生成 AI と Frame.io の活用でインハウスの動画制作ワークフローを差別化する GMOインターネット株式会社
全社的な生成 AI 活用を推進する GMOインターネット株式会社は 2025 年後半から映像制作にも生成 AI を本格的に取り入れ始め、以前の動画内製ワークフローでは実現が難しかった表現や演出を可能にしました。企業にとって動画内製化は、制作チームと事業部(発注者)との近さを活かしてコストを抑えつつスピーディーに映像コンテンツを制作できる手段であり、制作チームに新しいスキルやノウハウが蓄積されるほど内製化の価値は高まります。
「内製ならではのコストもスピード感も維持しながら、チームとしてできることの幅が広がったのが生成 AI 導入の一番大きなメリットです。以前は実写素材が欲しいと思っても予算や納期の面から小規模な撮影以外には手を出しづらかったのですが、生成 AI で実写風の素材を生成できるようになったことで、要件に応じて提案できるレパートリーが増えました。制作期間の短縮により PDCA サイクルをより早く回せるようになった案件もあります」と同社のドメイン・クラウド事業本部 クリエイティブ部 映像チーム マネージャー 菅原 香穂氏は生成 AI 導入の成果を紹介しました。
同チームのリーダー 加藤 優真氏は、プロジェクトの初期段階で具体的なビジュアルを示して合意形成できるようになり手戻りが減少した点を挙げました。「生成 AI があれば、頭の中でイメージしているシーンを具体的なビジュアルに簡単に落とし込めます。V コンテの段階で完成イメージに近いビジュアルを事業部(発注者)と確認できるため、大きな認識のずれがなくなりました。差し戻しが減ったことにより、今まで修正作業に費やしていた時間を細部の調整などクオリティ向上のためのクリエイティブな作業に使えています」
同チームの青沼 翔吾氏はこれに加えて「素材が必要な時に素材サイトを探したり制作依頼したりするだけでなく、生成するという選択肢ができたのはスピードが求められる中で嬉しい点です。また、実写は一発勝負の撮影になりますが、生成はトライ&エラーを繰り返してブラッシュアップできるため修正の機会があります」と話しました。
Adobe Firefly ボードで映像制作ワークフローを効率化
「生成 AI を活用した映像制作を効率化するツール」として加藤氏が挙げたのは Adobe Firefly ボードです。Firefly ボードはブラウザーをイメージボードとして使えるオンラインサービスで、生成 AI が組み込まれている点が特長です。
Firefly ボードは、アイデア出しから最終的なアウトプットに至るまで一貫して同じ画面の中で素材管理できる点が便利だと加藤氏は話しました。「テキストも画像も動画も置いておけますし、ボード内で生成してその場に整理できるのはこれまでなかった操作感です。生成したファイルをローカルで管理すると同じようなものをいくつも生成したときにどのファイルがどのカットのものなのか後で混乱しがちでした。一方、Firefly ボードで管理すれば、サムネイルが配置された位置を見て目星をつけられ、プロンプトなど生成情報が残っているので確実に欲しいファイルを探せます。アドビの Firefly モデルとパートナーモデルを簡単に切り替えられて、それぞれの生成結果を簡単に比較できるのも便利です」
青沼氏も、生成に使用したプロンプトや画像が保存される便利さについては口を揃えます。「レビューのタイミングで修正したいと言われた時に、何日も前の生成だとなかなか生成条件を覚えていられないですし、実際もう一回ゼロから生成をやり直したこともあります。Firefly ボードでは『このファイルを修正したい』と思ったときにファイルをクリックすれば生成履歴が表示されるため、どの素材とプロンプトを使って生成したかが一目瞭然です。必要な変更だけして再生成すればよいので時短にもクレジットの節約にもなります」
レビュー体制と Adobe Firefly で生成 AI のリスクに対応
同社は生成 AI の利用により著作権など権利関係やさまざまなリスクが増えることを認識し、外部公開する制作物のレビュープロセスに生成 AI のリスク評価を組み込みました。「まず企画の段階で『ここはこういう目的でこう使う、その時のリスクはこのくらい』をチームと事業部門のレビューで判断して『これで良い』となった上で先に進むようにしています。生成 AI の活用には積極的でも、何でも使うという姿勢ではありません。制作後はどこで生成 AI を使っているかを申告をしてもらった上で、チーム内でのチェックはもちろん、事業部側のチェックと、広告関連の制作物には法務のレビューも通しています。何重にも人の目でチェックして、クオリティを含め問題ないと判断された後に公開する手順になっています」と菅原氏はレビュー体制を説明しました。
制作者のリテラシーも重視されており、生成 AI 利用に対するガイドラインやルールが定められています。青沼氏は「シンプルですが『プロンプトに著作物を入れない』などリスクの多い使い方がチーム内で周知されるようにしています。素材関係であれば『権利関係がクリアなものを使う』というルールがあります。リスクの高い使い方をする場合は学習データの権利関係が明確な Adobe Firefly 一択かなと思っています。品質に関してもアドビの最新の Firefly Image 5 モデルは大抵の用途で満足できるものになりました」と語りました。
