カスタマージャーニーを改善するには?継続的に分析して見直す方法を解説

カスタマージャーニーを改善するには?分析と継続的な見直し方法を解説

顧客と企業の関係に着目する「カスタマージャーニー」という考え方が浸透し、それを可視化する「カスタマージャーニーマップの作成」についても、取り組む企業が増えています。しかし、カスタマージャーニーマップの作成は目的ではなく手段です。それでは、何を目標として設定し、どのようにその目的の達成に向けてアクションを取ればよいのでしょうか?この記事では、作成したカスタマージャーニーマップからビジネスの成果へと転換する方法である「カスタマージャーニー管理」の方法を解説します。

目次

  • カスタマージャーニーマップを作成する目的
  • カスタマージャーニーと真実の瞬間
  • 真実の瞬間を把握するには?
  • カスタマージャーニーマップを使った顧客体験の向上
  • 顧客体験を重視する文化の醸成

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カスタマージャーニーマップを作成する目的

顧客体験に関する取り組みに先進的な企業では、より優れた体験を提供することで、顧客生涯価値が高まり、長期的に優れた関係を構築できると考えています。2020年に行われたForresterの調査では、顧客体験の取り組みに積極的な企業の81%が、顧客定着率を高めるうえで、カスタマージャーニーを最適化することが重要であると考えていることが明らかになりました。

顧客体験戦略

ビジネスモデルがB2CでもB2Bでも、相手は感情を持った人間ですので、「顧客体験」の善し悪しが顧客と企業の関係を左右する、という点では変わりません。そのため企業は、一人ひとりにとって適切な体験を届ける必要があります。時間軸に沿って顧客体験を考え、ある瞬間の体験の連なりに、きちんとした整合性や一貫性が保たれている状態が理想と言えます。優れた顧客体験を提供している企業は、顧客から選ばれる存在となります。そしてそれが、企業の競争力向上につながります。顧客体験に関与する企業内のあらゆる人が、顧客体験の向上にどのように取り組むべきか、つまり顧客体験戦略について考える必要があるのです。

顧客体験戦略では、計画を立案し、それぞれの部門が行動を始める前に、戦略上の課題を評価するために、ある程度の調査をおこなうことを前提としています。

継続的な取り組み

戦略を計画し、実行を評価するには、何らか基準となる枠組やツールセットが不可欠です。つまり、計画を実行に移し、実行の成果を測定、分析し、分析結果を計画や実行の改善に活かすための、何らかの基準です。「アクションにつながるインサイト」という言葉をよく耳にしますが、実行の基礎となるデータや実行の結果として得られるデータが、社内の各部門やシステムに分散しているようでは、有意義な評価や適切なアクションを導き出すことはできません。

そこでしばしば用いられる最初のステップが「カスタマージャーニーマップ」です。組織に「ジャーニーファースト」の文化を浸透させると、全社を挙げて、重要な顧客体験の課題解決に向けて注力できるようになります。そして、作成したカスタマージャーニーを基準として、計画を実行、分析し、データにもとづいて意思決定し、改善する、という取り組みを継続的に繰り返すのです。この継続的な取り組みを、「カスタマージャーニー管理(CJM、customer journey managemetの略)」と呼びます。

なお補足として、日本ではしばしばCJMが「カスタマージャーニーマップ」の略として使われていますが、「マップ」は地図すなわち「計画」に相当しますので、限られた範囲を指していることになります。一方で「カスタマージャーニー管理」としてのCJMは、「戦略、計画、実行、分析、継続的な改善」といった、顧客体験戦略の全体を指します。

カスタマージャーニー管理が目指すこと

顧客体験における「重要な瞬間」を特定するために、71%の企業がカスタマージャーニーマップを利用しています。カスタマージャーニーマップは、カスタマージャーニー管理における信頼できる情報源となります。カスタマージャーニーのあらゆる段階において、優れた顧客体験を実現する、というカスタマージャーニー管理の目的を達成するために、ジャーニーのどの段階でどのような体験を提供すべきかを設計し、実際の体験がどうだったのかを把握することで、戦略的な意思決定に役立てるための枠組が、カスタマージャーニーマップなのです。

カスタマージャーニーマップは、しばしば誤解されたり、過小評価されたり、あるいは単に無視されて、相応の注意を払われていないことがあります。多くの場合、顧客体験管理の中心ではなく、「あると便利」なものと見なされています。

