ToDo、スケジュール、ファイル共有)
- データ管理(レポート機能、ダッシュボード機能による売上・商談・活動の可視化)
マーケティングオートメーション(MA)とは?
マーケティングオートメーション(MA)は、CRMの中でもマーケティング活動に視点を置いているソリューションです。一般的に、マーケティングの段階では営業が担当するよりも多くの見込顧客(リードと呼びます)を抱えているため、通常であればアプローチしきれないリードに対しても1人1人にあわせたシナリオを設計して自動化することで、見込顧客の興味にあわせた情報を届けることが可能になります。その結果、自社商材への興味度合いを高めたり、検討を進めたりすることが出来ます。また、これまで収集することが難しかった顧客の行動、例えば自社ウェブサイトへのアクセスやメールへの反応を計測し分析できるため、CRMの取組を進める上で注目を集めています。基本的な機能としては以下のものが含まれます。
- 見込顧客の獲得(リードジェネレーション)
- 見込顧客の育成(リードナーチャリング)
- マーケティング施策、収益貢献分析
マーケティングオートメーションの概要や機能については別の記事にてより詳細にご紹介しておりますので、こちらもご覧ください。
営業フェーズで考えるCRMシステムとマーケティングオートメーション(MA)の役割の違い
多くのBtoBビジネスにおけるカスタマージャーニー(購買までの流れ)を大まかに考えると、広告・ウェブサイト・展示会/セミナーといった集客段階、営業接触前の情報提供段階、営業が接触し商談を行う提案段階、そして契約後の導入・アフターサポート段階、といったものに分類できます。
営業が接触し、イニシアティブをとって提案活動を行っている段階では、活動を記録し商談状況を把握するCRMシステム(SFA)が多く活用されます。一方で、その前の集客段階や、顧客による情報収集段階においては、行動を把握し、施策を実施するためにマーケティングオートメーション(MA)が活用されます。また、契約後、クロスセルやアップセルの可能性を模索したり、営業の手が離れた段階においても、顧客の解約予兆を察知したり、活用支援の情報提供の部分に至るまで、マーケティングオートメーション(MA)が活用されるようになってきています。
SFAとMAの役割の変化
CRMシステムとマーケティングオートメーション(MA)の導入の目的は?
CRMシステム(SFA)導入によるメリット
営業活動におけるベストプラクティスを共有し、再現性のある施策を実施する
皆様の社内にもトップセールスとして圧倒的な成果を上げられている方がいらっしゃるのではないでしょうか。トップセールスが行っている案件の進め方やお客様への情報提供のしかたを再現できれば、営業部門の底上げにつながることは想像に難しくないでしょう。BtoBビジネスであれば、関係者をどのタイミングで巻き込むか、どのタイミングで製品デモを実施するか、価格交渉をどのように行うか、といったことを体系立てて整理し、お客様の検討段階が、どれくらいのフェーズにあるかを見極めてその時々に必要とされるアクションを取ることが重要になります。
営業のパイプラインを把握できる
多くのCRMシステム(SFA)にはレポート機能やダッシュボード機能があり、これらを活用していくことで各営業や部門毎の案件の進行状況を把握し、売上予算達成に向けたプランを逐次確認しながら営業活動を行えるようになります。
営業活動・商談・売上情報を一元管理し、案件化率や受注率の向上
各営業が担当顧客への活動状況を可視化できるため、アプローチ漏れを防ぐことが出来ます。また、過去に訪問した際の会話や提案の内容を記録しておくことで、特に検討が長期に及ぶ商材の場合には顧客とのミスコミュニケーションを防ぎ、効率的な営業活動が可能になります。 特に、営業担当が変わり引継ぎが必要になった場合や、契約後に担当部門が切り替わる場合などは効果を発揮するのではないでしょうか。
CRMシステム(SFA)導入済みの企業がマーケティングオートメーション(MA)導入によって得られるメリット
CRMシステムを利用することで、顧客データを集め一元管理していくことができますが、次のステップとして蓄積したデータに基づいた施策を実施していくことが求められます。とはいえ、社内状況を思い浮かべると、営業担当者が直接対応できる顧客には限りがあるため、せっかく蓄積したデータを活用し案件創出に役立てようにも、フル活用しきれないといった懸念があるのではないでしょうか。マーケティングオートメーションでは、本来人力で行っていた施策や処理を自動化することができ、さらにこれまでのツールでは難しかった、顧客の動きにあわせたマーケティング施策を自動で実行できるようになります。
営業・マーケティングの現場での具体的なメリットについていくつかの観点でご紹介します。
「今すぐではない」方へのリードナーチャリングによる営業アプローチの最大化
マルケト調べでは、新規に獲得した見込顧客(リード)のうち、1割程度が検討段階であり、ご討中の見込顧客に対してはこれまで通り営業担当者がアプローチをすれば良いですが、残りの65%の見込顧客に対しても、マーケティングオートメーション(MA)を活用し、興味を持つ情報を提供し続けることで継続的に関係性を構築し、検討を進める支援をすることが可能になります。また、見込顧客が興味を持ってメールを開封したり、ウェブサイトに訪問したことも可視化されているため、見込顧客にとって最適なタイミングで営業担当者がアプローチできるようになります。
