MQL(Marketing Qualified Lead)とは?SQLとの関係や創出の流れ、よくある課題を解説

営業プロセスにおいて、マーケティング活動を通じた見込み顧客の創出、育成の概念が普及してきました。
また、インサイドセールス(内勤営業)部門を設置し、フィールドセールス(外勤営業)の訪問前に適切なアプローチを行うような、営業の分業制を敷く企業が増えてきています。
アドビでも、インサイドセールス部門(SDR:Sales Development Representative)を設置し、マーケティングやフィールドセールスとの分業によるビジネス拡大に努めてきました。
この記事では、マーケティング部門からインサイドセールス部門へ引き継がれる「MQL(Marketing Qualified Lead)」について、アドビで蓄積してきたノウハウやオペレーションをもとに解説します。
なお、アドビ社内のオペレーションは年々進化しており、本記事で解説するのは以前まで採用していたものである点にご留意ください。
目次
MQLとは?

MQLとは「Marketing Qualified Lead」を略した言葉で、日本語で「マーケティング活動によって創出された質の高いリード(見込み顧客)」を意味します。
「質が高い」というのは、購入意欲が高い(=案件化確度が高い)ということです。購入意欲が高い見込み顧客は、購入意欲が低い「コールドリード」に対して「ホットリード」と呼ばれることもあります。
見込み顧客の質の高低は、一般的にはリードスコアリングによって判断しますが、その定義は企業によって多様です。
マーケティング部門はMQLの創出のために様々な活動に取り組み、創出されたMQLは営業部門へと引き継がれます。MQLは、マーケティング部門から営業部門への「この見込み顧客には優先度を上げてアプローチしてほしい」というメッセージともいえるでしょう。
MQLとSQLの関係性
マーケティング部門から営業部門に引き継がれるMQLと混同しやすい用語に、「SQL」があります。
ここでは、MQLとSQLの関係性を解説します。
SQLとは?
SQLは「Sales Qualified Lead」の略で、日本語で「営業活動を通じて成約の可能性が高いと判断された見込み顧客」を意味します。
MQLに加えて、営業部門が独自に開拓した見込み顧客「SGL(Sales Generated Lead)」のなかから、特に購入意欲が高いと判断された見込み顧客がSQLとなります。つまり、SQLはMQLの次のステージです。
インサイドセールスやフィールドセールスが見込み顧客と直接接触してみて、以下のような条件に当てはまれば、その見込み顧客はSQLといえるでしょう。
- 自社の製品やサービスに適合する課題を抱えている
- 製品やサービスの予算や導入予定時期が明確である
BtoBマーケティングにおける営業とマーケティングのプロセス


これらはアドビ社内で定義した、BtoBビジネスにおける認知獲得から受注に至るまでの流れの図と、各ステージの見込み顧客の状況を説明した表です。
アドビのサイトへ訪問した匿名段階から、商談、受注へと進むにつれて、見込み顧客の購入意欲が高まると仮定します。そして、自社と見込み顧客の関係の深さをステージとして細分化し、顧客の状態を管理します。
図や表を見ると、MQLは「Target」の次のステージ、SQLはMQLと「Opportunity」の間のステージとして位置付けられていることがわかるでしょう。
MQLやSQLを含めてステージを細く分けることで、見込み顧客の現在の関心度合いを正確に把握できるようになります。
これにより、各ステージの見込み顧客に寄り添った情報提供や提案ができるうえ、ホットリードがどのくらい存在するのかがわかり、長期での売上予測の立案も容易になるのです。
MQLを創出するメリット
ここでは、MQLを創出する3つのメリットを紹介します。
営業活動の効率化
MQLは、既に一定レベルまで購入意欲が高まっている見込み顧客です。製品やサービスにそれほど興味がない見込み顧客と比べると、成約に至る可能性が高いでしょう。
営業部門は、案件化確度が低い顧客をフォローする手間を省き、MQLへのフォローに注力できるので、営業活動の効率化が可能です。
MQLが抱えるニーズや課題、予算などをヒアリングし、よりよい提案をすることで、売上につなげられます。
受注機会の損失回避
購入意欲が高い見込み顧客へのフォローが漏れてしまうと、競合他社にビジネスの機会を奪われてしまいます。
見込み顧客が自社の製品やサービスを認知し、関心を示している段階から、マーケティング部門が順序立ててMQLを創出するプロセスを踏むことで、機会損失を予防できるでしょう。
顧客のLTV向上
MQLを創出するためには、中長期的なアプローチが必要となります。その過程で、見込み顧客との関係性が深まるはずです。
顧客との関係性の強化により、成約に至ったあとはリピーター化するなど、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の向上が期待できます。
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MQLを創出する3つの手順