しかし、カスタマージャーニーマップは、次のような重要な戦略的課題への解答をもたらします。

カスタマージャーニーマップは、顧客体験を向上させるための改善点を明らかにするうえで、効果的なツールとなります。

カスタマージャーニー管理の全体像や、カスタマージャーニー管理に取り組むためのベストプラクティスについては、次のガイドが参考になります。

https://main--bacom-blog--adobecom.hlx.page/jp/blog/fragments/offer-003344-ask-more-customer-journey

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カスタマージャーニーと真実の瞬間

顧客は、さまざまな顧客接点で企業と接触し、その人のジャーニーを進みます。その過程で、顧客はどこでつまずきやすいのかを特定するのに、カスタマージャーニーマップが役立ちます。多くの場合、顧客は、購入プロセス全体におけるそれぞれの顧客接点での体験を継続的に最適化している企業と取引することを望みます。

一人ひとりにとってのカスタマージャーニー

カスタマージャーニーマップは、典型的な顧客のたどるジャーニーを定義したものです。それに対し、ある時点での実際の一人ひとりは、そのジャーニーのどこかの段階におり、提供すべき体験は、その段階によって異なります。

たとえば、SaaSのような法人向けソフトウェアのバイヤーは、購入段階ではアカウントエグゼクティブ(担当営業)と密接に連絡し、導入時にはカスタマーサクセスマネージャー(CSM)との関係に移行するでしょう。ジャーニーの全体像を把握するには、このように、どの段階で体験が枝分かれするのかを把握する必要があります。

真実の瞬間とは?

重要な顧客エンゲージメントの瞬間は、「真実の瞬間(Moments of Truth)」と呼ばれています。この用語は、スカンジナビア航空の元CEOのJan Carlzon氏がその著作『真実の瞬間』の中で初めて使ったもので、顧客に最良の選択肢を示さなければならない瞬間のことです。企業は、「真実の瞬間」を把握することで、顧客のニーズに対応し、バイヤージャーニーにおける最適化の機会を評価することができます。

一般的に、最初の真実の瞬間は、顧客が製品やサービスの購入を決定したときであると考えられています。二番目の真実の瞬間は、顧客が製品やサービスを初めて使って体験したときと考えられています。真実の瞬間は、各企業のマッピング要件に合わせて適用することができますが、前提は同じです。真実の瞬間は、バイヤージャーニーの途中の重要な顧客接点を表しています。

Googleのデータによると、B2Cと同様に、B2Bの顧客も、多くの場合、インターネットを使用して、製品を検索することからジャーニーを始めます(71%)。したがって、企業との最初のデジタル顧客接点は、多くの場合、検索で生じます。Googleは、このデジタル接触を「意思決定のゼロ地点(ZMOT)」と呼んでいます。ZMOTは必ず発生するため、CXチームは、顧客や見込み客がより多くの真実の瞬間に向かって進むことができるような、オムニチャネル体験を用意する必要があります。

カスタマージャーニー管理に取り組むことは、いつ訪れるか予期することのできない「真実の瞬間」に、常に備えること、と言えるでしょう。アドビの調査によると、カスタマージャーニー管理に取り組むことで、企業は次のようなメリットを享受することができます。

カスタマージャーニーのなかで適時適切な体験を届ける方法については、以下のガイドが参考になります。

https://main--bacom-blog--adobecom.hlx.page/jp/blog/fragments/offer-003315-experience-based-business

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真実の瞬間を把握するには?

企業が把握しておくべき顧客接点は、増加する一方です。これは大変な状況ですが、データのネットワーク効果を利用すると、把握する顧客接点の数を増やすことができます。これらのデータポイントは、競争優位性の源泉となります。そして、包括的なデータポイントが揃えば、カスタマージャーニー分析によって、顧客の全体像をインサイトとして得ることができます。このように、カスタマージャーニー全体を把握することのできるデータ基盤を整備すると、さまざまなデータの定性モデルや定量モデルを使用して、デジタル体験の最適化にデータを活用することができます。

顧客体験の担当者は、特定の組織や部門だけに所属している人物ではなく、企業全体のどこにでも所属しています。直接か間接かを問わず、顧客対応に関与するすべての人が、顧客体験の担当者となります。そのためカスタマージャーニー分析は、これも直接か間接かを問わず、組織全体に価値をもたらします。

このような真実の瞬間を把握する基盤を手に入れた企業は、顧客にとって最も重要な体験を特定し、不要になった体験を取り除くことができます。また、顧客体験の改善がどのような成果につながったのかを把握、検証することもできます。