Frame.io でレビュープロセスを効率化
動画をレビューする際に「このフレームのこの部分をこう修正してほしい」という依頼を明確に伝えるのは簡単ではありません。以前の映像チームは、修正指示をテキストで記述するだけでなく、キャプチャした画像に『この部分』を示す印を Adobe Illustrator などで追加したり、『このフレーム』を示すタイムコードを記述するために対象フレームの時間を確認したりといった作業を繰り返し行っていました。
加藤氏は Frame.io を使うようになってからレビューする側とされる側の負担が減って、コミュニケーションがスムーズになったと言います。「Frame.io では修正を依頼したいフレームに直接コメントを付けたり矢印を引いたりできるため、従来の煩雑な作業が不要です。レビューを受け取ったらコメントをクリックするだけで修正対象のフレームが表示されるので、動画を見ながら依頼された内容を確認できます。作業が直感的になったことで余計なやり取りがなくなりました。他にも大容量ファイルが素早くプレビューできたり、Frame.io 内のコメントを Premiere のシーケンスと同期できたりと、いろんな場面でストレスが少なくなったと思います」
菅原氏は遠隔地のオフィスで働くメンバーと円滑にコミュニケーションを取れる点も Frame.io のポイントだと話しました。「物理的な距離があると一緒に画面を見ながら『ここはこうして』のような会話ができません。オンラインでも意思疎通しやすいツールがあることはチームとして働く上で重要だと感じています」
段階的に生成を重ねて生成結果をコントロール
生成 AI の性能が向上したとはいえ、動画生成はなかなか思い通りにならないものです。そこで同社では、段階を踏んで動画生成を行う手法を採用しています。最初のステップでは出演者のキャラクターシートや背景画像を生成します。これは動画全体に一貫性を持たせるための資料です。次のステップでは、前のステップで生成した資料画像を参照させて、各カットの最初のシーンを画像として生成します。最後のステップが動画の生成です。プロンプトだけではなく前のステップで作成した画像を最初のフレームに指定することで、動画生成 AI にディレクションを明確に伝えます。
青沼氏は、動画の生成結果をコントロールしたいのなら、生成 AI に参照させる画像は生成したそのままを使うのではなく、Adobe Photoshop などで加工して仕上げることが重要だと述べました。「背景の細部をきれいに整えたり、動画にしたら破綻しそうな箇所を加工したり。後は、動きが印象的になるように登場人物のポーズを調整することもあります。これらは実写のディレクションに近い作業で、この手間をかけることで自分がイメージしたカットがより生成されやすくなります。こうした調整はまだ生成 AI には任せられない領域です」
Premiere の AI 機能で編集作業をスピードアップ
映像チームにとって Adobe Premiere の AI 機能は編集作業に欠かせないものになっています。菅原氏が例として紹介した事例は撮影したアクリルのスタンドを Premiere の AI を活用したオブジェクトマスクで背景から切り取った映像です。「弊社のキャラクターのアクリルスタンドを撮影して、それを背景から抜く作業に Premiere のオブジェクトマスクを使いました。透明な素材なのですが、後ろはグリーンバックではないのに素材の透明感を細部まで保ちながら Premiere だけでこんなに綺麗に抜けるんだと感心しました」
クリップを延長できる生成延長、サウンドトラックをクリップの長さに合わせてくれるリミックスも、どのプロジェクトでも当たり前のように使われている Premiere の AI 機能です。加藤氏は「生成した動画がちょっと中途半端なところで終わっていたり、撮影した動画をもう少しだけ伸ばしたかったりしたときに、生成延長で数秒延長できることにより編集の幅が広がります。また、BGM の長さをフェードアウトで合わせようとするとどうしても中途半端な感じが出てしまいますので AI がタイミングを合わせてくれるリミックスも動画を綺麗に仕上げるには欠かせないツールになっています」と話しました。
チーム規模が問われない動画制作に求められるクリエイター
生成 AI をさらに活用しようと映像チームはいくつかの新しい取り組みを始めています。「人は指示をするだけであとは生成 AI に任せて動画を制作する手法をテスト的に始めました。2 週間かかっていたような案件が 2 日程度と大幅に制作期間を短縮できるので、シンプルにメッセージが伝わればよい案件では使えそうだと期待しています。一方、クオリティを担保するには生成 AI ばかりに頼れないことを実感しています。生成 AI に任せられることが増えた分、クリエイター側に軸がないとアウトプットが定まりません」と菅原氏は話しました。
加藤氏は生成 AI と共創する未来に前向きです。「本当にこの 1 年で変わったという印象です。生成 AI の進化により小規模のインハウス映像チームでも形にできる領域が広がって、それがさらに拡張されていくと思うと楽しみです。できることが増えた分、考える能力も求められるようになってきています。よりクリエイターとしての本質が問われる時代になっていくのだと思います」