MQLはマーケティング活動によって創出されるとお伝えしましたが、具体的にどのような活動をするのでしょうか。ここでは、MQLを創出する手順を詳しく見てみます。
1.見込み顧客の獲得:リードジェネレーション
まずは、マーケティング活動を通じて、自社の製品やサービスに興味がある見込み顧客を獲得します。これが「リードジェネレーション」です。
具体的には、web広告やSNS、展示会、セミナーなどにより、見込み顧客に関するリストを作成します。
2.見込み顧客の育成:リードナーチャリング
続いて、獲得した見込み顧客に対し、段階的かつ継続的なアプローチをして購入意欲を高めます。これが「リードナーチャリング」です。
具体的な手法として、メールやwebコンテンツの配信、イベントの開催、架電などが挙げられます。
アドビでは、リードナーチャリングの過程でMA(マーケティングオートメーション)ツールの「Adobe Marketo Engage」を使用し、見込み顧客のスコアリングを実施します。
リードスコアリングは、見込み顧客の以下のような行動によって、徐々に加点されていくのが特徴です。
- メールの開封
- 自社サイトへの訪問
- ホワイトペーパーのダウンロード
- 展示会やセミナーへの参加
一方で、見込み顧客に一定期間動きがない場合には、減点あるいは0点にリセットします。
なお、MAツールを活用したリードナーチャリングとリードスコアリングについては、以下のガイドで詳しく説明しているので、ぜひ参考にしてください。
https://main--bacom-blog--adobecom.hlx.page/jp/blog/fragments/offer-003372-dg-lead-nurturing
https://main--bacom-blog--adobecom.hlx.page/jp/blog/fragments/offer-ma-dg2ls
3.見込み顧客の絞り込み:リードクオリフィケーション
最後に、育成した見込み顧客のなかから、特に成約につながりそうな顧客を絞り込みます。これが「リードクオリフィケーション」です。
見込み顧客を絞り込む際には、アドビでは大きく分けて2つの方法を採用しています。
- 前項のリードスコアリングの結果が一定の値を超えた
- 特定のアクションをした(例:デモ動画を視聴した後に価格表のページを見ている)
また、一般的には、インサイドセールスの有無によってもやり方は変わります。
インサイドセールスが設置されている場合は、リードスコアリングの基準を低めに設定し、なるべく多くのMQLを引き渡せるようにするとよいでしょう。
一方で、インサイドセールスが存在せずフィールドセールスの人員も限られている場合は、リードスコアリングの基準を高めに設定し、MQLをできるだけ絞り込むようにします。
営業部門におけるMQLの分類方法