カスタマージャーニーにおけるそれぞれの顧客接点では、ポジティブないしネガティブな感情を生みます。その際、過剰なメール送信、不適切なパーソナライゼーション、誤った顧客プロファイルによるエンゲージメントなどは、ネガティブな体験につながる可能性があります。また、特定の顧客接点を利用することで、競争上の強い優位性を獲得できるかもしれません。

真実の瞬間は、単独で評価されるべきではありません。重要なのは、複数の瞬間がどのように組み合わされて包括的な体験がもたらされるかということです。カスタマージャーニーマッピングは、真実の瞬間がどのように組み合わされ、優れた顧客体験を生み出すかを包括的に把握するための戦略的な役割を担います。

カスタマージャーニー分析により、顧客がどのようにカスタマージャーニーマップの中を移動しているか、を把握することができます。顧客対応に関与する人は誰でも、こうしたインサイトから、どのように顧客体験を強化すべきか、より適切に意思決定することができます。

カスタマージャーニー分析については、以下のガイドが参考になります。顧客接点となり得る、オンライン/オフラインを問わずあらゆるチャネルから収集できる、顧客の行動を常にデータとして把握し、総合的に分析する、オムニチャネルデータの統合分析とはどのようなことか、解説しています。

https://main--bacom-blog--adobecom.hlx.page/jp/blog/fragments/offer-003348-ask-more-analytics

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カスタマージャーニーマップを使った顧客体験の向上

顧客体験の専門家であるBruce Temkin氏は、次のように述べています:

「企業は、実際の顧客ニーズに関する理解を深めるためのツールやプロセスを使用する必要があります。これらの[カスタマージャーニー]マップを適切に使用することで、企業の視点を、内部からの視点から外部からの視点に転換することができます」

企業は、この視点の転換により、顧客体験の強化を検討する際に、より戦略的に考察することができます。ジャーニーの各段階には、それぞれ異なる注意を払う必要がありますが、顧客体験を向上させるために各段階で新たな改善を加え、その施策を評価する際には、同じプロセスを踏む必要があります。

カスタマージャーニーマップは、「単に利用可能な顧客接点の一覧表」ではありません。質的および量的な調査を通じて、顧客の動機や行動に対する詳細なインサイトを提供するものです。そして顧客体験の担当者はそれぞれ、インサイトをアクションに結びつけ、体験を継続的に最適化する必要があります。

カスタマージャーニーマップを作成し、カスタマージャーニー分析に取り組むことで、大きな努力をしなくとも達成できる目標が見つかることもあります。このような既知の課題を克服するために、すぐにでも戦術的な改善策を練りたくなるものです。しかし、顧客体験の改善にすぐ取りかかる前に、外部からの視点を検討する時間を取ることが重要です。

短期的には戦術的な変更が有効かもしれませんが、デザイン思考の原則を適用して、将来的な能力と設計への投資に焦点を当てるべきです。あらゆる変革は、価値主導でおこなわれるべきです。カスタマージャーニー管理を価値にもとづく活動として位置づけることで、企業は、変革の戦略的目標に注力すると同時に、迅速な成果達成を追求するようになります。

カスタマージャーニーのそれぞれの段階で、相手に応じた適切なコミュニケーションを実現する方法については、次のガイドが参考になります。

https://main--bacom-blog--adobecom.hlx.page/jp/blog/fragments/offer-003246-essentials-customer-journey

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顧客体験を重視する文化の醸成

カスタマージャーニー管理は、顧客体験と従業員体験の両方の取り組みとしてとらえる必要があります。そのときカスタマージャーニーマップは、組織の目的を効果的に伝えるための手段となります。顧客中心の文化、戦略的な顧客体験、ジャーニーに焦点を当てた目的の3つを組み合わせることで、従業員は自身の貢献により充実感を感じることができます。

従業員が意欲を失ってしまうのは、多くの場合、自身のパフォーマンスが組織に及ぼす影響を把握できていないためです。企業が主要なジャーニーマップを中心に据えることで、あらゆる部門が、顧客に価値を提供し、顧客体験を向上させることに目的を絞ることができます。