リードは3種類に分類され、将来購買の検討はあるが今すぐではない65%の見込顧客への継続的アプローチが必要
失注・検討中止案件の掘り起こし
過去に商談があったが他社に決まってしまったり、いくつかの要因で検討が中止になってしまった顧客は、何かのきっかけで再度検討が行われたり、その後の成約率も高くなる傾向にあります。マーケティングオートメーションにより、営業がCRMへ入力した情報に基づいたフォローアップ施策を実施することで、適切なタイミングでのフォローの抜け漏れをなくしたり、再検討の兆しを察知し、営業担当者への通知を行うことで、営業生産性の向上、さらには売上への貢献が可能になります。
営業とマーケティングによる統一したメッセージの発信
CRMシステムとマーケティングオートメーションを連携して活用することで、CRMシステムで管理している営業フェーズにあわせたメッセージを送ることが可能になります。例えば、リードとして獲得はできているものの営業がまだアプローチしていない段階や、営業訪問済みで企業理解がある段階、御社の商材の検討が始まっている段階では、必要としている情報が異なっているのではないでしょうか。また、役職によっても異なる情報を発信することができます。製造業を例にとると、開発担当者、企画担当者、調達担当者では興味内容も自社商材への認知レベルも異なるので、それぞれにあわせた情報をマーケティング部門が補完して発信することで、自社商材を導入するメリットや利益について興味を持ち、理解を得ることにつながるのではないでしょうか。
既存顧客のオンボーディング・解約防止
マーケティングオートメーション(MA)は、CRMにおけるポストセールスの範囲まで活用が進んでいます。導入後の定着を図るために用意したTipsなどのコンテンツをメールで定期的に配信したり、Q&AやHow Toページを見ている方に対して付随する情報へ誘導したりすることが顧客満足度の向上につながることもありますし、ひいては問い合わせを減らしてCS部門の負担を軽減することも可能になります。ECをご展開の企業であれば、顧客のRFM(Recency=直近の購入時期、Frequency=購入頻度、Monetary=累積購入金額)情報をベースにしたブランドエデュケーション施策を実施することも可能でしょう。
また、もう1つ重要なポイントとして、顧客の解約兆候を察知することが挙げられます。解約ページの閲覧や、Q&Aページの継続的な閲覧、といった解約に結びつく動きがあれば、パーソナライズされた特別なキャンペーンを案内したり、CS部門から個別の連絡をすることで不満や問題を解消することが出来ます。さらに、ウェブサービスであれば、長期間ログインをしていない、特定の機能しか使っていない、等の情報を基にアクションを起こすことも可能になります。
マーケティングオートメーション導入のメリットや機能についての詳細は、「マーケティングオートメーション入門ガイド」にてご紹介しております。こちらも併せてご覧ください。
https://main--bacom-blog--adobecom.hlx.page/jp/blog/fragments/offer-marketo-dg2ma
マーケティングオートメーション(MA)活用事例
HENNGE株式会社
企業向けセキュリティサービスを行うHENNGE株式会社では、失注し、営業担当者が追わなくなった案件をフォローするためにマーケティングオートメーション(MA)を活用しています。マーケティングオートメーションによって得られた顧客のウェブサイトの訪問履歴と、営業担当者がCRMシステムに記録した情報を基に、営業活動に役立つアラートメールを営業担当者に送ることで、案件化数が2.5倍に増加しました。
日商エレクトロニクス株式会社
世界の最先端のIT商材を取り扱う日商エレクトロニクス株式会社は、マーケティングオートメーション(MA)を活用し、30億円もの商談機会創出を実現しました。売上目標から逆算した創出商談数、獲得リード数などのKPIをコミットし、顧客の購買サイクルをベースとして、メール・オウンドメディア・イベント等顧客とのあらゆる接点を活用し、CRMシステムとマーケティングオートメーションを連携させた精度の高い施策を実施しています。
ライフネット生命保険株式会社
インターネットを活用したダイレクト型保険を販売するライフネット生命保険株式会社では、人力での顧客フォローに加え、マーケティングオートメーションを活用したWeb・電話・パンフレット・メールの4つのチャネルを統合した施策を実施することで加入検討者へのアプローチ率が75%向上し、施策数も1.5倍に増加しました。
CRMとマーケティングオートメーション(MA)の関係性についてのまとめ
顧客との良好な関係構築(エンゲージメント)が求められる今日において、企業が収益を上げていくためのテクノロジーとして、CRMシステムや営業支援システム(SFA)、マーケティングオートメーション(MA)は大きな効果を発揮するソリューションです。既にCRMシステムを利用している、これからCRMシステムを利用しようと考えている企業においても、マーケティングオートメーション(MA)を活用することが売上向上に役立つのではないでしょうか。
マルケトでは、CRMとマーケティングオートメーション(MA)を効果的に活用した営業とマーケティングの効率的な組織作りについてご紹介したWebセミナーをご用意しております。是非一度ご覧ください。
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