私たちはマイアミで開催されたAdobe MAXに参加して、様々な業界や国のクリエイティブリーダーやマーケターに会い、生成AIとそれがコンテンツの将来に及ぼす影響について意見を交わしました。現在、AIへの投資を進めている企業は、効率や生産性の向上、イノベーションの促進などのメリットを追求しています。少ない労力や費用で多くの成果を出す必要に迫られているブランドやコンテンツチームの中には、生成AIは単なるショートカットや時間短縮の道具にすぎないと考えている方もいるでしょう。このような認識から、生成AIはクリエイティビティを妨げ、阻害するものだという誤解が生じています。しかし、私たちがお客様との協業を通じて得た知見やAdobe MAX 2024で見られたインサイトから考えると、マーケティング組織のクリエイティビティは、生成AIでしか得られない多彩な機能のおかげで急速に高まっていると言えるのです。
コンテンツの将来を見据える
マーケティングチームの中には、実現しなかったレガシーテクノロジーの変革に今も囚われているところがあり、事実、購入されたマーテクツールのうち、実際の業務に活用されているのは56.5%に過ぎません。この数字を見て、生成AIはこうした傾向に拍車をかけるだけではないかと案じる声もあります。パフォーマンス効率の追求、量的な増産、終わりなき最適化ばかりが推進され、品質が顧みられなくなるのではないかというわけです。しかし、こうした懸念に確かな裏付けはなさそうです。
将来を見据えている多くの企業では、生成AIが既にブランドチームやマーケティングチームのクリエイティブパートナーになっています。現時点で、調査対象企業の半数近くがコンテンツマーケティングに生成AIを活用しており、今年の末にはその割合が71%に上昇すると推定されています。このようなアーリーアダプター企業は、顧客や文化、クリエイティビティに対する好奇心が元々旺盛であることに加え、生成AIがクリエイティビティを支援しつつ、手作業につきものの退屈なプロセスから解放してくれることを理解しているために、早い段階から導入を進めているのです。
現代のマーケターに多様なメリットをもたらす生成AIの3つの機能:
- クリエイティブプロセスを増強し、イノベーションを推進する
- プロセスを迅速化して、生産量を増大する
- パーソナライゼーションを介して顧客と密接につながり、影響力を高める
1. クリエイティブプロセスを増強し、イノベーションを推進する
生成AIの圧倒的なメリットは、基盤となる大規模データセットとそこからの継続的な学習によって得られます。ブランドチームやマーケティングチームは、顧客や市場に関する大量の情報を統合する用途に生成AIツールを使用し、データセットからリアルタイムのトレンドや新たなテーマを要約することができます。担当者は抽出されたインサイトを見て、自社のブランドや顧客にとっての意義を考えることに集中して取り組めます。
この情報が手動で計算するのではなく迅速に生成され、ツールキットですぐに利用できる環境が整っていれば、マーケターはこれまでよりも手軽にデモグラフィック、チャネル、トピック、ビジュアルといった、エンドツーエンドのキャンペーンを構成する要素を絞り込めるようになります。さらに、変化の激しい市場の要請にリアルタイムで反応し、将来を見据えたブランドとして俊敏に行動することもできます。
2. プロセスを迅速化して、生産量を増大する
キャンペーンの全体は、クリエイティブ概要の作成から市場でのローンチに至るまでの、長い道のりでできています。そして、その各段階に細かいプロセスが積み重なっています。最初のアイデアに承認を受け、数多くの顧客接点でアクティベーションを成し遂げるまでに、ブランドチームやマーケティングチームは、代理店、協力会社、経営陣との打ち合わせや調整に数週間を費やすことも珍しくありません。今日の顧客が抱く期待に応えるために、マーケティング部門には制作と実行のサイクルを大幅にスピードアップすることが求められます。
ここで生成AIの出番です。自社で生成AIプログラムを開発しても、外部ベンダー製の生成AIソリューションを導入しても、企業はコンテンツの質を保ちながら、市場投入までの時間を短縮することができます。さらにこれらの施策を講じることでコンテンツサプライチェーンの柔軟さと機敏さを維持し、変化するトレンドや顧客の好みに対応できます。
私たちが自社のコンテンツ制作戦略に組み込んだ社外ベンダー製生成AIソリューションの1つが、Adobe Fireflyです。2023年に、社内クリエイティブチームが自社ブランドのビジュアルアイデンティティを一新しようとしていたとき、私たちは魅力的で一貫性のあるブランドイメージを即座に作成できるツールが必要だと考えました。Adobe Fireflyの生成AI機能を活用して開発を進めた結果、出来上がったのがDeloitte Digital Orb Foundryです。これはデザイナーもそうでない人も等しくクリエイティブのアイデア出しに参加できるプラットフォームで、簡単な言葉やフレーズ、テーマを入力すると、数分以内にそれがブランドアセットに変換されて出てくるというものです。
Adobe Fireflyなどのプログラムは、ロゴ、カラースキーム、フォント、声のトーンなどに関するブランドのスタイルガイドを使ってトレーニングできるため、マーケターは生成AIを活用してキャンペーンの制作に取り組めます。先行事例に基づいて同じコアコンテンツを異なるプラットフォーム(ソーシャルメディアと印刷広告など)用に最適化する場合でも一貫性を保ったまま他言語への翻訳を行う場合でも、これらのプログラムによってコンテンツ一式を迅速に作成でき、経営陣による承認プロセスの短縮にも役立つ可能性があります。
https://main--da-bacom-blog--adobecom.hlx.page/blog/fragments/adobe-firefly
3. パーソナライゼーションを介して顧客と密接につながり、影響力を高める
最新の調査では、対象となったブランドの50%以上がパーソナライゼーションを顧客戦略の成功に欠かせない要素と認識しており、今年中にパーソナライズへの投資を平均29%増加させることを計画しています。また、パーソナライズを重視し優先しているブランドは、顧客ロイヤルティの向上を報告する割合が71%高いという結果が出ています。消費者の側でも、これとよく似た傾向がみられます。実際、消費者の78%はお金の節約につながるパーソナライズされたインサイトを望んでおり、特別な割引オファーやバンドルが購買の意思決定にある程度または大きな影響を及ぼすと回答した消費者は84%を占めました。
大規模なパーソナライズをどの程度まで複雑にするか、どの程度のコストがかかるかは、組織におけるデータ活用の成熟度によって異なります。しかし、生成AIでコンテンツサプライチェーンの変革を進めれば、顧客に合わせてカスタマイズされた質の高いコンテンツをタイミングよく大規模に市場投入できます。デジタルコンテンツへの需要が高まるなか、ブランドは適切な生成AIツールを活用し、顧客とのつながりと信頼を重視したコンテンツ制作戦略をとることで、大事な瞬間を逃さずに対応できるようになります。
将来を見据えて
企業の経営陣、予算関係者、クリエイティブチームの間で生成AIの役割についてオープンに話し合うことは、このテクノロジーの導入に先立って実施すべき重要事項です。マーケティングリーダーは目標を調査し、AI導入の準備を整えることで、発展と進歩を続けるテクノロジーである生成AIの能力を最大限に引き出すことができます。ブランドの一貫性が高まること、クリエイティビティが強化されること、新しいインサイトがもたらされ、チームがすばやくテストを実施して何度もアイデアを試せるようになることは、現代のマーケティング組織がコンテンツ戦略に生成AIツールを導入して得られるメリットの一部にすぎません。