また、組織内の誰もが顧客体験を生み出す一員であることや、従業員体験が本質的に顧客体験とどのように結びついているかを示すことができるようになります。企業は、顧客志向であるためには、従業員志向でなければなりません。Southwest Airlinesは、これを、「幸福な従業員 = 幸福な顧客 = ビジネスの拡大と利益の増加 = 幸福な株主」と表現しています。従業員が正しく扱われれば、従業員も顧客を正しく扱うという考え方です。このような連鎖効果の結果、顧客に提供される価値が高まります。

カスタマージャーニーマッピングは、従業員体験を顧客体験に拡張し、真実の瞬間に従業員が価値を提供できる場所を視覚的に示しています。さらに、従業員の貢献と顧客体験のフィードバックループを確立することで、マッピングを一歩進める企業もあります。

カスタマージャーニーに新たなレイヤーを追加し、さまざまな部門や社内ペルソナが必要とする表舞台と裏舞台のインタラクションを示すことができます。この追加ステップは、従業員がカスタマージャーニーに与える影響力を把握するのに役立ちます。

責任の共有

カスタマージャーニーマッピングはCXチームが日々管理していますが、最終的には、本来の所有権は誰に属するのかという課題に取り組まなければなりません。真のジャーニーファーストの文化を実現するためには、カスタマージャーニーマッピングの所有権を共有する必要があります。あらゆる部門と従業員は、直接的または間接的に顧客体験に貢献しています。経験豊富な関係者は、体験提供に対する説明責任を果たす必要があります。

あらゆる従業員が顧客体験を意識することで、四半期ごとのビジネスレビューや状況確認の方針を決めることができます。たとえば、ジャーニーのステージを定義することで、目標や主要な成果を導き出すことができます。また、個人的なレビューでは、関連するジャーニーのステージで目標とする成果を含めることができます。

部門横断的なセンターオブエクセレンス(COE)は、カスタマージャーニーマッピングの取り組みに関する機会を生み出します。。このように説明責任を果たすことで、継続的な反復を通じて、カスタマージャーニー全体を迅速かつ包括的に強化することができます。

CXチームは、カスタマージャーニーマッピングが忘れ去られてしまい、どこかに片付けられてしまわないように、熱心に取り組む必要があります。カスタマージャーニーマッピングを構築し承認を受けた後は、組織全体で目に見える形で示し、すぐに利用できるようにしておく必要があります。カスタマージャーニーマッピングを、目に付きやすいように壁掛け式ポスターにして議論を触発し、「ジャーニーファースト」の企業になるための貴重な手段として利用することもできます。

顧客体験の変革を推進

カスタマージャーニーマッピングは、さまざまな部門が連携する機会を生み出します。さらに重要なのは、顧客体験を向上させ、分析チームとCXチームがプロセスを統合するための基盤を構築できることです。戦略的分析チームは、顧客体験チームと生産的なパートナーシップを築き、カスタマージャーニーの各顧客接点を通じて価値を提供する必要があります。

壁掛け式ポスターとインタラクティブなデジタルアセットを組み合わせることで、チームが熟考するための説得力のある成果物を提供することができます。カスタマージャーニーマッピングは、部門横断的なコラボレーションを促進する手段となり得ます。その結果、顧客に焦点を当てた新たな取り組みを促進することができます。

体験を軸に組織化することで、ジャーニーファーストの文化が深いレベルで根付きます。もちろん、これを実現するのは容易ではなく、部門を超えた一極集中的な連携が必要です。もし組織が顧客志向になることができれば、持続的な競争優位への道を切り開くことができます。そして、カスタマージャーニーマッピングを軸に組織全体を調整することで、独自の魅力的な従業員体験が構築されます。

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カスタマージャーニー管理のまとめ

カスタマージャーニー管理は、企業が真に顧客中心主義になるための焦点となる取り組みです。主要なカスタマージャーニーを把握することで、社内のあらゆる能力を顧客体験に向けて連携できるようになります。これにより、カスタマージャーニーを前面に押し出した取り組みや新しいプロセスの開発に取り組む企業文化が育まれます。

カスタマージャーニーは多面的で複雑なため、その設計に定型的な方法はありません。最適な体験の組み合わせを決定するためには、大規模な仮説検証の繰り返しが必要です。その仮説検証も、何度も繰り返す必要があります。

企業は、カスタマージャーニーマップを作成し、カスタマージャーニーの改善に継続的に取り組みつつ、カスタマージャーニー分析によって、顧客の悩み、行動、動機などを具体的に理解し、より緊密な関係を構築することができます。顧客体験に優れた企業は、最終的には収益性を高め、優れた競争優位性を獲得することができます。

関連資料

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