マーケティング部門から引き継がれたMQLは、営業部門において以下の4つに振り分けられます。
- SQL
- Lead
- Recycled
- Disqualified
ここでは、それぞれの概要を解説します。
1.SQL
先述のとおり、SQLはMQLのなかでも特に購入意欲が高いと判断された見込み顧客です。
アドビでは、以下の2つをSQLの判断基準としています。
- アドビ製品で実現できること(機能)がおおむね理解されている
- 以下のようなニーズや課題がある
〈例1:売上拡大〉
- 効率的なマーケティングや営業の仕組みを構築して売上を拡大したい
- 商機のない見込み顧客や放置されている逸注案件を、次の提案機会につなげたい
〈例2:既存顧客の維持〉
- 既存顧客との接点を増やし、顧客ロイヤルティを高めて解約を防ぎたい
〈例3:マーケティング活動の効率化〉
- マーケティング部門のシステム(自社サイトや自社アプリの分析、メール配信、ランディングページの作成など)を統合して業務を効率化したい
SQLに分類されたMQLは、営業担当が直接接触して課題を深掘りし、改善提案へと進みます。
2.Lead
Leadに分類されるのは、個人レベルで情報収集をしているMQLや、まだ本格的な検討に至っていないMQLです。
具体的には、フィールドセールスからの詳細な提案が必要な段階ではないものの、インサイドセールスから継続的な情報提供をして今後につなげたい見込み顧客を指します。
インサイドセールスは、LeadからSQLへステージを上げられるよう、適切なアプローチで見込み顧客の興味関心を高めていくことが大切です。
アドビでは、SFA(Sales Force Automation:営業支援システム)上で次回の活動予定を残し、アプローチ漏れがないように管理しています。
3.Recycled
Recycledに分類されるのは、現時点では購買動機を持たない、購入意欲が十分ではないと判断されたMQLです。
例えば、競合サービスを使い始めて当分リプレースが難しいMQLや、日常業務が多忙で製品の導入検討タイミングが先になることがわかったMQLなどが当てはまります。
ただし、現時点では商機が確認できないMQLでも、一定期間後には状況が変わっている可能性があります。そのため、Recycledに振り分けた理由によって、Leadへ戻す期間を設定しておきましょう。
なお、Recycledに分類されたMQLはインサイドセールスの手を離れ、再びマーケティング部門がリードナーチャリングを行い、購入意欲を高めることに努めます。
4.Disqualified
Disqualifiedに分類されるのは、自社にとっての競合企業や学生など、見込み顧客ではないと判断されたMQLです。
DisqualifiedをMQLのリストから外すことで、SQLやLeadだけにアプローチを集中させることができます。
MQLに関するよくある課題と原因
ここでは、MQLに関して発生しやすい課題を原因とともに紹介します。
「営業部門がMQLを放置してしまう」課題
営業部門は、MQLへのフォローを後回しにしてしまうことがあります。
その理由として、SQLに該当しないMQLは商談化するまでに時間がかかり、商談につなげるために求められる営業スキルのレベルも高いことが挙げられます。
営業担当者は目の前の売上目標を追っており、MQLと時間をかけてコミュニケーションを取る余裕がないケースも多いでしょう。
しかし、中長期的に見れば、SQLだけにアプローチすることは大きな機会損失です。今のうちからMQLをしっかりとフォローすることが、将来の優良顧客を獲得することにつながります。
「マーケティング部門はMQLの成果が見えにくい」課題
マーケティング部門は、営業部門に引き継いだMQLが、商談や成約につながっているのかが見えにくいことがあります。これは、営業とマーケティングの連携がうまくいっていないことが原因です。
営業部門からの情報共有がなされないと、マーケティング部門は成果がわかりづらいだけでなく、失注した場合の課題の抽出も難しくなります。その結果、良質なMQLを引き継げなくなり、悪循環に陥るでしょう。
アドビのMAツールでMQLの課題を解決

前章のようなMQLにまつわる課題を解決するためには、営業部門とマーケティング部門の連携が重要となります。その際に役立つのが、アドビのMA製品「Adobe Marketo Engage」です。
Adobe Marketo Engageを活用すれば、見込み顧客が成約に至るまでのプロセスが可視化されるので、営業部門もマーケティング部門も正確かつ迅速に把握できます。
また、効率的なリードスコアリングの実施はもちろんのこと、見込み顧客の行動をもとに興味の範囲も推定可能です。
見込み顧客の課題やビジネス目標など、従来はフィールドセールスが顧客訪問時に把握するような情報を、その前段階でインサイドセールスが電話で確認できるようになります。
営業部門が望むMQLの基準をマーケティング部門とすり合わせたうえで、Adobe Marketo Engageで各活動を効率化しましょう。
なお、以下のアドビのガイドでは、マーケティングからインサイドセールスへの引き渡しにおける検討事項や、営業とマーケティングの連携方法などについて解説しています。
また、以下の記事でも、営業とマーケティングの違いや対立理由、連携方法などを解説しているので、併せて参考にしてください。
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【参考】アドビが考えるインサイドセールスの役割
インサイドセールスには、短期間で数多くの見込み顧客の「生の声」を確認し、社内へフィードバックするという重要な役割があります。これは、MAツールやフィールドセールスにはできないことです。
それぞれのMQLは本当に案件化確度が高いのか、MQLの基準が厳しすぎて本来アプローチを要する見込み顧客への対応が漏れていないか、インサイドセールスが適宜確認します。
また、経験を活かして新たなMQLの基準を見つけることや、マーケティングの担当者やフィールドセールスの担当者と見込み顧客の状況を共有することも、インサイドセールスの役割です。
マーケティングとフィールドセールスとの三位一体を実現するで、見込み顧客へのアプローチを効率的に進められるようになります。
そのため、MAツールを活用するからといって、インサイドセールスを設置しなくてよいというわけではありません。
部門間の連携とツールの活用で売上を拡大しましょう
マーケティング活動によってMQLを創出することは、営業活動を効率化し、受注機会の損失を避けるうえで重要です。また、MQLを創出するプロセスによって顧客との関係性が深まり、LTV向上も期待できるでしょう。
一方で、営業部門がMQLを放置してしまったり、マーケティング部門がMQLの成果を把握しにくかったりといった課題も存在します。
MQLにまつわる課題を解決するためには、「Adobe Marketo Engage」の活用が有効です。MAツールを活用し、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスの連携を強化して売上拡大を目指しましょう。
(公開日:2022/10/31)